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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第3章 対ミュルクヴィズラント戦争(第一次永禄の役)
21/68

19 織田信長、桶狭間にて死す?

第3章、開始。

 1560年(永禄3年)12月、松前。

 コタンシヤムの戦いの後、勝山館周辺の復興に追われる俺たちにとんでもない知らせが伝わった。

 それは『織田信長戦死の報』である。 


「織田信長が……桶狭間で戦死したか」


「ああ、そのようだな」


 前世では戦国一の英傑として広く知られ、天下統一目前まで迫っていたかの織田信長が死んだ。

 史実通り、織田軍は雨の中、今川軍の本隊と偶然遭遇し戦闘状態に入ったという。しかし史実と違い、今川軍本隊は織田軍をあっさりと撃破。信長も乱戦の中で討ち取られたという。

 この時点での信長は『尾張の大うつけ』であり、大うつけのまま死んだ彼のことを蝦夷地で注目している人は殆どいなかった。しかしこのことは、今後戦国時代の日本の行く末に多大な影響を及ぼすことになるだろう。


「話によれば、今川軍は尾張を蹂躙しているそうじゃないか」


「残りの織田家の人間も抵抗はしているが風前の灯火。尾張全域が今川の手に下るのは時間の問題であろう」


 報告によれば、信長の兄弟や家臣は尾張の北や西で抵抗しているらしいが、きっとこれも長くもたないだろう。史実を参考に推測すると、信長を失った今の織田軍は多く見積もっても2000、組織的な抵抗もできない現状、今川軍25000の敵ではないだろう。


 こうしてこの世界の歴史は、俺たちが元いた世界の歴史からは完全に離れてしまった。


 いや、「完全ではない」のかもしれない。信長が死んだことで木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉が出世する可能性はほぼ無くなったが、他の武将は未だ健在。

 史実を辿ればその人の性格や行動パターンは、まだ掴むことができるのだろう。


「……慶広、あんたはこれをどうみる?」


「織田信長の件に関して、異世界人がらみの話は余のもとには届いていない。つまるところ、異世界の影響は蝦夷地以外にはまだ及んでいないと見える。だとすれば可能性は一つ。今川家に転生者がいるということだ」


「今川家に転生者が? でもなんで? そもそもあの女神たち、そんなこと一言も言ってないぞ?」


「確かにそこは気になる点だな。理由があるとすれば、今川家は足利将軍家の御連枝、今川家に関西を統一させて征夷大将軍に就任させ、奥羽統一とアイヌ統治に乗り出している蠣崎がそこに従属することで早期の天下統一を促そうとしているのやもしれぬ」


「まあ、なくはない話ではあるよな」


 実際、蠣崎家には転生者が2人いるし、3人目がいても不思議じゃない。

 それに、蝦夷地から京は離れすぎている。京に至るまでに立ち塞がる大名や国衆の数を考えると、天皇や将軍を擁立できるのがいつになるかもわからない。俺たちが蝦夷地に転生したのは『異世界に最も近いから』だし、異世界人の交流は俺たちが担当する代わりに天下統一は今川家が行うというのは理に適っている


「でも、もし女神たちが本当にそう考えているとしたら、連絡の一つぐらいよこしてほしいもんだ」


「……だが、確証は持てん。確定的なことが言えぬ以上、我らは引き続き世界征服に向けて動くのみだ。今川家の狙いと内情はいずれわかることだろう」


 結局、女神たちが今川家に関して何の連絡もしてこない以上、これらの意見はただの憶測でしかない。転生者が本当に今川家にいるとも限らないからだ。

俺たちは俺たちで天下統一、そして世界征服を目指すしかなさそうだ。


 それに本音を言えば、あの信長が簡単に討死するとはやっぱり思えないんだ。史実でも、普通は考えつかない「逃げの一手」で金ケ崎を脱出したんだからな。俺としては、信長は生きていると信じたい。


「しかし、もし転生者が今川家にいるとしたら、多分そいつはどの戦国大名よりも強敵なんだろうな。なにせ信長の奇襲を見破って、混乱の中織田軍を散々に蹴散らすような奴なんだからさ。俺たちみたいに戦国時代の歴史に明るかったら、そのエピソードを利用して人心掌握も難しくないだろうし」


