第7話「オヤブン」
…緑色の光。
これまで見てきた創造の瞬間、自他問わず光の色は白っぽかった気がする。
今日になって突然色のついた光を見るなんて…何か意味があるのだろうか。
ガチャン!
テーブル?テーブルの上に何かが着地した?
「………あ……え?」
「まずい。今の光で見失っ……」
「わーお!大成功でーす!」
僕と凪咲さんは固まった。サラさんは喜んでる。
そして、突然周りの人達が黙って去っていく。
食事を中断し、立ち上がり、皆足早に…とにかく僕達から離れようとしているのか。
「異常地帯…!じゃあ」
サラさんが創造した使者は相当強い…!?
「ミャァーオ」
でも。僕達の目の前に現れたのは……ただの…黒猫…?
「サラ?なんで猫?」
「もしかして僕がソープを創造したみたいにペットとして」
「誰がペットや。ワイはそんな可愛がられてぬくぬく生きたいわけちゃうねん」
「……は?」
「今のサラさんじゃないですよね。完全におっ」
「おっさんて言おうとしたか?おぉう?ワイは人間で言うとこの17歳。青春時代ドンピシャや」
「とってもカワイイーー!」
「わっ、ちょ、おまえ!何すんねん!」
サラさんが黒猫を抱き抱えた。強制抱っこを嫌がる…ということはやはりこのおじさんな声は黒猫が?
人間の言葉を話せる猫…それがサラさんの…?
「ふわふわでーす!」
「なーっ!ワイはあのお魚さんが気になるんや!食べたいんやて!離してくれ!」
凪咲さんがたい焼きを手に取り、黒猫の顔に近づけた。
するとスンスンと匂いを嗅いで…
「これや、これ。ありがとなお嬢ちゃん!ほな、いっただっきまー…」
「ナギサ!マコト!この子の名前一緒に決めてくださーい!」
「ぬわーーっ!持ち上げんなやーーー!」
「ま、真…」
「僕そろそろついていけないです…」
きっと本物の関西弁には程遠い。
たまにテレビの影響で突然標準語を捨てる人がいるけど、まさにそれだ。
あまり知らなくても分かる…なんちゃって関西弁。
「待ってください。名前も決めずに書き込みを?」
「んー!まっくろくろ!クロ?クロですかー?」
「兄ちゃん!黙って見てないで助けてくれ!なんで生まれたての子ども取り上げたみたいにされなアカンねん!」
「……これが…異常地帯を…本当に…?」
「サラ?サラ。その子が降りたいって」
「おーけー!ナギサは名前何がいいでーすかー?」
「え?…あ……お、オジサ」
「だから!ワイは人間で言うとこの17歳やって!」
「僕…もうギブアップで…」
アニメや映画では動物が人間の言葉を話すという設定は珍しくない。
ただ、実際にそれが目の前で起きると違和感が…
「尻尾がクルクルでーす!クル!どーですかー!」
「さっきっからなんやねん!ワイになんて名前を付けようとしとんねん!」
「…じゃあ自分で決めれば…?」
「おう?お嬢ちゃんええこと言うやん…」
サラさんから解放された黒猫は、テーブルの上でキョロキョロしている。
名前を決めるヒントを探しているのだろう。
「……おぉ!あれや!あれ!なんて書いてるんや!あれ!」
「どれでーすかー?」
猫が必死に前足で示してる。
ちょっと可愛い。おじさん声でなければ。
「このええ匂いのお魚さんと同じのが書いてあるやろ?そこにほら!ほら!」
「店の名前?親分だけど…」
「せや!ワイの名前はオヤブンや!」
「わー!オヤビン!」
「オヤブンや!」
「おーけー!オヤビン!私はサラでーす!」
「やめ!あっ、なんでまた持ち上げるんやーーー!!」
「抱っこ、苦手なのかな」
「名前が親分…おじさんとそんなに変わらないですよね」
「おい!そこの兄ちゃん!次オッサンとか言ったら許さへんで!ボッコボコにしてワンワン泣かせて毛玉無限に吐き出させたるからな!」
サラさんに抱っこされながらめちゃくちゃ怒ってる。
声なしだったら…めちゃくちゃくつろいでるのに。
「可愛いでーす!サラのパートナーはオヤビン!」
「オヤビンじゃ…もうそれでもええわ…」
「えっへへへー!オヤビン!」
「はいはい…」
尻尾がクルクル巻かれてる…色んな物に巻き付けたり出来そうな感じ…。
今も抱っこしてるサラさんの左腕にクルッと巻き付けてる。
後は関西弁を話す以外普通の黒猫。
…異常地帯にさせるような強さは感じられない。
「……こ、これ」
「凪咲さん、どうしてたい焼きを食べさせようとしてるんですか?」
「え?だって…」
猫、好きなんですね。
「うん…」
おじさん声だとしても?
