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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case1 _ 見えなくて話せないもの
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第1話「新生活に忍び寄る影」




朝。


早朝のうちにコンビニへ行って、凪咲さんの衣服や必需品を揃えるためのお金を下ろそうと早めに起きた。

睡眠時間はおよそ3時間。疲れてはいたが、色んな感情が頭の中で入り乱れていたせいで眠れなかった。



「おはよう」


「あ…おはようございます」



そっと布団から出ようとしたところで既に起きていた彼女と目が合った。

起きたまではいいが布団から出るまでが難しい。彼女はそういうタイプだった。



「あの…僕コンビニへ行ってきます」


「その間に私朝食作るよ」


「……あ、じゃあ…」



秀爺との2人暮らし生活は長かった。

僕が成長するにつれて役割分担が調整されて、高校生になる頃には家のことは殆ど僕がやっていた。

凪咲さんが当然のような顔で食事を作ると言ったことに驚きつつ、秀爺もこんな気持ちだったのかなと思った。

確か僕も自分から食事を作ると言い出したから。


さっさと着替えて家を出た。

彼女の「いってらっしゃい」も新鮮だった。

コンビニへの道中、ふと自分の状況が面白くなった。

まるでそのまま。読み漁っていた小説みたいだからだ。


主人公である自分は神の代行として特別な役割を担い、創造の力というチート能力も備えている。

凪咲さんは…ヒロ…ヒロイン役だ。あれだけのルックスなら誰も文句を言…いや、欲張りだと文句は言われそうだ。


ここから、冒険や戦いを主軸とするか…ヒロインが増えていって賑やかな日々が主軸になるか…人気作は大体その2つに分かれる気がする。



テンテンテーン。入店の音が鳴る。

店員は品出しを終えてレジに戻ったところだ。

ATM前でキャッシュカードを取り出していると、入店音が再び鳴った。


「おーす」


「おはようございます。今日も早いですね」


常連客らしい。女性店員に声をかけてスポーツ新聞を手に取るとそのままレジへ向かう。


「おいおい、今日のニュースすんごいぞ!」


「そうなんですか?」


秀爺ほどではないが、おじさんと呼ばれるような年齢だろう。

そんな彼が興奮気味にテレビで見たであろうニュースを話題にする。


「ここの近所で変死体が見つかったんだってよ!」


「変死体?」


「おう!"女神"アナが言ってたから間違いない。目ん玉と歯がごっそり無くなってたらしいんだ」


「うわぁ…怖いですね」


「だよなぁ!姉ちゃんも気をつけろよ?なんかあったら俺が」


「はいはい。缶コーヒーと合わせて2点で280円です」


「今日も釣れねえなあ…でもニュースは嘘じゃないぞ」


「300円…20円のお返しです。パチンコ行っちゃダメですよー」


「1000円だけだ!当たったらお土産持ってきてやるよ」


つい聞き入ってしまった。

女神アナというのはとある女性アナウンサーのあだ名だ。

朝のニュース番組に出るようになるとすぐにその容姿が話題になって人気になった。

美しい容姿と綺麗な声…そんな彼女を朝寝ぼけながら見て、女神だと


「あ。そうか」


少し多めにお金を下ろすことにした。

凪咲さんにもスマホが必要になるだろう。


代行同士の戦い…とは言っても、代行が誰かなんて分からないし、その代行が悪かどうかも分からない。

そのための"調査"をするのに


「ハッくしゅん!…早く帰ろう」


ちょっとだけ熱い味噌汁がほしい。




………………………………next…→……





「ねぎとたまごの味噌汁、目玉焼き、ウインナー…」


「もしかして気に入らなかった?」


「全然。ありがとうございます」


2人揃っての「いただきます」。

テーブルの下ではちゃっかりソープも食事を始める。

…味付けも焼き加減も僕の好みだ。


「おいしい…」


「よかった」


心底ホッとした様子。でも、これなら心配する必要があるのか気になる。


「料理得意なんですか?」


「高校の時に料理部だったのと、お母さんにも教わってた。でもそんなに自信なくて」


簡単に想像出来る。朝だから簡単なものを用意したけど、その気になれば店で出されるようなレベルで大体何でも作れるのだろう。


「真。聞いてもいい?」


「何ですか?」


「創造の書のことなんだけど…」


「はい?」



食後、色々なお店が開く時間まで僕達は"実験"をすることにした。


創造の書で創造出来るものについてだ。


花、猫、人間、武器。

これまでの成功例から、凪咲さんはより人間らしく可能性を求めた。


「まずは服。買いに行くとしても、私今のままだと外歩きにくいし…」


そこまで頭が回らなかった。

彼女がスマホで好みの服を検索し、それを僕が創造の書に書き写す。


「よし…」


((READ))


