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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
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29 中野館の戦い その2 王国軍聖職者部隊

「――まだじゃ! じっくりジワリと引きつけよ」


 長門隊とレスノテク隊は、谷の両側の斜面で王国軍を待ち伏せている。十分に近づかせて、まとめて叩き潰す作戦だ。


「ひるむな! 攻めかかれえ!」


 先ほど退却した王国軍が再び進撃を始め、俺たちに襲いかかってくる。


「今じゃあ! 火矢を射よ!」


 しかし広益はそんな敵の隙を見逃さない。王国軍が草が特に生い茂る場所を通過している途中、広益の指令とともに先端が燃えている矢が王国軍に向かって放たれる。火計だ。


「ぐわあ!」


「熱い、熱いぞお……!」


 大量の炎が周囲の森林を火の海に変える。策にかかった敵が、業火の中で悶え苦しみ統制を失う。


「おのれ、小癪な奴らめ。力で押してくれる……!」


 そんな中でも好戦的な者は、お返しに長門隊を強引にねじ伏せようと進軍する。火傷の危険にも恐れずに。


「今よ。放って!」


「おおう!」


 しかしそれこそこちらの思う壺。今度は森に潜伏していたアイヌ兵が、レスノテクの合図に合わせて毒矢の地吹雪を浴びせる。


「ひいぃ!」


「くっ、撤退、撤退い!」


 正確無比な攻撃の前に、罠にはまった獣のように慌てて退くばかりの王国軍。地の利を存分に生かす戦ぶりに、俺たちも度肝を抜かれる。


「……すごい」


「華麗に異国の兵をいなしているな……」


 確かに凄い。俺たちが茂別館で散々苦戦した王国軍を相手に完全勝利している。

 だが1つ奇妙な点がある。なんだろう、今回の王国軍、魔法を使っていないような……。


「ガーッハハハハハ! 敵が尻尾を巻いて逃げとるわ!」


 それにしても上機嫌だな、広益のオッサン。腹の底から大笑いするなんて。

 まあ、大軍を相手に勝利していれば気持ちが大きくなるのもよくわかる。特に俺ですら勝てなかった王国軍に勝利して、さぞ優越感に浸っていることだろう。


「でも油断しないでよ。まだ完全に討滅できたわけじゃないんだから」


 オッサンとは対照的に、レスノテクは警戒を続けている。

 勝って兜の緒を締めよ、か。良い心がけだ。


「――某の軍略も、まだまだで御座ったな……」


 広益のご機嫌ぶりとは反対に、ため息交じりの父・武治。


 いや、一概にまだまだだったとは言えないんじゃないのかな?

