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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第1章 不破武親、戦国時代に転生する
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2 女神たちの世界観講座

 そんな日々を過ごしていたある夜、俺は夢の中でついに説明役の神様と出会うことができた。しかも夢の中ではあるが、起きている時と変わらないくらい明瞭な意識を保っていた。


 そしてそんな俺の目の前には、銀髪ツインテールの髪をした白いワンピースの美少女が現れ、優しく俺に語りかけてきた。


『こっちの生活はもう慣れた?』


 慣れたかと聞かれると、全然慣れていない。今となっては前世の便利な生活が懐かしく思えてくる。


『まあ、あたしが記憶を保持させて転生させたんだし、せいぜい感謝してよね』


 そういう態度で接されても、感謝の念は湧いてきませんよ。もう少し言葉を選んで話を――――転生?


 そもそも、何故この女性は俺なんかに話しかけたのだろうか? 俺自身には彼女のような美少女の知り合いはいなかったはずだが……。それに彼女の身体からは言葉では表現しようのない神聖な雰囲気が感じ取れる。

 その異様な雰囲気を前に、俺はいつの間にか這いつくばった姿勢をとっていた。


「あの……キミは一体誰………なんだい?」


『ああ、自己紹介がまだだったわね。あたしはミネルヴァ、ローマ神話の女神よ。まあ、名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないかしら? とりあえずよろしくね、不破武親くん』


 なるほどミネルヴァさん、ローマ神話のねぇ。つまり彼女が今回の転生における説明役の神様というわけか…………ん?


 待て待て、時代背景とか今俺が暮らしている所を考えると随分とミスマッチじゃないのか?

 俺が暮らしているのは紛れもなく昔の日本。だから登場するなら、日本神話の、例えば最高神にして太陽神の天照大神とか、お稲荷様で有名な宇迦之御魂神とか、そのあたりが出てくるのが順当だろう。なぜローマ神話の女神が遥か遠い日本まで出張しにきているのだろうか?


 それに俺まだ自己紹介してないはずなのに、彼女は俺の名前をどこで教えてもらったんだろうか?


『アンタ、こう言いたいんでしょ? “なんで日本神話の神様じゃなくてローマ神話の神様なのか”とか“なんで自己紹介してないのに自分の名前を知っているのか”とか』


 これは驚いた。もしかして俺の思考はすべて彼女には筒抜けなのか? 


『でも安心して。あたしたちはアンタがどこで何してようと夢の中以外では一切干渉できないから』


「そっすか……」


『ちなみに、日本の神々は全員あたしの知り合いだけど、今彼らは色々事情があって忙しいみたいなの。だからあたしたちが代理で来たわけ』


 忙しい? 何かあったのだろうか?

 というか今この少女、サラリとすごいこと言わなかったか? ローマ神話の神様が、日本の神様と知り合い? え?


『ま、そのへんも含めてあたしたちから色々説明するわね。アンタだって転生したばかりで不安とか色々あるだろうし。……っとその前に、フレイア! 恥ずかしがってないで、出ておいで!』


 本題に入る前に、ミネルヴァは後ろにいる誰かを呼び出す。

 すると彼女の後方から、蒼髪のこれまた可愛らしい美少女が突然姿を現した。しかもミネルヴァとは違い、ずいぶんとおしとやかな雰囲気の女の子であった。

 ただ随分とオドオドした感じの女神であり、かなりの恥ずかしがり屋さんであることが窺える。


『ふ、フレイアです。あの……北欧神話でお馴染みの……』


 フレイア。北欧神話における万能地母神だ。彼女が司っているのは美、愛、豊饒、戦い、月に魔法、ついでに死。ずいぶんと守備範囲の広い女神だが、北欧神話やケルト神話では彼女並に万能な神は珍しくないから突っ込んではいけない。


 すると今度は、別の疑問が浮かんできた。

 ミネルヴァとフレイア、2人とも別々の神話の人物であるはずなのに、何故俺の夢の中に一緒になって現れているのだろうか?


