表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
425/443

第39話「ピーター人形」








「…………」






人形が、ひとつ。ポツンと部屋の真ん中に座っていた。

部屋自体はかなりシンプルで、明かりは頼りない光量しかない電球のみ。必然的に暗めな演出がされる部屋の中は家具などが全くなく、赤いカーペットが敷かれてあるだけで……


というか、あの店主はどこに?


静かに踏み入り…人形の前に立って見下ろす。4〜5才くらいの子供が足を投げ出して座っているようにしか見えないのは、同年代の本物の人間が実際に着ていそうな服を着せているからだろう。人形らしく着飾っていないせいで変にリアルだ。

でも、顔は案外そうでもない。こればっかりは人形らしい。外国色が濃い…日本人形のような、現代では個性を強く感じる顔だ。



「男の子…」



「やぁ、僕はピーター」



「……」



喋った。口をパクパクさせながら…録音済みの音声が流れたようだ。大きい人形だし、それくらいの仕掛けがあっても不思議ではないが



「君の名前は?僕はピーター」



「……」



「名前を教えてよ。僕はピーター」



ふと、この声を吹き込んだのがどんな人なのか気になった。少年役が似合う…それなりに歳を重ねた女性声優のような…アニメで聞いたことがありそうな声。

個人的に僕が想定している年齢とは違う声だ。これなら10才くらいには



「ねぇ、名前を教えてよ。僕はピーター」



なんでそんなに名前が知りたいんだ、このピーター人形は。ただ、それでも答えるつもりはない。

無言のままそっと手を伸ばし、ピーター人形の髪に触れてみた。



「ミルクティーみたいな色」



「てめぇいい加減名乗れよ。僕はピーター」



「……」



急に口が悪くなった。一旦人形から目を離し、周りを確認する。明るさのせいか少し狭く感じるような…いや、店主が見当たらないことも考えると…わざと部屋を狭くしているのだろう。薄暗い部屋の角に小さな取っ手が見えてしまった。あそこから入って壁の裏に隠れているのか…。



「おい、いい加減名前を」



「…ィモタルア」



「……」



今度は名乗ってみた。偽名だけど。

すると人形はしばらく黙ってから



「…ィモタルア。お願いごとをしてもいいよ。僕が叶えてあげる」



なんか言い出した。なるほど、ここで願いを言ったら叶えるふりをして、ついに正体を現すのか。



「じゃあ、ずっと想ってるあの人に会いたい」



「……」



さあ、どう出る?



「……ナギサ、だね?」



「え」



「いいよ。叶えてあげる。じゃあ、右手を出して」



「…」



どうして彼女の名前を?創造で心を読んだのか?



「右手を出して」



「……」



思わず、言われた通りに右手を人形の顔の前に出した。



「願いを叶えてあげるかわりに、指を3本、もらうね」



「…」



き、きたーー…!!よかった。ボロを出してくれなかったら、ピーター人形のペースに流されるところだった。

素早く手を引っこめると、ピーター人形が瞬きをした。カチカチと部品が音を鳴らす…



「あれ?どうして?会いたくないの?」



「……」



「じゃあもういいよ。ィモタルア、バイバイ」



「…」



みしっ



床の軋む音。ここで気づいて振り向いた時には、背後に迫っていた店主に攻撃をもらって気絶…それがいつものやり方なのだろう。


でも、



「ぇあ、ひぃっ!?」



「ごめんね…隠してたつもりはないけど。僕も代行なんだ」



触手で振り下ろされるはずだった両腕を掴んだ。どうやら逆さに握った包丁で突き刺そうとしていたらしい。



「う、後ろにも目が」



「あるわけないよそんなの。でも分かる。だって…あなた、弱いもん」



どんなに気配を消したところで、ピーター人形が襲ってくるか背後から店主が襲ってくるかの2択しかない。これに引っかかる方が難しいのだ。


…といっても、僕も下手したらそうなっていたのだが。



「……あった」



別の触手で店主の体を探ると、腹にちょうどいい大きさの物体を隠していた。



「創造の書を僕にくれたら、見逃してもいいよ」



「…ば、馬鹿なことを言うんじゃないよ!!これがあるからピーターが…息子が人間になっていくのに!!」



「ん?」



流れからして今度はピーター人形が動くと判断。右足で思いっきり蹴飛ばしてやると、



「ふぅあっ…!?……ひどいよ…なんでそんなことするの…ィモタルア……僕だよ、ピーター。君のいちばんの友達」



壁にぶつかって倒れたあと、自力で起き上がった。



「へ、へへ、うへへへ……!!息子と2人だ。でもお前は1人。ここから逃がしはしないよ。気絶させて生きた臓器をもらう。そうすれば息子は母親の手料理がまた食べられるようになる…!!」



