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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
僕達の新たな日常
443/443

最終話「いつまでも続く世界で」








キャトルミューティレーション。



不意にそれを思い浮かべた。根こそぎ奪われていくような感覚…僕の中から、一体どれだけのものが無くなったのだろうか。

ただ、受けた衝撃からは予想もできないほど…あっさりと目覚めの時は訪れた。


死ぬ…というか、1秒後も生きていられるとは思えないくらいに体の中が空っぽになったというのに。



「……本当に…夢でも見てたみたいだ…」



衝撃から、ふと気づいた時にはもう…嗅覚が和室特有の香りを感じていて。数回瞬きをすると、多少クラクラするが起きれそうで。

体を起こしてみると



「何これ…」



部屋が散らかっている。あの場にいた全員が寝かされていて…座布団を枕にしている者もいれば、足に挟んでいる者も……さらに、片手に煎餅を持って寝ているのが2人もいるのが気になる。



ぐぎゅうぅ〜るるるるるるる…ぅぅるるる〜〜……!!



「うお…お腹空いた。すごくお腹空いた」



煎餅を見たからではないと信じたい。



「なんか、皆でずっと夜更かしして遊んでたみたいに見える…終わったんだ……終わったんだ、本当に」



努力が報われた。そんな気持ちになって、ぽろっとこぼした言葉。



「はい。…しかし、いいえ」


「え…」



それをすかさず拾って返してきたのは、



「ィモタルア。どうしてここに…」



部屋の真ん中に立った状態で浮遊している。実は、天井が近いしテーブルとも近いので…浮遊せずそのままテーブルに乗った方が安全なように思える。



「少しは見慣れたと思ったのに、今見たら…なんでかな。この恐怖心。見てはいけないものを見ているみたい。やっぱり混血じゃなくなったから?」


「はい。…しかし、【人間】柊木 真。あなたはまだ【子】です。世代交代は済んでいます」


「……僕を…どうするつもり…?」



何から何まで全身真っ白…神々しいけど、計測不能な力を持つ…神……創造神…。脳が何度も再確認と理解を繰り返して…ィモタルアに対する恐怖が上限なく増幅していく。



「必要になったら、迎えに行きます」


「……」


「それまでは力を貸します」


「…これ」



ィモタルアは光を僕に差し出した。ずっと消えることのない光…受け取ると、確かな重さを感じられる。この形も、よく知ってる。



「創造の書…」


「あなたが救った生命。その中には争いを望む個体もあるでしょう。災いを望む個体もあるでしょう。混乱を望む個体もあるでしょう。全ての自由を与えられた生命だからこそ、善悪の決め事の枠をはみ出て生きるのです。生きるため、他者を喰らう。それは肉でもあり、精神でもあり、自由でもある。"平和"と人間が呼ぶものは、永遠に訪れることはありません」


「…そんな、こと」



最後の言葉を否定できなかった。何も持たない者は、だからこそ奪うことを望む。逆に恵まれた者はそれを武器に優越感に溺れ、さらに感じるために奪うことを望む。

守るものがあっても、人間はちょっとしたきっかけで欲に負ける。【人間】が欠陥品…というわけではない。良くも悪くも、それこそが自由なのだ。何をしてもいい。生きるため、死ぬため、どんな理由でも…理由がなくても。全てが許されている。この世界の中では。



「必要なら、管理しなさい」


「…僕や他の代行の、身勝手な基準やわがままで?」


「いいえ。管理するのはあなただけでいい」


「……」


「【子】として、【親】を失望させぬように」


「それって僕が世界をある程度穏やかな状態にしてキープしろって…そういうことだよね。出来なかったら…また、始まるの?今度はィモタルアが全てを…」


「…はい」



【子】になることの責任を今になって知った。あの時はもう…余計なことは考えてなかった…。

僕がサボったら、世界が再び災厄によって葬られる。…色んな小説等を読んできたが、さすがにこんなのは初めてだ。



「…なら、管理できたら……それがずっと続いたなら」


「……はい」


「うん…分かったよ。この創造の書は、僕が預かる」


「…柊木 真」


「……」


「あなたが幸せに生きて、そして死ねますように」


「…ありがとう。ィモタルア」



話が終わると、ィモタルアは自身を無数の光の粒に変えた。そして風に乗るように動き出して、僕の体を通り過ぎようとする。光だから触れることは無いけど…くすぐったいような気はして…せいぜい頑張れと言われたようにも…感じた。

