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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第2章 コタンシヤムの戦い
18/68

17 蠣崎慶広、コタンシヤムを討つ

「我が名はコタンシヤム! 精強なるアイヌ兵を率いる大将だ!!」


 立派な髭を蓄えた大柄で筋骨隆々な初老のアイヌの男性が、勝山館の大手門の前に仁王立ちする。

 ようやく総大将のお出ましか。この男を倒せば蠣崎軍の勝利は決定的となる。負けられない戦いだ。


「コタンシヤム。あんたのことは弟のヌクリから聞いてるぜ」


「……」


「コタンシヤム?」


「弟……? そんなヤツは知らないな」

 

 ヌクリを知らない? いやいや、ヌクリはあんたのことを『兄貴』と言ってたはずだぞ。嘘で『兄貴』と言うような奴にも見えなかったし……。まさかこの男、弟を見捨てる気なのか?


「……ヌクリのことは、何とも思わないのか?」


「あんなウェンペにかける情けなどない」


 アイヌ語で「ウェンペ」とは、働き盛りの年齢にもかかわらず、物乞いをしたり仕事せず怠けている人を指す。そしてアイヌの人にとっては“アイヌ(人間)”扱いをするに値しない人達と見なされている。


 とは言え、仮にも最前線で勇敢に戦っていた弟を“ウェンペ”扱いするとは、あまりにも冷淡すぎではないのか?


「随分な物言いだな」


「アイヌの将として戦っておきながら、小さな子どもに遅れをとって死んだ。そんな奴に何の価値がある?」


 自分の弟を何の未練もなくすぐに切り捨てるとは非情な男だ。利用価値があれば用い、無くなれば捨てる。

でも俺から見れば、こんな冷酷な男が蝦夷地から俺たち和人を追い出すなんて出来ないような気がする。和人を追い出した後、同じアイヌでも弱い人を片っ端から追放してきそうでならない。


「イヤな兄貴だな……」


「ふん、言いたければ好きに言えばよい。そもそも貴様のような小僧に何ができる? 同胞ウタリの苦しみ、せいぜい思い知るがいい」


「どうやら俺のことを知らないらしいな。あんたの弟を討ったのはこの俺だ」


「ふん、この期に及んで嘘をつくとは如何にも和人シサムの少年らしい。己の弱さも理解できぬとは笑止。我直々に叩き込んでくれる」


 言葉を交わしている時から闘いは始まっている。

 お互いの距離を正確に計りつつ、攻撃と防御のタイミングも計算する。


――――――――――――――――――――――――――


 名前 コタンシヤム 


 HP 6000/6000


 MP 700/700


 攻撃 593


 防御 521


 魔攻 227


 魔防 215


 敏捷性 708


 名声 10074


 状態異常 なし


――――――――――――――――――――――――――


 俺より敏捷性が相当高い。これだけ敏捷性の高い人物、21世紀にいたらスピードを競う競技でオリンピック金メダルは確実だろう。ともあれ背後を取られないように気をつけないと。


