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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第40話「歓迎の挨拶」







「わぁ……」


「キャロライン、駄目ですよ。相手の素性が分からないんですから……重要な役割を任されている方々かもしれません」


「槍を喉元に向けられて大人しくしていろと?」



瞬間移動してすぐに、全身を冷たい風が撫で回した。そういえば来る格好を間違えたな…なんてのんきに考える暇はなく、視覚が僕達を囲う集団に気づけと必死に訴えてくる。



「ぐる…くぅ〜…ん……」


「シェパ…レリリァ…」



このタイミングでもふ助が心が痛くなるような切ない声で鳴く。それは当然といえば当然で…僕達を囲うこの人達が着ているのはリアル過ぎる"毛皮"なのだ。しかもフードのように彼らの頭に乗っかっているのは…どう見てもオオカミの……


続けて獣臭いと感じて、その中に濃い血の臭いがよく混ざっているのが分かった。

完全に狩る側狩られる側で立場が成立しているのをもふ助は察した…だから恐怖しているのだ。

トゥカミが声をかけても落ち着く気配はない。



「……言葉は通じる?」


「小僧、コミュニケーションは不要だぞ。ィモタルアはお前が瞬間移動することを分かってこいつらを寄越したんだ。…もう試されている」


「そっか。なら、僕が戦うべきだよね」



べダスの言葉で冷静になる。近くに特別な気配はない。

試しに僕が1歩前に出てみると…



「ふん…つまらないものは見せるな。相手はまだ"人間"だ。手こずるようならお前ごと攻撃してやる」



集団は囲む形から移動して…僕の前にズラりと並んだ。

キャロラインが不機嫌にならないように期待に応えてやらなければいけないが、ここは冷静に。


敵の数は13。全員が槍を持ち、全員が毛皮を被っていて…統一感がある。しかし1人ずつ顔を見ると、性別に体型に…バラバラだ。額から目の下にかけて大の字になるように赤いメイクをしていて…



「さっさとしろ」


「はーい…」



急かされたので仕方なく。下に向けた右手をゆっくりと持ち上げる……敵達は何をされるのか、分かっているのだろうか。じっと待ちながら…しかし目線は僕の右手ではなく…僕の頭上。


さては、触手のことを…!



「白桜、そして白真……舞え」



もはや斬撃を生み出す魔法のように、一切姿を見せない創造刀。呪文を唱えれば、僕達と敵達の間に"大きな溝"を創りながら確かな一振りが音ごと敵を斬り捨てる。


完全なる無音、そして皆殺し……といきたかったのだが。



「キャロラインが言ったんだよ。この人達は"人間"だって。代行でもないならこれでも十分」



槍の切断。それと腕に"深い切り傷"を。数秒遅れて両腕にパックリ割れたそれを見た彼らは



「まるで興奮した猿だな」


「んぽぽぽぉい!!」


「黙れ爺」



使い物にならない武器を捨て、飛び跳ね、互いを見て発狂しながら…逃げていく。


そしてようやく。今さらになって、



「ねえ…雪すごくない?」



移動した先。北海道の"どこか"の景色に触れた。

べダスに会いに行った時のと比べるとさすがに負けるが、こっちは完全に自然の力だけで出来上がったものだと考えると十分すぎる。



「意識すると寒く思えますね。木々や崖の雪が乗らない部分の輪郭が無ければ世界は白一色で、簡単には身動きが取れなかったでしょうね」


「スレケ…デンチョ…」


「……ぐふ、ぐふ」



試しに栞が何度か足下の雪を軽く蹴ってみる。すぐに地面が露出しそうな雰囲気ではある。大体30cmほどの積雪だろうか…周囲の景色のわりに積もってない。


そして、トゥカミの指示でもふ助が敵の落としていった槍の臭いを嗅ぐ。この状況で嗅覚を使ってさっきの集団を追うつもりなのか。



「瞬間移動する地点まで分かって人間達を並べたんだ。今後お前が瞬間移動で"ズル"をしようとすればィモタルアも相応のやり方で迎えるだろう。だから原始人は原始的なやり方で」


「里を見つけようってわけだ。小僧、そこをどけ」



喋りながら僕の隣に来たキャロラインは、僕の手を引っ張る。それに合わせて前に出てきたべダスは両手を足下の雪に向ける。


……雪が…震えている。


しばらくすると、地鳴りのような音が…遠くから耳に届く。



「爽快だぞ。しっかり見てろ」



両手を動かしたべダス。その動作は、まるで両手でドアを押し開くような……



「えぇ…これが自然の力に特化した代行のやる事なの…?」



僕達が見ている前で彼は……雪を割った。それこそ、海を割ったのと同じように。彼を起点にずっと先まで…地面だろうが植物だろうが……地形も何もかもを無視して、雪だけが左右にズレていく。

