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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
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35 安東水軍の殲滅

 アストリッド率いる聖職者部隊、ローヤリテット・ヴァルキュリアが中野館周辺を制圧したその日の夕方のこと。

 イングリッド率いる第1師団第1連隊は脇本館を無事に攻略。館主である南条守継の嫡男、南条宗継(なんじょう・むねつぐ)を捕縛することに成功していた。


「くっ……まさか縄目を受けることになってしまうとは。父上、母上、館を守り切れず申し訳ありませぬ……」


 当時、宗継は数え歳で12歳。先月元服を済ませたばかりであり、この戦が彼にとっての初陣であった。しかし脇本館の守兵30人足らずに対し、王国軍は10000。さらに原因不明の激しい揺れにより、脇本館は半壊。

 そのような状況では到底防戦などできるはずもなく、開戦から半刻と経たずに館は陥落した。


「さあ、さっさと歩くのだ!」


「くっ……」


「これ、もっと丁重に扱わぬか。これほど若き身で主のために忠義を尽くして戦った少年じゃぞ。そのような乱暴な扱いをしては、王国の沽券に関わるぞ」


「しかし……」


「よいな?」


「は、ははっ!」


 最初は捕虜となった宗継を粗雑に扱う王国軍兵士であったが、イングリッドの命令を受けて多少は丁寧に扱うようになった。


「しかし、今回の戦いも随分とあっさり終わったのう。ワキモトといい、シノリといい、ウスケシといい、拠点の規模の割に敵兵があまりに少なすぎる」


「ええ。苦戦を強いられたモベツでも、籠城していた兵士はたったの数百人。それも結局は我らの攻勢の前に殲滅されました」


 事前の予測に反して各拠点の兵力が少ないことを受けて、イングリッドはかえって慎重になっていた。                                      


「……のう、クラースよ。まさかカキザキ軍は、我らを誘っているのではあるまいな? わざと負け戦を仕掛けて妾たちを奥地に誘い、たたきのめす算段ではあるまいな?」


「ありえなくはありませんな。モベツは他の拠点と比べ、10倍近い兵がおりました。他の拠点の防備を犠牲にして、あの拠点で我らを叩こうとしたのやもしれませぬ」


 実際には、蠣崎軍はそこまで体系だった防衛体制を敷いているわけではなかったが、志苔館や宇須岸館での圧勝と、茂別館での予想外の大損害が王国軍に深い疑念を抱かせていた。


「殿下、リコナイとナカノの制圧完了致しました」


 すると、中野館周辺の制圧を終えたホルムバリ大佐とアストリッドが脇本館に参上した。


「ふふふふふ……聖女神様の、お導きを拒絶する、とは……愚かな者たちです……。ですが、間もなく……その……偉大なる……ご威光に……屈す……」


 戦勝報告をするホルムバリ大佐。だが一方で、アストリッドはホルムバリ大佐の肩に担がれて立つのがやっとの有様で、イングリッドに謁見してまもなく血まみれの状態で意識を失った。


「アストリッド!」


 イングリッドとクラースはすぐさま手負いのアストリッドのもとに駆け寄った。


「ホルムバリ大佐! 猊下はなぜこのような大怪我をなさっているのだ!? まさか、例の少年にやられたのか?」


「はっ! 確かに例の少年らしき人物はリコナイにも現れました。ただ、それ以外にも強力な弓の使い手と魔法の使い手が現れまして……」


「……なに?」


「さらに、手練れの指揮官が相手にいたようで、最初に攻撃を仕掛けた第3大隊は壊滅。敵の援軍も駆けつけ、ローヤリテット・ヴァルキュリアも3割の兵が戦死しました」


「なんと……手強い敵がさらに増えたと言うのか……」


 フワゴロウタケチカ以外にも強敵が現れたと知り、クラースは狼狽した。


「ただ、最後は中佐の崩壊する大地フェアファル・ボーデンで敵の将兵を全員生き埋めにしました。一部の人間は自力で脱出したようですが、20名あまりで山のほうに敗走したと報告を受けております。さすがにもう脅威にはならないだろうと考え、追撃はしませんでした」


「そうか……。ところでマデリーネよ、何故アストリッドをこの部屋に連れてきた? このような怪我をしているなら、すぐに医務室に運ぶべきじゃろう」


「それが、中佐はどうしても戦争報告を私とともに殿下にお伝えしたいと聞かなかったものでして……」


「強情な奴よのう。わかった。マデリーネ、報告ご苦労じゃった、下がってよいぞ」


「はっ」


 マデリーネは敬礼して、アストリッドを連れて医務室へと向かった。


「まさか、これほど我らが苦戦するとはのう……」


「戦闘では負け知らずの猊下があれほど負傷したのは、私も初めて見ました。その中でも、例の少年とほかの手練れの強敵をまとめて葬り去ったのはさすがですが」


「しかし、一部はなんとか逃れることができたらしいからのう。もしその中に例の少年がいれば、また苦戦を強いられるやもしれぬ」


「……報告によれば、あの山の向こうにも敵の拠点はあるそうですからな。彼らはそこを目指しているものと思われます。今、第4師団はウスケシから北西の山を回って制圧作戦を展開させていますが、彼らに例の少年との戦いを任せますか?」


