第1話「衝撃の実話」
「へい!らっしゃぁい!!」
オヤブンさんが大人しくなって、色々と落ち着いたところで解散…とはならず。
サラさんがシメのラーメンと言い出したので近くのラーメン屋さんに来てみた。
「オヤブンさん。バッグに入れてて平気なんでしょうか」
「んー、暴れてないしいいんじゃない?」
「ラーメン!」
「サラ。注文はこの券売機で食べたいものを買って」
「ンー!じゃあ…たまご!」
「…それトッピングですよね」
「チャーシュー!!」
「それも追加の…」
「あー、ギョウザ!!」
「真は味噌ラーメンでいい?」
「あ、はい」
「じゃあ3人一緒で味噌ラーメン。あと真はコーン乗せてもらおっか」
「………」
さり気なくサラさんの分までフォローした。
凪咲さん、優しいな…。
それにしてもいい匂い。
これだけ食欲を誘ってくるのに、どうして他に客がいないのか。
店員さんも"笑顔が眩しいおじさん"で怖いとかもないし。
「寒いね」
「あ…そ、そうですね」
カウンターに並んで座った。
サラさん、凪咲さん、僕の順…座ってすぐ凪咲さんが僕の手を握った。
冷えてる。体温が吸われていく。
「うん。分けて」
「わーお!ナギサとマコト、あー、イチャイチャでーす!」
「ちょっ、サラさん!」
「ナギサ!サラとイチャイチャ!」
なぜそうなる。
サラさんは凪咲さんの片手を奪い手を握った。
凪咲さんがモテモテみたいになった。
「サラも手冷たいよ」
「あ、そろそろじゃないですか?」
僕達しかいないからか出来上がりが早い。
「はいよ!味噌ラーメンたまごチャーシュー乗せね!」
「おおーーー!」
サラさんのテンションは何度最高値を更新するのだろう。
「次味噌ラーメンコーン乗せ2つね!」
僕と凪咲さんは同じものを。
…なっ!
「コーンが…焼けてる!?」
「普通に出すよりちょっと焦がして出す方が喜ばれるからね!食べてみて!」
まさかこんな形で焼きとうもろこしへの欲求を満たせるなんて。
「いただきまーす!!」
「いただきます」「いただきます」
いつも家で一緒に言っているからか、こういう時でも凪咲さんとタイミングが揃う。
少し照れてしまうが…
「ほぉ…ほっ、ほぉう」
「ん、なんですか?」
「サラだよ。熱いみたい」
まだ咀嚼してないからギリギリ…でもそんなに口を開けるのはあまりよくない。
でも熱いのは確かにどうしようもないもので。
「ほっほっ…ほふ…ん……」
「ちょっと無理したよね今」
「でも食べれてますね。…軽くやけどしてそうですけど」
「……っあぁ…美味しいでーす……」
今までと違う反応。体にしみてる感が強く感じ取れる。
それを見て僕達もひと口。
「ん……美味しい」
「…すごく…落ち着く…」
味噌。素晴らしい。味噌。
それに、スープにほんのりとコーンの焦げ感が溶けている。このわずかな香ばしさが…たまらない。
そこからは3人とも無言に近いくらい静かに食べ進める。
余計なリアクションは不要。
お腹を満たしながら…お風呂に入ってるみたいなリラックス感。
「ところでお客さん。怖い話、好きかい?」
「…え?」
ふと顔を上げると、店員さんは明るい店内なのに懐中電灯で自分の顔の下を照らして話しかけてきた。
「最近のことなんだが、スマホに霊が取り憑くようになったらしいんだ…。普通に触ってたら急に画面が変わって、変なもん開いたかなって不思議がってるところに…ボサボサのながーい黒髪の女が画面の奥に立ってるんだと」
「ウイルスじゃないの?」
「いいや。それからその女の霊は喋るんだ。ここに来て…会いに来て…ずっと待ってるから…。そうすると、…ザーッ!ザーッ!ザーッ!て」
「ぶふっ!!」
「真、はいティッシュ」
「ありがとうございます…」
突然の大声は怖いどうこうの前に驚く。
「続き。えと…そう!ザーッ!て、画面に色んな景色が映るんだ。電車の中から見る田舎の景色、森の中、破壊された鳥居、蓋が割れた井戸…それから」
「おかわりお願いしまーす!」
「っ!?…あ、あいよー…!」
サラさんに良いところで邪魔された。
…ありがとう、サラさん。
「次がオチだったんだろうね。また大声で怖がらせるつもりなんだろうけど、どうするのかな」