振り返ればもうそこに光はない。部屋中…どこにも。



「…ふぅ」


「真。もう起きていい?」


「凪咲?…いいよ」



空気を読んでいたらしい凪咲が僕に確認してから体を起こした。寝起きのように腕と足を伸ばして



「ん〜…ふふ。皆まだ寝てる。疲れてるのかな」


「実は今も夢なんじゃないかって僕は疑ってたりするけど」


「どうかなー。ねぇ、ちょっと場所変えよう?ほら、行こ行こ!」


「うん…」



立ち上がった凪咲は僕の手を掴んで優しく引っ張る。そのまま身を任せて歩かされてみると、部屋を出て…廊下を進む。



「どこ行くの?」


「んー…人がいなかったらどこでもいいかな」


「…?」



今になって自分の格好を気にしてみる。…微妙におかしい。

最初に目に入るのは、失った仲間達とお揃いだったポンチョ風の衣装。これは問題ないのだが…その下だ。なんというか、和製ホラー映画の女幽霊が着ていそうな白のワンピースで…。しかも謎にスースーする。まさかとは思うが…僕は今、パンツを履いてない…?



「あ。この部屋空いてる」


「え、うん?そうだね?」



なんだかソワソワする。別に、このワンピースは足首まで隠れるほど長いし…上に着てる衣装も大きくて体を隠せるから、履いてないとしても別に…うん、別に…見られるとかはない…はず。



「履いてないの?」


「えっ!?いや、あの、」


「うふふ。別にどっちでもいい。真を取り返せたのが嬉しくて…」



未使用だから当然片付いていて、綺麗だ。そんな空き部屋のど真ん中。

そこで両手を広げる彼女は僕を待っている。だから同じようにして、接近し…抱きしめた。



「今は真が何を考えてるかも分かる。モヤモヤしない。全部スッキリしてる。分かる?目の前に真がいるのになんか違う気がして…そのままずっと生活してたの。複雑な気持ちだった…」


「…そっか……」



ずっと生活していた。

その言葉を聞いて、1人でィモタルアを追いかけた時のことを思い出した。瞬間を切り取ったように…全部が遅くなって…きっと、時間の流れが変わったのだろう。

僕達が母と死闘を繰り広げていたその時…こっちの世界では早く時が過ぎていたのかもしれない。



「約束してくれる?」


「ん、何を?」


「私も、真も。もう勝手にいなくならないって」


「…」


「してよ。こればっかりは」


「うん。約束するよ」


「絶対だからね」



そう言って彼女は顔を近づけた。避けたり拒んだりする必要はない。ただ受け入れる…もしくはこっちから迎えに行ってもいいかもしれない。



「………っ…ふふ」


「僕も。やっと、ちゃんと取り戻せた気がする」


「まだ喋らないで。もう少し……」


「………」



吐息の温もりが僕の心を掴んで離さない。人によってはただの行為でしかないそれが、僕にはとても大切で。





「あーーーーーーーーっ!!!あーーーーーーーーーーっ!!!?」





「えっ、なに!?」


「…知花…?う、うそ、本当に!?知花だ!!」


「ちょっと、真…?」



「もう!!2人ともこんなとこで何してるんですか!!ちょっと買い物に行くって凪咲さん消えちゃうし、ソープちゃんもいなくなって大騒ぎなはずなのに、真さんもトイレに入ったらそのままいなくなっちゃうし!!皆で心配になって家中探したんですよ!?」



