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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
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38 勝山館の戦い その2 借箭

「ムキー! もうやってられません!」


 勝山館の中に入ると、突然女の人の悲鳴が聞こえた。この甲高い女性の声、まさか……


「鷹姫、心情察し致すが辛抱願いた……」


「あの憎き豆坊主! あとで打ち首に処してあげます!」


 評定の間では、鷹姫が俺を処刑せんと息巻いていた。


 ちょっと待てい! いくらなんでも、理由もなく打ち首はねえだろ!

 あ、でも鷹姫ならやりかねないか……。俺に対して凄い嫌悪感を持っているからな。ああ、くわばらくわばら。


 恐怖心に震えながら襖の僅かな隙間から評定の間の中を見ると、そこにはふて腐れた鷹姫と、黙々作業に打ち込む父や守継などの姿が見えた。

 作業。実は俺が提案した策には、ある大量の道具が必要だったのだ。


「越中守殿と兵部少輔殿の兵は、何を作っておられるのだ?」


「ああ、あれはですね……」


「じっ」


「うわっ!」


 俺が重季と季貞に作業内容を伝えようとすると、襖の向こうからリシヌンテが見つめ返してきた。


「へっへ~。驚いちゃった?」


「ビックリさせないでよ、リシヌンテ……」


「リシヌンテ。こっちは作業に集中してるんだから、余計なことはしないで」


「う、ごめん、レスノテク……」


 アイヌの人たちも手伝っているようだな。そしてレスノテクは仕事モード突入か。相変わらずの他人を寄せ付けないムード満載だ。


「まーめーぼーずー」


「うっ!」


 この呻くような声は、た、た、鷹姫……か? しかしいつの間に俺の背後に?


「天誅!」


「おわっと!」


 間一髪、俺は鷹姫が振り下ろした刀を真剣白刃取りで受け止めた。やべえ……この黒い殺気、シャレにならねえぞ……。


「鷹姫! ここは堪えてくれ」


「はい! 守継様~」


 ところが守継に呼ばれた瞬間、殺気だった表情は一瞬にして立ち消え、笑顔満点で守継のもとに飛び込んでいった。

 危ないところだった。守継、助かったよ。


 俺達が館の中に入った時には既に作業は終盤に差し掛かっていたようで、数分後ついにその道具が完成した。それは、およそ1500体に及ぶ等身大の藁人形であった。


「これは……壮観に御座るな……」


「ええ……」


 あまりに大量の藁人形を前に、重季や季貞のみならず実際に人形を編んでいた父や守継ですら言葉を失う。策を提案した俺ですら、この光景には感嘆通り越して若干引き気味である。


「なんか変なものが出てきそ~だね……」


「えっと……和人(シサム)には、藁人形を使った呪いの儀式があるって聞いたことがあるんだけど……」


 アイヌの人たちに至っては、俺以上に体が後ろに引いている。

 そしてレスノテクがどこで耳にしたのか、藁人形で人を呪い殺す話を切り出した瞬間、重季は突然何か閃いた様子であった。


「はっはー、なるほど。これを用い、眼前の夷狄に対抗して此方も妖術を仕掛けるつもりなのだろう? これだけの藁人形があれば、大軍と言えど滅することも可能だろうからな。承知致した!」


「残念ながら違います」


「へ?」 


 重季、適当なことは言わないでくれ。多分きっとこんな早とちりをするから、親父さん――師季と変な衝突を繰り返したんだろう。

 でも気持ちはわからなくもない。これはどう見ても大掛かりな儀式の準備だ。


 それに、重季の閃きもあながち間違いではない。実は俺はこの戦いの中で、ある1つの仮説を思いついていた。だがそれは、計略を実行してからのお楽しみ。


「これは矢を集める道具です」


「む? 矢を集める道具とな?」


「はい。昔の(もろこし)における戦いで使われた計略を、この場で再現するつもりです。策の名は『借箭(しゃくせん)』」


「まさか……あの名高き諸葛孔明の計略に御座るか?」


 『借箭』。それは三国志演義において、もっとも大きな戦いであった赤壁(せきへき)の戦いにおいて諸葛孔明が使用したとされる計略。


 簡単に説明すると、後に呉の皇帝となる孫権の軍師、周瑜(しゅうゆ)に「矢を10万本集めてこい」と言われた孔明は、矢を集めるために等身大の藁人形を数多く用意。それを舟の上に載せて、対岸の曹操軍から放たれた矢をまんまと10万本回収してきたという計略である。


 ただこれは創作上の話で、実際にはとうの時代に起こった安史の乱での攻城戦がモデルとも言われている。


「ということは、あの異国の者どもから矢を奪い取るつもりか?」


「そのつもりです」


 俺たちには兵も武器の数も少ない。兵だけはどうしようもないが、攻めて武器だけはできるだけ鹵獲したいところだ。


「だがこの策、機を見誤ればあまりにも脆い」


「そうですね。それこそが一番の鍵となると思います」


 正直賭けみたいなところはある。王国軍が矢を大量に放ってくるだけならこちらの思う壷だが、茂別館のように力攻めでの攻略を優先されれば、結局必要な分の矢を集めることは叶わなくなってしまう。


 だから、相手が矢だけを放つように誘導する必要がある。


「とりあえず作戦開始は、戌の刻(午後8時頃)あたりが最善かと」


「うむ、そうじゃな。それが一番良い。敵もこちらが夜襲を仕掛けようとしていることに驚いて、矢を放ってくるじゃろうからな」


 ともあれこの策、失敗すれば一巻の終わり。もう後がない。せめて成功することを祈るほかない。


「皆の者! 戌の刻に敵を迎えるぞ!」


「おおおおお!!」


 兵の鼓舞を行う守継。こうして俺達は、勝利を掴むためのギャンブルを今にも始めんとしていた。



 ■■■■■



 戌の刻。勝山館に集結していた将兵たちは皆、麓の上ノ国の街の方角を望んでいた。

 

