プロローグ 転生前
今作は拙作「不破一族の多世界征服記~転生者一族の興亡史~」の改稿版となっています。今後、更新はこちらで行っていますのでよろしくお願いします。
とりあえず挨拶から。
どうも不破武親です。戦国武将みたいな名前をしてますが、れっきとした現代日本に住む高校3年生です。
さて、親と言うのは自分の子供に希望を込めて名前をつけるものだ。親は両方とも戦国武将好きだったから、なるべくそれっぽい名前をつけた結果が「武親」だ。
だが、人の人生とは名前の通りにはいかないのが世の常。実際、俺の人生も「武親」という立派な人名からは程遠かった。
まず「武力」の「武」。
残念ながら俺には、喧嘩したりスポーツで活躍したりするような身体能力は皆無。そのおかげで俺は学校の人間にイジメられ、他校の生徒にも日常的に当たり前のように集団リンチされる日々を過ごしていた。リンチついでに財布を取り上げられお金も奪われるのも日常茶飯事。
そんな日々を3年以上過ごしたある日、さすがの俺も堪忍袋の緒が切れてとうとう警察に通報し、リンチに関わった人間の多くが逮捕された。
だが、たまたま逮捕を免れたメンバーの1人が、仕返しに俺の家に放火。消防の活躍むなしく家は見事に全焼し、両親は一酸化炭素中毒で死亡。俺は命からがら家から逃れた。その後放火犯は逮捕されたが、そこからの暮らしは大変だった。
そして「親睦」の「親」。
もともと小学校・中学校と人間扱いされてこなかった俺は、そんな現状を変えようと高校入学とともに積極的にみんなと仲良くなろうと決意。学校では明るく社交的に振る舞い、クラスメイトの話題に乗るなどの努力をしたにもかかわらず、結局俺を人間扱いするクラスメイトは現れず村八分の状態は解消されなかった。
さらにはリンチに関わっていない同級生もことごとく俺の陰口を言うようになり、彼らの陰口を真に受けた同級生の親や近所の人間から罵声を浴びせられる日々が続いた。おまけに、宛先不明の脅迫状が大量に届くなど、俺の居場所は完全に無くなっていた。
孤児となった俺を引き取った里親は俺の世話には全く興味が無く、家ではネグレクト状態だった。生活費もほとんどもらえなかったためアルバイトに励まねばならず、慣れない家事もしなければならなかった。
警察と児相に訴えたためにこの里親は逮捕されたが、俺自身は結局養護施設での生活が始まることとなった。養護施設でも俺は他の子どもたちに全員無視され、孤立していった。
気がつけば、俺は両親が名付けてくれた名前とは正反対の悲惨な人生をまっしぐらに進んでいた。
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ある日、俺は立ち入り禁止となっている学校の屋上にいた。俺は自殺したくてたまらなかったが、なかなか屋上から飛び降りる勇気が持てなかった。俺は何回も何回も深呼吸をしながら、この世を去る決心を固めている。
(……お父さん、お母さん、すみません。俺、もうすぐそちらに向かいます。天国に着いたら、真っ先に俺を叱ってください……)
そして飛び降りる決心がついた俺は手すりに乗っかり、ついに屋上から飛び降りた。
学校を死に場所に定めたのは、今まで散々俺を虐げてきた連中に、これまで奴らが行ってきた数々の愚行を死を持って訴えるためであった。時刻は午前8時40分。朝礼で全校生徒が整列している時間だからちょうどよい。
さすがに自分たちが日頃イジメている人間が突然死ねば、サイコパスなあいつらとて慌てふためくに違いない。普通なら恐怖に苛さいなまれるはずの瞬間を、俺は不気味な笑顔で迎えた。そして目論見通り、眼下の生徒たちはそんな俺を見てざわついたり、絶叫したりしていた。
そのまま俺の体は頭を真下にグチャッと嫌な音を立てて地面に激突し、18年の人生の幕を自らの手で下ろしたのだった。
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―――だが、名前の通りにいかないのが人生ならば、自分の思った通りにいかないのもまた人生だ。
というのも、死んだはずなのに俺には依然として意識があったからだ。
いつもと違う点があるとすれば2点。それは俺の体が全く言うことを聞かないことと、目がよく見えないということ―――