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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第16話「創造昇華」








「ふむ……遅いですね」




拠点。暇を持て余す栞はトゥカミの居住スペースであるソファにお邪魔させてもらい、その辺にあった漫画雑誌を読んだりしていた…が。



「別々の話が載っているので集中せずともあっさり読み終えてしまったというのはありますけど、……真がここを出たのはもう2時間前のこと」


「……読めない」


「トゥカミは読めなくていいと思います。絵で察しているでしょうが、作者の妄想や無知さがそのまま絵になっています。男女の愛とはそう都合よくありません…私も偉そうに言えるほど知りませんが。盗撮犯が被害者に謝罪しただけで恋が始まるというのはさすがにおかしいです」


「……神が心配か」


「真はほとんど休みなく動き続けています。あなたのように神と呼んでもおかしくないくらいの力を闇雲に振り回しながら…。私も含め、誰にも弱い所を見せないように必死なんでしょうね。隠しきれていませんけど」


「探すなら力を貸す」


「…そうですね。連絡手段もありませんから、あなたの動物を味方にする力を借りるべきですね」



「心配など要らない」



「っ、キャロライン…!どうして部屋の外に」



「出てきたらおかしいのか」



「…いえ。…それで、心配しなくていいというのはどういうことですか」



「"あれ"ならもう近くまで来ている。…しばらくは大きく動いていないが」



「……あなたは真の行動を把握してる…と?」



「この目で見えてもいる」



「なっ!?」



「外の光が届かない暗所だ。2人、男と女…両腕を縛って吊るして拘束している」



「は?なぜ真がそんなことを」



「音は拾えない。私は見ることはできる…」



「何か、あったんですね」



「面白い男だな。抵抗出来ない無力な人間相手に暴力か」



「……え」


「神の居場所を教えろ。"魔女"」



「"原始人"如きが私に命令するな」



「アマトゥワ族を侮辱するか。ならばその身に直接教えてやる。自然の偉大さを」


「トゥカミ、落ち着いてください。…キャロライン、私も真の居場所を知りたいです。あなたが彼にしか協力しないというのは理解していますが、ここはどうか私達に情報を恵んでくれませんか」


「っ…」



「……いいだろう。その態度、気に入った。今回は導いてやる」



危うくトゥカミとキャロラインが激突するところだったのを、栞が上手く誘導する。この時、栞は自分とキャロラインの相性の良さを知った。キャロラインは絶対的な上下関係を求める…それに対し栞は立場も何も全く気にせず生きてきた…これを利用しないのは、もったいない。

わざと下の立場を選べれば、キャロラインは気分良く協力してくれるのだ。


ドヤ顔で微笑むキャロラインを睨むトゥカミに、栞はチョコレートを渡して落ち着かせる。そして2人の視線がぶつからないように上手く間に立つと



「早速ですが、案内をお願いします」


「私は動かない」


「はい?…ぅっ」


「その甘い香りを辿れ」


「分かりました。すみませんが、この中でその香りを出すのはもう」


「原始人の鼻が潰れるか。なら私は部屋に戻る」


「協力に感謝します」



通常の嗅覚を持つ栞でさえ、頭痛とわずかな吐き気を認めるほどの強烈な匂い。それが、普通より敏感だと思えるトゥカミにはどれだけ効果が大きいのか…考えるまでもない。


既にトゥカミはソファの上で気絶していた。使者の狼もソファのすぐ横で、前足で器用に鼻を押さえて苦しんでいた。しばらくは"伏せ"の状態から動けなそうだった。



「急ぎます」



着慣れた着物に、上から真が創造した白装束を着る。特に理由があるわけではないが、この白装束は着ておくべきだと栞は感じていた。それはきっと、拠点にいる全員が同じ認識で。


急いで外に出た栞は、鼻にまとわりつく甘い香りが一旦薄まるのを感じる。これにより、今後は強く香る方へ進めば自然とキャロラインの道案内が成立することになる。



「すぐに行きます…真」



キャロラインの話では、真は危険な状態ではない。なぜなら彼は加害者側だからだ。しかし、だからこそ栞は心配になった。それをするだけのことが起きたから、真も暴力を選んだわけで…。








