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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第18話「妖精ゼグエグ」







「さて、どれほどのものか……」





キャロラインはその場から動かない。黒水とやらが積極的に僕と戦うようだ。

僕1人に対して黒水は4体。旅の仲間……とか言ってたから、キャロラインが登場する話の他の登場人物と考えるのが自然だろう…。やはり仲間というだけあって、黒水達の連携は上手く機能していて全員が正面から突っ込んできたと思ったら



「高さか……!」



最初の1体がスライディングで足下を狙い、続けて中段を狙う1体が力を溜めた拳を突き出し、さらにその上に2体…片方がもう片方の土台となり跳躍の手助けをして…高く跳んだ1体は手先を大きく変化させ大斧とし、これで時間差の3段攻撃が完成した。


それに対する僕の回答は



((PROMISE))



中段、2体目の撃破。これがいなくなれば攻撃の隙間に飛び込んで、攻撃後の隙が生まれたタイミングで背後から反撃できる。



「甘いぞ。武器を持つことができるのにそのまま通り抜けようとは」



「っ!?」



途中まで僕の考えた通りだった。攻撃の隙間を抜けて、僕が振り向けば敵は全員僕に背を見せているはずだった。


スライディングした1体目。背中を見せるどころか既に僕に向けて弓を構えていた。スライディング後のあの姿勢から正確に狙えるのかなんて疑いは、当たり前に無駄だった。



「うっ」



ピチャッ。


咄嗟に左腕で防いだが、放たれた矢は僕の腕を貫くことなく弾けた。



「まずは1回。私がお前に愛想を尽かすことのないように頑張るといい」



「痛くはしないけど、攻撃を受けすぎたらダメってこと…分かったよ」



今のが実際の戦闘なら矢の威力次第で僕は死んでいた。キャロラインの力は本物だ。試されている…ここで相応しくないと判断されれば、力を貸してくれないどころかこのままこの世界で殺される可能性だってある。


しっかり…見せてやらないと。



「少しずつなんてつまんないこと、僕はしないよ」



「手加減して勝てるほど黒水は易しくない。本気で来い」



((PROMISE))



残った3体が今度はバラバラの方向へ走っていく。反撃を恐れてか、木の影に隠れるように……でも。


僕の刀はそんなの気にしない。



「あーぁ、やったな」



「……!?」



森の木々を全て切り倒そうとして、初撃で数十本……すぐに異変に気づいた。この森…、全ての木が……木じゃない。木に擬態してる"何か"だ……!!



「"妖精"ゼグエグ。それらは黒水ではない。まぁ…せいぜい頑張るといい」



「あれが、妖精…っ!?」



高速化する羽音が耳障りだ。耳元を蚊が飛んでる時の不快感が何百倍にもなったような…。しかも数が圧倒的で、それらが動き出した瞬間に大体の数を把握することすら諦めたほど。


蝶のような…でも木の枝のように体が細くて…カマキリやトンボのような目…、え、



「ぐふっ…」



むせた。直後、鼻がツンとして、もっとツンとして、鼻を抜けてそのまま強烈な頭痛が。



「ゼグエグの香りを楽しめ。吸い過ぎれば刺激臭で体が極端な拒否反応を起こし、興奮のあまり血管がプツプツと千切れるが」



「うううう"う"う"う"……!!」



「それと、2回目だ」



僕が苦しんでるその隙に、後頭部に何かが当たった。感触はあった。被弾したのは認めよう。



「弱いな」



「キャロライン…君が求める僕の姿は…これだろ?」



空をも埋め尽くす大量の妖精群体を世界ごと斬り裂いていく…そして無数の光の粒となって消滅……



((PROMISE))



さらに、右手が地上戦を望む黒水を1体撃破する。



((PROMISE))



3回目は受けない。視界の外からの攻撃に反応し、瞬間移動で回りこみ……



「神ン成ル」



「全てに同時に対応する気か。どれか1つでもお前は極度の疲労を示すというのに」



書き尽くして字がいっぱいのノートに消しゴムを激しく擦りつけているような、丁寧さのかけらもない一方的な殺し。


とにかく数の多い妖精達は創造刀だけでそのほとんどを斬り殺し、なんとか逃れて僕に向かって飛んできたものは左手による消し飛ばしで対応する。その間も右手は常に警戒して……



「今度は7つ。難易度を上げてみた」



案の定、黒水の敵が追加される。僕の前に現れたのはそのどれもが女性っぽく見えた。



「私の世界には生意気にも女神がいる。7人も。どうだ、お前は7人の神を相手にどう戦う?もう手が足りないだろう」



「手が足りないから仲間を増やしたんだよ。君も含めて」



「…"独りの幸せ"を知れ」



「僕の力を認めたら全面的に協力してもらう」







………………………………next…→……






その頃、現実世界では。





「……真は優しいだけでなく、静かですね。もしかして眠ってますか…?って、え?」



栞が真の異変に気づき、思わず泣くのを止めてしまった。

すぐ隣で横になっている真…彼の目は閉じているが、目の端から赤い涙…血が垂れ流れていた。しかも出るようになってからしばらく経っていたらしく、ベッドに赤いシミができてしまっていて。