「そこは無視したらいいし」
「おー!これやこれ。この匂い!ええんか?食べるで?」
ぺろぺろと舐めて…齧った。
「うんまっ!なんやこれ!カリッてしてるやん!うんミャァーー!」
…ものすごいペースで食べてる。ソープもたまにがっつくけど…ここまで早食いじゃないし可愛らしさが残ってる。
「え?あ。あんこ嫌い?」
「ワイはこのカリカリが好きなんや!中に入ってるやつはそんなに要らんねん。あー、うまかった」
あんこの部分だけ残して外周だけ食べきった。器用だ。
「で?さっきからワイらに喧嘩売ってるやつはなんやねん」
「…もしかして、オヤブンさん…敵の位置が分かったりします?」
「オヤブンさんてどんな呼び方や…まーそうやな。分かるで?兄ちゃんの後ろや。隠れてずっと見てるけどな」
「凪咲さん」
「……いる。よかった。さっきの光で見失ってたから」
「オヤビンもファイトしますか?」
「んあ?ワイに戦えって言ってんのか?」
「イエス!」
「無理無理。ワイはソロ向いてないねん」
「そ、ソロ…?」
「そんなもんサラに聞いたらええやん。ワイの力を決めたんはこの子やで?」
「…自分が使者だって理解してる。私だって説明されてもなかなか受け止められなかったのに」
「ワイは天才やからな」
「サラさん。オヤブンさんの能力はどんなものにしたんですか?」
「スーパーヒーローでーす!」
「………」
「おーけー!見ててくださーい!」
「え?」
サラさんはオヤブンさんを抱っこしたまま僕達から数歩離れた。
「ほな、やったるか!」
「カモン!オヤビン!」
「変身やーーーー!」
ボフン!!
小さな優しい爆発。煙…忍者が煙玉を使うのをイメージしたのだろうか。
煙はサラさんを覆い隠し、一瞬で晴れた。
そこには……
「悪いやつはいねーかー!」
ジャキン!
頭にはフード…そして足首まで覆うコート。右肩には猫のマーク。左肩にはドクロのマーク。
真っ黒な格好になったサラさん。…あれ?サラさんの顔から何か…あれは…猫のヒゲ?
というか…両手でようやく持てる大きさの武器まで…!
……あれは大鎌…だろうか?少しだけ指を内側に曲げた"手"に見える。
黒い金属っぽい見た目で、関節部分は黄色い。
指の腹の部分に刃がある…指は5本だから5枚刃か…そのまま引っ掻いて攻撃する他にも、手の形をしているから握るという動きで相手を拘束することもでき…あ、そうしたら刃がくい込んで…それが狙いなのだとしたら恐ろしい。
「行くで行くで行くでぇぇーー!!」
「ゴーストハント!!」
大鎌を持ったまま、僕の上を跳んで超えていく。
その方向には、敵の代行が隠れているらしいが
「チッ…」
「出てきた!」
「真!私達も追いかけよう!」
「邪魔せんといてや!ワイとサラの狩りやで!」
走って逃げていく代行の男。
それを追うサラさんは…速すぎる。
大鎌を持ってこれなら運動能力はレベル2の凪咲さんと同等?…じゃあ武器を持たなかったら…
代行になったばかりなんじゃ…!!
「キャッチ!」
「おうよ!」
大鎌が相手の男に迫る。
サラさんが縦に振り下ろし、大鎌の"指"が閉じると…
ブシャア!!
