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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第17話「初めての」








こんなこと、初めてだ。



気絶して倒れたにも関わらず、体の痛みを感じるし起きている感覚もある…でも少しも目覚められない。だからやっぱり気絶しているんだろう。


半覚醒…。


心配してくれる栞があれこれ言ってくれるが、当然返事をしてやることはできない。



「真。真。…体の所々が熱かったり冷たかったりするのも…というか、この血は……」



最初は倒れた僕を優先してくれたが、ついに気づいた。顔面を失って頭部に大きな穴が貫通している2人分の死体に。



「なんということを……。は…ぇ?もしかしてこの2人はデズェウムの者では?」



死体を見ただけで分かるのか。何か見分け方があるのだろうか。



「買い物袋も大量に。ということは、帰りに襲われた…?返り討ちにしたのでしょうか。だとしてもこんな物理的な攻撃で?」



自分でも信じられない。簡単に殴り壊してしまえたのは、多分殴りながらも消し飛ばしのような創造も機能していたからだろう。頭蓋骨とかどこいったんだという疑問もそれで片付く。



「頭がおかしい連続殺人鬼でさえ、道具を使って解体したりするんですよ?なのにあなたときたら……」



そんなのと一緒にしないでほしい。



「にしても。困りましたね。あなた1人を連れ帰るのも大変なのに、こんなに大量に買い物をしていたなんて」



「ふん、なかなか面白いものを見れた」



「キャロライン…!!」



え、キャロラインまでここに?



「道案内をしてやった。となれば私だってこの場所に来ることはできる」



「…外で目立つことはしていませんよね?」



「別に。私が歩けば人間達が自分から道を差し出す。気づけば町を1人で歩いていたくらいだ」



異常地帯か。この感じ…もしかしたら、あの"天才猫"と同じなのでは。



「それで…どうしてここに来たのかを聞いても?」



「私は見えていた。お前1人ではまともに荷物も運べないだろうから、連れてきた」



「ぇ?」



「儂は荷物持ちか…まあいい。さっさと帰るぞ。儂はぬるいのは嫌いだからな」



「べダスまで連れてきたんですか!?」



「私に感謝するんだな。これでお前は手ぶらで楽して帰れる」


「さぁ、帰るぞ…小僧。儂のために酒も買ったようだしな」



「………」



べダスは真を片手で楽々持ち上げると腹の部分が肩にくるように乗せる。そのままでは真が落ちてしまうが、すかさずキャロラインが黒い紐状の物体を出現させ、2人を軽く縛って真を固定した。

そして両手が空いたべダスは、真の買い物袋を全て持って…楽々歩き出す。


あまりにもスムーズな回収作業に、栞は言葉を失った。

さらにべダスとキャロラインの相性についても疑問だらけで、



「いえ、考え事よりも私は後始末をしなければいけませんね」



キャロラインとべダスがさっさと出ていくのを見送り、現場に1人残った栞は死体や血痕等の"掃除"を始めた。元デズェウムである彼女にとって、こういった証拠隠滅の作業は朝飯前で。



「死体2つなら4分もあれば十分です」










………………………………next…→……











起きろ。僕。早く起きろ。早く。早く。早く。



「ぁく!!」



絶妙に優しさが足りない。



「神、無事だったか」


「フルルル……」



「ごめんちょっと狼を一旦僕から離してもらってもいい?顔中舐められて鼻息ふんふん吹かれて食われるかと思って焦ったんだけど」



「そんなことはしない。神は神。アマトゥワ族の使者は、襲っていい相手かどうかを考えられる。迷ったら代行に確認もする。今のは甘えていただけ」



「さすがに子犬と大きめな狼じゃ差がありすぎるよ…」



現在狼は大型犬よりもう少し大きいくらい…いや、何かの世界記録に載りそうな程度には大きい。それが、生あたたかい舌でペロペロ舐めてきて、目元付近で鼻息をふんふんと……半覚醒でよかった。本当に焦った。本気で焦った。


爆発しそうなくらい緊張で暴れる心臓に落ち着いてくれと懇願しながら、僕はゆっくり立ち上がった。


拠点に運ばれたのは知ってるが、まさか入口近くで下ろされるなんて。

ここは個室とかソファに寝かせるとかあってもいいだろうに。


べダスは酒の入った袋をそのまま自室に持って行っちゃったみたいだし、キャロラインも特に何も言わず部屋に戻っちゃったし。

……狼にペロられるし?