「…み、皆……」



そうだ。よく考えてみれば、あの場にソープがいた時点で……でもどうして。



「真…泣きそうだよ?大丈夫?」


「大丈夫…っ、大丈夫だよ!!大丈夫に決まってる!!嬉し泣き…なんだからっ、」



僕の全てが都合のいいように…。さすがに、秀爺まで望むのは欲張りすぎだろうが…それでも…この状況は…



「ありがとう……ありがとう…」



「真さん?誰に感謝を…」


「…神様、なんじゃない?」


「何言ってるんですか。真さんが神みたいなもんじゃないですかー!」


「うふふ…」


「いや、それより」


「なに?」


「見ましたからね。あたし見ちゃいましたからね!!あたしの真さんとあんな…あんな…真剣なチューするなんて!!」


「真は私のだよ」


「そうはいきません。あたしだって立派な真さんの女です!」


「まだじゃんけんで負け足りない?」


「いいえ。今度は勝ちますよ……1週間、お風呂掃除当番っ!!」



人が本気で喜んでいるというのに。その横でなんだ、この2人は。どうしてじゃんけんなんだ。しかも僕を取り合うと見せかけて家事を押し付けあっている。これでは気持ちよく泣けない。



「最初はグー…」


「じゃんっけんっっ」




「よっ、ちょっと邪魔するぞ」




場が凍りついたかと思った。どこからともなく姿を現す系は遠慮してほしい…というか、今度のは……




「うそ!!お父さん……!?」


「やっぱりか…!」




部屋の入り口から顔だけ出して声をかけてきたかと思えば、次の瞬間には凪咲の前に立っていた。あれ…彼の隣にいる桃色の髪の少女は…



「モモ…?」



「……………」



呼ばれてこっちを向いた彼女は、口を半開きにしたまま硬直している。いや、そんなボケっと見ている場合ではない。モモがいるということは、だ。



「心配しないで」


「あ、あの…」


「結子はあの日からもういない」


「じゃあ…どうしてモモがここに」


「……………」



黙って僕を指さす……なんで。



「似てるけど、違う。でも、そう」


「……」



それだけ聞けばヒントは十分だ。

結子を殺した時の、事実をねじ曲げる創造……あれで復活したのだ。正直、自分でやっておいて…とは思うが…知花達のことも含め、一部は諦めていた…。僕がやったんだ。全部…全部。


……え、でも凪咲のお父さんを創造した覚えはないのだが。



「真。改めて紹介するね。お父さん」


「よろしく…うん?なんか初対面感が薄いよな?な?え、俺が変なの?」



「あー、えっと…一応初めましてで…」



「…なるほどな。分かったよ。初めまして。……お前が俺の娘の彼氏かっ!!この野郎!!」



「えっ」



どこからともなく現れた黒い剣…それが僕の首に向けられる。斬られててもおかしくないほどギリギリだ…。



「お父さん!!馬鹿なの!?真は私の大切な人なんだから、ちょっとでも傷つけたりしたら……怒るよ」


「じょ、冗談だって。な?そんな怒んなよ……ヒカリにも怒られたばっかなんだから」


「お母さんもいるの!?……」



「僕は身に覚えがないよ?…先に言っとくと」



でも凪咲はすごく嬉しそうだ。それもそうか。家族との再会なんだから。

……多分僕じゃないけど。多分。



「で、だ。ちょっといいか?彼氏さん」


「はい…?」



手招きされ近寄る…と、ぐいっと顔を近づけてきて。



(悪魔舐めんなよ。お前の"ルール"に合わせて出てきてやったんだ。簡単に娘はやらないからそのつもりでな?)


