表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
28/68

26 茂別館の戦い その4 敗走

「うおおおおおおおおお! ブレンダ、覚悟おおおおおおおお!」


 俺は再びブレンダ目掛けて突撃を開始した。


「行かせん!」


 俺の目の前に王国軍兵士が再び大量に立ちはだかる。

 さっきは手こずった相手。が、味方の仇討ちに燃える俺の敵ではない。


「雑兵は……どけえええ!」


「ぬおっ……!」


 俺は刀で次々と敵を散らしていった。箒でゴミを払うように。最初は速すぎて捉らえきれていなかった獣人兵士の動きも、今は鮮明に見えている。


「うおおお!」


「来るか少年。哀れな」


 だがブレンダはその様子に狼狽えず、再び魔法の詠唱に入った。

 彼女の年齢は俺と同じか若干年上ぐらいだろう。だが歳の割りに結構戦慣れしているのか、随分と冷静な対応だ。


空間障壁(レーレ・シュッツ)


 ブレンダは防御魔法を発動させるが、俺は空中に展開された障壁の手前で一瞬足を止め、衝突を回避した。


「な……!?」


 てっきり一直線に突撃してくると思っていたのか、ブレンダは一瞬戸惑った様子。

 やはり魔法を発動してきたか。しかも今度は防御用の魔法らしい。危うく障壁とぶつかるところだったぜ。


 そして彼女の戸惑いは彼女自身の魔力にも影響があったようで、展開された魔法の盾に僅かに隙が出来た。


「スキあり!」


 俺は刀で障壁を叩き斬った。障壁は綺麗な白い破片を舞わせて、地面に消えていった。


「な……私の障壁を刀一本で強引に突破するとは……」


「余所見している場合か?」


「な!」


 俺はブレンダの腹に一振りの刀を浴びせた。


「きゃあああ!」


 ブレンダは軽装備な服を斬られて、地面にへたり込んだ。


――――――――――――――――――――――


 名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト


 HP  2754/6880


――――――――――――――――――――――



「くっ、敵に悲鳴を聞かせるなんて……」


「はっ!」


「うっ!」


 思ったより可愛い声だったな。が、聞き惚れている場合じゃない。まだだ! 俺は再び刀を持って追撃に入る。


――――――――――――――――――――


 名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト


 HP  1965/6880


――――――――――――――――――――


 だが今度は避けるタイミングを早めにとったのか、刀は掠るように命中。あまり大きなダメージをブレンダに与えられず、中途半端な一撃となる。


「さすが獣人だな……」


 人間である俺では獣人の素早い動きは予測がつきにくい。体のしなやかさでも負けている。だが、攻撃力はこっちが上だ!


 そうして俺が次の手を練っている瞬間、ここでブレンダが反撃した。


神速の爪(ラザンツ・ナーゲル)


「ぐほっ!」


 目にも止まらぬスピードで、俺の甲冑が削りとられていった。再度、豪快な爪痕が刻まれていく。

 なんだ今の攻撃は……? 速すぎて目で追えなかったぞ?  


――――――――――――――――――


 名前 不破武親


 HP 9853/20420


――――――――――――――――――


「なんて威力だ……」


 俺は自分の甲冑の傷に、あろうことか見入ってしまっていた。ジンジンと痛みが体に伝わっている筈なのに、その痛みすらも感動に変わっていた。

 しかしブレンダは、そんな俺に息つく暇を与えない。


疾走する刃ラーゼン・シュナイデン


「ぐわ!」


荒れ狂う大嵐ヴィルト・シュトゥルム


「がはっ!」


 超音速でこちらに迫る巨大な魔法の白刃。猛烈な風と上昇気流で、周囲の死体や武器などを吸い上げながら押し寄せる何本もの太い竜巻。速さと風を生かした技の数々が繰り出される。


 なんて強力な攻撃魔法のラッシュなんだ……。だが、そろそろブレンダのMPも限界のはずだ。こんなに撃って彼女の体や精神が保つはずが無い。


―――――――――――――――――――


 名前 ブレンダ・ラーゲルクヴィスト


 MP 132/2049


―――――――――――――――――――


 彼女のMPは残りわずか。もう間もなく、激しいこのラッシュも終わりを迎える。今はひたすら防御して、MPが尽きるまで耐え抜くほかないようだな。

 しかしブレンダも自分の限界を察したのか、ここで麾下の獣人部隊に命令を下した。


「全員、一斉に掛かれ」


「おう!」


 俺とブレンダが壮絶な一騎打ちを行っていたことで、一時的に観客と化していた周囲の敵兵たち。けどブレンダの号令が、もう一度彼らを動かした。

 そして部隊長だけに戦わせられないとばかりに、一斉に俺に襲いかかる。


「はあ!」


「ごっ!」


 敵の投げ槍がレーザーのように俺の体を貫かんばかりに俺の甲冑に刺さる。心臓は免れたが、脇腹からさらに激しく出血する。


――――――――――――――


 名前 不破武親


 HP 4011/18420


――――――――――――――


「これ以上は危険か……」


 残りHPは4分の1を下回っている。1対1ならまだやれる範囲だが、ここは既に大量の王国軍兵に包囲されている。

 今、茂別館周辺に味方の兵と呼べる存在は父と兄のみ。その茂別館も王国軍に占領されてしまった頃合いだろう。撤退のために血路を開くには、これ以上のダメージは喰らってはいけない。