「やっぱり優しさが足りない。あとトゥカミ、その漫画は読むのやめなよ。漫画を読みたいならちゃんとしたやつを僕が買ってくるから」



「……?これは日本人が繁殖方法を学ぶための絵。ちゃんとした絵だ」



「さすがにそうはならない…!」



別に問題ないとは思うが、成人向けの物は後で全て捨ててしまおう。



「栞は?」



「"水浴び"だ」



「…ああ、分かった」



体を気にしてそっと歩いて向かうのは、冷蔵庫前。買い物袋はどこにも見当たらないが…はたして



「お。ちゃんと入ってる。なんだ、栞って冷蔵庫の整理上手なんだ」



ひと安心。奥の方に隠すようにゼリーがしまってあるのは、彼女の可愛いところ。



「僕はちょっと個室で寝よう。さすがにもういいよね…」



寝て回復するかは分からないが、脳が睡眠を要求してくるのは確かだ。

慣れない竹馬で歩いているような不安定さで…壁に手を押し付けて体を支えながら歩く。これはもうあれだ、重病人みたいな歩き方だ。


でも…痛みも続くと少しは麻痺するもので、今はまだ大丈夫。後でどうなるかは…



「きっと遅れてきた筋肉痛みたいに創造の反動が」



ちょっと怖くなった。



「うう…」



誰もいない個室に入り、簡易ベッドに優しく倒れ込む。そしてギシギシと音がするのも気にせず自分が納得いくまで最高の寝姿勢を探る。


……仰向け、上半身やや右向き、足先交差(左足が上)。我ながら注文が多い。


でも、これだという格好が決まれば体が落ち着き始めるのははやい。



「大丈夫。なんなら2、3日寝込んでも余裕なくらい今は時間があるんだから。ゆっくり休もう」



コンコン。



ちょうどこれから休むという時に、ノック。しかもそのまま入ってきた。もうノックの意味がない。



「今少しいいですか」


「よくはないよ、寝るとこだし」


「大事な話なので。すみませんけど、体を起こして真面目に聞いてもらえませんか」


「…本気?」



せっかくの寝姿勢が。渋々上半身を起こすと、さっさと部屋に入ってきた栞が隣に座った。風呂上がりだからか石鹸の香りがする。



「…。相手はデズェウムの者でしたよね」


「うん。僕の知ってる人達に姿を変えてた」


「"プレゼンター"ですね」


「なにそれ」


「1番下の階級です。階級すら持たない者もいますが、それはさすがに敵と呼ぶのは難しいほど弱いです。しかし、階級を持つ者はたとえプレゼンターであっても複数の代行を相手に1人で勝ち抜けるほどの実力があります」


「…弱かったよ?」


「いいえ。あなたが強すぎたんです」


「あ、…そうか」


「プレゼンターは雑用係。上の階級の者を手伝ったり、作戦の簡単な役を任されます」


「ふーん…たとえば?」


「そうですね。たとえば、母と子の親子から子供だけを誘拐したい場合。プレゼンターは誘拐する車の運転手をやります。上の階級の者は誘拐時に親の注意を引きます」


「結構デズェウムって…人多い?」


「そこまでは。ですけど、あなたが狙われたということは。もう私は抹消されるべきだと上が決めたんですね…」


「そういえばあの2人、男の方が階級が上だったらしいよ。女の方はそのこともあって結構焦ってた」


「…プレゼンター以上となると、"メモリーライター"でしょうね」


「どんどん増えるねその…階級?」


「私も階級だけで言えばそのメモリーライターでした。誘拐の例でなら、現場のリーダーとなり自然に対象の注意を引きます。あと、簡単な後片付けも…」


「……僕が殺した2人のことも。それでシャワー入ってたんだ」


「はい。って、違うんです。私は、何よりもまず巻き込んでしまったことを謝りたくて」


「なんで。別に何も困らなかったよ」


「いえ、」


「いいよ本当に。もう喧嘩も売っちゃったし、"売れちゃったし"」


「…はい?」


「僕、2人に電話させたんだよ。先に僕の伝言を伝えた方を生かしてやるって言って。その後殺して、電話の相手と少し話した。ヴェロ…なんとかって男の子?」


「まさか…ヴェロトン……!?」


「ああ、それそれ。なんか僕達のこと最優先で狙うみたいなこと言って怖がらせようと必死だった」


「……あなた、なんてことを」


「ん?」


「ヴェロトンはデズェウムの創設者の1人です。5億人の運命を管理するほどの…」


「どんなのが相手でも関係ない。その気で来るなら殺すだけだよ」


「まだ遅くないはずです。私を差し出せば」


「そんなに怖がることある?」


「……」


「…今の僕にとって、人間は相手にならない」


「…真。目の奥の華がゆっくり回転しているような」


「僕、どんどん強くなってる。そのうち…どんなに痛くても痛がらなくなって、代行から見ても意味わかんないような強さになる。感じるんだよ。馬鹿みたいかもしれないけどさ、……神に近づいてる気がする」