「……」



控えめに言って、この人はヤバい。チラッと赤チェックのシャツを捲って腹を見せたかと思ったら、服の裏から一部が見えた。



「…"悪魔専用"…!?」


「忘れちゃいけない。光あるところには影も闇もあるんだってこと。つまり神や"天使"がいれば悪魔が居てもおかしくないって、そんなわけよ」


「…すいません。ちょっと飲み込まないで保留ということで」


「えっ」



認めてたまるか。きっと僕の創造だ。凪咲を悲しませないように…とかそんな感じで偶然創造されたのだ。



「ねぇ、お母さんはどこ?」


「ん。それなら受付んとこ。俺が勝手に入っていっ…たから…やべぇ。怒られる!!」


「もう馬鹿!真!一緒に来て!」



「あっ、ダメですよー!真さんはあたしのー!!」





こんなことがあっていいのか。



そう思わされることがいくつもいくつも起きていてキリがない。



でも、創造の力自体そういうものだったはずだと…後で気づいた。



良くも悪くも、代行になったあの日から僕の常識は…人生は…壊れたのだ。



これもまた僕の人生だ。



非現実的な驚きだらけでも、僕の日常だ。









………………………………next…→……








その日からしばらくして。




「いただきます」




「いただきますっ!いっぱいいただきましょう!真さん!」


「いただきます。…はいはい。真、醤油取ってもらってもいい?」


「…うん、いい感じ。この匂いが朝起きたばかりでも食欲を刺激するから…メモしなきゃ」


「いただきます…、皆元気…。あ、ソープちゃんも。いただきます…はい」


「ニャ」



男女の比率がおかしいけど、特に気にならない。

熱々の味噌汁が体全体に染み渡る喜びを感じながら、さりげなく皆の顔を順番に見る。いつもと変わらず…皆は皆だ。


黒神様を体内に入れたらしいソープは、おそらくその時に使者として覚醒したらしい。あれ以降、たまに夜中にこっそり外出するようになった。そして、帰ってきた時には体内に"誰か"を入れていたりする。初回は本当に驚かされた。数年前に近所で交通事故によって亡くなってしまった小学生の"男の子の霊"を連れ帰ってきたのだから。様子がおかしいとサラとオヤブンに相談してようやくそれが発覚して。…さすがに今朝は大丈夫だろう。


明里は本を作っている。登場人物は僕達だというからびっくりだ。新人類が問題になっていた頃、彼女は自分で色々と代行のことを調べていたから…多分それがかなり活きていて。物語の序盤から"真夜中の森"という創造生物が敵として現れる場所が用意されており、そこの主がどこかで見たような蜘蛛だったりして。他にも氷の国だとか、女王の部下で1番強い兵士がドラゴン使い…だとか……僕の記憶も存分に使ってくれている。完成が楽しみだ。


研究熱心な芽衣。最近は理想とする大人様ランチにあと少しというところまで来ているらしい。試作の段階のものを食べさせてもらったが……この家で彼女が最も料理上手というのは一生揺らがないんじゃないかと思った。その中でも……美味しいのは当然として、深みをゆっくり味わいたくなるようなビーフシチューがかかったふわとろオムライスは…一流料理人でも真似できないだろう。それもそのはずだ。彼女は使者。料理に対して創造の力が全集中したらどうやっても勝てるわけがない。しかも食べた後はしばらくの間彼女がイメージした状態になる。単純に元気になれとイメージすればそうなるし、怪我なく過ごせるようにとイメージすればたとえ階段から転落しても痛みすら感じない。……凪咲に後で教えてもらったが、これをバフ効果とか言うらしい。


明らかに元気さが増した知花。好いてくれるのは嬉しいが、最近は特にアピールが増えた。あれ以降、凪咲をライバル視しているのが原因だろう。じゃんけんを挑んでは敗北して…家事をする機会がかなり増えたこともあって、以前よりはちゃんと出来るようになっていて…成長も含め可愛いなと思う。ただ、この前彼女がこっそり読んでいた本…"2番目の女が逆転する方法"を見つけてしまって。その内容をそっくり真似されるのではないか…と僕は警戒するようになった。



「ふふっ。ついてるよ、真」



凪咲は…正真正銘、僕のパートナーになった。僕が極度の寂しがり屋だから、と2人きりの同棲生活の復活を先送りにしているが…実は彼女も今の賑やかな生活を気に入ってるのだということを僕は知っている。……僕と凪咲は、この新たな日常を喜んで受け入れている。平和に過ごす日もあれば、別の日には世界を乱そうとする誰かを止めに行き、また別の日には手に入れた力に溺れた代行を止めに行く…。そんな、平和と危険が入り乱れているような日常を。



