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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
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24 茂別館の戦い その2 駆け引き

 俺は父上のもとに戻り、敵の戦力についてに伝えた。もちろんドワーフやエルフ、さらに魔女や攻撃魔法の存在もかいつまんで説明した。だが普通の戦国武将からすれば荒唐無稽にも思えるその内容に、全員が半信半疑といった顔を示していた。


「俄には信じられんな……。敵が妖術を使って攻撃を仕掛けてくるなどとは」

.

「兄上……信じてくれないんですか?」


 俺の4番目の兄、不破家政(ふわ・いえまさ)が訝しげな目で俺を見る。


「五郎。この危急存亡の時に嘘はいけませんよ」


「母上まで……」


 母のお凛ですら、まるで俺の話を信用していなかった。

 断っておくが、俺は嘘偽りの類は全く言ってない。だがやはり魔法などの現象があまりに現実的でないために、結局は俺が母や兄たちから説教を喰らうばかりであった。


 だがそんな中、父だけは俺の報告を信用してくれた。


「何を申すか、皆の者。せっかく五郎が身を挺して得た情報に御座ろう。ワシは信じる」


「父上……」


「父上、ありがとうございます!」


 やっぱり父は頼りになる。まだ耄碌してない慧眼、賞賛に値するぜ。


「じゃがそうなると、館を出て迎撃することは適わぬか」


「土塁の外で敵部隊に攻撃を仕掛けようものなら、全滅は必死かと」


 だが、父が魔法や異種族の存在を信用してくれたからといって戦況が良くなるわけでもない。むしろ突破口が次々と閉じていく様を実感するのみである。


「仕方ない。五郎、四郎とともに弓兵を率いよ。お前は副将として疑り深い四郎を補佐してくれい。幸い、五郎が戦っている隙に避難している領民から300人ほど兵を徴集することができた。少しは戦の足しになるじゃろう」


「了解です」


 この状況を打破するには、結局のところ適度に迎撃して敵の数を少しでも減らしていくしかない。そして敵の数を一番多く減らせる可能性があるのは、他でもないこの俺。つまりこの任、俺が引き受けずして成功することは有り得ない。


 俺は四郎こと、兄の家政とともに弓の準備を整え、300人の兵士たちと土塁の上に駆け上がった。



 ■■■■■



「……五郎。疑念を持ってすまなかった」


 家政は謝った。二の丸にあたる小館から眼前の奇っ怪な敵軍を見た途端、彼は直ちに意見を翻した。


「……でも、誰だって一目でこの状況を信じられる人なんていませんよ」


 俺は異世界人に関する知識を予め前世で獲得出来ていたから、なんとか状況を飲み込める。けど一族の他の人間にはそんな情報源など一切ない。だから半信半疑だったのも頷ける。


 とはいえ、王国軍に圧倒されている時間が既に勿体ない。一時は俺の迎撃を受けて進軍が止まっていた王国軍であったが、兄が弓兵を展開し始めた頃には再び茂別館に向けて突撃を始めた。

 ここは、敵が門や土塁に到達する前に主戦部隊を叩くとしよう。


「もう時間はありません。早く御命令を」


「ああ」


 そして家政は刀を上げて号令した。


「皆の者! こちらも矢の雨を降らせるのだ!」


「御意!」


 一斉に矢を発射させる家政隊の兵士たち。俺も矢を一気に5本ずつ引いて、素早く敵の前衛を崩しにかかる。


「ぐわああ!」


「くっ、なんと苛烈な攻撃よ……」


 常に全滅の恐怖を背に、気息奄々の茂別館の将兵。自らの全力を振り絞って反撃に当たる。


「怯むな! 敵は少数! 数で押していけば勝てる!」


 しかし王国軍側も退かない。数的優勢を武器に、力ずくで茂別館の土塁を破壊しにいく。特にドワーフの兵士のハンマーは強力で小館の土塁の半分が削られていた。

 そして後ろからは、エルフと魔女たちが攻撃魔法を繰り出そうと、呪文を唱えているように見える。


「ヤバい……! 兄上!」


「分かっている! 皆の者、敵は妖しげな術を使おうとしているぞ!」


「え……な……なんだ、あれはぁ!」


 気づくのが遅くなったのか、何人もの兵が王国軍の攻撃魔法に飲み込まれ死んでいく。


「くそ、負けて……たまるかよ!」


 俺は倒れていく味方の分も含め、ひたすら弓を引いた。



 ■■■■■



「……し、死ぬかと思った……」


 半刻(約1時間)は経ったのだろうか。家政隊は王国軍の兵を500人近くも撃破。王国軍もこれ以上の犠牲は危険と判断したらしく、一度撤退したようだ。


「でもこの調子では、最後まで持たぬぞ……」


 けど、俺たちとて無傷では済まなかった。小館の土塁はそのほとんどが消滅し、小館は陥落。俺たちは途中から大館に避難して、迎撃を続けた。

 理由はドワーフの巨大なハンマーから繰り出される強力な打撃であった。そして土塁の崩壊によって味方の兵が15人ほど転落。いずれも落ちた衝撃か、もしくは王国軍の攻撃の餌食となって死んだ。