「か、み……?」


「結子も、あのアマゴウラもそうだった。神になるとかなったとか、そういうことを言い出すようになってから一気に変わった。いずれ僕もそうなる」


「……」


「僕はそんなつもりなかったんだけど。実は僕は結構特別な生まれらしくて…」


「なら、アマゴウラと同等に?」


「あれの力の源が分からないけど、僕のは"純正"だよ。このペースなら来月には超えててもおかしくない」


「……」


「話戻すけど。そのヴェロ…」


「ヴェロトンです」


「それも、デズェウムも、僕が1人で滅ぼすから。栞も殺させやしないし、今はトゥカミ達もいる。仲間が増えればもっと余裕になる。だから謝る必要なんてないし、安心して僕の隣にいればいい」


「…ありがとう、ございます」


「別に、」


「……私を助けたところで、あなたに何か利益があるわけでもないのに……。私…初めて、"優しく"されました」


「そう…」



栞のこれまでの人生を全て知りたいとは思わない。それはきっと彼女が自分1人だけで抱えていたいだろうから。でも、今の彼女を見ているとどんなものだったのかが…うっすらと分かる。

誰も見返りがなくては栞に協力しなかった。だって、彼女は…彼女という命存在そのものは…デズェウムに利用されるためだけにあったから。

きっと"同僚"らに仕事を押し付けられたりもしたのだろう。そのせいで奪わなくてもいい命を…何も知らない人々を悲しませ、苦しませてきたのだろう……知らないうちに同じだけ、自分のことも。


その証拠に栞は今、泣けない。


目が潤っていてあと少しで涙がこぼれそうなのに、全く悲しい顔ができないでいる。



「…自分からこんなこと言うと思わなかったけど。栞、一緒に寝ようか」


「は、はい?」


「言葉で説明するのは難しいんだけど、でも人間ってやっぱり誰か心を許せる相手と一緒にいるのが1番いいんだよ」


「…」


「はい、じゃあ栞はこっちね。僕は壁際がいいからこっち」


「は、はぁ…」



よく分からないまま添い寝をすることになった栞は、一応僕に背中を向けた。だから僕はそっと、背中を撫でてやった。



「……すみません、胸が、苦しくて…っ、我慢が……ぁ、」


「そのまま。我慢しなくていい。泣くってそういうことだよ」



栞は初めて正式に泣いた。でも思ったより静かで、僕はつい……途中で、寝落ちしてしまった。



























「あれ?」



ここ、どこだ…森?

落ち葉だらけで土が隠れて…見上げれば綺麗な紅葉…でも隙間から見える空は結構な曇り。雨が降りそう。



「私の世界だ」



「……キャロライン」



当然のように僕の背後に立っていた。振り向くと、いくつかの人型の黒い影が少し離れた位置に立っていた。まるでフリーカみたいに。



「あれは私の"旅の仲間"だ。無価値なものだが…」



「こういうの何回か経験はあるけどさ。まさか使者が精神世界創って僕を招き入れるなんて思わなかった」



「お前は愛を知っているのか」



「……」



「まあいい。だが喜べ。私がお前をここで完成させてやる」



「…完成?」



「話を聞いていた。お前の中ですくすくと育っているんだろう?……その目の奥に咲く華が」



「っ…」



「別に、奪い取ってやろうと考えているのではない。興味があるだけだ」



「何に?まさかキャロラインも神になりたいとか言い出すんじゃ」



「馬鹿か。どの物語でも、どの"現実世界"でも、常識を大きく外れてしまった異常者は……遅かれ早かれ"独り"になる。お前もそれに当てはまるのか、私は知りたい」



「僕が神になったら、その力を恐れて栞やトゥカミ達が離れていくのかどうか…そういうこと?」



「ああ。お前はここでリスクなしで強くなれる。そして私は私で試せる。互いに利益がある。悪くない話だ」



「……あの影が、僕の相手になるってことか」



「察しがいいな。だが影ではない。私の黒水だ。水は何にでも姿かたちを変える。強さも自在……お前の力、見せてみろ。私を従えるのに相応しいかどうか改めて…」



「テストするって…!?」



拒否権はなかった。キャロラインが操る黒水とやらの人影はもう僕の方へ向かってきていた。















………………………to be continued…→…


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