「隙あり!」


「え?」


 最初に飛びかかったのはコタンシヤムだった。

 数値で見て俺より速いのはわかってたが、いざ体感するとその速さに驚く。俺はワンテンポ遅れて間一髪で防ぐも、精神的には一撃浴びせられた感覚だ。


「わかっちゃいたが、やりにくいな……」


「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」


「げっ!」


 コタンシヤムのスピードを頼りとした多段攻撃に、俺は顔面スレスレでひたすら避け続けるのみ。分身の術を思わせる攻撃を前に、反撃の糸口が見いだせない。


「はっ、はっ……」


「つまらんな。この我に一回も攻めの手を出さない、いや、出せない」


「くそ……」


 この男の動き、本当に人間か? 歴代のオリンピック選手でもここまで速い人間がいるとは思えない。

 能力値的には俺のほうが上なのに、後手に回るのがここまで不利に傾くとはな……。


「思い知れ」


「ぐっ!」


 そして油断したその刹那、俺の腹部にコタンシヤムの槍が刺さる。俺は口から大量に吐血し、意識が朦朧となる。


――――――――――――――――――


 名前 不破武親

 HP 4012/10683


――――――――――――――――――


「はっ、はっ……」


「散れ」


「ぐふっ!」


 今度は顔面に鋭い打撃。前方がぼやけ、良く視認が出来ない。


――――――――――――――――――――


 名前 不破武親

 HP 2400/10683


――――――――――――――――――――


「ほう、まだ立つか」


「まだまだ……」


 確かにコタンシヤム、あんたは強い。

 けどな、俺には大事な約束があるんだよ。こんなところで倒れる訳にはいかないのは俺も一緒さ。


 しかし依然、反撃の決定打を見いだせない。体力も急所を突かれ、一気に窮地に陥ってるし本当にどうしよう……。



 ■■■■■



 コタンシヤムとの一騎打ちが始まってから、僅か数分。序盤からここまで圧倒的なコタンシヤムのペースで、俺は防戦すらまなならない有様であった。


―――――――――――――――――――


 名前 不破武親


 HP 710/10683


―――――――――――――――――――


「所詮、ただの子どもか。正直あまりに脆い。興味もなくなってきた」


 好き放題罵りやがって。スピード以外なら負ける気がしないはずなのに……。いちいち急所だけを正確に狙い撃ちしてやがる。


「いい加減飽いた。すぐに終わらせてくれる!」


 死を予感した俺は、素早く振り下ろされている筈のコタンシヤムの剣がゆっくりに見えた。

 ああ、前世で自殺した時みたいだな。あの時も地面に叩きつけられるまで、異様に長かったんだっけ……。


「その首貰ったあ!!」





「――やれやれ、勢いだけで経験が無いってのは嘆かわしいものだ」


「……へ?」


 落命を覚悟していた俺。しかし、聞こえない筈の俺の耳は、馴染みのある声を捉えている。その声の主は――――


「慶広……?」


「余の手を煩わせるとは、お前もまだまだだな武親」


 慶広が、俺に降ろされた刃を自分の刀で抑えていたのだ。


「貴様、いきなり割り込むな」


「無理な事を言う。こちらとしては、今ここでコイツを失うわけにはいかないのでな」


 そしてこの時、俺は純粋に慶広が格好いいと思えた。ピンチに駆けつけるその姿、まさしく世界を救う勇者と呼ぶべきものであった。


「ありがとう、慶広」


「油断するのは早いぞ武親。この場は余に任せておれ」


「悪い、少し離れとくわ……」


「ふ、それでいい。なんなら少し見学しても構わないぞ」


 不敵な発言だな慶広。敵の総大将を前に余裕綽々って感じだ。後学のためにも見せて貰おうか、慶広の闘いを。


「貴様、名をなんと言う?」


「蠣崎新三郎慶広。蠣崎若狭守の三男だ」


 ここで慶広のステータスをチェックする俺。アイツが平然としていられるだけの理由も知りたいしな。


―――――――――――――――――


 名前 蠣崎慶広


 HP 9544/9544


 MP 3780/3780


 攻撃 569


 防御 702


 魔攻 1051


 魔防 1046


 敏捷性 310


 名声 11206


 状態異常 なし


―――――――――――――――――


 俺よりは素早さはあるけど、コタンシヤムと比べると低いな。攻撃も防御も俺より低いし、どうやってあの男に勝つつもりなんだ?


「あの子どもは我を前に無様な戦いぶりであった。果たして貴様のような子どもが、この我に勝てると思うてか!」


「どうかな? 体格だけで勝ち負けが決まるわけではない。それに、武親アイツより弱い覚えもないな


 ライバル心旺盛なことだ。どんな展開になることやら。


「ふざけたことを抜かしおって……。我が槍の錆にしてくれる!」


 話が終わった瞬間、コタンシヤムは猛スピードで慶広目掛けて衝突。辺りに土煙が舞う。

 くそ、これじゃ見学どころじゃない。衝突の勢いも激しかったし、アイツは大丈夫なのか?

 だがその心配は杞憂に終わる。


「……ただ速いだけでは、余は倒せぬぞ」


 土煙が晴れた先には、地面に横たわるコタンシヤムと、平然と立って歩いている慶広の姿があった。


「慶広!」


「ふう、せっかく武親に見せるつもりだったが、こうも砂が舞うとはな……」


 一体何が起こったんだ? あの衝撃を喰らって倒れないなんて、普通じゃ有り得ないぞ。そこはさすがの慶広ということか。


「貴様、この我をいなすとは……」


「自分より速い相手には、『後の先』を以て戦う。それだけだ」


「後の、先……」


 後の先。これまでの俺の中には無かった概念。思えば俺は、周りより高いステータスに気を良くして能力任せに戦っていた。

 だから油断して、自分より能力が低いはずの相手に的確に急所を狙われ、押されてしまうわけだ。


「覚悟!」


「ぐはっ!」


 俺の時は大違いだ。交代からわずか数十秒、完全に主導権は慶広が握っている。そして慶広の刀は、急いで回避しようとするコタンシヤムの右腕を切断した。


「まさか、この我が……貴様ごときに手負いにされるとは……」


「なんだ、もう終わりか? 若輩者の余に縋り、情けなく降参でもするか?」


 盛んに挑発する慶広。さすがにこの状況からでは、コタンシヤムと言えどひっくり返すのは無理だろう。 

 俺は慶広の頼もしさを感じるのと同時に、アイツに対する悔しさも身に沁みていた。


 大喜びの蠣崎軍、それと反対に落胆し士気が大幅に低下したアイヌ。 


 だがコタンシヤムはそのような絶望的状況でも、やすやす降参するタマでは無かった。


「ふん。もう討ったと思っているとは、この青二才めが……」


 コタンシヤムは片腕だけで立ち上がった。最後の気力を振り絞って。

 しかし既に満身創痍。地面を枕に再び倒れるのも時間の問題だった。


「だが、我は大将……! ここで終わる訳には……グハッ」


 皆まで言わさず、慶広は冷徹にトドメの一太刀を浴びせた。


「終わりだ。お前の命も、理想も、な」


「……」


 もうコタンシヤムは動かない。口を大きく広げ、叫び声を挙げんばかりの顔をした亡骸に、慶広は捨て台詞を浴びせる。


「――う、ううう……」


「うおおおおおおっ! し、新三郎様が、新三郎様が!」


「蝦夷の大将を討ち取ったぞおお!」


 数拍遅れて、味方の兵士たちから歓声が上がった。

 当然だ。今回の武装蜂起を引き起こした人間を倒したのだからな。しかも自分達の主君の子供がだ。喜びも一入(ひとしお)だろう。


「ここまで来れたのも、諸将と兵士諸君の奮闘があったからだ。礼を言う」


 ――だが、俺は純粋に喜べなかった。俺は自分が果たすべき役目を、全うすることが出来なかったからだ。

 と同時に、途中まで能力任せに戦っていた自分を恥じた。最後は友人に助けられて、格の違いを『見学』させられてしまった。


「武親」


「……」


「落ち込むな。余とお前は戦闘歴に十倍以上の開きがある。むしろ、それでも良くやってくれた。感謝する」


 慶広は俺を慰めるようにそっと手を差し出す。だけど俺は応えなかった。


「――俺、もっと強くなりたい。慶広みたいに……」


「……武親」


 一同が勝利の美酒に酔いしれる中、俺は1人、己の弱さから来る『悔しさ』に震えていた。

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