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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第2章 コタンシヤムの戦い
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閑話 鷹姫、脇本館で暴走する

 コタンシヤムの戦いから2ヵ月後の1560年(永禄3年)11月。俺たち不破家の人間は、政務のために徳山館を目指して津軽海峡沿いの街道を歩いていた。

 これはその道中の話――。



 ■■■■■



 茂別館を出発した翌日、俺たちは脇本館近くの海岸線を歩いていた。


「あっ、父上。1つお願いがあります」


「五郎。なんじゃ?」


「ちょっと越中守さんにこの前のお礼がしたくて。なので脇本館に寄ってもいいですか?」


「そういえば、越中守殿も先日から脇本館に戻っておると聞くな。良い、十分にしていけ」


「ありがとうございます」


 脇本館(現・北海道上磯郡知内町)は道南十二館の一つで、代々南条家の拠点となっている館だ。守継が勝山館の城代となったあとも自分の家臣を派遣させる形で引き続き所有しているとのことだ。

 この前の戦じゃお世話になったからな。感謝の1つでもしないと。


 しかし俺が中に入って早速、奥から例の(・・)ヤバい言動がデンジャラスな雰囲気の女性の声に合わせて耳に入ってくる。


「も・り・つ・ぐ・さ・ま☆ あたしのお味噌汁、ちゃんと飲み干してくれますよね?」


「あ……ああ……。も、もちろんだ……」


 聞こえてくるのは、しきりに自分が作った味噌汁を飲むよう薦める鷹姫の声と、もはや生き死にを賭けた展開を前にしどろもどろな様相を呈する守継の声。


 これは鷹姫が暴走しているようだな。そして餌食になる守継、哀れ……。

 しかし、どのタイミングで彼らのいる部屋の襖を開ければ良いんだ? あの鷹姫のことだ、下手に割って入れば包丁を差し向けられかねない。

 そうやってタイミングを計っていると、脇本館に詰めている足軽たちが俺の進入を拒もうと立ち塞がる。


「あなたは……もしかして五郎様ですか?」


「え、ええ。そうですけど……」


「五郎様、これ以上奥に進んではなりません! このまま奥に進めば、あなたも姫様の餌食となってしまいまするぞ!」


 足軽たちの意見はもっともである。しかし彼らの忠告をまともに聞いては、お礼の一つも言えない。鷹姫もあんな性格をしているが、先の戦いの功労者であることに違いはないのだからな。

 というか、あんたたちはなんで守継を守ろうとしないんだ? 鷹姫の危険性がわかっているなら尚更助けるべきだろうに……。南条家の足軽たちにも鷹姫の暴走は止められないということなのか?


 俺は足軽の制止を振り切り、さらに奥へと進んでいった。


「あたし、今日は卯の刻(午前6時頃)からじっくり心を込めてたっぷり作ってあげましたのよ。あたしの愛情たっぷりのお味噌汁、いっぱい飲んでく・だ・さ・い・ね?」


「と、当然だ……い、頂こう……」


 しかし、このまま恩人である守継のピンチを見過ごすわけにもいかない。入るなら今だ! 俺はええいままよ、とばかりに部屋の襖を開けた。


「あの……」


「何者!?」


「ひっ!」


 すると、鷹姫が俺の方向一直線に短剣を投げつけてきた。

 短剣は、俺の顔スレスレを通り後ろの壁に突き刺さる。俺は、戦場以上に血の気が引き、その場に固まってしまった。


「あ……あ……」


 混乱のあまり言の葉を紡ぐこともままならず、俺はぼうと立ってる他なかった。鷹姫はそんな俺の首元に包丁を突きつける。


「て、いつぞやの豆坊主? あたしたちの第二の愛の巣に何の用ですか?」


「あ、愛の巣? とてもそういう風には見えな……」


「何か言いました?」


「何も申しておりまぜぬ……」


 だから、包丁突きつけたまま会話するな。思考が止まる。


「お、おー五郎ー。待ってたぞー」


 そして取り繕うように、守継も鷹姫の後ろからそっと登場する。そして危うく味噌汁を強引に押し込まれそうになった彼の動きは、まるで錆びたロボットのようにぎこちなかった。