「ううむ……第4師団は我ら第1師団と同等以上の精鋭部隊。そして我らが大損害を被っている以上、彼らに任せたいところじゃ。しかし、モベツやリコナイの先例を考えると一個師団だけでは不安が残る。ここは妹率いる第2師団も差し向けるべきかのう」


「な……スヴェンセン将軍に加えて、ヴィクトリア殿下も例の少年にぶつけるおつもりなのですか?」


 クラースはイングリッドの大胆な采配に度肝を抜かれた。


 これまでの戦いにおいて、拠点1ヶ所あたりの蠣崎軍の数は数十~数百人ほど。対して第4師団の数は13000、第2師団の数は20000、合わせると33000人になる。

 一カ所の拠点を攻略するにはあまりに多い兵士の数に、クラースはイングリッドの正気を疑った。だが、彼女はいたって冷静であった。


「何事も備えあれば憂いなしというもの。せっかく遠い異世界の地に攻め入っておるのに、大勢の犠牲を出した挙げ句、なんの成果もなしに帰っては父上に合わせる顔がない。成果を確実にするためにも、万全は期しておきたいのじゃ」


「ですが……」


「フルホルメン大佐はこの地の制圧に1万、他の4万は他の地域の制圧にあてるべきだと言っておったが、どうやら5万の兵すべてをこの地の攻略に使ったほうが良さそうじゃからな。一気に叩けそうなところは圧倒的物量を持って一気に叩く。そうするべきじゃろう」


 当初はイングリッドも、5万の大軍を遠方に派遣することには疑義を持っていた。が、今となってはフルホルメン大佐の提案に感謝するほかない彼女であった。


「……私は殿下の意見に従うまでです」


「ご理解感謝する。そうと決まれば、妹に遣いを寄越すしよう」


 かくして、王国軍は例の少年を倒して生け捕りにすべく、33000の兵で先回りして例の少年と対峙することとなった。



■■■■■



 9月13日、津軽海峡。

 ミュルクヴィズラント王国の第2王女、ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント率いる王国軍第2師団は、船を使って次の攻略地点である勝山館を目指していた。


 今回、攻略対象となっている島の反対側には別の陸地も見える。だが今回はそちらには進攻せず、「エゾチ」と呼ばれる島の制圧に力を集中させていた。


「それにしても、潮の流れの速い海ですこと。我が軍の船も進みが随分と遅くなっていますわね」


 ヴィクトリア・カルロッテ・ミュルクヴィズラント、16歳。王国軍第2師団長を務める軍人であり、階級は姉のイングリッドと同じ中将である。


 彼女は精鋭ぞろいの王国軍の中でも群を抜いた武勇を誇っており、その強さは王国史上最強との呼び声も高い人物であった。

 8歳の頃から戦場を駆け抜け、戦に出れば敵の将軍を必ず討ち取り、万を超える大軍でさえもたった一発の広域殲滅魔法で一網打尽にするなど神懸かりな活躍を見せ、大陸の民は彼女を当代最強の姫騎士と讃えていた。


 さらに金髪碧眼で麗しい容姿に、一国の王女に相応しい上品な立ち居振る舞いは大衆の目を惹きつけ、彼女に心酔する兵士や国民が絶えることはなかった。


「……殿下、凄いことになりましたね。例の男の子を倒すために、我が軍でも突出した武勇を誇る殿下とスヴェンセン少将を同時にぶつけるなんてー……」


 そうヴィクトリアに声をかけるのは、彼女の副官を務める王国軍第2師団第2連隊長のベアーテ・モルク大佐、22歳。

 王国中部に位置するユングリング公爵領の平民出身であり、大変穏和な性格の女性軍人であるが、彼女は巧みな用兵術によって数々の戦功を挙げ、21歳にして大佐に昇格するなど大変優秀な士官であった。


 またいつもおっとりとした口調で上司や部下に声をかけ、怒ることがほとんどないことから、第2師団の癒し的な存在となっていた。


「お姉様の話に耳を傾けている限りでは、前線指揮官の戦術がなってないように感じましたわね。どちらの部隊も、いたずらに力攻めで押し切ろうとして損害を出していらっしゃる。異世界の地を攻めているという自覚がどうも薄いようですわ」


「モベツの一件は予想していなかったことなんでしょうけど、リコナイの場合はまだ楽に勝つ方法があった。先に横に大隊を1つ回り込ませて谷の上から攻め掛かれば、もう少し楽に勝てたと思います。なのに、谷の狭間を愚直に攻めて三方から矢を射かけられるなんてのは、ちょっと……」


「先年の南方諸国平定戦も、後半はほとんど力攻めと寝返り工作だけで圧勝できてしまう状態が続きましたからね。今回もそういけると勘違いなさったのでしょう。これがイースト・オモルフィアであれば圧勝は間違いはなかったのでしょうが」