 今回、王国軍は戦艦で侵略している。しかも海岸からずっと山の深い谷のところで戦っているから、地の利を生かした防衛ができてるんだ。


 茂別館は不幸にも、海岸から目と鼻の先に建設されていたから、攻め込まれやすかったわけで。


「……む? なんだ、あの一団は……」


 その最中、前方から燃え盛る森林をものともせずに進む集団がこちらに迫ってきた。

 よく観察すると、その軍団は修道服らしきものを纏っているようにも見える。


「な、なんなのよ、あの集団は……」


 自分の体が炎に包まれる危険性にも顧みず進むその集団に、レスノテクはにわかに冷や汗をかいていた。

 というよりも、その修道服の集団は炎の中を歩いているにもかかわらず、衣服が全く燃えることなく静かに歩いている。


「き、奇妙なことにござる! 斯様に苛烈な炎の中を、何故あのように平然と歩いていられるのだ!?」


 そしてすぐそこまで彼らが近づいてきた瞬間、大きな号令が俺たちの前で下された。


『――――天にまします聖女神様に逆らうものに、天罰を!』


『天罰を!!』


 その集団は突然わけのわからない呪文を使い、巨大な魔法陣を天空に出現させた。

 その魔法陣は俺たちの上を覆い、空を隠すようにどんどん拡大していった。


「な、なんなんだこれは……」


 これまで一度も経験したことのない怪異に、蠣崎軍とアイヌ兵は次第に混乱状態に突入。

 そして次の瞬間、空から白いビームのようなものが大量に放たれ、俺たちを襲った。


神への償いハイリヒ・シュトラーフェ!」


「な、なんなんだあの光は……」


「ま、眩しい……ぐわああああああああああああああっ!!」



 そのビームは谷の斜面に潜んでいた兵士たちを、一瞬にして次々と襲撃。周囲からは無数の爆音が轟く。

 そして終わった頃には、真っ二つになった死体がゴロゴロと地面に横たわっていた。彼らのいた場所の地面にも、大きな裂け目(クレパス)が幾つも出来上がってしまっている。


 どうやら、この修道女たちも王国軍の兵士らしい。 


「ぬうう……」


 さっきまで絶好調だった広益のオッサンも苦悶の表情。まさかこの炎を突破できる連中なんていない、と思ってたもんな。


「お前は誰だ!?」


 俺は部隊長らしき白い服の修道女に、名を問いただした。


「――私めの名とあなた方の存在など、聖女神様の威光の前には塵も同然。あなた方に名乗る義務なんてありません」


「なんだと?」


 俺たちが塵同然だと? ナメてやがる。人間をそんな風に思うだなんて。


「ただ、この業火を無事に進んだタネ明かしだけはしておきましょう」


 その修道女はそう言って、再び詠唱を始めた。


『天にまします聖女神様、我らにご加護を。聖なる加護(ハイリヒ・ヒルフェ)!』


 詠唱が終わると、修道士の集団は突然明るい光に包まれ始めた。光は徐々にその範囲を広げていき、終いには全身を覆うまでになった。


「これがあれば、炎や飛び道具ごときで私めたちを殺めることは出来ません。なにしろ偉大なる聖女神様のご加護なのですから」


 昨日の茂別館での戦闘でも思っていたことがある。王国軍、チート能力の持ち主多過ぎだろ……。

 しかも飛び道具ってことは、アイヌの弓矢も全く通じないってことじゃないか! 彼女たちの魔法に比べれば、俺のチート能力なんてゴミみたいなものだ。


「では冥土の土産を差し上げたところで、あなた方も地獄に落としましょうか」


「!」


 ヤバい。修道女の目がレスノテクに向けられている。標的にされているぞ、レスノテク!


『――天にまします聖女神様、かの者に闇の贖罪を。冥府送りの拷問オルクス・クヴァール!』


 修道女の詠唱が終わると、レスノテクに向かって、一閃の黒い稲妻が放たれている。


「え……? 何なのよあれ……」


 一方、レスノテクは稲妻の迫力に飲まれたのか、全くその場から動こうとしない。

しかしあの一撃を喰らえば、レスノテクがどうなってしまうかわからない。早く助けないと!


「ご、五郎!」


 夢中だった。俺は1人の少女を助けるために、昨日の奇襲に次いでもう一度無茶をした。

 そして俺はレスノテクを瞬時に抱きかかえ、黒い稲妻の落下地点から飛び上がった。


 俺はスレスレで、稲妻を回避。後ろを振り返ると、稲妻が落ちた場所には井戸のような深い穴が作られていた。


「大丈夫か、レスノテク?」


「……あ、うん。大丈夫……」


 レスノテクは無事だったようだ。

 ふう、間一髪だったぜ。てか王国側は、蠣崎家の家臣を生け捕りにしてるんじゃなかったのか? それともまだ俺とそう歳の変わらない彼女を、将として認識できていなかったのか……。


 俺は着地して、彼女を優しく下ろした。


「ほう、私めの『冥府送りの拷問(オルクス・クヴァール)』にも恐れず、しかも少女を救出するとは」


 ちっ、回避されたにも関わらず、すました顔してやがる。修道服を来ている割に、暴力的に強くて傲慢な連中だ。


「これは前言撤回する必要がありそうですね」


「そりゃ、助かるよ」


 そして修道女は美しくその場に立って、名乗り出た。


「私めの名前はアストリッド・フォーゲルクロウ。ミュルクヴィズラント王国軍第1師団第4連隊の副官にして、聖職者部隊ローヤリテット・ヴァルキュリアを率いる者です」

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