『もしかして、“何故私たちが一緒にいるのか”が気になりますか……? それも含めてこれからご説明します………』


 とは言え、この2人にも何やら深い事情がありそうだ。 長話されるのはあまり好きじゃないが、ここは1つ自分の将来のためにも聴くとするか。


『まず、武親さんが転生したこの世界の名前は「ミズガルズ」。北欧神話でもお馴染みの人間が暮らす世界です。さらに武親が前世で暮らしていた世界と違い、「ミズガルズ」の人々は魔法を使うことができます』 


 本題に入って早速、オドオドしていたフレイアの顔が急に引き締まってマジメな表情に変わる。ここからは俺も真剣に聞かないとな。


 ――――『ミズガルズ』。フレイアの言った通り、北欧神話における“人間界”のことである。ミズガルズとは、古ノルド語で「中央の囲い」を意味するらしい。


 でも人間の俺に対して、この世界をわざわざ“ここは人間界ですよ”なんて紹介しているのだろうか? この疑問はミネルヴァが答えた。


『実は、この世界は「ミズガルズ」にあって「ミズガルズ」じゃないのよね』


 訳がわからないな。“人間界”だって説明しているのに“人間界”じゃないって意味わからん。

 そもそもミネルヴァさん、アンタローマ神話の神だろ? なんでそんなに北欧神話のことを詳しく答えられるんだ?


『厳密にいうとアンタが転生したのは本来『ミズガルズ』と呼ばれていた世界と融合した戦国時代の日本。年代は西暦1548年、年号でいうと天文17年ってとこね』


「ほうほう、ミズガルズと融合した戦国時代の日本ね……えええええ!?」


 ミネルヴァの突拍子もない世界観説明に俺は驚愕した。


「ちょっと待って。なんでそうなった? 戦国時代の日本と異世界が融合するって……ええっ!?」


『やはり、驚かれますよね……さすがに』


「そりゃそうだろ。日本と異世界が融合するなんて有り得ねえだろ! 普通に考えて!」


『そっ。普通に考えたら絶対に有り得ない異変よね。でも実際には起こっている。だからアンタが必要になったのよ』


「え? それはどういう……」


『……順を追って説明します』


 まさかそんな珍現象が現実に発生しているとでも言うのか? 

 確かに前世では21世紀の日本が異世界に転送されたなんてオンライン小説を何作品か読んだことがあるけど、今回のように過去の時代の日本が異世界に移されたなんて話はほとんど見かけたことなんかない。異常事態と言われば、まさにそうだ。


『異世界ミズガルズには世界と世界を繋ぐ世界樹「ユグドラシル」というものがあります。そしてその世界樹(ユグドラシル)に通常では起こり得ないレベルの変調が発生しました』


 またまた新しい単語が出てきたぞ。

 世界樹(ユグドラシル)。北欧神話には9つの世界があるとされており、世界樹はそれら9つの世界を繋ぐ大きな樹であるとされている。もし彼女たちの言う世界樹ユグドラシルが北欧神話のものと同一だとすれば、それは変調をきたしたってことは……。


 その時俺の脳裏に、ある恐ろしい仮説が打ち立てられた。


「あのさ、その世界樹(ユグドラシル)に変調があって「ミズガルズ」と戦国時代の日本とかが繋がったってことはさ、北欧神話で登場する他の8つの世界も一緒になって繋がっちゃった……のか?」


 俺は恐る恐る2人に尋ねた。


 ミズガルズ以外の北欧神話に登場する異世界としては、神々が住まう世界アースガルズとヴァナヘイム、エルフが住まう世界アールヴヘイム、巨人族が住まう世界ヨトゥンヘイム、小人の世界ニダヴェリールなどが挙げられる。

 もし俺の仮説が本当だとすれば、「ミズガルズ」以外の異世界に暮らすエルフやドワーフ、獣人、精霊、ドラゴン妖怪などといった人外の存在が戦国時代の日本にやってくることも考えられる。もちろん魔法などの技術も入ってくることだろう。


『ご名答。アンタの言った通りよ』


 ミネルヴァに褒められた瞬間、俺は世界が途方もなく広大に見えた。そもそも時代は戦国、世界どころか日本すら踏破することままならない状況だ。これにファンタジー世界が追加されるのだから、頭が痛いことこの上ない。