ピカッと光って、部屋の天井付近から要望通りの服が落ちてきた。


「すごい…ちょっと着てみる」


そう言って服を持って凪咲さんが秀爺の部屋へ移動した。

創造した感覚は、自販機でジュースを買う感覚と似ていた。

全く苦ではない。


「真。これって、いきなり服が消えたりとかしないよね?」


「ページを破り捨てたりしなければ大丈夫です」


「そっか…」


暗めな青のジーンズに無地の白いTシャツ、そしてグレーのパーカー。

なんというか、パーツだけ考えるとあまり女性らしい選択ではない気がする。

それがどうして…凪咲さんが着ると…モデルみたいだ。

オシャレはしていない。でもとびきりオシャレに見えてしまう。

僕が着たらこうはならない。


「あと帽子とスニーカーもいいかな…」


「あ、はい」



一旦外出着が揃った凪咲さんを見て、週刊誌で熱愛を報じられる芸能人ってこんな感じの格好だったな…と思った。



「神聖な力だろうし、乱用するのはよくないよね…でも、何が出来て何が出来ないのか知っておくのは大事だと思うから」


続けて、凪咲さんは紙に僕に試してほしいものを書いていく。



・お金

金額による可否、どの国のものでも可能か

・車

大きさ、重さによる可否

・食べ物、飲み物

人間が口に出来るもの、単純な物量



「今の真には出来なくても能力を高めれば全部出来るのは間違いないよね?」


「はい。昔の代行は非現実的な怪物を創造して使者としていましたから」


「…悪用しない方が難しいくらいの力だよね…」


「私欲にもきっと善悪はあります。代行が本来の役目を果たせるようになるまでは、」



「「えー、今朝はとんでもない事件が」」



突然会話を遮る大きな音。


「うるさい…!」


「テレビ!?つけてないですよね?」


「ニャアアッ!!」


「ソープ!?」


「凪咲さん、ソープをお願いします。僕はテレビを…」


「もう。あなたはいたずらっ子なの?」


「ニャァ〜」


「ごめんなさいは?ふふ…」


ちょっと前までソープに魂が浄化されるくらいに癒されていた。

でも、今は、ドキドキする。



ひっくり返って離れ離れになったスリッパ。

…時代遅れのドアノブに着けるヒラヒラのあるカバー。

そしてテレビのリモコン。


ソープがこんなふうに物で遊ぶのは初めてのことだ。

ダンボールに入ってゴロゴロしてたり、洗濯カゴの中で落ち着いてたり…それぐらいだったのに。


「あ。これか…」


テレビの音量を下げると、アナウンサーではなく芸能人が司会をするニュース番組がやっていた。

目玉の話題は、コンビニでついつい聞いてしまった会話のそれだ。



事件が起きたのは昨夜僕達が行った自然公園だ。

公園内にある池で変死体が見つかった。

犬の散歩に訪れた女性が、池に浮かびコイの餌になっているそれを見つけたようだ。

死体には目と歯が無かった。が、コイがそれらを食べた…というのは考えられないらしい。



「真、どうかしたの?」


「あ、いや、そろそろ買い物に出かける時間かなって」





………………………………next…→……





自慢出来ることではないが、これまで特に恋愛を経験したことはない。

別に女性が苦手というわけではない。学生の頃は男女関係なく賑やかに過ごしていた。


デート…ではないことは分かっているが、凪咲さんとの買い物は…楽しかった。


帰り道にソフトクリームを買って、両手が荷物で塞がってる僕に凪咲さんが食べさせてくれたりとか。



「ただいま」


「…私もただいま…でいいのかな」


「いいと思います」


「…ただいま」


「ニャァ〜」


「あー、ソープ。いい子にしてた?お留守番ちゃんと出来たかな?」


「ニャァ」


僕は荷物を持って先に上がる。

部屋着や外出着、下着類に一応タオルとかも。

それに歯ブラシなどの消耗品に、運動靴とサンダル。

あと髪を整えるのに使うヘアゴムやブラシ、それから…


「ありがとう。こんなにいっぱい買ってくれて。それにスマホまで」


「必要なものですから」


「全部大切に使うからね」


僕に笑顔を見せて、彼女は買ってきたものを片付けていく。

ここまであまりにも自然に流れてきて気がつかなかった。



「あ、これ同棲…」


「ねぇ、真。服なんだけど…」


「え!?あ、秀爺の部屋を凪咲さんが使えるように整理しましょう」


「うん…ありがとう」



なんか落ち着かない。







「ニャァーーー…ニャァ…ニャァー…!!」



「ん?」


「ソープ?どこ?」


「1階だと思います。お気に入りの場所があるので」


今日のソープは少し変だ。

2人で1階へ向かうと、やっぱりソープは僕の考えていた通りの場所にいた。


「ニャァ」


「どうしたの?いつもこんなに鳴く?」


「お腹が空いてる時と甘えたい時にはよく鳴きますけ…ど………」


「…真?」



僕は、ソープが僕にある事を伝えたかったのだと分かった。

ふとドアの小窓を見た瞬間、その一瞬だけ。


"何か"と目が合った。





………………………to be continued…→…


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