「あっ、右手のが近いのにわざわざ左手を使うんですね!?そうやって私に指輪を見せつけて!あー、そういう、そういうことするんですねー!……おトイレ、2週間」


「たまには負けてあげようか?じゃんけんのせいで私ほとんど家事しなくなっちゃったし、たまには掃除したいな…」


「そうですか…そうですか……ふふふふふ」


「私はチョキを出すから」



突然現れた凪咲の家族は、今は近所に…しかも一軒家に住んでいる。ナギさんにヒカリさん…そしてモモ…もう1人いるらしいが、誰も教えてくれない。たまに煙突から黒い煙がモワモワと出ていくのを見ると、何かの気配を感じるが……。



「ああああぁっ!!!負けっ……どうして!どうしてチョキ出すんですかー!」


「宣言通りでしょ?」


「そこはチョキに釣られてグーを出すだろうからパーのやつじゃないですか!」


「うふふ」


「うふふじゃないですよー!真さんっ、見ましたかー!?凪咲さんがまたじゃんけんに勝つんですー!」



「そればっかりは僕にはどうしようも」



「ありますよ!あたしをじゃんけんに負けない体にしてください!!さあ!どうぞ!」



「あはは……僕は自力で勝つとこが見たいかな…?」



「…真さん……あたしにそんなに期待してくれてたんですね…!?」



「えっ、」



僕の家にナギさん達が遊びに来ることは少なくない。なんなら、調味料を借りに来ることもあるくらいだ。そういうのもあって僕とナギさん達とで少しずつ距離が縮まって…時には代行との戦いに助っ人をしてくれることもある。創造の力とは違う魔法をメインで使うわけだが、僕から見てもこの一家は…強すぎる。



「ん、……サラからメール来たよ」


「どれどれ…」



「あー、ダメですよ真さん。逃がしませんからねー!」



サラとオヤブンのコンビは、今は悪霊祓いで有名になりつつある。呼ばれれば飛んでいって、1人と1匹がパパっと解決してしまう…霊能力者とかが仕事を失うような活躍っぷりで。オヤブンの能力のおかげで出来ていることだが、まさかそれでお金を稼ぐようになるとは……。といっても、謝礼はサラを満腹にさせること…らしくまず金銭は受け取っていないらしいのだが。でも多分お金を払った方が安く済む気がする。


そんなコンビを影で支えているのがダンとジュリア…なのだが、それはあくまでも衣食住の提供の話。しかも実際にサポートしているのは旅館で働くユキ達で。2人はというと、世界中を旅している。様々な代行と出会い、よりたくさんの創造の歴史を知るために。それが実質僕の助けにもなっていることは…内緒だ。



「今度は僕のスマホだ。…あ、ジュリアから。今フランスだって」


「フランスいいなぁ。私達も今度行こうよ。ほら、芽衣ちゃんの料理の勉強にもなりそうじゃない?」


「うん、いいよ。飛行機代かからないし…ね」



創造で瞬間移動してしまえば、世界中どこにだって簡単に行ける。これはちょっとずるい気もするが…代行特権ということで僕は納得している。



「…そういえば……」



瞬間移動で思い出したが。あれ以降、ィァムグゥルとアムグーリは完全に姿を消した。……というか、あの知らない外国人がそれだなんて思わなくて聞かされた時は大きな声が出るほど驚いた。世界のどこかで元気にしているといいが…。



「ごめんなさい。ちょっとテレビの音を…」


「ああ、ごめんね。朝から騒いじゃって」



明里がテレビに注目する。それに知花が申し訳なさそうに反応して食事に集中した。

……というか、



「これインドだ。しかもインタビュー受けてるのランヴィだし」



別れの挨拶をして気持ちよく解散した後……インドに戻っていたのか。テレビの中の彼は、一滴の水の活動により被害を受けた人達を救う団体を立ち上げたと語っていて。彼の戦いはまだまだこれから…のようだ。




「ふぅ…ただいま戻りました」



「栞、おかえり」



毎日のように朝早くから出かけている、栞。彼女は柊木家の代行達が残した記憶を拾い集めようとしているのだ。



「今日は1か所見つけました。2駅隣に、地元民が心霊スポットと呼んでいる民家がありまして……。そこの風呂場の鏡に触れたらちょうど、断片がその位置にあったようです。明里さん、朝食後にいつものように手伝ってもらえますか?」


