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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
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37 勝山館の戦い その1 兵糧庫襲撃

 王国軍の兵糧庫襲撃を控え、俺と守継は勝山館のある夷王山の山頂に存在する医王山頭陀寺に参拝していた。ここには蠣崎家初代にして数千のアイヌ兵を打ち破ったことで知られる武田信広公が祭られている。

 俺がこのお寺に参拝したのは、一つは、たえから貰ったお守りの力に感謝するため。もう一つは、戦勝祈願をするためであった。


「武田信広公、この俺の命を守ってくださりありがとうございます。そして、蝦夷地に迫る異国の敵を倒す力をこの俺にお授けくだされ……」


 実際、このお寺のお守りのおかげで、2回激戦を経ても命を失わずに済んだかどうかは俺にはわからない。だが、これはたえが心を込めてプレゼントしてくれたお守り。俺はたえの気持ちと信広公のご加護のおかげで生き延びられたと信じたい。


「信広公、御先祖様、どうか御照覧あれ! この南条越中守守継、たとえ死すとも最後の時まで蠣崎のため、蝦夷地のために身命を賭けて戦いまする!」


 守継も精一杯の気持ちを込めて、信広公にお祈りを申し上げる。

 参拝を終えると、不思議と力が込み上がる感じがして、なんだか心強かった。


「では越中守さん、行ってきます」


「任せたぞ」


 俺は夷王山を下りて、単身で王国軍の兵糧庫捜索に向かった。

 


 ■■■■■



 勝山館の前身である花沢館は、1457年(康正3年)に起こったコシャマインの戦いにおいて陥落を免れた館の1つだ。他の館と違って小高い山の中腹にあることからも、普通に考えれば他の館よりも守りは固いはずである。

 しかしながらここも、この前のコタンシヤムの戦いでとうとう陥落してしまった。茂別館も同様の館でありながら、王国軍の勢いの前には無力だった。


 つまり俺としては、常に館を占領され、そこから自分の背後を襲撃される恐怖に怯えながら戦い続けていることになる。今回に関しては、勝山館が陥落しそうになったら、さっさと降伏するのが賢明だろう。


 だが意地でも、降伏せねばならない状況下には置かれたくない。そのためにも、起死回生の一発をお見舞いする必要がある。


「一発逆転だ……見せつけてやる……!」


 連日の敗戦、兵の士気もガタ落ちで逃走も相次いでいる。だから戦意上昇のためにも、この作戦だけは絶対成功させる!


「――せいぜい、守継様の足は引っ張らないで欲しいものですね。豆坊主」


 う、この背後から聞こえる殺気を含んだ女の人の声は……。


「た、鷹姫……」


「無礼者!」


「ひいっ!」


 ああ、やっぱりだ、あの(・・)鷹姫だ。ていうか、名前言った瞬間に抜き身の刀を向けないで……。


「鷹姫()ですよ。あたしを誰だと思っているんですか。お館様の長女にして守継様の最愛の妻なのですよ。そんなあたしを呼び捨てとは、礼儀がなってないガキですね」


「いや……それは……」


「そもそもこのあたしに黙って守継様と話すなんて、それこそ究極の無礼者です。あたしのいないところであなたが言葉を発するものなら、守継様の耳が腐ってしまいます。なんなら、あたし自らの手で、あなたを教育しなおしてもいいんですよ? このお邪魔虫」


「ひ、ひええ……」


 しきりに刀を俺の首に突きつけ、脅しをかける鷹姫。

 やばい、早くこの場を離れないと……鷹姫にやられる!


「じゃ、じゃあ、俺は策を実行するので、また今度ー!」


「あ、待ちなさいっ!」


 俺は半ば鷹姫から逃げるように、夷王山を脱出した。

 鷹姫も追いかけるが、俺の足の速さには全く敵わず、一気に突き放すことに成功した。



 ■■■■■



 数十分後、王国軍の兵糧庫は意外にもあっさりと見つかった。


(あれ……? こんな近くに……?)