「むふっ……」


 背中も矢が既に沢山刺さっているし、ここはもう逃げるしかない。命が無くなったら、それでこそ逆転出来ない。俺は苦渋の決断を下した。


「何だ……? こっちを向いているぞ……?」


 ブレンダの首を諦め、俺はここでついに撤退を開始。

 さっきの計略地点に当たる後ろの森まで一直線に駆け抜けながら、妨害する獣人兵の防御を最後の力を振り絞って散々に打ち破る。


「――どけどけどけどけどけどけっ……!」


「まだ、こんな力が残っていたとは……」


 いや、今の俺は気力だけで押している。相手の将を倒せなくって、それに大事な兵を全員死なせてしまって、悔しさをぶつけているだけさ。

 俺は目に涙を浮かべながら、必死に森を目指した。


 もうすぐでこの死地を脱出できる。ブレンダを仕留めることは出来なかったが、王国軍の戦力を減らすことは出来た。兵を半ば見殺しにしたのは、残念だったけどな……。


 ふと茂別館のほうを窺うと、王国の軍旗らしきものが屋根から上がっていた。

どうやら王国軍は空城の計には引っかからなかったようだ。こちらの兵力の低さが見透かされているのか? それとも、単純に圧倒的な戦力に自信を持って、伏兵を警戒する必要もなかっただけなのか……。


 だがどちらにせよ、今の俺には茂別館を奪還する力は無い。俺は再起のチャンスが来る時を信じて森の中に潜伏した。



 ■■■■■




 茂別館を後にした俺は、先に撤退した一族の元へ険しい山道の中、ひたすら歩を進める。


 本当は茂別館のすぐそこを流れる茂辺地川を渡りたいところだ。だが対岸の狭い平野部には、家の隙間を縫うように王国軍兵士のテントが夥しく張られている。


 1人で襲撃するのは可能だが、万が一ブレンダみたいな強力な指揮官や獣人兵のような屈強な兵士がいたら、今度こそ命を落としかねない。これ以上のギャンブルは失敗するのは目に見えている。


――――――――――――


 名前 不破武親


 HP 3813/18420


――――――――――――


 俺は道中、ステータス確認と『瞬時兵力検索(セコンドサーチ)』を使って戦況を確かめる。


 大分手傷を負ったな。無茶し過ぎたか。だが、王国軍の兵力も3000人減って13000人。むしろ約500人の寡兵にしてはよく戦ったほうではないだろうか。でも、相手の勢いは恐らく止まらないだろうな……。


 俺は傷の痛みを堪えながら、王国軍がいない茂辺地川の上流まで登っていった。



 ■■■■■



 撤退開始から一刻(2時間)後。

 長い道のりを経て、俺はようやく先に山奥に避難していた一家の元にたどり着いた。皆一様に俺の姿を見た瞬間、嬉しさ半分、心配半分の表情を浮かべた。


「……よく、戻ってこられたな」


「……はい」


 長兄の広治が一番先に声をかけてきた。


「敵の勢力を弱めることは出来たのか?」


「なんとか……」


 続いて次兄の季治に成果を尋ねられた。


「五郎! 全身に矢が刺さっているではないか! よく生きて逃げてこれたな。それに、その顔の焦げ痕のようなものは何だ?」


「焦げ痕……ですか?」


 三番目の兄の光益に指摘され、俺は気になって頬を触った。すると、顔から炭となった薄い皮がポロッと地面に落ちた。


「いてっ……」


 そして皮が剥がれ落ちた箇所が痛み出す。これはきっと、ブレンダの『灼熱嵐グルート・シュトゥルム』による熱風を浴びたせいだな。

 それ以外にも甲冑には深い爪痕。刀は全てヒビが縦横無尽に広がり、もはや使い物にならない。

 

 だが俺のことはどうでもいい。俺は皆に謝らなければならないことがあるんだ。


「それより父上、すみません。兵を、貴重な兵を……1人残らず全員死なせてしまいました……」


 兵力があまりに足りてなかったとは言え、勢い任せに杜撰な指揮をしてしまった。あまつさえ、1人残らず戦死させてしまったことは詫びなければならない。

 兵の中には父が美濃にいた頃から仕えていた家来も大勢いる。その大切な人たちも俺はみすみす死なせてしまったからな……。


 せっかくたえから信広公のお守りも貰ったというのに、なんと情けないことか。


「すみません……すみません……!」


 俺は一族の代表たる父に対して謝罪した。しかし父は怒らなかった。


「良い……良く頑張った……」


「でも俺は……」


「全滅は予想するに易いことに御座った。家来衆も、武士として一世一代の大戦で華々しく散ることができて本望で御座ったことじゃろう。ワシこそ年少のお前を置いて逃げてしまい、申し訳のう御座る」