 よっぽど鷹姫のアレが効いてるんだな……。ご愁傷様です。


「え、越中守さん。こ、こここ、こんにちは」


 とはいえ、動きがぎこちなくなっているのは俺も同じ。越中守さん、互いに苦労するね。


「まったく、五郎が戻ってくるのが随分遅いから、来てしまったではないか」


 そしてこの修羅場に父、武治登場。空気を読んで入れ、冗談でなくマジで死ぬぞ。

 しかし俺の不安はすぐに解消される。


「あ、た、武治様? なんで……」


 そういって鷹姫は自分の持ってた包丁をサッサと隠し、何事も無かったように振る舞った。

 父上、グッジョブ! あなたは救世主だ……! なぜ父相手だと強気に出てこないのかは謎だが、助かったからよしとしよう。


「何故も何も、ここを通りかかった時に倅が挨拶したいと申してな。某もついて来たんじゃ」


「豆坊主が?」


「た、鷹姫! 少しだけ、少しだけでいい。ちょっと席を外してほしい」


「……仕方ありませんね。少しだけですよ」


「かたじけない」


 鷹姫は渋々引き下がって別の部屋へと向かっていった。

 ふう、運良く交渉が成功したようだ。さて、早いとこ用事を終わらせないと、鷹姫の制裁が怖いからな。


「越中守さん。この前はどうも、ありがとうございました」


「ん? どうした。随分と改まって」


「越中守さんと共闘していなかったら、俺、背後を気にして上手く戦えなかったと思います。だからその感謝をしようと」


「拙者は何もしておらぬよ。五郎の武が誠に達者であったからあの戦に勝てたのだ。こちらこそ五郎のお陰で館を取り戻すことができたのだ。礼を言う」


「越中守さん……」


 守継、鷹姫のいないところだとなかなかの紳士だな。さすが蠣崎家の忠臣なだけはある。立派だ。俺も彼を見習うべきかもな。


「さあ、拙者たちにはやるべきことが山ほどある。蠣崎の未来に向けて、歩みを進めて参ろう」


「……はい!」


 いい奴だ。こんな男を家臣に迎え入れられて、季広さんもさぞかし喜ばしいことだろう。


 ガッシャーン……!

 しかし、そんな感動シーンを台なしにする音が隣の部屋から聞こえてくる。


「何の音でしょうか?」


「そういえば、兵部殿が鷹姫とともに別の部屋に参っていたな。……嫌な予感がするぞ」


 俺たちは音が聞こえた部屋へと向かった。そして襖を開けると、囲炉裏の前でなぜか父が天井を向いて倒れていた。


「父上!?」


「鷹姫! これは一体……?」


「ふふふ、守継様。武治様もあたしのお味噌汁に感動して、この通り♡」


 囲炉裏の上には謎の色の液体が入った鍋が火にかけられていた。そして父の横にはお椀が落ちており、鍋の中と同じ色の液体が床に大量に零れている。

 鷹姫、まさかソレを飲ませたのか?


「た、鷹姫。落ち着いて……」


「守継様には是非、あたし特製のこのお味噌汁で精力をつけていただきたいのです。お世継ぎももう1人欲しいですからね。だから、飲んで☆」


「あ、ああ……」


 子どもが欲しいという気持ちはわからないでもない。だが、この液体を飲んで精力がつくとも思えないが……。

 だが、一方の守継はついに覚悟を決めて、鷹姫から渡された味噌汁と称する謎の液体が入った器を飲み干す。


「……えい!」


 なみなみと盛られたお椀片手に守継はグビグビと勢いよく喉に流し込んでいく。

 おお、一気に飲み干したぞ。さて、気になるお味の程は?


「……ぐ!」


 しかし速効性の毒を仰いだ時かのように、守継も即座に器を床に落とし、そのまま床の上に倒れた。 

 守継の異変を見るに、味のほどは「お察しください」としか言いようのないものらしい。それにこの流れ、確実に俺もその味噌汁もどきを飲まされるんじゃ……。


「まあ、さっすが守継様。あたしが丹精込めて作ったお味に感動してくれましたのね?」


 それは絶対ない。だって守継、気絶してるし。ていうか鷹姫盛るなよ。俺は飲まねっつーの!

 しかし、不気味な液体をお玉で掬う鷹姫の手は一向に止まることはなかった。


「不本意ですけど、豆坊主にも飲ませてあげましょう。絶対、美味しいって言ってくれますよね?」


 結論ありきかよ。……ええい! 騙された気分になって平らげてやらあ! 父上も守継も本当は美味しすぎて気絶している可能性だってワンチャンある……のか?


 俺も覚悟を決めて、半ば押し付けられたお椀の味噌汁を渋々すすってみた。だがーー


「……おえ」


 ま、不味い……。汁がヌルいうえに具のワカメが変な味……。そしてなんか滅茶苦茶甘ったるい……。……ダメだ……とても意識を保て……な……。


「ふふふ、そうですよね。美味しくないわけがありませんよね。皆さんも美味しさのあまり倒れているようですし、これで自信を持って世に出せますね。あとで息子や足軽たちにも大盤振る舞いです」


 この自己中女に振り回され、俺たちは復活するのに1時間かかった。鷹姫、まさに恐るべき暴君。

俺は改めて守継の我慢強さに敬意を表し、この女帝の傍若無人ぶりもまた、改めて再確認したのであった。

第2章、終。

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