第21話「木人ネジュロ」
「というわけで、そろそろ次の代行に会いに行こうと思う」
結局僕はそんなに体を休ませることはなかった。でもキャロラインのおかげでまた強くなれたし、今は"流れ"が来ている気がする。気持ちが乗ってるうちに"彼"を仕留める方がいい。絶対に。
キャロラインの部屋にお邪魔した僕と栞。正直、入った瞬間は少し気まずかった。強者の雰囲気が常に漂う彼女が部屋で普段何をしているのか…それを知った時は。
「私を見て困った顔をしたかと思えば」
「壁際で小さく丸まっていたら驚きますよ。人目がなければあなたはただの」
「今の私の強さはその男が決めたこと。素の私は私だけが守る。それだけだ」
寂しがり屋。元いた話の中でも、キャロラインはずっと母親を求めていたし…そうなるのが自然だと思う。
……いつか心を開いてくれたりするのだろうか。
「ふん…」
膝を抱いて限界まで小さくなっていた彼女が立ち上がり、いつもの圧を放つ。気持ちを切り替えてくれたところで改めて。
「次の代行は、ネジュロ・バウアス」
「外人か」
「多分インドまで行くことになる。まあ特に気にすることもないと思うけど」
「移動手段はもちろん"真"なんですよね」
「僕を乗り物みたいに言わないでくれる?実際そうなんだけどさ」
「で?どうしてお前はそんなに不安を抱く」
「……」
「真?」
「私はお前の使者。だから分かる。わざわざ聞いてやったのだから吐き出して楽になれ」
「ネジュロは…、べダスも十分強かったけど、あの人はもっとかもしれない。僕達の戦力を思えば」
あの時と比べれば明らかに今の方が希望がある。だけど、彼との戦いでは僕が"412"であったことも戦況に大きく影響したのは事実だ。
「すぐに終わらせればいい。まともに戦いたくないのなら、離れた場所から撃ってやってもいい」
「当たり前に同行しようとする私が心配…なのですか?」
「分かった。じゃあ一旦、2人とも僕の記憶見ようか。ね?」
2人の肩に手を置き、すぐに記憶を覗かせる。インドでの出来事を重要な部分だけまとめて……
「っ……」
「あの、真。今のが捏造した記憶という可能性は」
「本物だよ。もし負けたり捕まったりするようなことがあれば、キャロラインも栞も」
「体内に変な虫を飼うなんて嫌です。しかも体を食い破って外に出てきたり、口から大量に出てきたり、全身の穴という穴から」
「なんか勝手に酷くなっていってるけど」
「策はある。力もある。正面衝突を避けて戦闘不能にしてさっさと済ませればいい」
キャロラインも嫌そうだ。よかった。ネジュロがヤバい相手だと伝わって。
「ですが、あの老人が仲間になれば」
「すごいよね。あの人。同じ力を欲しいとは思わないけど」
少しの間、沈黙。全員がネジュロの強さを理解しているが、人間を自然と一体化させるために行っていた毒による人体実験が……どうしても、頭に残る。
「負けないこと。捕まらないこと。か、簡単ですよ」
「何かあれば経験者であるお前が対応する。そうだな?」
「キャロラインの矢の攻撃に頼る作戦でいくから。よし、決定!行こう!」
そもそも、ネジュロの売りは【木人】だ。それと一時的に創造が出来なくなる現象も…結子ほどのものではなくても、十分に強力だ。
というより、僕がネジュロを狙うのはそれが目的だったりもする。
結子の創造を先に封じてしまえばいいのだ。そうすれば、未来の僕達が創造を失うこともなくなる。はず。
((PROMISE))
………………………………next…→……
「……ここか」
次の瞬間、僕達が立っていたのは"屋上"だった。この屋上は僕が脱走する時に来た場所。
「夕方ですね。白い洗濯物が大量に干されていて…でもよく見ればシミが。この汚れ方は、寝ている隙に刃物で刺し殺した時に」
「いいよそんな分析。…妙に詳しいのも今回は見逃す。それより、ここから建物の中に入って」
「盾となれ」
僕の話を遮るようにキャロラインの黒水がどこからともなく出現し、半円形の盾となって。直後、その盾が弾け散った。
「良い事だ。探す手間が省けた。ただ、相当機嫌が悪いらしい」
「栞」
「言われなくても私は自分の身を優先します」
まさか屋上にいたなんて。干してある洗濯物のせいで見えなかった…としても、気配くらいは
「長いこと、探した」
「…?」
歩いて僕達の前に出てきた彼は既に【木人】となっていた。肩から腕…それに脇腹も…ほぼ全身に、彼の虫達がくっついて待機している。僕達が現れるのを知ってたのかってくらいに準備がいいというか、
探した?