 それは勝山館の近く、かつてコシャマインの戦いが起こった頃(正確にはその数年後)まで花沢館があった跡地であった。


 花沢館は武田信広の養父、蠣崎季繁の拠点だった場所。後に季繁が死去すると、コシャマインを討った信広が勝山館を築城したため、花沢館は捨てられたとされている。

 その跡地というのもなかなか険しいもので、崖が海のすぐそこまでせり出していている。状況を考えると、敵の兵糧庫もそこに昨日今日で急造されたものだろう。


 しかも設置の途中段階なのか、造りかけのものも数多い。王国軍の軍艦も見えてはいるがここからは遠い。


 とここで、俺はふと気づいた。

 周囲を見回すと、何故か守衛兵の姿は全く見えない。相手の城のすぐお膝元で、まだ建築中なのに、である。まずこの点に不信感を抱かずにはいられない。


「無防備すぎる……」


 それに今ここを襲撃したところで、兵糧庫に相手の食糧が詰め込んであるとも考えられず、作戦の効果はほとんどない。むしろ、相手にこちらの策をわざわざ公表しているようなものだ。


「仕方ない……。やっぱり後で、集団で燃やしに行くとしよう」


 茂別館の空城の計の意趣返しなのか? とにかく、これ以上留まっていても伏兵にやられる危険性もある。食糧がちょうど備蓄されるタイミングを待つためにも、さっさと退いてしまおう。


「――今だ、かかれ!」


「!?」


 そして俺がこっそり勝山館に戻ろうとしたその瞬間、後方から男の声が突然聞こえた。しかもこの声、どこかで聞いたことがあるような……。


「うおおおおおおお!」


 しかし悠長に考えている暇はない。なぜなら兵糧庫の周囲から王国軍兵士が多数こちらに襲い掛かって来たからである。

 

「うおりやあああああ!」


「うわあああああああ!」


 俺は槍を振るって王国軍兵士を一気に数十人撃破する。

 やはり罠だったか。しかも俺の周囲には今、3000人の王国軍兵士が俺の命を狙わんとこちらを窺っている。


「……なるほど。この武勇、貴様が例の少年だな?」

 

 俺は再び海のほうを振り向いた。すると、そこには見覚えのある白い制服のエルフの男が立っていた。


「ふ、フルホルメン大佐……?」


「ほう、なぜわたしの名前を知っている?」


 声の主は、この戦のきっかけである要求文書を叩きつけた長髪のエルフの男、モルテン・フルホルメンだった。


「……あんたの要求文書を翻訳したのは、誰だと思っているんだ?」


「そんな瑣末なこと、このわたしが覚えているわけがないだろう。それより、我が軍の兵糧庫で何をするつもりだったのだ?」


 この伏兵、フルホルメン大佐の計略だったか。それに相変わらずの傲慢な態度、ムカつくぜ。

……って、そんなこと気にしている場合じゃない。早くしないと、あいつの配下の兵が追加で来てしまうな。


「答える気はない、か。ならば仕方ない」


「……!?」


 大佐の指鳴らしスナップによって、俺の周りの王国軍兵士が再びこちらを襲撃しにかかる。

 さすがに四方八方から襲い掛かられては、俺の身も危ない。血路を開いて今すぐ退散だ。


「ここで捕縛して吐かせるのみよ。かかれいっ!」


「覚悟っ!」


 大佐の合図で一斉に刃向ってくる兵士たち。だが……


「うおおおおっ!!」


 俺の渾身の一撃によって、敵兵は次々と付近の崖に衝突する。その威力を前に攻撃を受けなかった敵兵が思わず立ちすくむ。 


「あ、あ……」 


「た、大佐! いかがなされるおつもりですか!?」


「心配はない。第二陣、恐れず進めいっ!」


 今度は大佐の後ろから大軍か。だが今は相手にする必要がない。態勢が整ったら再び戦ってやるとしよう。俺は猛ダッシュで兵糧庫から逃亡した。 


「待てっ! わたしの質問に答えろ!」


「それは無理! じゃ!」


 それから少しの間、絶壁の細道で潮風にあたりながら、俺と王国軍との命懸けのレースが行われた。



■■■■■



(あと、もう少しだ……)


 数分後、フルホルメン大佐の部隊に追い回されている俺は、ようやく勝山館に戻る坂道を発見した。

 一度入ってしまえば上り坂。お互い競り合いながら登っていく王国軍に比べ、俺は1人だから身軽。それに地の利はこっちにある。相手も無理には追ってこないだろう。


「せいやあ!」


 俺は坂に入ると、疲弊しきった体を奮起させて一気に駆け昇って行った。


「待て! 逃がすな!」


 王国軍も必死にスピードを上げるが、俺のチートボディから出る速度の前にじりじりと突き放されていく。そして勝山館までもう少しと言ったところで、俺に助けの手が差し伸べられた。


