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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第14話「一方その頃…」







「なぁ、見てみ。"絶対に当たる占い"だってよ」


「ええ!すごいじゃん!ミナ、占い超好きだよ?」


「いやいや。こんなん"絶対に"当たるわけないし」



1組のカップル。夜に駅へ向かう道の途中で、偶然発見したのは路上で営業している占い師…小さなテーブルには"絶対に当たります"という強烈な赤文字の手書きの紙が立てられていて。



「顔も見えないやつに10分5000円も払えないって」


「でもでも絶対に当たるんだよ?」


「ミナ。占いなんて」



否定的な彼氏と、今すぐにでも占ってもらいたい彼女。そんな2人を座って眺める占い師……その容姿は全身を黒い布で覆い隠した怪しさ満点なもので、肌色が露出するのは目元と指先だけ。

微風にもヒラヒラ揺れる黒い布はやや薄っぺらい生地で、しかし透けているわけではない。が、そのヒラヒラ動くのをふと見てしまった彼氏の方は。



「………ちょっとくらい、いいか」


「でしょでしょ!」



突然心変わりした。隣を歩く彼女より少し早く占い師の前に立った彼氏は、さっと財布を取り出す。



「……10分で5000円頂戴します」



声を発した占い師…しかしその声からは性別の判別は難しかった。男が太めの裏声で女を演じているようにも思えるし、可愛くないだけで女の声とも思える。なんなら、元々そういう声の男だとも…。


彼女の方が占い師の声を聞いて首を傾げている間に金のやり取りは行われ、占い師は占いの道具が何も無いテーブルに手を置けと彼氏に促した。


気づけば全員が無言で、占いが開始される。


彼氏の手に上から中指の先を押し当てた占い師…ちょうど手のひらの中心に触れていて。



「……あなたの悩みはもうすぐ解決します」



何を聞くこともなく、占い師はそう告げた。それを聞いた彼氏はというと、まるで温泉に浸かった直後の"極楽顔"を浮かべていて。



「ナオヤ?なんかわかんないけど…当たった?ねえ?」



気になった彼女が声をかけるが……無視。



「……喜びは2つ。どちらもすぐそこまで来ています。ただ、待ちなさい」



占い師による言葉の追撃。横で聞いている分には、彼氏の占い結果は確かに良さそうなものではあるのだが。


……それが気に入らないのが、1人。



「ねえ、ナオヤ。ナオヤってば。ねえねえねえ!ミナも占いしたいよ!」



彼氏の左腕を掴み体を揺する。それでも無視は続く…彼氏の視線は占い師に釘付けで、その顔はもう次の"お言葉"を待っていた。



「う〜〜!!!ナオヤ!!ミナが占いするって言ったのにい〜〜!!」



もう、どんな声も届かない。占い師のそれを除いては。




「……さあ、お行きなさい。今日は道の右側を歩くとよいでしょう…」




占い師のお言葉を受け取った彼氏は、そっとテーブルから手を離して歩き出した。


当然、彼女がそれを許すはずもなく。



「なんで無視するの!?ミナまだ占いやってない!!ねえ!ナオヤ!!」



掴んでいた彼氏の腕にそのまましがみついて止めようとするが力負けする。そしてズルズルと引っ張られる…。

彼氏は少しも彼女のことを見ようとはしない。ただ前を向いて、歩いていた。


それでも彼女は声をかけた。というより、騒いだ。自分に気づくまで。自分が満足するまで。その後彼氏が謝って"仲直りのしるし"に高級ブランド品を買ってくれるまで。その後"気分転換"にショッピングモールに行って自分のために色々と服やら雑貨やらを買ってくれるまで。…それから、それから……。