 しばらく苦戦らしい苦戦を経験していなかった王国軍。それが未知の異世界に来ていきなりフワゴロウタケチカと名乗る予想外の強敵が出現したことで、彼らに衝撃が走ることとなった。

 そして久方振りの難敵の登場に、ヴィクトリアは不敵な笑みを浮かべていた。


「ともあれ、久々に骨のありそうな方と戦えそうで、今から結構楽しみにしておりますのよ」


 ヴィクトリアの視線は、既に例の少年との戦いに移っていた。

 

 そんな時、船内の師団長室に1人の偵察兵が入ってくる。


「殿下! 左舷の方向に、見慣れぬ船が見えております! その数、およそ80!」


 ヴィクトリアたちが乗船する軍艦『フリングホルニ号』から見て左斜め前、そこに扇の絵が描かれた旗を掲げた大小80隻の船が、エゾチに向かって進んでいるのが発見された。

 ヴィクトリアとベアーテは様子を確かめるべく、甲板に上がった。


「あれは……おそらく敵の援軍の船ですわね」


「て、敵の援軍ですか?」


「ああ、そういえば出発前に捕虜からの情報が入ってきてねー。どうも、アンドウという領主一族が3000の兵でカキザキ一族に援軍を送るって計画があるみたい。扇の旗が目印だって言ってたから、あの船がきっとその援軍だと思うよー」


「モルク大佐、それは本当ですか?」


「というか、この巨大船団を見て、敢えて立ち向かう船なんてそれ以外には考えられないからねー」


 突然の敵の援軍にも全く動揺することなく、冷静に事態を分析する2人。ヴィクトリアに至っては、既に敵の船団を壊滅させる方法を思いついていた。


「臆することはありませんわ。こちらは2万近い大軍、3000の兵など敵ではありませんわ。早々に沈めてしまいましょう」


「殿下。じゃあ、ここは私がー……」


「いえ。ここは景気づけのためにも、わたくしが一発大きな花火で撃ち落としてみせますわ」


 すると、ヴィクトリアはランスを両手に構え、呪文詠唱を始めた。


鋭利な雷光(シュピッツ・ブリッツ)!」


 詠唱が終わった瞬間、強力な稲妻が前方を通ろうとしていた安東水軍の船80隻すべてに直撃。凄まじい轟音を立て、激しく炎を燃やしながら一気に沈没していった。


「う、うおおおおおおおおおおお!」


「さすがはヴィクトリア殿下! 敵の船団が木っ端みじんだ!」


「これなら、例の少年も怖くないぜ!」


 船団があまりに豪華に撃沈していったため、王国軍兵士からは大きな歓声が上がり、士気は大いに高められることとなった。


「……毎度のことですが、本当に容赦ないですよね、殿下の魔法はー。敵に見せ場がなさすぎて、いつも可哀相に感じちゃいます」


「ですが、一個連隊や一個師団を一撃で葬り去る人間がいると相手に知れれば、その後は戦わずして降伏させることも可能になります。海岸線の距離を考えれば、この一撃に敵もおそらくお気づきになるはず。あとは大軍で上陸して勧告すれば、勝利は間違いありませんわ」


 得意げな表情のヴィクトリア。戦わずして勝てば敵味方両方の損失を減らすことができ、敵兵を味方に取り込んだあとの運用も容易となる。そのためにヴィクトリアは自分が出撃した戦争では、どこかのタイミングで敵を一撃で全滅させる機会を積極的に作っていた。


「……そういえば、殿下の広域殲滅魔法って、イングリッド殿下から回数制限を言い渡されているって噂を小耳に挟んだんですけど、それって本当ですかー?」


「……そんな話は聞いたことがありませんわ」


「なんでも、殿下の魔法のせいで戦いが楽になってしまって、かえって兵の士気を下げてるとかなんとか……」


「……それ以上仰るようなら、今すぐアンドウ一族の兵と同じ目に遭わせますわよ」


 ベアーテの疑問を脅迫で揉み消すヴィクトリア。これ以上深く突っ込んではいけないと察知したベアーテは、慌ててその場を取り繕う。


「……ま、噂は噂。あの心優しいイングリッド殿下が回数制限なんて無粋なことするはずがありませんよね。うんうん、ないない。あはははははー……」


「……」


 とはいえ、ベアーテが聞いた噂は実のところ本当であった。先の戦争で、ヴィクトリアは広域殲滅魔法を乱発して数々の大規模会戦で圧勝。結果兵をほぼ損なわずに敵国を併合することに成功していた。


 だが、そのおかげで王国軍に編入された敵国の兵や士官の数が極端に少なくなり、王国は現地の治安維持に苦戦。さらにヴィクトリア1人で数々の戦に決着をつけてしまったことから、配下の将兵の士気はかえって下がり風紀にも緩みがでてしまった。


 そのため、先の戦争終了後、ヴィクトリアはイングリッドから「戦争一回につき広域殲滅魔法は3回まで」と釘を刺されていた。


「さ、先に進みますわよ」


 しかし核心に触れてほしくないヴィクトリアは、追求をうやむやにするかのように進軍の指示を出したのであった。

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