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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第44話「男の試練」






「真の瞬間移動でもよかったんですが…。まさかまたネジュロの橋を利用するとは」


「高い所が怖いって素直に言えばいいのに」


「違います。ただ…手すりが細くて頼りないですし橋の幅も狭いですし、雑に見ても20mは地上から離れているのに…わざわざ斜めにかけた橋で下まで行く必要は……せめて階段…そう、階段ですよ。こんないつ足を滑らせるか分からない橋より…」


「嫌なのは十分に伝わってきたよ」



再び里を目指して…。

口数が激増した栞がネジュロの橋に文句を言うが、わざわざ創ってくれたということもあってか…僕の瞬間移動でさっさと解決するという選択はしない。

でも、気持ちは分かる。今の僕達は角度がキツい滑り台を歩いて下りていってるようなものだから。


それでも距離はそこまで長くないので、滑り落ちないように気をつけてゆっくり進んでもたったの数分で安心の地上にたどり着ける。



「儂は今のうちに雪を固めておく。でないと、さっきの爆発で地面が柔らかくなって…足がすっぽり…なんてこともあるだろうしな。ハマったら抜け出すのは大変だぞ?」



「…………ふ」


「キャロライン?」


「地雷は片付いたが、まだ罠は残っているだろうと思っただけだ」


「いや、さすがに全部吹っ飛んだって。一緒に見てたでしょ?正直僕はこの世の終わりを見てる気分だったよ?」


「破壊力は十分だった。でも爆発は同時ではなく連鎖…つまり、地雷の位置を予測するか運が良ければ」


「え?」


「少数でも万が一生き残ったとすれば。そこに災害を引き起こした者が現れたらどうする?お前は理不尽な不幸が起きた時、神を恨んだ事は無いのか?」


「……分かって言ってるくせに」


「今度の罠は間違いなく人間だ。わざわざ雪が全てを隠したのは私達の油断を誘うのと生き残りを隠すため…」


「考えすぎとは言えない…ね」



すると、キャロラインは黒水を発生させ地面に撒き散らす。黒水は程よい大きさの水玉になると数秒で兎に姿を変えた。

白の雪原に大量の黒い兎…里があった方向に走っていった兎達は



「何か見つければ私には分かる」


「あれだよね、キャロラインってかくれんぼで鬼やらせたら本気で怖いやつだよね。近くを通り過ぎたと思ったらホッとした瞬間にバッて見つけてきそう。絶対心臓に悪い見つけ方するもん」


「馬鹿か。隠れる場所が無くなればいいのだから」


「ごめん、全部聞かなかったことにして」



無駄話をしている間に地上に着いた。振り返れば橋は透き通って静かに消滅を始めていて。



「で。魔女の黒兎を追えば里に近づけるのか?神」


「一応、そうなるね。すぐそこだけど…でも気をつけた方がいいかも。キャロラインが言ってた通り、雪に隠れて僕達が隙を見せるのを待ってるのがいるかもしれないし。…里の生き残りじゃなくてもさ、こんな自然のど真ん中でしょ?」


「っ…スン………」


「トゥカミ?」



突然鼻で大きく息を吸った。黒猫の使者を愛でる食いしん坊が目の前に並んだ食事の匂いを嗅ぐ姿をふいに思い出したが…まさか、こんなに冷たい空気の中で何かを嗅ぎ分けたのだろうか。