 それにエルフと魔女による遠方からの攻撃も家政隊の兵を消耗させ、300人いた家政隊はおよそ30人まで減少してしまった。残った者も皆体力を著しく減耗させている。


 小館に身を寄せていた避難民は俺たちが防戦している隙に大半が大館に急いで移ったが、王国軍の攻撃や避難時の将棋倒しのせいもあって100人近くが死亡。

 ときとたえは無事のようであったが、それでも茂別の民の多くが死んでしまうという悲惨な事態となってしまった。


 さらに茂別の民の中には、王国軍兵士によって彼らの陣にさらわれる者も相次いだ。助けたいのはやまやまだが、この大軍が相手ではそれもままならなかった。


「なんで俺が絡む戦って、こうも味方が不利になりやすいんだ……?」


 休息のために、一旦茂別館に戻った家政隊。その様子に、母を始め他の皆が心配をかける。


「四郎。これはどういうことなのですか?」


「ボロボロではないか、2人とも。それに兵の数がやけに少ないのではあるまいか?」


「五郎の申したことは、真であった……」


 家政は一番上の兄の広治に抱えられ、気を失った。

 家政隊の将兵は俺を含めて全員、鎧に王国軍の矢が刺さっていた。それに加え、攻撃魔法のせいで鎧の所々が欠けている状態だ。


 茂別館周辺には矢不来という地名があるが、この戦をキッカケに「矢不来」から「矢来」に地名を変更してもよいのではないかとさえ思った。


「むむ、しかしこのままでは陥落してしまう事態に……」


「真っ当に戦っては、ジリ貧は確実ですね……」 


 前線ではドワーフたちのハンマーや大剣が繰り出され、後方からはエルフや魔女たちによる魔法や矢が遥か遠くからも発射される。敵兵の身体能力もさることながら、武器の性能も蠣崎軍のそれとは格段に違う。

 数、兵士の能力、武器の性能、すべてにおいて蠣崎軍が完全に劣っていた。


「かくなる上は、乾坤一擲で敵将の首級を討つよりほかありませぬ。でなければ、降伏、逃亡、玉砕、それか自害……」


 このような極限の状態で俺たちがとれる手段は限られていた。しかも、16000もの兵を率いる人物が最前線に立っているとは考えにくく、敵の司令官を討つのは絶望的であった。

 つまり、事実上俺たちには敗北以外の選択肢は残されていなかった。 


「ふむ、三郎の申す通りそれしか有り得ぬか……。ただ、自害は考えなくてもよい」


「何故です? 父上」


「順を追って説明する。良く聴いておれ」


 自害する必要は無い、か。一体、父はどのような考えをお持ちなのだろうか?


「これよりワシらは奇襲作戦を決行する。されど館内の兵はあまりに少ない。よって、まずは奇襲の際、館の兵は全て奇襲部隊に組み込む」


「へ?」


「それでは、館が空からになってしまいまする」


「構わん。どのみちこの状況では守備兵が10人いようと200人いようと、意味など御座らん」


 父上の言う通り、現状を考えると、下手に兵を中途半端に出すより全軍を挙げて出撃したほうが良い気がする。だがそうなると、茂別館を守る人間が誰もいなくなってしまう。果たして父は空っぽの茂別館をどうする気なのか?


「これは空城の計じゃ」


 空城の計。

 城をわざと空にして、居るはずのない伏兵の存在を相手に警戒させる計略だ。用心深い指揮官ほど掛かりやすい計略でもある。


「確かに、今は敵も予想以上の被害を出して、こちらの戦力を注視している。もし出撃して攪乱に成功すれば……」


「敵の足が、鈍る……」


「さよう。万が一見破られたら、その時は全力で山に逃げれば良い。勝山館を目指してのう」


 と言うことは、奇襲部隊以外は茂別館を捨ててサッサと山に身を隠す手筈なんだな。もう、館は保たないと判断しての苦しい決断ともとれるが。

 だが、館内の蠣崎軍は残り200。対して王国軍は15000。普通なら戦おうとせずにサッサと降伏すべき状況だから仕方ない。


「奇襲部隊が出撃を始め次第、大館に避難しておる民はただちに山に逃がす。もし空城の計が見破られたとき、敵兵の餌食になって殺されてしまうのは忍びないからのう」


 この茂別館には、父上を慕って籠城する人間が多く存在する。だが敗北した時、真っ先に犠牲になるのは彼らである。実際、小館が陥落した際に犠牲者が多数出たばかり。

 一見穏やかに話す父の顔と声からは、自分の策のせいで民の命が犠牲になるのを見たくないという父の気持ちがヒシヒシと伝わってきた。


 だが問題は、「誰が奇襲部隊を率いるか」だ。


「そこでだ五郎。続けて仕事をさせるのは本望では御座らんが、奇襲部隊は五郎が率いよ」


「……俺ですか?」


 え……俺が直接部隊を率いるのか?

 確かにこの状況で前線に立って戦える人間はごく限られている。だが、俺は副将として他の武将の補佐をしたことはあっても、直接部隊の兵士に指示を出したことはない。

 ましてや今回は、200対15000という絶望的な状況をひっくり返すという重責を背負っている。負ければ蠣崎領の東半分を失いかねない大切な局面、果たして俺なんかが任されてよいものだろうか……?


「申し訳ないですが、俺には……」


「五郎はワシの子の中で一番、ワシがやろうとしておる事を理解しておる。適任と存ずるが」


 ううん、どうしても俺にやれと言うのか。俺は4人の兄たちにアイコンタクトを送るが、4人とも一様に下を向く。

 ここは、覚悟を決めて引き受けるしかないようだ。


「……わかりました。俺が全力を以て、任に当たります」


 俺は支度を整え、奇襲に備えた。

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