………………………………next…→……








「ぶぅっ、はぁ…ぁぁっ……」


「なぜ…味方を殴るなんて、おかしいです。柊木 真」




駅から近い場所にある補修工事中の建物。そこの地下部分ともなると、まず人は来ない。音がしても、声が聞こえても"工事中"だからそこまで気にならない。

それに、近くの人間は全員追い払ったから…何も心配は要らない。


買い物の荷物も無事だ。




「ほんと、お前達が馬鹿で助かったよ」




「なにを…」


「君は私達に協力すると、っぎぐぅ!?」




偽者のダンとジュリアは、足先が床に届いたり届かなかったりするギリギリの高さで吊るしてある。2人とも縛られた手首から先が変色を始めていて、いつもの僕なら痛々しい姿に心を痛めていただろう。


ここまで…とても簡単だった。まず、協力すると言い…その前に少し寄りたいところがあるとも告げる。寄り道を許したら、ついでに荷物を持つのを手伝ってほしいと頼んで…自然に相手の手に触れる。その瞬間、僕は2人の記憶を覗き見たわけだ。


それで明らかになったのは、2人が栞を探しているデズェウムの一員だったということ。そのことが分かっただけでも十分だったが、デズェウムが栞と僕をまとめて殺そうとしていることも知れた。"当時の僕"には彼らなりの理由があって手を出さないようだが、自分達が命を狙われていると知って黙っているわけにもいかない。


でも、僕がわざわざこんな場所まで誘導して"華の力"を使ってまでこいつらを拘束したのには…理由がある。

ただ殺すだけなら消し飛ばしで足りるけど、それだと何も伝わらない。"奪われる恐怖"を、ちゃんと教えないと…こういう命を軽視しているような連中には。



「それに"栞"に殺す以上に酷いことをしようとしてるのも許せない。お前達は最初からやり過ぎてるんだよ…彼女の命を、人生を弄んで……」



1度殺して、使者として改造して蘇生させる…。そして、今後はデズェウムからの命令に従うことしか出来ない完全な奴隷人形にすると。


許すわけない、そんなこと。



「し、しおっ!?、がぁっ」


「知っているなら居場所を吐け!柊木 真!!」



「偽ジュリア。下手くそな演技忘れてるよ。あと、偽ダンはそんな痛そうな顔しないで。本物の彼は痛がる顔もクールでかっこいいんだ…今まで1度も言ったことないけど」



何度でも、この拳を叩きつけよう。以前の僕なら1、2発で拳を痛めて止めていただろうが…今の僕はそうじゃない。

傷つくどころか、体が人の殴り方を学習していってる。

肉を打つことに快感すら覚えてきて…もう止まる理由がない。



「いくぞ、偽ジュリア。こんなパンチ、本物なら少しも痛がらない。そんなふうに息を切らしたりもしない」



「ひいっ!?ぶ!!!」



創造でそっくりな姿に変身したことも知ってる。見た目は完璧なのに、2人のことを実は全然知らなくて喋りも声も中身も全然違ってるけど。


だから、拳が迷ったのは最初の1発だけだった。

2人の顔面を思いっきり殴ったら遠慮のブレーキが壊れてくれて、もう。



「神降ろし…」



偽のダンもジュリアも、顔と上半身を徹底的に殴り潰してやった。外傷も酷いし、内出血による見た目の変化もなかなかに痛々しい。骨折だって何ヶ所もしてるだろう。


だからそろそろ、威力をあげる。


第三の目よりもさらに上、目の奥の華が開いて創造の力が僕を満たしていく。


柊木家に伝わるそれを…僕のやり方で昇華させる。




「改め、________」



神ン成ル(カムンナル)


閃く限りの混血の力で肉体を強化する




皮膚の下に白い光が走る…爪が白光を漏らすようになり、脈が白く透けて見える…


ここまで来たのか、と思った。力を手に入れた結子が神を自称するようになったのも…気持ちが分かる気がする。


もう、代行なんかじゃ僕を止められない。




「デズェウムは僕1人で滅ぼしてやる。裏に隠れてる偉い奴に今すぐ伝えろ……それがお前達の最後の言葉になる」




「くっ…デズェウムは……お前1人くらい、」


「うるさい!!…お、お願いします。報告もするし、デズェウムのこと、これからの計画も全部話します!だから、だからこいつは殺してもいいからどうかあたしだけでも」



偽ジュリアが創造を解除した。というより、維持が出来なくなったようだ。外見を偽装し続けるには、もう体が壊れすぎたのだろう。骨などがおかしくなって形が歪めば…それもそうかと頷ける。