「替え玉用意してる間に出来るだけ食べておかないと…」
「何も怖くないよ」
「そうはいきません」
でもこのラーメンだけは本当に美味しい。
家で再現出来たらいいのに…頼んでもレシピなんて
「……ねぇ真。この前の指輪は?」
「指輪…ですか?」
「ほら、なんか創造して指輪を…覗きがどうって」
「……あ」
覗きの指輪。
あれを着けて店員さんに触れれば思考を覗き見ることが…
財布の小銭入れにある。…でもこの味噌ラーメンは店員さんが長い時間をかけて完成させたもの…それを
「お店始めるわけじゃないんだし。多分作り方分かっても簡単に作れる袋麺に落ち着くと思うよ?料理の勉強のつもりで試してみたら?」
「……ですね」
覗きの指輪は、僕専用という条件を付けたおかげでどの指にもぴったりになるよう大きさが勝手に変わる。
基本的には右手人差し指に着けるが。
「すいません、僕コーン追加で」
「あいよー!」
凪咲さんが素早く券売機に行ってきてくれた。
簡単だ。店員さんが僕の器にコーンを盛り付けてくれた時に美味しいと言って握手を求めるなりすればいい。
少しでも触れてしまえば…
「ンー!ラーメン美味しいでーす!次はギョウザラーメン!」
「そういう食べ方なんですか…!」
替え玉後にようやくギョウザに手を出したと思えば、それをラーメンに乗せ…あ、ギョウザもトッピングだと勘違いを?
「ラー油…!おーけー!いただきまーす!」
…もはやオリジナルのラーメンだ。
「あいよ!コーンね!」
「ありがとうございます」
小皿で渡してくれた。そして受け取る時に…指に掠った。
……………見えてきた。
味噌は市販のものを絶妙なバランスでブレンドしたもの。
……え、ストレートタイプのキムチ鍋の素?隠し味なのか…!
…牛乳…!……粉末のカレールウを小さじで……え?仕上げにのりとたまごのふりかけ!?
「そんな馬鹿な…」
「どうかした?」
「凪咲さん。これなら家でいつでも食べられますよ」
「本当に?良かった」
「……でも、衝撃です。ベテラン主婦のアイデア料理みたいな感じで」
「そんなに?」
「今度作りますから…本当にびっくりですよ」
「……あー、お客さん。さっきの話…なんだ、その…」
「あ。怖い話?最後はその女の霊が画面にアップで映って叫ぶとか?」
「…いいや。画面から死人みたいな気色悪い青白い肌の手が伸びてきて首を絞めるんだそうだ…いやー、やっぱり一気に話さないとダメだなぁ!」
「………」
「真?真ー?」
………………………………next…→……
ラーメンは美味しかった。
ラーメンだけは、良かった。
あのお店に客が寄りつかないのは、あの店員さんのせいだ。
趣味なのかなんなのか知らないが、食事中に怪談話をして客を怖がらせるなんて。
しかも今思えば拒否権が無かった。
「ふふっ。あのおじさん、オチ棒読みだったのに。真だけ時間が止まったみたいに固まってたよ?」
「もういいんですそれは」
すっかり夜だ。
駅でサラさんと別れ、別々の電車に乗り帰宅している最中。
ラーメンの美味しさだけを持ち帰りたかった。なのに。
「妖怪屋敷とか真理子の怨念とか…おまけに怖い話まで…今日だけで…はぁ…」
「お化けそんなに嫌いなんだね」
「当たり前じゃないですか。わざわざ化けて出るほど誰かを怨んでるんですよ?それを無関係な人にもぶつけて…とばっちりにも程があります」
「……私もヒルは嫌い。前にそういう敵と戦って……両腕が大きいヒルの魔物。触れたものの血を数秒で吸い尽くして殺す。…戦闘中に子供が飛び出してきてね、その子を庇ったら魔物の腕に捕まって」
「それって」
「一瞬だった。ごっそり体から血が抜けていくのを感じて…無意識に自分の体を魔法で燃やした。じゃなきゃ死んでた」
「………」
「その時に魔物の弱点が高熱だって判明してなんとか勝てたんだけどね」
「その後凪咲さんはどうなったんですか?」
「1週間意識不明だったかな。普通の人間なら血が足りなくて即死だったって」
「………ヒルのお化けが出てきたら困りますね、僕達」
「ふふっ。さすがにいないよそんなの」
ッパァン!!
