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不破一族の多世界征服記  作者: 伊達胆振守(旧:呉王夫差)
第2章 コタンシヤムの戦い
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16 形勢逆転

 本陣に到着すると、すっかり日が暮れていた。そして陣中には、既に撤退済みの武将が数名席についていた。


「南条越中守守継、ただいま参上つかまつりました」


「不破五郎武親、ただいま戻りました」


「よい、座れ」


 松明灯る陣中、俺と守継は席につく。守継はため息をついて台の上にある軍議用の地図を見る。

 この時代はまだ正確な地図はない。それでも作戦を決めるうえで重要なものではあった。


「戦果はどうだ?」


「陽動は、敵の援軍もあって成功致しませんでした。しかし、敵将の首を1つ討ち取って参りました」


「ふむ、どのみち広益も山頂は奪取出来なかったし仕方ない。むしろ将の首は大いなる勲功と言えよう」


「そうですか……」


「とは言え、1つこちらも戦果を上げたぞ」


 山頂は奪取出来なかったのに? 一体、何の成果を上げてきたって言うんだ?


 すると季広さんの隣で、広益が少し嬉しそうな、「ワシは負けておらんぞ」と言わんばかりの負けん気をこちらに向ける。大人げなくムサい顔つきなこと、この上ない。


「行方不明中の重季を、広益が山頂で拾ってきたそうだ」


「その話は本当ですか?」


「おう。ここにおるぞ。孫八郎、入れ!」


 捕らわれていた下国親子のうち、息子の重季が陣中に姿を現す。


「下国孫八郎重季である」


 重季は甲冑姿ではあったものの、顔には殴られたり刺されたりしてできたような傷があちこちに散見された。捕縛中にアイヌから暴行でも受けたのだろうか?

 そして陣中に入ってからは、アイヌの詳しい状況や作戦等を訊かれているご様子。ただ重季は師季とは別の牢屋に入れられていたようで、彼の消息は依然として不明だ。


「蝦夷は兵の半分と将たる首長の多くを失い士気が相当下がっているが、撤退する気はないようだ。今も勝山館では、蠣崎討伐の軍議が開かれている頃だろう」


「うむ……敵も相当この戦に思い入れがあるようじゃな。じゃが、じきに出羽から檜山のお屋形様の援軍が来られる。数はおよそ2000、大将は我が息子慶広、今の我々とってはまさに大軍じゃ。明日の朝までには着くことじゃろう。到着次第、最後の追い込みをかけることとする」


「御意!」


 俺たちの奮戦もあって敵の兵力の5割は削れた。並みの大名であれば撤退するレベルの損害。だが今回の武装蜂起は相手方が一向に退こうとしない。最後まで手に汗握る激戦が続きそうだ。

 一方で俺たちとて無傷ではない。次々降りかかる熱戦の嵐に、およそ4割の兵力が失われている。普通なら即時撤退となる大損害だが、勝山館は蠣崎家にとっての要衝。今ここで失うわけにはいかない。


「だが、ここまでの移動で援軍の疲労も溜まっておろうから、再出陣は明後日以降かのう」


「俺としては、新三郎様との再会が待ち遠しい限りです」


「明日はゆっくり語らえ。そして士気を高めるがよい」


「はっ」


 俺は一礼して本陣を後にした。



 ■■■■■



 翌日、慶広が引き連れてきた援軍が船に乗ってはるばる到着した。


「おせえぞ、慶広」


「おい。津軽海峡をはるばる渡ってきた余に対して失礼だろう」


「えらそーに。なんなら、いつぞやお前が話していた嬉し恥ずかしお前の初恋バナシをここで披露してやろうか? 海翔くん」


「む、それは勘弁……」


 嘘だよ。そんな話をここですると、喋っている俺のほうが恥ずかしくあるっての。

 にしても、慶広もだいぶ顔が引き締まったというか、やつれたと言うか……。

 とても津軽海峡の横断だけでなったとも思えないし、どうしたんだ?


「全く、浪岡の御所様は人使いが荒くて大変だ。ただでさえご嫡男のお世話だけで忙しいのに、追加の政務を容赦無くたたきつけてくる。このままでは体中が枯れ果ててしまうところだ。おかげで、前世のパソコンやスマホのある生活が恋しくなるばかりである」