雪かき要らずだ。いや、実際はこんな言い方じゃ足りないくらいに迫力のある光景なのだが



「奇跡…ですね」


「うん。僕もそう思う」



「んぽぉう!!マコッティ、まだ足りないよォ!」



そこに自信満々で出てきたのはネジュロだ。べダスが雪をどかして白ばっかりの景色にいくつか色が追加されたところに、今度は



「こういうことも、出来るっぴょん」



瞬時にネジュロの肌が人間のものから大木のようなものに変わる。そして僕達が向かうことになる直線の道に…木製の橋が創造されていく。別に下に何かがあるわけではない。普通の地面が露出していたのに。



「ィモタルアの罠だひょ〜。雪で隠したんだぽ。"地雷"を」


「ぇ。早く言ってよ!?僕さっきさ、ちょっとカッコつけた感じで前出たんだよ?その時に地雷踏んでた可能性もあるんでしょ!?」


「んぽぽんぽ…ぽぽ」


「まさかそれ、笑ってる?」



「地雷か。たとえば…こんなものか?」



ちょっとだけ僕がネジュロに腹を立てたその横で、キャロラインが黒水を小さな球体にして飛ばした。

狙ったのは僕達からそう遠くない…両脇に木が生えている、ちょうど間を通りたくなるような場所…



ドッ…………!!



「きゃ、」


「姉さんっ」



黒水が正確に命中し地雷を刺激すると、大量の雪を吹き飛ばしながら水色の衝撃波が間欠泉のように吹き上がった…。



「邪魔な雪が取り除かれたことで、木々に特化した力を持つお前は地中の木の根が感じ取る違和感を受け取ることができたわけか。デズェウムの時もそうだったが、お前達"年寄り"は相性が良いようだ」



キャロラインがべダスとネジュロのコンビを認める。



「アゥーーーーーーン……!!」



「え、今度は何?」



突然のもふ助の遠吠え。注目すると、もふ助の背中で待機していたこけ彦に変化が。



「真。こけ彦が…」


「うん、体全体に竜の鱗みたいなのが」



「クエッ…クッ…グオォゥルルル!!」



「鳴き声まで変わりました…!!」



この変化現象に名前を付けるなら間違いなく"竜化"だろう。見た目で分かる頑丈さを手に入れたこけ彦は、…………飛んだ。


羽ばたくのは1度だけ。それだけで真上に吹っ飛んでいってしまって。



「今の…すごいけど、足がもふ助の背中を掴んでたらそのままもふ助も空までいってたよね…」


「やめてくださいよ。変な想像しちゃったじゃないですか。トゥカミ、今のは?」



「偵察。空にも罠があるかもしれない」



「そんな、空に罠ってどういう…」



ゴロゴロ…



「うそ、え、うそぉ…」


「今度は雷…しかも水色の」



空は抜群の曇り空。二度と青空は見せないと言われた気になるほど、どこまでも雲、雲、雲…。そこからちらほら雪が降っているが、そんなのどうでもよくなるのが…極太の落雷だ。ハッキリと今"落ちてますよ"と主張してくるあの水色の雷は、まず自然のものではない。創造するにも遠く離れた空であれなら…べダスやネジュロと同等の代行であるのは最低条件。