「まだ、戦うと決まったわけではなかろう。ともかく今の余と武親にできることは、一刻も早く功績を挙げて家中での発言力を高めることだ。発言力が無ければ、軍を意のままに動かすこともままならぬのだからな」


 そうだ、この時点での慶広は数多くいる季広の子の1人に過ぎない。兄の舜広や明石元広が生きている以上、後継者に指名されているわけでもないからな。

 だから蠣崎軍を意のままに動かすには、慶広を実の主君以上に権威のある存在に育てていくほかない。実際、蝦夷地の人間で天下統一や世界征服を真剣に考えているのは、俺たち2人以外にはいないだろうからな。


「それもそうだな。じゃ、来たるべき世界征服のために」


「ああ、ともに頑張ろう」 


 俺と慶広は、互いの拳をコツンと突き合わせて協力を誓った。

 しかし俺たちは奥羽統一に乗り出すよりも先に、異世界からの大きな外敵と戦わなければならなかったのであった。



■■■■■



 その日の夜、俺の夢の中に例の2人の女神が登場した。


「……また……この夢か……」


「――この夢か……じゃないでしょ、武親くんさ」


 夢の中に入って早々、ミネルヴァが寝ている俺を見下ろすように立っていた。それにしても、これまた不機嫌そうな顔してるな。


「この前のアイヌとの戦、あれ何なの? 無様な姿晒してさ、もっとしっかりしなさいよ!」


「は、あれ見てたの? て言うか、再会して早速説教かよ!?」


 確かにコタンシヤムとの一騎打ちで無様を晒したのは認める。だが一方で、俺は敵将の首も挙げている。俺としてはそこを評価して欲しかったのに……。


「あたしたちが与えた能力をまともに生かさないから、ああなるんでしょうが。しゃんとしなさい、まったく……」


「でも、懸命に戦っている時の武親さん、結構格好良かったですよ……?」


 うんうん、さすがフレイアは良いこといってくれるね。それでこそ士気が維持されるってもんだ。


「そうかしら? 結局大将首を取れなきゃ意味ないと思うけど? 実際、それができるだけの能力は与えているつもりなんだし」


「ですが、武親は前回の戦いが初陣でした。その中でいきなり敵将の首を取るのは、結構な活躍だと思いますけど……」


「ああもう! それ以上喋らなくていいから。武親、今度はきっちりね。いいわね?」


「ラジャー」


 ま、神様からしたら、俺なんて単に戦闘力が高いだけの人間。そりゃあ、彼女たちにしたら戦がだらしなく見えるかもしれないけど、初陣の戦国武将に期待し過ぎだ。


「――ところで、こうしてわざわざ夢に出てきたってことは、ただの中間報告。ってわけでも無さそうだな」


 人間の俺と喧嘩なんてしているが、仮にも向こうは神。暇つぶしに俺みたいな奴の所にホイホイやってくるほどお気楽な身分でも無いはずだろう。


「変に鋭いわね。でも当たりよ」


「実は近々、蝦夷地に『ミズガルズ』の民が迫ってくるようなのです」


「……マジ?」


 ついに来るか、異世界『ミズガルズ』。転生から12年、長らく蝦夷地の内政やアイヌとの戦いに夢中になってて少し忘れかけていたけれど。

 それに、今更ながら『ミズガルズ』の民たちってどんな人たちなんだろうか?


「なあ、『ミズガルズ』ってことはさあ、やっぱり俺たちと同じ人間が住んでいるのか? 北欧神話みたいにさ」


「違います」


「え?」


 いやいや、『ミズガルズ』は北欧神話じゃ人間が住む世界の筈だろ? それを、北欧神話の当事者の1人であるフレイアが否定するって、どういうことなんだ?


「確かに人間族(ヒューマ)が中心の世界ではあります。しかし……」


「実は世界樹ユグドラシルの異常で最初に繋がったのって、『ミズガルズ』と亜人の世界『アールヴヘイム』なんだよね」


「え?」


 アールヴヘイム。北欧神話ではエルフの暮らす場所として登場する世界。この転生後の世界では、エルフだけでないほかの亜人ーー例えば獣人とかーーも暮らしているのだろうか?