「――今だ! 岩を落とせぇ!」


「御意!」


 坂の上のほうから男の声が聞こえ、同時に俺の後ろに向かって、大きな岩が次々と転がっていく。標的は大佐の部隊だった。


「う、うわあああ! お、押し潰されるー!」


「全軍、追撃中止! 即時後退だ!」


「りょ、了解! ……って、ぎゃあああああ!」


 後方を見下ろすと、岩の向こう側から王国軍の断末魔が嫌でも耳に入ってきて、思わずその光景まで脳内に浮かんできた。おっと、グロテスクな妄想はやめよう。


 ところでこのベタだが、タイミング良い計略を実行したのは誰なんだ?


 俺が気になって頂上まで登りきると、そこには2人の武将の姿があった。


「ふう、なんとか凌いだでござるな、孫八郎殿」


「備中守もご苦労だった。拙者もこれで、親父に対する罪滅ぼしはなっただろうよ」


 頂上にいたのは、コタンシヤムの戦いのときに勝山館の守備に就いていた下国重季。それと、本来は勝山館近くの比石館(ひいしたて)にいるはずの厚谷備中守季貞あつや・びっちゅうのかみ・すえさだであった。


「あ、あの……ありがとうございます」


「む? 五郎、礼はいい。これは拙者のためにやったことだからな」


「五郎? もしやこの小さな男が、あの不破武親でござるか?」 


 さすがに俺の名は、蠣崎軍中でもかなり有名になっているようだな。やはり去年の戦功は俺にとって大きな財産だ。


「不破五郎武親です。初めまして」


「お初にお目にかかる。厚谷備中守季貞と申す」


「ところで、なぜ備中守さんはこちらに? 比石館はどうしたのですか?」


 挨拶を終えると、俺は早速季貞に単刀直入に聞いた。


「比石館は……放棄した」


「え?」


「まあ、この大軍を相手にするのだ。各人が方々に散らばっていては勝てんと父は仰せになられた。今、厚谷家の者は南条越中守のもとに集結しておる」


 言われてみれば、なるほどと思わずにはいられない。蠣崎家は常に慢性的な兵力不足である。確かに米を獲れない蝦夷地では、館を落とされれば貴重な収入源である交易に大きな支障が出る。

 だが、目先の小さな館の防衛を気にしすぎては、兵が分散して戦に勝てなくなるのもまた事実。アイヌの武装蜂起の度に、次々と館が落とされている記述がその証拠だ。

 だから大軍の前には思い切って拠点を捨て、兵を1カ所に集結させるのは良い決断だとは思う。


 しかし、なんとまあ思い切ったものだ。


「でも……未練とか、そういうのは無いんですか……?」


 だが季貞には、そんな甘い感情は有していなかった。


「今は戦乱の世。この荒れた時代に重きを置くべきは、即ちお家の存続。館に対して未練がどうのと申しておるようでは、戦には勝てぬ上にお家断絶は必至でござろう」


 ……ふっ。俺としたことが愚問だったかな。

 未練とか思わず言ったけど、俺もそもそも前世では思いきって『自殺』した身なんだ。未練も残さず、覚悟を決めて。


 だから季貞も「未練を持っていない」という点では同じ、覚悟の据わった目をしている。


「では異国の者を払ったところで、戻るとしよう」


 けど違う点が1つある。季貞の姿勢は前向きだ。今後、戦況が好転するのを見越して。

 一方の昔の俺は後ろ向きだった。だって絶望して自殺だぜ? あとあと考えたら、結構恥ずかしい死に方だぜ?


 今でこそポジティブに物事を考えられるようになって、季貞みたいな覚悟も持てるようになったけど。しかし、茂別館から撤退した時のこと考えると、季貞のレベルには程遠い。まだまだ未熟だな、俺も。


「どうした? 五郎」


「あ、すみません。戻りましょう」


 ところで守継のほうはどうなったんだろう? 俺から策の提案はしたけど、上手くいってるかな?

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