「………え、そ、即死…ですよね」
「頭を握り潰すみたいに刃がくい込んでたから…即死で間違いないと思う」
「初めての狩り、初めての獲物や!」
「ナイスでーす!」
喜んで飛び跳ねてるけど、大鎌の手のひらになんか見えてるような
「おっしゃ。戻ろか」
「ナギサー!マコトー!」
褒めてくれと言わんばかりの速度で戻ってきた。
「…あの。一撃ですか?」
「当たり前や!あんなんちょちょいのちょいやで!」
「サラ。殺したの?」
「ンッンー。まだでーす」
そう言って大鎌を僕達に見せた。
手のひらに…やっぱり。これは
「人魂…しかも真っ黒」
「色は獲物によるんや。こいつが真っ黒な魂やったっちゅうこっちゃ!」
「でも…人魂?」
「こいつは獲物の魂。これをワイが噛み砕けば獲物は死ぬ。ワイが飲み込めば生死は保留。それを決めるのはサラや」
「…死神みたい」
「死神じゃないでーす!これはゴーストハント!」
「それにしても強すぎませんか…?」
「待って。保留は何のため?」
「ゴーストがいっぱいいたら、そのボスを倒すのはヒーローの運命でーす!あー、捕まえたゴーストにボスの場所聞くため!」
「オヤブンさん。それもしかして強制的に自白させるなんて効果は」
「無いで」
「あ…」
「ま、ええやん。黙秘を貫いて汚い言葉を最後に死ぬ悪者って粋やろ?」
「サラ。その人魂、保留にして。話を聞きたい」
「おーけー!」
大鎌の手のひらの中に人魂が吸収された。
…少し離れた位置にある代行の男の死体も消えた。
「準備ええか?ゴホッ…ウゥエ!ヴォォエッ!!」
オヤブンさんが急に嘔吐く。歯磨き中のオジサンのようだ。
でもいきなり静かになって
「お前達に言う事などない」
「あの人の声です」
「あなた。真理子の怨念ってお化け屋敷にもいたでしょ?」
「だからどうした」
「やっぱり」
「あの。僕からもいいですか?」
「勝手にしろ」
「現時点であなたは敗北…それどころか死ぬのが確定しているんですけど、それについてはどう思いますか?」
「……代行の殺し合いで負けたならそれまでのこと」
「あなたの名前は」
「名前だと?」
「凪咲さん?」
「いいから。名前」
「……」
「あなたの創造は相手の1番苦手なものを生み出す力。でしょ?でも、実際はそこまで脅威にはならない。からかうための能力でしかない。暗闇ではイキイキしてたらしいから…限定された環境、条件下でなら強いってこと。それ以外なら雑魚」
「雑魚…だと?」
「だってそうでしょ?サラは代行になったばかり。初めての創造のお試しで殺されたんだから。雑魚じゃん」
「このミスネを雑魚呼ばわりか!小娘ごときが!」
「ミスネ?変な名前」
「貴様っ……」
「変な名前っていえば。…オガル」
「……」
「関係者でしょ?」
「え?え!?」
「さあ?何のことやら」
「分かりやすい反応。やっぱり雑魚じゃん」
「…っ!!!」
「あなたみたいにキャラがブレる俺様タイプ、何回も相手にしてるから。オヤブン。もういい」
「……タダで済むと思うなよ」
「それもよく聞く」
「くっ…ぐああああああ!!」
ボフン!
再び煙。
そしてサラさんとオヤブンは元の姿に戻っていた。
「なんや、誰やオガルって」
「敵。すごく強い敵」
「あの…今のでえっと…」
「ああ、ミスネやろ?死んだで」
「復活の時。確かオガルと戦った後にタクシーの中でそんなこと言ってたよね」
「凪咲さんあの時聞いてたんですか?」
「なんや、今度は何の話や」
「オガルの他に、代行がいたんでしょ?ワードからして何かを復活させようとしてる…そのグループのメンバーなんだよ。今のミスネって代行と…オガルは」
「でもどうしてそこまで」
「オガル、ミスネ。名前が変ってことしか共通点はないけど、多分ミスネも条件が整っていればオガル並に強かったんだと思う…ううん、もっと強いかも」
「……じゃあ」
「ワイらも話に混ぜんかい!サラが暇そうにしとるやんか!」
「全然!面白そーでーす!」
「おいおい…」
「他に共通点ってあったかな…」
「ミスネはヴァンパイアでーす!」
「へ?」
「なんや。サラがずっとワクワクしとったんやで?ヴァンパイアやー言うて」
「そんなことサラは言ってなかった」
「凪咲さん。思考の共有です。レベル2の…」
「どういうこと!?いつキスしたの?」
「お嬢ちゃんも兄ちゃんもさっきから何の話しとんねん!ええ加減にせえ!こんのお!!」
ぽふ。
オヤブンが跳んできた。
全力の右ストレートを頬にもらったが、痛くない。むしろ柔らかさに胸がときめきそうだった。
………………………………next…→……
「ほーん。なるほどな。よう分かったわ」
「オヤビンが分かったらサラは大丈夫でーす」