さらには命乞いまでして…醜いったらありゃしない。



「よせ。そいつを生かしてもデズェウムのことは欠片も知ることはできない。……"階級"で言えば私の方が上だ」


「っ!!卑怯者!!!」



偽ダンの方はまだいくらか余裕があるらしい。創造も維持出来ているし、申し訳程度の演技も続行できている。もうそんなことする必要ないのに。



「先に連絡した方を生かす。伝えろ…"怪物"はお前達を待つし、見つけ出しもする…栞は渡さない。そしてデズェウムは僕が滅ぼすと」



「くっ」


((READ))


「はやくっ、はやくっ、」


((READ))



ほぼ同時。どちらも手の自由を奪われた状態で創造し、利き腕の脇の少し下辺りに義手を出現させた。作り物感が少しもない義手は既にスマホらしき物を握っていて…ああ、緊急時に腕を失っていても連絡できるようにってことか。




「緊急連絡、すぐに上に繋げ。早くしろ」


「緊急なの!早く上に繋いで!!早くっ!!!」




いいレースだ。互角な争い。早く連絡を終えた方が生き残れる命乞いゲーム。

1秒でも長く生き残るために必死な争いは、偽ダンの方が少しリードすることになった。どうやら階級とやらの差が出たらしい。



「報告します。柊木 栞の件ですが、失敗しました。いえ、柊木 栞と行動を共にしている柊木 真が強く…はい。監視中のと同一人物だと推測できますが、そちらを狙っても同じだと思います。"この柊木 真"は強すぎます。デズェウムは自分1人が滅ぼすと伝えろと…」


「もう!!なんで繋がらない!!早くしてよ!!!?約立たず!!!ぁ…いえ、申し訳ありません。急いでいたもので…連絡を…」



勝負あり。



「ふぅっ!!」



一撃で殺した。偽ダンを。



「……っ……!?」



隣で偽ジュリアが言葉を失っている。だから、教えてあげようと思う。



「僕はデズェウムを滅ぼすって言ったよ?だから所属してるお前達だってその対象。生かすって言ったのは嘘だよ…そっちだって嘘をついて僕を騙そうとしていたんだから、これくらい……いいでしょ?」



「や、……や、…だって、…そんな…か、かお。あ」



「次はお前だ」



渾身の右ストレートが敵の顔面を打ち貫く。肘までずっぽり突っ込んでしまうから、ちょうどその辺までが血で赤く汚れる。


そんな汚れた手で、偽ジュリアの方の通信機器を奪い取った。創造が消滅するまでのわずかな時間で…僕の口からも伝えなければ。




「もしもし」



「やあ。柊木 真。君からの伝言はちゃんと受け取った」




子供の声…?小学生くらいの男の子の声に聞こえる。




「デズェウムは今後、君と柊木 栞を殺傷対象リストに加える。それも優先度9…最高レベルでね。近いうちに君は後悔するよ。とんでもない相手に喧嘩を売ってしまったことを。その時は醜く命乞いでもしてみたらいい」



「……楽しみに待ってるよ。僕から会いに行ってもいいんだけど、色々と忙しくしてるから…わざわざ自分達の方から殺されに来てくれるのは助かる」



「言うね。20年程度しか生きてない"赤ん坊"が」



それをお前が言うのか。何にしても、これで決まった。



「お前にも命乞いをさせてやる」



「ふふふ。それは楽しみだよ、柊木 真。今後ともよろしくね。そうそう、忘れるところだった。ボクの名前はヴェロトン……きっと、ボクが君を直接殺すことになるね」



「っ…」



一方的に通信を切られてしまった。

耳から離して画面を見てみると、渦巻きマークのような文字が並んでいて…少しも読めなかった。




「真!!」



「え、栞…なんでここに」



名前を呼ばれるのと同時に電気がついて明るくなった。暗闇に目が慣れていた数秒前との差がすごくて…眩し、



「あ"っ」



やばい。














………………………to be continued…→…


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