「それ設定なの?何人も襲って体の一部を奪っていって、最終的にそこの人形を本物の人間にさせよう…みたいな。最初から息子を創造すればいいのに。…死んじゃったとか?」



「……っ、」



「え。もしかして思いつかなかったの…?」



「う、うるさい!!今度は長生き出来るようにたくさんの血肉が必要なんだよ!!ピーターっ!!こいつは動けないから殺ってやりな!!」


「分かったよ。ママ」



色んな意味で可哀想な親子だった。



「さすがに2度も息子を失ったら精神崩壊しちゃうよね…。でも、やり慣れてる感じからしてもう何人か殺してるんでしょ?それなら…僕も遠慮しないよ」



トコトコと向かってくるピーター人形。特に武器も持たずにどうするつもりなのか…でも、見届けてやらない。



「バイバイ、ピーター」



「え?」



((PROMISE))



「ほぇ…ピ、ピーター……?」



「創造の書を差し出せばこんな事にはならなかった、かもね」



奪われることの悲しみを知っているからこそ、これこそが最大の罰になると思った。

法で云々、刑務所行き?そんなんじゃ反省なんてしない。



「ピーター…ピーター……、どこ……」



「さてと」



「いぎゃあっ!!」



触手で手首を叩く。武器を取り上げるのと同時に押し倒して、服を捲る。



「腹巻きで固定してたんだ…?」



「うっく…ひっ……ピーターは…ピーターは」



「もういない。残念だったね」



「そん、なぁ……」



「このまま悲しみに抱かれて死ねばいい。殺した人への償いとして、ね」



手に入れた創造の書は薄紫色…だった。開いてみると、これまたいちいち手間のかかる……



「創造の数は多いけど全部ピーターのもの。奪った体の部位をピーター用に変換するって…わざわざ手とか足とか別々にすることないのに」



「……そうしないと…頭痛が……頭が割れそうだった…」



「でも元気な姿の息子にまた会えるんなら、無理をしてよかったんじゃない?僕ならそうする」



「…………」



店主…ピーターの母親は、静かに泣きはじめた。敗北と、息子を失った悲しみと、創造の書を奪われたことでもう一度最初からやり直すことも出来なくなったのもあって…相当ショックなのだろう。


書き込まれているページを目の前で破り捨て、ちょうど顔の前に落としてやる。すると、店主はもう何の力も持たない紙の束を大事にかき集めて…抱きしめた。



「それじゃ」



((PROMISE))








………………………………next…→……









「っとと…」


「わ、真…早かったですね」



拠点に戻ると、ちょうど目の前に栞がいた。ぶつかりそうなくらい近くてお互いに1歩下がり…それから



「それが」


「うん。奪ってきた。持ち主には悪いことしたけど…でも向こうも人殺してるし、いいかなって」


「そうですか」


「はい。これ使って」



明るい場所で見ても、やはり表紙の色は薄紫だった。創造の書を手に取った栞は大体のページの残量を確認すると



「ありがとうございます。…じゃあせっかくなので、いただきます」



両腕で抱きしめるようにして、個室に入っていった。



「神」


「小僧。まとまったぞ。来い」



「うん…」



2人に呼ばれて振り向く…と、床に倒れているネジュロの姿が。



「え、どうしたのこれ。右手まっ黒だけど」



「摩擦熱で焦げた、とかそんなものだろ。それよりも、だ」


「神…ィモタルアは危険」



「…詳しく聞かせて」



「まず、このィモタルアだが…そうだな。儂のイメージでは"生産者"ってとこだ。創造の書という名の種をまいて、無事に育った"果実"のみを収穫し、何処かに持ち帰る…それを何年も繰り返している。古い歴史でも度々ィモタルアのことが語られているとかでな」