「はい…お話楽しみです」



そして得た記憶は明里と一緒にノートに詳しく記録する…。少しずつ明らかになっていくが…やはり柊木家の代行はすごかった。僕が好きな記憶は、大洪水で逃げ遅れた一家を創造で助けたというもの。その一家が守られた場所には、今ではお地蔵さんが設置されているというのだから…驚きだ。



「真。ポストにこれが」


「え?」



姉さんに手渡された手紙。それを開封すると…



「ミハル達からだ」



日本のどこかにある、代行の学校。そこで僕のように一時的に先生をしている…のだが、そのメンバーにゼロやべダス…しかもネジュロなんかも含まれているのは衝撃的である。彼らが無事なのは…やはり僕が色々とねじ曲げてしまったからなのだろうが…。



「ネジュロに教わるのは嫌だな…生々しい変身か虫だもん……って、言ってるそばから」



手紙はほとんどミハルの愚痴だった……残りも近況報告というよりゼロとのお惚気け話で。ネジュロのせいで生徒が3人も木人になりかけた…とか、ネジュロが女子生徒の風呂を覗こうとした…とか、ネジュロが…ネジュロが…半分近くがネジュロの話だ。僕は意外とべダスの方が面倒だと思っていたが…向こうだとそうでもないらしい。



「あの…この封筒、切手が無いです…それに何も書いてないですし…この点々みたいな模様は…」


「明里。この手紙がどう届いたか知りたい?」


「創造絡みなんですか?」


「半分そう。正解はね、鳥なんだよ」


「伝書鳩みたいなことですか…!使者の鳥が手紙の入った封筒を…じゃあこの模様は足の…!」


「そういうこと」


「今日は忙しくなりそうです…」





「忙しいといえば。真、凪咲さん…昨日の依頼はどうなりました?」




今日は学校どうだった?みたいな感覚で軽く聞いてくる。



「簡単だったよ。ね、真?」


「まあ…一応」



柊木探偵事務所とかいう何でも屋。今の僕達の収入源だ。ラッキーストリートにある"事務所"は本当は力で奪い取った場所だし、一時的な拠点でしかなかったはずだから…もう必要ないのだが。いつの間にか凪咲が協力していて、営業するのに必要な書類やら手続きやら難しそうなのはダンの"友人"がやってくれたそうだ。



「事故物件の調査に、最近毎晩のように小学校に侵入してる人物の確保、あとは」


「……」


「ふふ。幽霊案件」


「幽霊じゃなくて使者でしょ…」


「聞いて聞いて。真ったら、団地で大騒ぎしたんだから」


「いいよ!話さなくて!」



もう幽霊とかそういうのは怖くなくなった。いきなり出てこられると驚くこともあるが、それは他の人でも同じことだ。今回のだって、夜中に6階からエレベーターに乗ると"出る"とか言って、何も無いかと思いきや3階を通過しようとした時に日本幽霊感の強い見た目の使者が外扉の小窓越しに顔と手をバンバン叩きつけるというだけで…。



「真さん汗かいてません?」


「かいてない!!」



「わたぁしのいぃえぇからでええてええいぃけえええ〜…」


「ちょっ、やめ、姉さんヘルプ!!」


「……いただきます」


「えっ、無視!?」




なんともまぁ騒がしい…。

内心喜んでいるくせに。

幸せに溺れ、油断し、再びトラブルに巻き込まれ、そして新たな敵に背後を取られる。

お前の気まぐれにはせいぜい気をつけろ。




「っ……」




…今でも時々、キャロラインの声が聞こえる時がある。僕にだけ都合よく聞こえる幻聴かとも思ったが、たまにその場に一緒にいる人が反応することもあるから……正直、説明が難しい。

