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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第4章 異世界「ミズガルズ」への使節団
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46 異世界への渡航者

 翌日の10月2日。俺は未だ徳山館の中のある一室にいた。


 本来ならば今日、一族の皆とともに茂別館に向けて一旦帰るはずだった。帰る支度も昨日のうちに済ませていた。

 しかし今朝になって、季広に直々にこの部屋で待機するように命じられ、今に至っている。


「一体、何でこんなことに……」


「それは某も存ぜぬ。それより異国の酒が手に入ったゆえ、一緒に飲もうではないか」


「断ります」


「かように旨い酒、松前でも京でも手に入らぬ一品だと申すのに……」


 まあ、理由はそれとなく察しがついている。王国との和睦の条件の1つ、「20歳以下の子女を王国に派遣する」という部分がそれだ。事実、この部屋には俺とほぼ同年代の人達も数名いたからである。


 というか季貞、まだ10代だったんだ……。それでいてこの飲兵衛ぷり、恐るべし! 10代でお酒が飲める、戦国時代ならではの人物と言ったところか。


「うい~……かような喉越し、極楽至極!!」


 そんな季貞を差し置き、純粋に海外渡航を楽しみにしている人もいた。


「えへへ。海の外なんて初めてだな~」


「随分嬉しそうね、リシヌンテ」


 同じ部屋の中には、例のアイヌの2人、レスノテクとリシヌンテもいた。


「だってアイヌモシリを出るの、すっごくワクワクするんだもん」


「あっそ」


 気分が高まってはしゃいでいるリシヌンテに対し、レスノテクはムスッとした顔で不機嫌そうに待機していた。


「あれ~? レスノテク、あんまり嬉しそうじゃないね~」


「当たり前よ。せっかく首長になってこれからって時に早速戦で負けた挙げ句、集落コタンの人もたくさん死んで。さらには間も置かず首長を解任されたうえに、未知の異国に行くことになるから、しばらくリコナイにも帰れないし。不満よ」


 未知の土地への思いをはせるリシヌンテに対し、レスノテクは少々故郷の集落のことが気がかりの様子。まさに、2人の性格を象徴しているかのような感想であった。


 時間が経つにつれ、徐々に騒がしくなっていく室内。すると十数分後、入口の襖から慶広が正装で参上した。それも右手に一枚の紙を持ちながら。  


「し、新三郎様! ご、ごごご尊顔を拝し、ま、誠に恐悦至極に……」


「そこまで畏まらなくてもいい、備中守」


「は、はっ!」


 慌てて酒を隠した季貞が、酔いが回ったのか動転した様子で上擦った声で挨拶。それを俺たちは、遠くから生暖かい目で見つめている。


「む……左様な眼はやめて頂きたいでござる……」


 なら、酒浸りになるのをやめろよ季貞。

それより、俺としては慶広が手にしている紙がなんか気になるな。なにしろ、普段あまりお目にかかることのない正装に身を包んでいるのだから。


「おーい慶広。その紙はなんだ?」


「ああ、今から話す」


 そして慶広は部屋にいる人間を全員自分の前に集め、こう言った。


「皆に集まってもらったのは、他でもない。先日の王国との和睦は皆の記憶にも新しいことだろう」


 シンと静まり返る室内。その中、慶広は続ける。


「それで、その中にあった和睦の条件の1つ『20歳以下の子女を数名、王国に派遣すること』に関して伝えに来た。実は今日、その派遣の対象となる渡航者が決まった」


 慶広曰く、本発表は家臣全員の前でするつもりではあったが、一足先に派遣される者には先に伝えるとのことであった。


 今回、渡航者となる人は以下の通り。


 ・蠣崎慶広

 ・不破武親

 ・厚谷季貞

 ・南条宗継

 ・小平季遠


 あとアイヌ側からの要請により、レスノテクとリシヌンテも俺たちに加わることとなった。この7名で、ミュルクヴィズラント王国に向かうことになる。


 メンバーを見る限り、割りとまともそうな面子が揃っている感じはある。まあ、宗継とか季遠とか殆ど面識の無いのもいるが。


 ただ本音としては、俺自身は蝦夷地に残って内政に更に積極的に参加したかった。特に和人側が決めたこの人事は、当面重要な仕事を任されることない面々を選んだ感はある。

 俺は若くして功績を上げているけど五男だし、慶広も三男で嫡男じゃない。季貞も宗継も季遠も父親は健在で、仕事するにはまだ若いと言わざるを得ないからだ。


 でも、あの広益のオッサンや鷹姫から離れられるってのは幸いなことだ。あの2人の相手は、肉体的にも精神的にも消耗が激しすぎるからな。その分のエネルギーを王国の技術習得に回せることを、ありがたいと思うしかない。


 しかしながらやっぱり気がかりなのが1人。酒乱の気がある、厚谷季貞である。


「む? 某の顔に何かついとるのか?」



「あ、いや……」


 とりあえず王国に着いてから、季貞が酒の席でおかしなことをしでかさないことを祈るのみだ。



 ■■■■■



 10月3日、出航当日の松前。この日、俺たちは港に停泊している王国軍所有の大型軍艦『フリングホルニ号』に乗り込み、まだ見ぬ遥か遠い異世界に向けて出発しようとしていた。

 なお俺たちの派遣と同時に、蝦夷地にいる王国軍の大半も帰還するため、港には数百隻の軍艦も停泊していた。


「五郎……元気でな」


「お体に……お気を付けてください」


「承知致しました」


 港には俺たちの見送りをするため、多くの人が詰めかけていた。

 

 俺達の身を心配に駆け付けた渡航者の親族や同僚。王国製の巨大な船を一目見に来た野次馬。そんな人達が一堂に会している。復興もそれほど進んでいない中、時間を作って見送りに来てくれるのはありがたいことだ。


 その中、父と母はまるで今生の別れかのように、大げさに涙を流して見送りする。心配性だな~、2人とも。


 もし王国軍の軍艦が史実の大航海時代のような帆船なら帰還率も低いから、両親のように別れを惜しむのも無理はない。

 しかし実際の軍艦は頑丈な金属製であり、先の戦でも5万の大軍を1人も欠けることなく蝦夷地に送り込んでいる。だから安全性に関してはあまり心配していない。


「土産を忘れるんじゃないぞ」


「異国の調度品には興味がある」


「……あまり弟にせがまないでください」


 一方の兄たちはゲンキンなもので、早速お土産を末っ子の俺におねだりしている始末。親と子は違うものとは言え、身内の心配を全くしないのもどうかとは思うが。


 すると船のほうから、いよいよ出航の合図となる汽笛が港中に流れてきた。


「いってきまーす!」


「達者でなぁ……!!」


 乗り込んでから間もなく船は松前を出発。船はかなり丈夫で、津軽海峡の荒波にも動じることなく、悠々自適に未踏の異世界へと向かっていったのであった。

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