「分かるぞ、その体に流れる血。その目に宿る意思。年齢が100を超えても生き続けてきたのは、個人の欲のためだけではない。……200歳になるまでにもう一度と思っていたのに、130代で叶うか」
「茶も出さずに長話…付き合ってられない。老害よ、沈め」
深緑色の木の体がミシミシと音を立てる。それは決着を急いだキャロラインの黒水の矢に対応するためだろう。でも、やっぱり少し早い。
……キャロライン、攻撃を中止して。僕がやる。
「防御くらいは崩してやる」
放たれた矢。あのべダスですらお手上げの威力だが、ネジュロは
「再び会うためにどれだけ殻を破ったことか」
自身への直撃を許した。木っ端微塵になると思ったが、少し木片が飛び散ったのと虫が数匹即死したくらいで。これでは軽傷にもならない。
「トラル・ィモタルア。お前の目の前にいる代行こそ、この地球を正しく生かし導く者。さあ、その目で資格を認めろ…そして連れて行け…"万物の母"の待つ場所へと」
「腹に穴が空く程度の威力はあったはずだ」
少しも効いてないことに焦るキャロラインだが、それ以上に僕は困っていた。
ネジュロが一方的に話していることが意味不明すぎて。
なんとなく、僕の方を見て言ってるのは分かる。一応隙を見て後ろを向いてみたりもしたが、僕達とネジュロ以外屋上には誰もいない。
……いや、待てよ。万物の母?
「その取り巻きと力比べをすればいいのか?であれば、存分に見せつけよう。…力の全てを」
「逆に利用してやる。応えろ…ゼグエグ!!」
建物の外壁やら何やら、色んなところでヒビ割れが起きてその隙間から木の根が伸びてくる。でも、その"植物"をコストとしてキャロラインは妖精を生み出す。
妖精達は甘い刺激臭をばら撒きながら、その細い体でネジュロの攻撃を防ごうとする。
「この強さは見た目からは想像もできません…使者が使者を大量に創造しているようなものですよ?真、あなたの負担は」
「不思議と全然疲れない。もしかしたら僕とキャロラインは」
相性が良すぎるのかもしれない。
ネジュロとキャロラインの力比べは、ややネジュロが優勢。彼の木の根から無限にゼグエグを生み出せるからいつか逆転しそうだが、まだ手数の差で負けている。
でも、
「キャロライン、栞。2人とも今いる場所から1歩も動かないでね」
僕がいる。
バキバキと豪快な音と共にネジュロの木の根が崩壊していく。粉砕されて、粉砕されて、粉砕されて…ゼグエグがやったわけではないと分かるからこそ、
「ィモタルア。お前が自分から来るのか」
「これは何が…」
「動くなと言われただろう。従え」
ネジュロの顔つきも変わる。この場で驚いているのは栞だけのようだ。
「ここまで来たらあえて名乗らないでおく」
「お前はィモタルアだ。分かっているからこそ、」
足下のヒビ割れから大量の虫達が飛び出してくる。最初からこれが狙いだったらしい。
「受けてみろ」
「断る」
触手が一撃で虫達を叩き潰した。それと同時に
「むぐ、」
創造刀がネジュロの膝を貫き地面に突き刺さる。僕の行動の全てが、誰にも見えないまま行われる。それでも対応しようとするネジュロだが、
「心配するほどじゃなかった」
「……まだ、まだ。っ!!」
「くっ、…」
「キャロライン!?」
「お前も予習済みのはずだ。あれを」
創造を禁止する創造。
これで一気に逆転されるのが怖かった。一瞬でも隙を見せることになるのが嫌だった。
だけど。
「ずおぉぅ…」
触手は構わずネジュロの体を打った。腹を下から突き上げる一撃が彼に未知の苦しみを与える。
「…」
「僕の目を見ろ。ネジュロ」
「……もァァ」
あと数歩で近くまで行ける。というところまで来て、ネジュロは口を大きく開けて体内から虫を放った。そのどれもが鮮やかでキツい体色をしていて、毒持ちだということが分かる。
でも。
「ぽがァ!?」
「口を開けるなんて、そこを攻撃しろって言ってるようなものだから」
触手をネジュロの口に突っ込んだ。これで完全に動きを封じた。あとは複製するだけだ。
「真!上です!」
栞の声に導かれ視線を上方向に。するとどうだろう。夕日を背に飛びかかってくるのは、"赤い髪の女"。
「三日月姫か」
主を助けるために飛び出してきたのだろうが、無駄だ。何の助けにもならない。
2本目の触手が振られ、三日月姫の腹を打つとくの字になって飛んでいってしまった。…ホームランだ。
「簡単に終わってくれてよかった」
((PROMISE))
出来ることなら、今ここでオリジナルは殺してしまいたい。そうすれば僕はインドであんな辛い思いをしなくて済むんだし…。でも出来ない。
何はともあれ
「…手足の痺れがなくなった。勝ったか」
「私には何が起きたのかさっぱりです。真の創造は手を向けた相手を対象に選ぶものだと思っていました。それが…」
「ふふ。今はそれでもいい。不思議がっていろ」
ネジュロを手に入れた。
………………………to be continued…→…