「え」
突然のことだった。
弾ける音がして、電車内は暗くなった。
乗客がざわつく。でも現代らしい…スマホの明かりのせいで真っ暗にはならない。
「蛍光灯が割れた音?」
「でも一斉に全て割れたんですか?」
車内アナウンスで破片に気をつけるようにと流れるが…真面目に聞いた人は少ないだろう。
動画を撮影する人、撮影した画像を恐らくネットで拡散している人…そんな人達が多い中、僕達はスマホを取り出すこともなく見守っていた。
「原因なんだろうね」
「さぁ…」
「キャアアアアアアア!!!」
「っ!?」
「大丈夫だよ真」
「だって割れてから時間経ってますよ!?」
右方向…別の車両から聞こえた。
悲鳴のあと、数人が騒いでる。
「うわあああ!」
大慌てで男性が車両を移動してきた。
…悲鳴が聞こえた方から。
何事か聞く他の乗客。パニック状態で上手く話せないが、ようやくはっきりと言えたのは
「ひっ、人が死んだ!!」
さらに乗客達がざわつく。
「人が死んだって…凪咲さん」
「犯行を見られないように蛍光灯を破壊したってことかな…」
「で、でも…」
「代行…かも」
「………狙いはもしかして」
「…アイアン・カード、準備して」
「ん?なんだこれ?」
僕達の向かいに座る男性。
スマホを横向きに持ち替えた。
「なんか聞こえる…」
カチカチカチ…スマホの音量を上げて…聞こえてきた。
「ここに来て……」
「会いに来て……」
「ずっと待ってるから……」
枯れた声。ガラついた声。
低い男性の声。泣きそうな女性の声。
…色んな声が混ざって聞こえる。
「真……これ、どこかで」
「…ダメです。思い出させないでください」
「あの。もしかして今スマホにボサボサの長い髪の女が映ってませんか?」
「凪咲さん!」
「え?あー、そうだけど。何か知って…うわ」
「今度は景色が映る。テレビの砂嵐みたいな音と一緒に」
その時、電車は駅に止まった。
アナウンスで全員降りるように言っている。
でも、その男性はスマホに夢中だし…僕達もその様子を見ている。
「最後…画面から青白い…」
「…なぎささん……!?」
「手が伸びてきてる。なのに無反応。画面に意識を持ってかれてるんだよ」
「怖い話じゃなかったんですか…じ、実話!?」
「見て。他の乗客は全員あの人のこと気づいてない」
「どうして…!?」
「まさか本当に」
スマホから手が伸びて、男性の首を掴んだ。
片手なのに首を絞めるのに十分な大きさで…ボロボロの肌が…気持ち悪い。土も付いてるし、虫みたいなのも動いてるし…!!
「みんな降りた。真、立って」
「は、はい!」
「ふぅ…」
凪咲さんは信頼の対剣を取り出し、
「はぁっ…!」
スマホから伸びる手を断ち切った。
ボトッ…床に落ちた手は、1度だけ全ての指を暴れるように素早く動かすと静止し、スゥっと消えた。
「うへぇ…」
「行こう。この人は多分大丈夫」
急いで駅を出て、タクシーで帰ることにした。
…家に着くまで僕達はずっと黙っていた。
………………………to be continued…→…