軽く真似をしてみるも、鼻を通って頭全体に冷気が行き渡るだけで…何の得もない。むしろ冷えた鼻先が少し痛くなって損した。



「感知する力があれば気づける。私の言った通りになったと」


「……何か、いるの?」


「見ていろ」



キャロラインが右の拳を前に突き出す。そこからゆっくり人差し指を伸ばし下に向ける…と、黒水の兎達が一斉に雪の下に潜っていった。



「元は水だ。どんな隙間にでも入り込む。どこに隠れても無駄だ」



それから数秒。たったの数秒で。



「あっ……今あの辺で雪がボコって」


「何か出てきます」


「……………えっ!」



僕は咄嗟に栞の目を両手で覆い隠した。



「どうしたんですか。敵がいるのになんで」


「察して!なんか見せたくない!」


「はい…?」



この環境では衝撃的な姿だ。本当に、信じられない。

肌色ばかり…どう見ても、全裸だ。雪の下から裸の人間が出てきた。しかも直感的に男だと思ったら…案の定。


かなり仕上がった体をしている。


創造で手に入れたのだろうか…余計な脂肪も筋肉もない……素人目でも分かる"理想感"。芸術的に美しい肉体だ。


そして、彼に向かって兎達が集まっていく。雪の中で遭遇して出てきたのだろう…彼は慣れた感じで兎達を殴って…蹴って…



「黒兎に負けるような雑魚に用はない。少しは戦えると分かったが、私をその気にさせるにはまだ足りない」


「ならば儂がやる。"本物の雪"を前にすれば痩せ我慢も続かんだろうからな」



黒水が爆ぜていくのを見ていたべダスが1人で歩いていく。追いかけようとしたら、キャロラインとネジュロに止められてしまった。



「忘れるな。複製したということは"あれ"もお前の力の一部だ」


「信じて待てとかそういうこと?でも僕は卑怯だと言われても全員でボコボコにする方がいいと思うけど」


「その考えに反対するつもりはない。ただ、」


「……?」


「来るぞ」



「っ!!……キェラッヅェジジヂィ!!!」



トゥカミが吠える。でも…何も



「暗闇に潜む化け物より恐ろしいだろうな。白銀に潜む獣は」


「……え、嘘。待って。僕も今…気のせいじゃないんだよね?」



僕が驚いている隙に栞が僕の手から逃れて、現状を把握する。



「べダスは…なるほど。で、私達が相手をするのは体毛が雪と同化しているように見えてしまう"彼ら"ですか」


「判別、難しすぎるよ」



雪の上を歩く音が複数。そして、白い景色の中で…たまにいくつかの黒い点が見え隠れする。それが目だと気づいても、次の瞬間には見失ってしまって。



「原始人。お前の力で従わせられないのなら、相手は創造された獣だ。諦めろ」


「…。まだだ。ッ…ピィィィーーーーーーーーーーーーー!!」



指笛の音。綺麗な高音が鳴り響くと……本当に一瞬だけ、



「見えた…!!」


「思っていたより多いですね。ネジュロ、私達を木の根で囲って守ってもらえますか」



姿が見えた。一斉にこちらを向いた…獣………"狼"の姿が。

群れということになるのだろうが、…それにしては多すぎるように思った。



「どうせあの全裸男が群れのリーダーなんだろう?つまり、あれこそ生き残り…復讐者となった里の長……代行だ」


「使者の狼…!じゃあもふ助と同…」



「グァウッ!!」


「クックァウ!!ルレルレトゥ!!」



「あっ!トゥカミ!!」



もふ助と共に飛び出して行ってしまった。僕よりは全然敵を見分けられるのだろうが、



「向こうは群れだよ?囲まれたら一方的にやられる…!」


「ですがトゥカミ達が突っ込んだおかげで私達は攻撃に専念出来ます。あの人は自らを囮にしたんですよ」


「っ…」



多分…、今トゥカミは狼達と睨みあっている。お互いにまずは様子見…でも、有利と判断して群れが攻撃を開始すれば…トゥカミももふ助もそう長くは……あれ?こけ彦はどこに……



「ふざけた名前をつけたことを後悔するといい。あの"鶏"こそ原始人の覚悟の象徴だ」


「鶏って…」




「クェェェェェェェッ!!!」




すると、空からこけ彦の鳴き声が。見上げればちょうど…こけ彦はトゥカミに向かって真っ直ぐ急降下中で。

さらに空中で翼を広げたこけ彦は…光を纏って



「まさか」


「ああ、そのまさかだ」



トゥカミに直撃。小さな光の爆発が起きて、思わぬ不意打ちに狼達が怯む…おかげでまたしても姿がよく見える。



「動け。私達が攻撃しなければ原始人は餌に変わる」


「うん、…一気にやるよ」


「私も。……いきます!!」



黒水の矢、消し飛ばし、赤の光球。3種の遠距離攻撃が群れを襲う。



「さぁ!派手に撃ち抜くといい!!」



さらにキャロラインが矢とは別に黒水の雨を降らせる。そのおかげで…雪と同化していた狼達の輪郭が分かるようになって。僕達の攻撃が加速する。



「キェェェェアッ!!」



そしてトゥカミ達も攻撃に参加。少し前までの不安が嘘みたいに、一方的に攻めることが出来ている…。



「こっちはお遊びだ。あくまでもメインは"雪男対決"。さっさと片付けるぞ」



キャロラインの言う通りだ。早くべダスの方を手伝わないと…。












「ィモタルア様……」



「ほう。ィモタルアの関係者か。儂も"ペット"なら創れるが、今のお前は1人のようだ。ここは正々堂々1対1で戦うとするか」



「…73代目"ユキウミ"として、試練を与える。この地で死を迎えるか、それともさらに先へと進む資格を得るかは自由だ……挑戦者よ」



「それなら遠慮なく、その資格とやらをもらっていこう。ところで……雪遊びは好きか?」



「…?」



「雪合戦、儂は大得意でな。こうやって雪玉を」



「べう!?」



「相手にぶつけるだけの簡単なものだ。どうだ、気に入ったか?」



謎の全裸男と対面したべダス。余裕を見せながら、まずは先制。

足下の雪を拾って丁寧に丸い雪玉を作ると、男の股間部分に投げつけた。

無防備な急所に直撃…男は分かりやすく両手で股間部分を押さえて悶絶……危うく意識が飛びそうになるのを、どうにか耐える。しかし雪玉の威力が相当厳しいものだったらしく、高速で瞬きをしながら小刻みに震えていて。



「惜しいな。待ってろ、次こそお前がぶら下げているそれにクリティカルヒットさせてやる」



「っ!!」



もう一度雪玉を握るべダス。しかも今度は何度も雪玉を叩いて固める作業を追加する。

確実に威力が跳ね上がるのを理解した男は、素早く首を横に振りながら拒否の意思を示す。


しかし



「最近知ったことだが、世界には"野球"とかいうものがある。球を投げて、棒で打ち返すだけのなんともまあつまらなそうな遊びだが…どうやら人生をかけてそれを極める人間が大量にいるらしくてな。なんとなく映像を見ていたら、気づけば儂も真似事をしていたくらいには面白い。で、せっかく今この場に球と棒が揃っているのだから…」



「ま、待て…挑戦者よ、待て」



べダスは少しも遠慮しない。男が最悪の想像をしてしまうような話を聞かせて恐怖を煽ると、拠点で見たスポーツ番組にて解説されていたとあるプロ野球選手の投球フォームをそっくりそのまま再現してみせた。



「こうして…ここで腰の回転を混ぜ込むと体重が乗る。そうすると球威が…ふんっっ!!!」



直後、敵味方問わず全員の注目を集めるほどの悲鳴が響き渡った。
















………………………to be continued…→…


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