「ちなみに今回やってくるのは、ミズガルズで一番領土拡大に熱心な国『ミュルクヴィズラント王国』の住人よ。その国は十数年前にアールヴヘイムにあった国『ユングリング公国』を併合しているから、元ユングリング公国の住人も加わっているわね」


「ということは……この戦国の日本は『ミズガルズ』とだけでは無く、『アールヴヘイム』とも融合しているのかよ?」


「は、はい。そうです」


 ミュルクヴィズラント王国か。なんか舌を噛みそうな言いづらい国名だな。

 しかし領土拡大に熱心ということは、世界征服を持ちかけたら乗ってくれそうな雰囲気はあるよな。


「……上手く利用出来ないかな、その人たち」


「さ、さあ?」


 敵には出来るだけ回したくないな、正直。


「ところで、1つ質問がある」


「何?」


「この、戦国時代の東アジアと『ミズガルズ』が融合したのって、西暦で言うと何年なんだ?」


 俺がこの話を聞かされてから、しばらく心に引っかかっていること。それは、“融合の年代”である。


 俺が生まれた1548年前後、この時期は戦国の中でも重要な時期と言える。

 1542(もしくは1543)年は、鉄砲が伝来した年。そして1549年。フランシスコ・ザビエルがキリスト教を布教し始めた年にあたる。

 つまり、思想と戦闘手段を中心に、大きな転換が起こった年代なのだ。


「そうですね……西暦にして1540年。といったところでしょうか」


「1540……年」


「そうだけど、それがどうしたの?」


 この話が本当だとすれば、日本には鉄砲もキリスト教も伝来してないことになる。つまり鉄砲で名を馳せた雑賀衆などはまだ台頭していないということ。キリスト教もないから、史実でキリシタンだった武将は、異世界の宗教を信奉することになるのだろうか?

 

 ただ、ミズガルズにキリスト教はないだろうけど鉄砲がないとは限らない。鉄砲を知るミズガルズの人がひょんなことで日本を訪れ、鉄砲を伝える可能性だってある。


 それに今川家以外にも転生者がいる可能性はある。彼らが独自に鉄砲を開発して普及させたとしたら結局史実通りになる。鉄砲に必要な硝石は中国大陸でも手に入るし、交易ルートさえ確保できれば使うのに特に支障はない。


 もっといえば、もしその転生者が科学に精通していた場合、ハーバー・ボッシュ法と呼ばれるアンモニアの生成方法を知っていれば、それを利用して空気から硝石を作るなんてオーバーテクノロジーを披露しだすかもしれない。


「いや、それさえわかればいいんだ」


「ふーん、そう?」


「ああ、あともう一つ聞きたいことがある」


「何でしょうか?」


「駿河の戦国大名、今川家に転生者っているのか?」


 さて、これも聞いておかないとな。桶狭間で信長が負けたというのは今でも信じられない。史実にはない何かの要素が今川家にはきっとあったはずだ。さて、女神たちの回答はーー


「そんな話、聞いたことないわね。フレイアは何か知ってる?」


「いいえ、特に何も……」


 どうやら、桶狭間の一件はミネルヴァやフレイアには全く関わりのない話のようであった。 


「まあ、蠣崎慶広が転生者だったという件も最初は知らなかったけど、あとでアフロディーテや九天玄女から話を聞いてるから、もし今川家に転生者がいたとしたらもう耳に入ってるはずなのよね」


「そうか。そうだよな……いや、それがわかっただけでも大きい。ありがとう」


「ううん……でも、桶狭間の一件は私も気になるところではあります。ちょっと調べてみますね」


「よろしく頼むよ」


 今川家に関しての有益な情報は無しか。結局、桶狭間で本当は何が起こったかはわからずじまいだな。


「……さて、俺たちのほうは、さしあたって『ミズガルズ』に警戒ってとこだな」


「頑張るんだよ!」


「ウス!」


 さて、鬼が出るか蛇が出るか。今後の展開に注目だ。

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