「ま、真?」



すぐに起こそうと体に触れる…その時、部屋のドアが開けられる。振り向けば、



「キャロライン」



「今は触れるな」



「何か、知っているんですね」



「知っているも何も、血を流す原因を作ったのは私だ」



「……真に何を」



「手伝ってやっている。今後、戦いの度に力を使って倒れられていたらお前にとっても迷惑だろう。そうならないように」



「もう結構です。今すぐにやめてください」



「それはお前が決めることじゃない。その男は私の話に乗った。大人しく隣でめそめそと泣いていればいい」



「……見ていたのですね」



「いや。その男の感じるもの考えるものの全てが私に流れ込んでくる。私が拒絶できるならとっくにそうしているが。…迷惑な力だ」



「っ…」


「神の気配が薄まったから来てみれば……魔女」



「何の用だ、原始人。お前は番犬の仕事をサボるな」



「神に毒を…!?」



「毒か。妖精の香りを嗅げばそう思うのも自然かもしれない。……また嗅がせてやるとしようか」



「いけません!仲間割れなんて…」


「魔女と仲間になったつもりはない」



「困ったことに原始人と同意見だ。あの大男はまだマシだが」



「やめて…やめてください…今は真のことが」



栞は対応に困った。キャロラインもトゥカミも、単体なら相手をするのはそこまで難しくない。それなのに2人同時に…しかも、もうひと押しあればすぐにでも喧嘩を始めそうな雰囲気。


力ずくで止めるにはどちらも強すぎる。栞にはどうすることもできない。その間も、真は眠りながら血の涙を流していて。



「っ、真…」



そっと瞼に触れてみる。無理やり露出させた真の目は真っ赤で、見れば目の奥の華がやわらかな風に吹かれているように揺れていて。


栞は自分にできることが思いつかず、真に膝枕をしてやって上から頭部を抱きしめた。


その時。



「氷…」



「冷たい…!これは」




「儂は小僧の味方だ。お前達も最終的には同じだろうが、衝突して戦力を削り合うような真似を小僧は望まないはずだ。だから小僧が目覚めるまでの間、お前達2人の喧嘩は儂が預かる」


「べダス…ありがとうございます」




最後に話に入ってきたべダスがキャロラインとトゥカミの足を凍らせてしまった。これで2人は身動きが取れない…だけでなく、べダスがその気になれば



「動くなよ。儂も"神"には会ってる。遊びじゃない力の使い方だって理解しているからな」



いつでも壊せる。


力を上からねじ伏せるべダスの強さに驚く栞だったが、ふと気づく。彼の口周りが少し汚れていること…それから、なんだか酒臭いことに。


それがステーキソースだと気づき、見えないように左手に缶ビールを持っていることにも気づくのにそんなに時間はいらなかった。



「ふざけているな。飯の恩を返すとでも言いたいのか、大男」


「理由がほしいのか。儂が小僧に力を貸すのはお前という創造も含めて小僧の実力を認めたからだ。まあ、あの小ぶりな肉も悪くなかったが…儂には牛を丸々一頭寄越すくらいでないとな。がはは」



「…伝えておきます」



「まあいい。そろそろ"向こう"も最終局面だ」








………………………………next…→……







現実世界でのキャロラインの怪しい笑みがここでも反映されているとは知らず、真は死に物狂いで戦っていた。






「っ……」



「今の1度の攻撃でゼグエグを455匹狩った。威力は凄まじいが、まだ完成には遠い」



「あと何万匹残ってる…」



「ふふ…2000万以上だ」



森が広すぎる。その分だけあの妖精がいるのなら、キャロラインが言ってきた数は冗談ではないだろうし…もっといてもおかしくない。実質無限といえる妖精達は確実に僕に傷をつけ始めていた。線のようなちょっとした擦り傷……でもそれが何度も何度も繰り返されれば、



「どうした。女神はまだ6人残っている」



攻撃の波が…さすがに僕単体では捌ききれない。黒水の攻撃の直撃だけは許さないようにしているが、妖精が突進してくるのはもう防げない。



「意地悪だと私を恨むか?」



「まさか……。"僕の"使者がこんなに強いんだって、今後が楽しみになったくらいだよ」



「言うのが遅れたが。この世界で"完全に死ぬ"ことがあれば、お前は二度と目覚めることはない」



「そういう大事なこと…早く言ってよ…」



でも分かる。容赦ないように見えるこの攻撃も、キャロラインがコントロールしているんだと。僕の状態をじっと見て判断しているんだろう、今ならこれくらいはやっていいと……だからこれでも手加減してくれているわけで。


甘すぎる刺激臭で嗅覚が壊れて、聴覚も羽音で潰された。味覚はなんとなく口の中で血の味がして。

残された感覚でどこまでやれるか……せめて、黒水だけでも全滅に追い込まなくては。



「これで、3回目」



「……」



「お前がどうしてもと言うのなら、ゼグエグに攻撃速度を下げるよう伝えるが」



「………じゃあ、お願いしようかな」



「そうか、」



「"最速"にして」



「ふふ…ふふふはははは!!本気で言っているのか。現時点でお前は傷だらけだ。時間が経てばその傷からゼグエグが生まれる。体が崩壊すれば、黒水からの攻撃も防げない。お前はもう少しで詰む。それを分かっているのか?」



「僕はこういうクソみたいな状況を乗り越える度に強くなるんだよ…そういう血を継いでる」



「なら…見せてみろ。乗り越えられたなら、私はお前を主として認めよう。……お母さん…力を」



自分から言っといて…すぐに後悔した。僕は妖精の攻撃速度の話しかしていないはずなのに、キャロラインは本気を出せと言われたみたいに力を解放して。


キャロラインの体から黒水が大量に発生して……空に向かって黒い雨が降る…それを浴びた妖精ゼグエグは…黒水にコーティングされて。





「"堕魔妖精"ゼグエグ。その者の命を枯らせ」















………………………to be continued…→…


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