というか、あれに直撃したら即死じゃ済まない気がする。



「クェェェェッ!!」



ィモタルアの"歓迎"にドン引きする僕と栞。そこに気合いの入った鳴き声と共にこけ彦が高速で落ちてきた。竜化が解けている…もしや今の短時間で…



「キッペェェェア!!」



かけられた声に反応し空中で体勢を立て直すと、こけ彦はトゥカミの肩を目指して飛行…無事に着地した。

口をパクパクさせながらキョロキョロと…こけ彦、大丈夫かな…



「空を飛ぶと雷に撃たれる」



「でしょうよ…」


「ですがこけ彦の防御力の高さが分かりましたね、無事でよかった」



「こけ彦は、創造を弾く力を持ってる。だから生きて戻った」



裏を返せば、自然の雷に撃たれるような偶然が起きていたら…




「いくつも罠が仕掛けられていることは分かった。もう十分だ。まずはさっきのを追いかけて里を目指す…それからだろう?」



色んなものに流されて、反応することに忙しくなっていた僕をキャロラインが引き戻す。

何をすべきかまで丁寧に教えてくれて、…素直に感謝しかない。



「よぉし…行くか。小僧、先頭は儂に任せろ。いくらか物足りないが、こういう場所は儂は得意だ」


「んっぴょい。ならその次を歩くっぽん。方向修正も2人でじゃないと難しい」



べダスとネジュロが歩き出す。橋の上の歩き心地は良さそうで軽快に進んでいくから、僕も急ごうと



「神。前を歩かせてほしい。もふ助は臭いを覚えた。いつどこから敵が来ても分かる」


「ばぅ」



…横からトゥカミ達に抜かされる。そうなると自然に僕達は最後尾…



「栞、前を歩け。そして私が1番後ろを歩く。お前は間に挟まれろ」


「あ、はい…。じゃあ栞、行こう」


「正直なことを言うと、すぐにィモタルアに会えて真だけが力を試されるのかと思っていました。…良かったですね、全員で来て」


「……それはすごく思う」




ふと思う。

そういう選択もありえたはずだ、と。

学校での出来事の後…栞を容赦なく殺していたら。

もしくは、強い代行達を複製しなかったら。


僕1人でもきっとデズェウムとの戦いは問題なく勝てただろう…そもそも争いにならないだろうが……。


でも、僕1人なら…1人なら



「ィモタルアのことを知ることもなかった。馬鹿か。お前は時々、様々な記憶を時系列も無視して混ぜ込むことがある。下手な妄想癖を持って育ったと思って同情しそうになった時もあるが、まさかここまでとは」


「そんな指摘は初めてだよ。…ねぇ、キャロライン?もしかして創造されてからずっと僕のこと」


「退屈しのぎにはなる。お前の20年近くを"読み漁る"のは。今のお前の不安なら、半分的中している」


「……」



「真、何の話ですか?」



「えっと、」


「この男は原因だけは明確な特殊な病を」


「キャロライン、」



「病気…なんですか?」



「別に日常生活に問題はない。ただ…記憶がごちゃ混ぜになった結果、本来自分が知るはずのないことなんかを思い出したりする」



キャロラインはこう言っているが、実際…原因は確定してはいない。

現在から過去へ移動したこと?世界が結子の時割れに乱されたのがいつの間にか僕にも影響していたこと?

他にも原因候補はいくつもあるだろう。特に強いのがこの2つというだけで。



「何にしても、お前は他の人間より生きていて退屈しないのは確かだ。"苦痛"に愛されていたとしても」


「…大丈夫ですか、真。水、飲みますか?」



「いいよ。ありがとう」



さりげなくキャロラインの発言に助けられる。妄想癖とか言ってたくせに。

本来自分が知るはずのないこと…そう、それだ。さっきのもしもの話の考え事のように僕自身の思考が僕を迷わせたりするが、今はハッキリ分かる。



「ィモタルアの名前なら…見てた」



でも僕じゃない。"彼"だ。



「ランヴィ」



どうして彼の記憶を僕が知るのか、分からない。だけど確かにそうだった。ランヴィが代行になったその時、確かにその名を目撃していたのだ。



「……あ。キャロライン、キャロライン?」


「今度は何だ」


「思考…分解して。分かるでしょ…余計なものを除外して必要なものだけをさ…」


「……読み上げてやろうか」


「むしろそうして」


「"ようこそ。母の元へ辿り着きたくば、この声を頼りに進め。まずは歓迎に現れた民族の里を訪れ、【災害】によって滅ぼせ"…だそうだ」


「自分のじゃない記憶を思い出すのは、"これ"の力だったんだ」



キャロラインの方を向いて僕は自分の目を指し示した。彼女は小さく頷いて理解してくれた。



「なら妄想癖はその特異能力を開花させるための下準備のようなものか。よかったな、ただの馬鹿かと思ったら実は、」


「来る」


「ああ…来る」



目の奥の華が僕にまた新たな力を授けた。それに気づいたことをキャロラインと喜びたかったのに、僕達は



「…ん?2人ともどうしたんですか、空を見上げて歩くと足を引っかけて転びますよ」



「全員伏せろ。私と真で対処する」



空を見上げて笑っていた。


たった今、ィモタルアが残した記憶のメッセージを受け取ったばかりだというのに。


全く同じように、別の存在の記憶を僕が思い出してしまった。

遠くからわざわざ…こんな場所まで、ご苦労さま。



「今度は私が手柄をもらう」


「好きにして」



雲を突き破って、僕達に向かって落ちてくる。

記憶に新しい…未知の生物。

……宇宙人が。
















………………………to be continued…→…


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