 勝山館の周りには、松明がいつもより多く焚かれている。

 街灯も何もないこの時代、夜間は非常に暗く、松明が無ければ隣の人の顔を判別することもままならない。そこで策をスムーズに成功させるために用意した物であった。


 幸い、王国軍も松明かそれに似たものを焚いているため、これから俺たちが不審な動きをするとは思っていないはず。そもそも地形的に麓からは俺たちの様子は見えないはずだ。


 それにあの有名な川中島の戦いで、武田信玄が採ったとされる『啄木鳥戦法』が上杉軍によって看破された理由は、飯を炊く煙の量が多かったからという“いつもと違う不審な動き”を察知されたからだ。敵に不審に思われないことは重要だ。


「いよいよ、にござるな」


「はい」


 もう負けられない。プレッシャーが重くのしかかる俺たち。だがそれが、背水の陣を敷いた蠣崎軍の団結を強固にしていた。


 王国軍の大軍を前にして、俺たちに一切の綻びなし。ただし、2人を除いて。


「何故、某が小童の策に従わねばならんのだ……」


「同感です広益様。何故誰も、豆坊主ごときの策に異議を唱えなかったのでしょう。不愉快です」


 例によって広益のオッサンと鷹姫が、俺に対する愚痴を容赦なく吐露している。

 この一大決戦の場で、意地を張って俺の策を受け入れたがらない頑固で無駄なプライドは捨ててほしいものだ。近くで聞いたせいで、せっかくの緊張感が台無しだ。 


「五郎。敵の様子は?」


「え、あ、はい。たぶんまだ大丈夫です」


 おっと、そんなことに気を取られている場合じゃなかった。敵の動向にも注視しておかないと。万が一にも察知されたら、策のほうまで台無しになるからな。


「しかも、あたしの(・・・・)守継様となんであんなにしょっちゅう、くっついているのでしょうか!? それもあたしの許可もなしに!!」


「鷹姫殿?」


 マズい、鷹姫がまた暴走しかけている。もし彼女の大声が王国軍の耳に入ったら、せっかくの計略が何もかも失敗になってしまう。誰か止めてくれ!


「先の蝦夷の反乱だって、守継様がいなかったら何もできなかったくせに!! ああ! この疫病神!! 妬ましい!!!」


「鷹姫殿、落ち着かれよ!」


「む……武治様」


 ほっ……。父上、相変わらずナイスな抑え役。

 このまま放置していたら、それこそ敗北決定だったよ……。


「今は戦の最中に御座る。ここで仲間割れを起こしては、今後の戦運びに大いなる支障が生まれよう」   


「ちっ、豆坊主の一族はなんでこう……」


 げ、舌打ちしたぞコイツ。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってか。俺だけじゃなく、一族全員に恨みつらみが出てきたようだな。

 それになんか、時間を追うごとにどんどん凶暴になっているような……。いや、あるいはこれが本性なのか。


「鷹姫様は、何をおっしゃってんだべ?」


「そったらもん、オラに聞かれてもわからん」


「まあ、鷹姫様だから……」


 味方の兵士たちにまで呆れられている鷹姫。蠣崎軍にとって最大の不安要素が、今俺たちの目の前で燻っている。


「ていうか蝦夷の乱って……アイヌ(あたしたち)もいるのに……」


「なんか怒りっぽい人だね~」


 さらにリシヌンテが口調に似合わず客観的な評価をする一方で、レスノテクは、同じアイヌが起こした戦いを『乱』と呼ばれショックを受ける。


 静けさを保たなければならない場面で、急に騒がしくなる蠣崎軍。すると今度は勝山館の中から、酒に酔った1人の男が出現した。 


「うい~っ。しょうだじょ~、怒りっぽいのはよくねえじょ~……にごじゃる~」


「備中守殿!!?」


「いかがなされた、備中守殿!?」


 え? 備中守? つまりあの酔っ払いの侍って、季貞なのか!?

 べろんべろんじゃないか。どんだけ飲んだらこんなに泥酔できるんだ……?


 すると彼の近くにいた重季が、やれやれと言わんばかりに季貞を介抱。そして驚愕の発言を口にする。


「……備中守。お前は昨日も飲み過ぎておったな」


「なんと!!?」


 季貞、あんたってそういうキャラだったのか……。確かに戦場で酒を飲むのは戦国時代ではよくあることだが、酔い潰れるほど飲んだら戦えないような気がするが。


「ええじゃないか、ええじゃないか~。おお、孫八郎殿が8人に見えるじょ~……」


「……いつものことながら、頭が痛い」 


 さっき言ってたこと訂正。新たな綻び発見。名前、厚谷季貞。

 季貞よ、俺を助けたときのカッコよさはどこいったんだ? あんたの覚悟に惚れたのに幻滅してしまったぞ……。

 ああ、3人のおかげで折角の張りつめた雰囲気が完全に消えてしまっている……。


「ていうか泥酔って、まだ戦いが始まってすらいないのに……」


「なんかノーテンキな人だね~」


 そしてアイヌの2人も似たようなセリフを繰り返す。

 ダメだ、今回のギャンブル失敗するな……きっと。


「ま、まあ、大事ないだろうよ。少し経てば此奴も本調子になるだろう」


 重季、だから適当なこと言うなよ。そんな体たらくの戦国武将を目の当たりにして、信じられるかい。俺はどうしようもない不安に襲われた。

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