「それは……気の毒だったな」


「後な……」


 それからも慶広の愚痴は延々と続き、終わる頃にはすっかり日も暮れる時分であった。

 場所柄、愚痴をこぼす相手もいないから仕方ないだろうが、こんなに長くては聴いてるほうもグッタリしてしまう。


「ふむ、話が長くなってしまったな」


「気づくの遅え……」


「まあ、明日は休息日だ。明日も付き合ってもらうぞ」


「ええ? 勘弁してくれよ……」


「余に無礼を働いたと、父上に申しつけるぞ」


 さすが大名の息子。ここで季広すえひろを脅しに使いやがった。さすがに愚痴が長すぎるから「権力濫用すべからず」と言いたいが、もう注意する気力も起きない。


「はいはい、聞いてやりますよ」


「では、今日もいい時間だ。寝ることにしよう」


「そうかよ。じゃ、お休み」


「お休み」


 ふう、やっと解放されるぜ。こちとら前日まで最前線で槍を振るってしんどかったんだからな。

 にしても、やつれている割に饒舌なヤツだ。「慶広、お前だけで勝山館に向かえよ。俺は寝るからな」って言いたい。



 ■■■■■



 援軍到着の翌日、蠣崎軍は再び勝山館の奪還を目指す。

 開戦時は兵力にして833対5000と、こちらが圧倒的に不利な状態だった。

 だが今は2400対2500と大分差を詰め、立場は逆転とまではいかなくとも互角。勝山館を取り返すのも、あながち不可能ではなくなった。


 とは言え楽観視は出来ない。油断すれば均衡はすぐにでも崩れる。今はただ、目的を果たすことにしよう。


「そう言えば武親、お前敵将の首を取ったとか言ってただろう?」


「ああそうだけど、なんだ?」


「いや……お前を羨ましいと感じただけだ」


 珍しいな慶広。あんたが俺を羨望の眼差しで見ているとは。


陸奥(向こう)では戦は無かったのか?」


「抜刀騒ぎはよくあったが、戦と呼べるほどのものは無かった。だからこれが初陣だ」


「だったら、今日は良いチャンスじゃないか?」


 その時、慶広の顔が不敵になる。


「ふっ、お前の戦功を超えてみせるぞ」


「だったら、追い越されないよう俺も頑張らないとな」


「油断するなよ」


「そっちこそな」


 俺たち2人は開戦の合図で固く手を組み合い、お互いの持ち場に進んでいった。



 ■■■■■



 先日まで、圧倒的兵力差の中でも互角の戦に持ち込んでいた蠣崎軍。2000もの援軍が合流したことで、一気に勢いづいてきた。


「某の名は長門藤六広益! 某と勝負したい者は前に出よ!!」


「拙者は南条越中守守継! いざ参らん!!」


「不破兵部少輔武治。推して参る」


 各隊の将兵達も活き活きしている。これはいけそうだ。じゃ、俺も行動開始!


「不破五郎武親! 見参っっ!! うおおおおっ!」


 俺もまた、混沌極まる戦場に大きな槍を片手に猛進。最後の抵抗を見せるアイヌ兵を次々と蹴散らしていく。


 その後も、戦は蠣崎軍優勢に進む。先日までの激戦で大量の戦力を失ったアイヌは防戦一方。勢いづいた俺たちの敵ではなく、ジリジリ戦線は勝山館に近づき、正午頃には夷王山の山頂も奪取してアイヌ勢を包囲するに至った。


「蝦夷は籠城戦に持ち込む見込みのようです」


「ふむ、だがそう長くは保つまい。そもそも食料の貯えは少ないはずだ」


 籠城戦か。援軍でも期待出来るんだったら、有効な手段だ。


 ミサイルや戦闘機など上空から攻撃する手段のないこの時代、籠城戦は現代人の想像よりも手強い戦術。だからこそ、城攻めの上手い将は名将と言われる。なお、孫子の兵法でも城攻めは下策として扱われており、城攻めの際は城の中の兵や武将の心を攻めて戦意を削ぐのが上策とされている。


 だけど弱点もある。一番は、補給が絶たれたら食料不足に陥って守備兵の餓死が増えることだ。特に今回はアイヌ側も兵士となる人間を総動員してこの戦に臨んでいるから、兵糧攻めも有効だろう。

 一般的な兵糧攻めには時間がかかるという欠点もある。だが、兵農分離が進んでおらず農閑期にしか戦えない他の大名と違って、蠣崎軍はそもそも『農』がないからその分長く戦える。勝山館は2500人もの兵が籠城できるような大きい城ではないから、食糧が尽きるのもそう時間はかからないだろう。


 さて、アイヌ側がどう状況を打破しに来るのだろうか?


「むっ、門から蝦夷の兵が1人出てきたぞ!」


 そう1人で思考を巡らせていると、アイヌのほうから立派な髭を蓄え、異彩を放つ大男が剣を持って参上してきた。


「そこの奴! 名乗りをあげよ!」


 大男はしかめっ面でこちらを睨みつつ、静かに歩みを進める。そして蠣崎軍に囲まれる中、重低音の大声で名を言った。


「我が名はコタンシヤム! ヨイチの長である!!」

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