世界樹(ユグドラシル)に異常が発生して間もなく、私たち天界の神々は地域や神話間の隔たりを越えてこの現象を調査しました。その結果、世界樹ユグドラシルと繋がっている世界がすべて融合しているという結論に達しました』


『あたしとしてはこんな世界も悪くないと思ったけど、世界樹(ユグドラシル)の変調で出来た世界だってなら、そう言うわけにもいかないしね』


「……ここまで説明を聞かされてきたが、結局あんたらはなんのために俺をこの世界に転生させたんだ?」


『武親さんにやってもらいたいこと。それは……』


 次の瞬間、フレイアの口から予想だにしない依頼が言い渡された。



『あなたに、世界樹(ユグドラシル)の異常によって融合した全ての世界を、征服してもらいたいのです――』


 なるほどなるほど、融合した世界を全て征服ね……え? なんかこの女神、サラリととんでもないことを言わなかったか? 確かにここまでの会話でもトンデモ発言ばかり連発していたけど、今のはその中でも最大級と言っても過言ではないだろう。


「すいません、今の聞き間違い……ですよね?」


 俺は自分の耳に世界樹以上の変調が来ているのかと思い、フレイアに聞き返す。


『いいえ、本気です』


 しかしフレイアは、優しい笑顔でしっかりと返答した。


 待て待て、俺が世界征服? いやいや、人類史上最大の帝国を築いたモンゴル帝国や大英帝国ですら成し遂げられなかった偉業を、つい二週間前(?)まで一介の高校生にすぎなかったこの俺に成し遂げろって?

 無理無理、そんなの無理だ。なんの能力も持ち合わせていない俺に出来る道理がない。


 そもそもモンゴル帝国が大帝国に成長できたのは、主力である騎馬の機動力を生かせる草原地帯を最初に抑えたからであり、征服した国のいずれも国力が衰えていたところばかり。おまけに騎馬の機動力を生かせない日本やインドネシアの戦いでは負けている。


 それに対し戦国時代の日本においては、戦国大名の勢力はどこも拮抗しており、山がちな日本列島の地形も相まってキツイ峠越えを強いられるところが多い。

 それに戦国時代の日本の城は山城が主体。平野部に城郭を構えることが多い海外と違い、攻城兵器も展開しづらい。小田原城や石山本願寺などの堅城の存在も考えると、果たして俺が生きている間に世界征服どころか日本統一だってできるかどうか……。


 それほど困難な状況で、俺に世界征服を頼む理由って一体……?


「1つ訊きたい。なんで世界を征服する必要があるんだ?」


世界樹ユグドラシルの状態は9つの世界の状態と連動しています。世界樹ユグドラシルの異常は世界が乱れている証。つまり世界樹(ユグドラシル)を正常な状態と戻すには、何より世界の「秩序」が一定以上に保っていることが不可欠です』


『だからアンタ主導でこの乱れた世界に「秩序」を取り戻してほしいのよ。なんなら、アンタなりにもっと世界のためになる「秩序」についての考えがあるのなら、世界征服によってそれを広げるってのもアリね』


 とどのつまり、彼女たちは世界樹ユグドラシルを治すために世界の秩序を取り戻してほしいと考えているというわけか。だが、歴史とファンタジーに詳しいという以外は無能の俺に、そんなことができるのだろうか……?


『……別に、素のままのアンタにやらせるわけないじゃない。スキルぐらい、あたしたちがやるわよアンタに』


 ほっ、安心した。そうだよな、何の力無しにやらせるわきゃねえよな。俺は拍子抜けしたように高笑いした。


「で、俺に何の能力をくれるんだ?」


『……そんな目で見るなら、やっぱやんなーい』


「す、すすす、すみませんでしたミネルヴァ様!」


『ウソウソ、ちゃんとやるわよ』


 くそう、純粋な男心を弄びやがって。ミネルヴァさんも意地悪だな、くそう。女神の割に妙に俗っぽいし。


『では、お渡ししますね』


 2人から幾つかの能力を授けられた俺は、その後能力の説明を受け、彼女たちは夢の中から消えた。それからほどなく、俺もそのまま眠りに落ちたのだった。


 俺が授けられた能力? それは追々、必要に迫られた時に俺のほうから説明することになるだろう。

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