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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
23/68

21 「異世界日本」

 パトロヌス暦10021年9月20日、ミュルクヴィズラント王国首都クヌーテボリ。


 ミュルクヴィズラント王国はアイオニオン大陸西部に位置する総面積約110万平方kmの絶対君主制国家である。その首都クヌーテボリは人口50万人を要する大陸有数の大都市であり、世界中から交易品が集まる一大商業都市であった。


 この日クヌーテボリ宮殿で開かれた議会には王侯貴族が400人以上出席し、モルテン・フルホルメン大佐が発見した新しい島の報告と、かの島に暮らす者への対応方針が話し合われていた。


「ーーかの島は面積が広く、自然も豊か。さらに現地に暮らす民の顔立ちや服は既知のどの民族とも異なります。さらにその島の位置は、本来オモルフィア大陸があった場所に相当します。しかしながら、今回の航海ではその島の南北にもそれぞれ向かいましたが、どちらもオモルフィア大陸のどの国のものにも当てはまらない文化が栄えておりました。オモルフィア大陸とはここ20年以上、交流が途絶えております。これは、クヌーテボリ司教がお受けになった神託オラクルにある『異世界』が出現したということではないでしょうか?」


 未知の異世界の出現を示唆するフルホルメン大佐の報告に議会は一気に騒然となった。


「フルホルメン大佐! 戯れ言はよして頂きたい!」


「確かに我々は数十年前に異世界『アールヴヘイム』を発見し、今ではそこの民の一部も我が王国の民となっている。しかし司教の神託オラクルがあるとはいえ、2つ以上の異世界がミズガルズと融合したという事実はやはり信じられん」


「それにオモルフィア大陸が本当に消えたなどという確かな証拠もない。それとも、かの大陸でも決して見かけることのない何かを発見したとでも仰るのか?」


「戯れ言など一言も申しておりません。そもそも、我らはオモルフィ大陸東部のイースト・オモルフィア王国を征服するために兵を連れて航海に出ました。かの国も我が国とは衣服や建物、食文化の様式など差異はありますが、さすがにかの国の民がこのような服を着ているとは思えませんな」


 そう言ってフルホルメン大佐が提出したのは、松前の和人商人から強引に取り寄せた羽織とアイヌから取り寄せたアットゥシであった。

 見たこともない2種類の衣服を前に、議場は再び貴族たちのどよめきに包まれた。


「な、なんなのだ、この短い丈の服は……。大佐が発見したという島の人間は、このような者を着ておるのか?」


「それにもう一つの服……このまがまがしい紋様、確かにオモルフィア大陸のどの国や民族にもない独特なものですな……」


 現地の民の衣服という確たる証拠を提出したことで、大佐の新天地発見は概ね本物であることが議会で認められた。


「……それで、大佐がその島を攻めなかったのは何故なのじゃ?」


 その質問を投げかけたのは、議場奥の玉座に威風堂々と腰掛けるミュルクヴィズラント王国第18代国王、ヨアキム1世であった。


「イースト・オモルフィアは小国。交流が途絶する前のかの国は内乱が続いており、大陸最強の名をほしいままにする我が軍の兵であれば、3000もあれば余裕で征服出来たことでしょう。しかし実際に出現したのは、未知の島の未知の民。私は彼らの実力を図るため、かの島を治めているカキザキという一族に数ヵ条に及ぶ要求を突きつけました」


「なるほど。もし要求に屈するようなら、兵をさほど使わずとも征服は可能と考えたわけじゃな」


「ですが、彼らは要求を突き返しました。つまり3000の兵に怯むような小国ではない、征服するならもっと多くの兵が必要だと考え、私は引き返しました」


 以前存在したオモルフィア大陸までは、最新の技術を搭載した王国軍の船でも2週間はかかる距離にある。そのような遠方に3000の兵を送り込むだけでも相当な物資が必要となる。