他に人がいないのに僕達だけは居座る…というのはどうにも不自然だが、席についてサラさん達に話した。
代行とは。創造とは。レベル2とは。
…オガルとは。
「話戻すで。ワイがいつレベル2になったかは知らん。でも天才やからこればっかりはしゃーない。ほんで、サラはさっきの代行…ミスネを"捕食"する時にヴァンパイアに似てるってずーっと考えてたんや」
「イエス!マコトが助けてくれた時、ライト嫌がってましたー!」
「…そう言われると?」
確か真理子の怨念で懐中電灯を向けた時も怯んでいた。
「ヴァンパイアは、光とかー、十字架とかー、ニンニク!嫌いでーす…漫画に書いてました!」
「それをそのまま信じるのは…」
「でも、真。ミスネがヴァンパイアだとしたら、オガルってゾンビだよね。全然死ななかったし」
「わーお!ゾンビもいるでーすか!」
「サラさんホラー映画好きそうですね…」
「ちゃうねん。サラの好きなヒーローがそういう怪物とかお化けと戦うねん。ゴーストバトラーJってやつや。ん?Jリターンズやったか?」
「それ、サラさんが今考えてるんですか?」
「ワイが出てきた時から垂れ流しや。これ耳障りやったらワイぶちギレとんで?こっちの気分で聞く聞かないはどうにでもなるからまだマシやけども」
「ヴァンパイア。ゾンビ。他にもホラー映画のテーマになりそうな怪物をモチーフにした代行がそのグループにはいるかも」
「……」
まだあくまでも予想の段階。
でもありえそうな気しかしない。
「なぁ。ところでサラの面倒は見てくれるんやろ?」
「え?」
オヤブンさんが話題を変えた。
「まだ行きたいところいっぱいありまーす!」
「観光に付き合ってほしいということですか?」
「あとマコトに恩返し!したいでーす!」
「お、恩返し?」
「せや。助けてやったんやろ?サラの頭の中で兄ちゃんは洋画のイケメン俳優みたいになってるで?」
「なんですかそれ」
「全部言わんと分からんのか?鈍感か?」
「サラは真が好き?」
「はーい!ベリーベリー大好きでーす!」
「イマイチって顔やな。サラの言葉がめちゃくちゃなんか?」
それもあるだろう。
ただ、僕も凪咲さんも…あまり反応したくなかったように思える。
「…よかったね、真」
「で、ですね?」
「おぉっ!?恋の三角関係突入か?なんや若いやん」
「さ、三角関係!?」
「まぁ…いいや。でも真に恩返ししたいなら私は賛成する」
「凪咲さん?」
「味方はいた方がいい。特にこれからは。…オガルを倒して、ミスネを殺した。私達は今後目をつけられるかもしれない」
「…えぇ……」
「おーけー!ボディーガード!」
「そう。よろしくね、サラ」
「任せてくださーい!ナギサもマコトも守りまーす!」
「は、はは…」
「じゃあ話もまとまってきたんやし、そろそろワイは落ちるでー?」
「落ちる?なんですかそれ」
「サラの…ああ、読まれへんか?」
「うん。乱暴な手書きだから本に書いた内容は私達には分からない」
「さっき真の兄ちゃんが説明しとった創造のところで、条件を付けたら強い創造が出来るって言ってたやろ。あれ、ワイにもあるねん」
「じゃなきゃあんなに強くなれない。それにしてもおかしいとは思うけど」
「才能に嫉妬か?可愛いなぁ凪咲の嬢ちゃんは。なに、簡単な話やで。腹が減ったら喰うために動く」
「…なんか野性的な条件ですけど…ん。それって結構危なくないですか?腹が減ったら動く。つまり」
「せや。さっき狩りして魂喰ったやろ?ワイは満腹。しばらくは戦われへん」
「えぇ…!?」
「消化は?早いの?」
「なんや凪咲の嬢ちゃん。ワイに惚れたんか?せやなぁ…まあ"1日1食"。それが限界やろ。サラの頭の中でもヒーローは1話につき1体しか敵を倒さないって縛りがあるみたいやしな」
「厳しい条件。複数を相手にしたら1人を倒した時点でサラも戦闘不能になるし」
「でも、1日に1人だけを相手するという条件を守れさえすれば…」
「サラも守ってもらわなきゃいけないね。私達に」
「守ってくださーい!ナギサー!」
「あ。…うん」
抱きつかれてちょっと嬉しそう。
…あれ?オヤブンさんは?
「ミャーオ」
「え。もしかして言葉も話せなくなるんですか?」
「オヤブン。おいで。ほらほらほら…」
「ミャーオ」
猫の声はオジサンじゃない。
ちょっとオス感が強いけど。
凪咲さんがソープにするように撫で回すとオジサ…オヤブンさんはお腹を上にしてリラックスしていた。
「あー、あー、ふつつか者ですが、よろしくお願いしまーす!!」
そして。
出会って間もない、代行になりたてのサラさんが"仲間"になった。
………………………to be continued…→…