 反対に父も俺に向かって謝罪した。普段は長兄の広治にも頭を下げない父がこの時ばかりは平身低頭であった。


「父上……」


「立派でしたよ、五郎……」


「母上……」


 さらに母は俺を慰めるように、そっと抱き締めた。母親らしい包容が俺の心を温める。


「五郎様、それがしが手当を致しまする」


「ささ、こちらで安静にしてくだされ」


 俺は一家とともに山に逃れていた数人の家来に介抱され、その場で応急手当を受けることにした。


「先頃、伝令があった。志苔館(しのりだて)与倉前館(よくらまえだて)、そして宇須岸館(うすけしだて)(いずれも現・北海道函館市)も陥落したそうだ。防衛に当たっていた将兵は皆捕縛されたらしい」


「そう、ですか……」


 最後に一番下の兄、家政が他方面の戦況報告に入った。事態は早くも深刻な状況であった。

 さっき伝令があったということは、志苔館など3つの館が陥落したのは今日のことであったようだ。茂別館と志苔館は走れば2~3時間あれば到着するから、妨害さえ受けていなければこの推測に間違いはないだろう。

 となれば、蝦夷地を襲う王国軍は茂別館で戦った第1師団以外にもいたということになる。


 つまり、こっちの兵力は1000に満たない中、向こうは少なくとも2万は超えているってことじゃないか。

 しかも今回、向こうの兵や武器は数も質も蠣崎軍こちらより完全に上。さらに強力な攻撃魔法まで使用可能とか反則過ぎるだろ……。


 王国軍の攻勢により、蠣崎家は志苔館から茂別館に至る領地を失陥。蠣崎軍は窮地に陥っていた。


「皆の者。ここで暗い顔してもどうしようも御座らん。ワシらはとにかく勝山館を目指して、落ち延びるしかない」


 さしあたって目標は勝山館か。

 だが徳山館や脇本館のある海岸線沿いを進んでは王国軍の襲撃を受ける可能性がある。ならば、緑生い茂る深い山々を渡っていくしか道はなさそうだ。


「しかし父上。勝山館を目指すにしても、どこで休息をとるべきなのでしょうか?」


 至極当然の疑問が広治から上がる。

 確かに今、俺たちの手元に食糧は殆ど無い。険しい山岳越えを想定するなら、栄養補給は必要だ。


「まずは一旦、中野館(現・北海道上磯郡木古内町)を目指す」


「中野館、ですか?」


「左様。あそこは海岸よりも奥まった場所に御座る。敵も中野館まで攻め入るには時間がかかろう」


 それはどうだろうか? 王国軍は機動力でも蠣崎軍を上回っている。今頃は蹂躙されているものと考えたほうが戦況にも合致していると思うが。


「父上。茂別館から逃れた民は皆、梅漬峠うめづけとうげを越えて厚沢部あっさぶ(現・北海道檜山郡厚沢部町)を目指しておりまする。我らも厚沢部に向かうべきでは?」


 そういえば、さっきからときやたえなどの茂別の民の姿が見えないと思っていたら、皆、峠を越えて北に逃げていたのか。


 梅漬峠は武田信広がコシャマインを討ちに行った際に通ったとされる歴史ある峠。ちょうど茂別館の裏手にある峠道ということもあり、逃げ道にはうってつけなのだろう。ときとたえも無事に厚沢部に逃げ延びているといいのだが……。


「それでは遠回りになってしまうじゃろう。敵には船が数多く御座る。さらに茂別館から覗いた限りでは、敵の船はずいぶん速く進んだり回ったりすることができるようじゃ。左様な船を用いるならば、徳山館の城下を通らずに上ノ国や江差、厚沢部に回って攻めてくることも考えうる」


「それは、考えすぎなのでは……?」


「いや、茂別には五郎、松前には新三郎様や藤六殿がおられるが、ほかの館には武勇に優れた者は御座らん。他の館の守りなど当てにならんじゃろう。ましてや厚沢部や江差の館はとうの昔になくなっておる。もしかの地で敵の妨害を受けたらなんとする?」


「それは……」 


「ならばなおのこと、勝山館に一刻も早くたどり着いて籠城の支度を整えたほうがよい。そのためにも近道となる中野館を目指すのじゃ。では皆の者、参るぞ」


「御意!」


 厚沢部や江差にはもう館はない、か。

史実では半世紀前まで厚沢部には豪族である江口氏の館、厚沢部館があり、江差には季広の叔父にあたる蠣崎高広かきざき・たかひろの居館として使われた泊館とまりだてが存在した。どうやら茂別館などと違い、再建はされなかったようだ。


「と、その前に五郎の手当のほうが先じゃの。どうじゃ? 傷の具合は」


「自力で歩くのは危のうございまする。それがしが負ぶっていきますゆえ、早く中野館に向かいましょう」


「左様か……。五郎、もう少しだけ頑張るのじゃ! もう少しすればゆっくり休めるからのう」


 俺は家来の一人におんぶされながら、一族とともに中野館から勝山館を目指して進み始めるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