 さらにそれを遥かに上回る大軍を派遣するとなれば、王国側の負担はかなり大きな負担が予想された。


 だが、中途半端に兵を送ってもいたずらに兵の命を捨てに行くだけ。ヨアキム1世は悩んだ末にフルホルメン大佐にこう切り出した。


「3000の兵では足りぬ、か。ならば1万ではどうじゃろうか?」


 3倍の兵力を提示したヨアキム1世。しかし大佐は首を横に振った。


「まだ足りませぬな。5万は必要でしょう」


「ご、5万だと……」


 フルホルメン大佐が提示した5万という数字に、議会に参加している貴族からは疑問の声が投げ掛けられた。

 特に宰相を務めるルートヴィク・エルランド・ユングリングは、大佐が敵の兵力を過大評価しているのではないかと訝しんだ。


「大佐、そこまでの大軍が必要な相手なのですかな?」


「単に戦って服従させるなら1万もあれば足りるでしょう。しかし、もしかの島が本当に異世界の地だとすれば、我らはかの地の民にとって招かれざる大敵。占領したところで、周囲の勢力が連合して我らを追い出しにかかれば苦戦は免れません。ならば、大軍を以て我らが世界『ミズガルズ』の威容を示し、領土を一挙に拡大することが得策だと考えました」


「大佐の意見ごもっとも。我が王国の最終目標は『世界征服』、遠く離れた地で版図を拡げるなら足がかりとなる地は広ければ広いほど良い。しかし、5万もの大軍を遠い島に送るとなれば、兵站を相当強化せねばなりませぬ。我が軍は占領地での略奪を禁じている故、なお さらですな。大佐には何か考えがおありなのですかな?」


 素人は戦略を語り、玄人は兵站を語る。玄人の軍人であるフルホルメン大佐であれば、兵站を確保する方法を考えているはずだと思った宰相は、大佐に意見を求めた。


「宰相閣下、お戯れを。兵站確保の手段ならもう既にあるではありませんか。軍艦ですよ」


 この頃ミュルクヴィズラント王国では、アイオニオン大陸の他の国に先んじて大型軍艦の製造に取り組んでいた。というのも、制海権を確保して円滑な交易と遠方での征服活動を優位に進めるためにも、軍艦の存在がなによりも欠かせないと判断されたからである。

 特にオモルフィア大陸は王国から数千キロ西に離れた場所にあり、長期補給できる軍艦が戦の鍵を握るとされていた。


「もともと軍艦はオモルフィア大陸を征服するために建造されたもの。アレならば大量の物資を遠くの地に運ぶことも容易でしょう。既に南方平定において活躍したという実績もありますからな」


「……確かに10年前に征服計画が始動して以来、軍艦の数は着々と増えており、今や1300隻に達しています。しかし我が軍の軍艦は、大半が定員30名から50名の小型。つまり、5万の大軍を派遣すればほぼ全ての軍艦を使い切ることになります。そうなれば王国領沿岸の海上防衛を行う者がいなくなりますぞ」


「ならば、我が軍が島を攻めている間、沿岸の警備は人魚族に任せれば良いのではありませんかな? 彼らはシドラン王国征服の際、我が軍に協力を惜しみませんでした。シドラン王国はかつて人魚族を虐げたことで悪名を轟かせており、それを滅ぼした我が国は人魚族にとってまさに英雄。忠誠心の高さからも信頼は置けるかと」


 人魚族はアイオニオン大陸西部から南部の海域に暮らす亜人であり、海底には彼らの国がいくつも存在した。しかしシドラン王国はパトロヌス歴9700年頃から人魚族の一部を調略して海中に進出し、人魚族の奴隷化に成功。

 人魚族の大量虐殺を敢行し、海底の国家を消し去ることで交易の安定化を図ろうと画策した。

 

 当然ながら人魚族の大半は強い反発心を抱き、幾度となくシドラン王国への反乱が繰り広げられたが尽く鎮圧。

 しかし、ミュルクヴィズラント王国の南方進出によってシドラン王国の軍勢が駆逐されると、人魚族のほとんどはミュルクヴィズラント王国に寝返った。さらにミュルクヴィズラント製の新兵器の供出を受けたことにより、海洋の制圧に成功。

 海上封鎖により物資が行き届かなくなったシドラン王国はついに滅亡を迎えたのであった。


 さらに戦後、人魚族の保護と高度な自治を認めたことから、人魚族はミュルクヴィズラント王国に対し忠誠心を固く誓っていた。 


「人魚族の活躍、朕も聞き及んでおる。そもそも近隣諸国には軍艦と呼べるほどの大型で頑丈な船はまだ存在してないと聞く。人魚族には、中型船までならば容易に沈めることができるだけの魔力を持った者が多い。遠征の間、我が国の海を守れるだけの力は十分にあるじゃろう」