可能性は探った。僕の中に彼女との繋がりが残っているんじゃないかとか、僕が声を変えて喋っているんじゃないか…なんてのも。でも、今でも原因は分かっていない。



……分かっていない、といえば。



あの"宇宙人"……




「真。ねえ、真ってば」


「うん、聞いてる…」


「メールで依頼が来たよ」


「そう…」


「飼ってる大型犬が殺されたんだって。でもやり方が不思議で、警察も捜査してくれてはいるんだけど全く進展がないって」


「ふーん…それで、どんな風に?」


「なんかね、死体を解剖してようやく分かったみたいなんだけど…どこにも傷が無いのに血と骨だけが抜かれてたって」


「……」


「なんかあれに似てない?えっと…ど忘れしちゃったな……なんだっけ」


「…キャトルミューティレーション」


「それ!!」



いくらなんでもタイミングが良すぎる。いるかいないか問題に、僕達が出会ったのが実は使者だった説に、創造とは別の特別な力が存在する説に……あの宇宙人のことでさえ色々と考えたいことがあるというのに。



「2人とも、今日も忙しそうですね。午後からは私も手伝いますよ。弟がマジやべぇって顔してるのに何もしないわけにはいきません」


「ありがとう、"お姉さん"。真って変なとこ怖がったりするから…ふふ」


「そんなんじゃないよ…もう」



逃げるように冷蔵庫へと目を向ける。ドアには賞味期限が近い食材リストや、中にあるプリンやアイス等の所有者なんかのメモがいくつも貼られてある。あとは…写真。旅館で目覚めたあの日に撮った集合写真。こんな人数で写真なんて学生時代以来だったが…その当時では分からない良さが、今は分かる気がする。



「今日も、頑張って生きよう」



それから、視線はテレビの上にある棚へと移る。知らない間に設置された棚だが、"ある物"を置いておくのにちょうどいい大きさで。


あの日、ィモタルアは去り際にもう1つ…僕ではなく凪咲に贈り物をしていたのだ。この世のものではない白い布に包まれた…白光を秘めた双剣。その姿形は凪咲にとって馴染みあるものだったらしい。ただ、もらってからまだ1度も使用していない。というか、出来ないでいる。持つことは出来ても、振ったり投げたりをしようとすると急に重くなって手から離れてしまうのだ。


これが必要になるようなことが無いように…ということなのだろう。



「あー!真さん真さん!テレビの音上げてください!」


「いいけど…あ。この2人…!」


「なになに?……スピリチュアル・リンゴ・バンド…えっ!?」


「知ってたんですか?あたし最近ハマってるんですよー!」


「「ええっ!?」」



凪咲と2人、目を合わせて驚いた。


毎日毎日何が起こるか分からない。


それを実感した瞬間だった。



「ふんふんふーん…!」



「ねぇ……真。今ギターの裏に」


「見えたよ。創造の書がくっついてた」



意外な人物がとんでもない存在だったりする。


世界にはまだまだ、まだまだ…潜んでいるのだ。


代行に使者に……本当に説明が出来ない現象も。


そんな危険で、怪しくも素晴らしい全てに、生きている間にどれだけ出会えるだろうか。



「あぁ……いつか生で聴いてみたいです…お小遣い貯めないと。チケットも即完売なんですよ?」


「知花ちゃん、実は私達……彼らに会ったことがあったりして…」


「え"え"っ!!なんで早く言ってくれないんですかー!」


「分かった分かった。じゃあちょっとだけ会いに行ってみる?向こうが僕達を覚えてたらサインももらえるかもよ」


「ま、ま、真さんっ……!!芽衣ちゃん!戻ってきたらご飯全部食べますから片付けないでください!よし、行きましょう!ね!ね!」


「そんなに焦んないの。じゃあ真……手繋ごう?」


「うん。……行ってきます」



((READ))












………………………………the end.









ここまで読んでくれて、本当にありがとうございました!


これにて、僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。は完結となります。


2019年10月からの長いお付き合いでしたね。これといって途絶えることなく更新を続けられたのも見てくれているあなたがいてくれたからです。楽しんでもらえたかは分かりませんが……書いてた作者本人としては楽しかったです。

もう次の話を書く予定はないので、これからは他の作者さんのを読んでみたり…時には自分のを読み返してみたり…のんびりなろうライフを満喫しようと思います。よかったら皆さんのおすすめや、自分も書いてるから読んでみてというのがあればコメント等で教えてください。あ、作品へのお褒めの言葉も全然受け付けてますよ?笑


それでは、さようなら。




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