「言語を持たず、絵で情報を伝えていた時代にも登場していた。神。ィモタルアは目の前に現れた代行を試す。創造の力を…。それが示せなければ」



「……どうな、いや、聞くまでもないか」



「儂はどっちでもいいが、この小娘が今はまだその時ではないとうるさくてな。まあ確かに、何千年と生きてきた人外の存在を相手に力を示すのは難しいだろうが」



「でもネジュロはその…"合格"する自信はあったみたいだけど」



「んぽ…マコッティ……自然の…"地球"の生命力を味方にすれば…実力以上の力が……」



「なんかすごく燃え尽きてるけど。…うわ、」



ふと視線がゴミ箱に。紙、紙、紙……くしゃくしゃに丸められたメモ用紙のゴミが山盛りになっていた。

これ全部に長文を書いていたのなら……それは疲れてもしょうがない。



「自然の力か。儂も同意見だ。小僧、儂やネジュロのような力も身につけておけ。いざという時、"向こう"から助けてくれる」



「そんなの急に言われても…うーん……」






「問題ないです。私がいますから」






そこに、自信ありげな声が。全員が注目する、と…



「栞、姉さん…?」



両方の手のひらを上に向けて立っている彼女。そして…その周りを浮遊するのは



「私の創造です。【柊木式五行球】…2人がネジュロの情報をまとめているのを聞いていたら、必要になる気がして。ずっと想像していたんです」



赤、青、緑、黄、灰……5色の光球。それぞれが手のひらサイズで、栞の意思に応じて浮遊しながら自由に動き回っている。



「真に足りない部分は私が補います……ふふ」



右手をゆっくり振ると赤の光球が僕達の中心にやってきて…燃えた。



「火。熱も自由自在です」



そこに今度は青の光球…燃える赤に対して水を噴出して鎮火した。



「水。望むなら、"それなり"の量を出せます」



次は緑…光球からニョキニョキと、盆栽のような木が生えてきて。



「木。ネジュロほどではありませんが、似たようなことはできます」



そこに黄。緑の光球にまとわりつくと、生えた木の枝に…石が実った。



「金。見ての通り鉱物を操作します。好きな場所に好きなように…」



最後…灰。ゆっくりと僕達の前にやってきたそれは、



「これはまだ秘密です」


「えっ、ここまで来て?」


「はい。きっと、ィモタルアは私達には興味を示さず同じ目を持つあなたに夢中になるはず。そうなったら、あなたが知るものを得るために記憶を読み取るかもしれません。なのでまだこの灰の球だけは秘密です」



……気がついた。全員、目が本気だ。やる気が漲っている。

会いに行けば、ィモタルアとの衝突は避けられないらしい。



「行くと決めたのなら、私達はあなたについて行きます。順番が変わるかもしれませんが、考え方を変えれば複製した代行よりもさらに強い力を得られる可能性もありますから。もしそうなれば、少し先の未来に起こる悲劇も…」



「ふざけるな。ぺちゃくちゃと…。とっくに私は行くと決めていた。…さあ、準備は終わったぞ……真」



「キャロライン…」



部屋から出てきた彼女は、自身の体を抱く黒いモノに気づいているだろうか。これまで見てきた黒水よりよっぽど深い黒で…



「見ているだけで背筋が凍るだろう?」



「僕達…仲間だからね?」



「ふはは。安心しろ」



味方なのに心強いどころか恐ろしい。

キャロラインは……明らかに凪咲と成長度合いが違う。もしかしたら、いつか僕の力すら上回る可能性も…



「マコッティ…ちょっと……治して」



「あ、うん。わ、わかった…」



雰囲気をぶち壊すネジュロ。バカみたいなヘラヘラした声で回復を求めてきたので、癒してやることにした。



「ばふっ!はっはっはっ…」


「……、」



元気になったネジュロが立ち上がり、ぴょんぴょんとその場で跳ねて体の調子を確かめていると…もふ助がやってきた。しかも背中には



「トゥカミ…?」



「竜鳥。メカダミラ」



「……多分マカダミアだ」



「でも、神が名前をつけてもいい」



「あの…えっと」



中型の猛禽類のような…新しい動物。

鷹のような鳥が竜の翼と尾を手に入れたような姿で、全体的に白っぽい体をしている。赤く鋭い目に同色の嘴…正直、かなりかっこいい。

両足はまるで獰猛な恐竜のようで…もふ助の背中が傷ついてないか心配になる。



「名前…こ、こ、こけ彦」


「なんでもふ助に寄せようとしたんですか。しかもこけって…なんのこけですか…」


「…ニワトリの…コケコッコー……」


「今のうちに言っておきますけど、いつか子供を授かった時は絶対に名前を考えないでください」


「うぐぐ…」



「クエッ!!」



「…でも、反応良さげだよ……?」


「そんなまさか」


「こけ彦?」



「クエッ!!クックッ…クエェッ!!」



「おお…」


「信じられません…」




名前を呼ぶとちゃんと反応してくれた。しかもそれだけでなく、上を向いて…微量ながら炎を吐いた。ボッと上がる可愛らしい大きさの炎を見て、気づけば僕は拍手をしていて。



「ペットの芸じゃないんですから…」


「まあまあ。気に入ってくれたみたいだし」




これで改めて、準備は整った。

僕が何も言わなくても全員が僕の近くに集まってきて、それぞれが僕の体に触れる。




((PROMISE))














………………………to be continued…→…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