「御理解頂き、ありがとうございます」


「よし、朕の心は決まった。我が国はこれより異世界の島を征服する! ただちに遠征の支度を整え、5万の兵と1300隻の軍艦で攻め入るのだ!」


「「「「「「はっ!」」」」」」


 こうして、ヨアキム1世の号令のもと、ミュルクヴィズラント王国軍は異世界征服に向けて大きく舵を切ることになった。

 一方で、大軍での遠征を強く主張したフルホルメン大佐には、ヨアキム1世とは別の意図を以て遠征に臨もうとしていたーー



 ■■■■■



「モルテン。今日の王国議会での活躍、見事であった」


「ありがとうございます。これで、我らエルフ族の野望に一歩近づきましたな」


 クヌーテボリ近郊、王国軍第4師団の本営。

 その師団長室において、議会から戻ったフルホルメン大佐は、第4師団の師団長を務める長身の白髪のエルフ、アクセル・スヴェンセン少将に会議の内容について報告していた。


 そして2人は、蝦夷地の遠征を自分たちの企みに利用しようと目論んでいた。


「もし今回の遠征が目論見通り成功すれば、王国の領土は一挙に広がる。そうなれば王国は、議会で大軍遠征を主張したモルテンに爵位と領地を授けることになるだろう。その時、征服した土地の一部を頂ければ……」


「それを足がかりに、『エルフだけの国』を創ることも可能ということですな」

 

 「エルフだけの国」。そう、彼ら2人は密かにミュルクヴィズラント王国からの独立を画策していた。


 というのも、エルフはミズガルズにおいて千年以上に渡り差別や迫害を受けていた種族であった。

 古代にはその美しい顔立ちと長い耳という神秘的な容姿から、神として崇拝されていた。しかしパトロヌス暦9000年代に入ると、アイオニオン大陸で一神教が勃興。それによりエルフたちは「神の名を騙る白い悪魔」として迫害され、多くのエルフが虐殺や奴隷化などの憂き目に遭うことになった。

 アイオニオン大陸におけるエルフ主体の国家も、パトロヌス暦9166年のフォルストガルト伯国が滅亡して以来現れていない。


 その後、多神教であるパトロヌス教がミズガルズに広まるとエルフたちの迫害や差別は徐々に減っていた。しかしエルフは1000年を越える寿命を持つ種族。迫害が始まる前の暮らしと迫害が始まってからの暮らしを知っている者も多い。


 さらに迫害を受けたエルフの子孫も1000年の間に数多く生まれており、両親や祖父から他の種族に対する偏った見方を植付けられたエルフも珍しくない。

 それはフルホルメン大佐とスウ゛ェンセン少将も同じであった。


「……長かったな。エルフの同志が数多住まうヴァルタメリ公国が滅亡して以来、アイオニオン大陸からエルフの国は完全に無くなってしまった。ミュルクヴィズラントは多種族共生を掲げ、エルフの暮らしぶりも他の国よりは良いものであったが、それでもエルフ関連の法案は議会でも通らないことが大半。我らはエルフ族だけの国作りを求めて日々奮闘していた」


「へスト地方東部にはエルフ族の自治区もありますが、やはり王国の枠組みの中でできることは限られている。だが、それもここまで。新しい島に建てられた新しいエルフの国は、『ミズガルズ』や『アールヴヘイム』での忌まわしき過去やしがらみから解放されたエルフの楽園となりましょう」


「島の先住民には悪いが、我らエルフのため、彼らには島から出ていってもらおう」


 島民追放を固く誓う2人。そして少将と大佐の間には、同じ師団に所属する軍人という以外にも深い関係があった。


「それはともかく……モルテン、先日の議会での君の活躍を労いたい。私とともにデートに行かないか?」


「喜んで。ここ最近は遠征活動続きでしばらくあなたにも会えず、寂しい思いばかりをしていました。今晩はたっぷりと愛し合いましょう」


 スヴェンセン少将は男性、フルホルメン大佐も男性。そう、2人は同性の恋人であった。


「モルテン、愛しているぞ」


「アクセル閣下、私もです」


 スヴェンセン少将とフルホルメン大佐は接吻を交わし、それぞれ持ち場へと戻っていった。

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