脳内で彼女基準の"最低限"が秒ごとに更新されていく中…ついに、彼氏の占いが的中する時が来た。




……あなたの悩みはもうすぐ解決します




2人の後ろから走ってくる車…少しスピードが出ているそれは、ちょうど道路側を歩いていた彼女の………




「い"ぁ"」




頭を引っ張った。

というのも…後部座席に乗っていた"子供"が、偶然にも窓を開けて手を出していた。そして風に吹かれ揺れる彼女の髪を手全体に引っ掛けて掴んだのが原因で。


しかも子供は今の衝撃に恐怖して瞬時に車内に手を引っ込めた。さらに、車の窓がすぐに閉められようとして……




「やめて"ぇ"ぇ"!!!」




絶叫する彼女は彼氏から引き離され、走り去ろうとする車にそのまま引きずられる。まず最初に地面に膝を強打…激しく擦りむいて激痛。その強打の衝撃で体が跳ねて、髪が車内に引き込まれるのに合わせて体の自由が奪われていく。



たったの、2秒。



それだけの短い時間で、彼女は逃れようがない地獄に捕まった。



その様子を棒立ちで見送る彼氏は、占い師に見せた"極楽顔"をまた浮かべていて。

ゆっくりと、口を開いた。




「やっぱり当たるんだなぁ…占いって。わがままで図々しくて横にいるとビービーうるさくて電話でもうるさくて連絡マメに寄越さないとうるさくて自己中でたいして可愛くもないのに人並み以上に容姿に自信があって財布にパンパンに金入ってるくせに自分じゃ1円も出そうとしなくてバレないと思って毎週のように体売ってるし真面目で清潔感ある人が好みとか言いながらだらしないビジュアル系バンドのライブ通ってるし両親立派なのに自分が出来損ないなの気にしてか謎に他人のこと評価したがるし頑張ってると自称してること全部当たり前のことだしなんならその基準にも届いてないし家行ったら汚部屋だったしトイレと風呂場に虫わいてて汚かったし見せてもらった大切にしてるお気に入りの服とかただのボロ雑巾だったしスキンケア気にしてるんだとか言ってたけどそれ以前に中途半端に使ったまま放置されてる同じ化粧水いっぱいありすぎてキモかったし普通に肌汚いしいつもおでこか顎にニキビあるしオシャレのつもりのカラコンもズレてて気味悪いしメイクも下手くそで隣歩かれるのも嫌だったしデート中にう〜とかあ〜とか子供が駄々こねるみたいにうるさくて1ヶ月毎に付き合って何日記念日とか言って毎回物要求してくるのウザイしキモいし一緒に食事したら人のもの勝手に取って食べたりするし色んな男の人に見られてモテモテとか自信満々で言ってるけどそれ気持ち悪いから見てるだけだし嫌になって別れ話切り出そうとするとすぐに察してこっちが折れるまでギャーギャー騒がれるの本当に迷惑だし着信拒否とか携帯電源切ったりすると会社とか実家に電話かけまくったり突撃訪問したりするのとか心の底からウザイし頭おかしいと思うしテーブルの上に結婚情報誌を開いて置いといて露骨にアピールしてくるのも気持ち悪いしこっちの稼ぎ知ってるのに式は豪華にして新婚旅行は世界一周でとかアホくさいし家は新築の豪邸とか別荘とか願望どころか本気で叶えるつもりで頭悪すぎるし金が足りないって言われてこっちの親族が死んだらその遺産とか使えばいいとか反吐が出るし反吐が出るといえば口臭いし歩くうんこの香りの芳香剤だしよく美容院行って髪染めたりとかしてるけど普段全然風呂入ってないからフケだらけだし映画館行った時とかずっと横でポリポリ体引っ掻いててキモかったし周り気にせず喋るから映画頭に入ってこないし迷惑だしなぜかこっちが周りにペコペコ頭下げて謝ってるしマナー守らなきゃねとか言いながら1つも守れてないし店員に上から目線だしタメ口だし割引効かないと何とかしろみたいな目でこっち見てくるしたかが5%オフのクーポンひとつで節約上手みたいなアピールうるさいし笑顔汚いし歯並び悪いし鼻毛でてるしごめんなさいもありがとうもちゃんと言えないし、本当に死んじゃえばいいのにって前から思ってたんだよなぁ…」



「あの…これ落としましたよ?」



「あ、ありがとうございます…って、え?」



念仏のように彼女の気に入らないところを口に出していって…ようやくそれが終わると、後ろから声をかけられる。

振り返れば既に差し出されていた。渡されたものを受け取ると…それは封筒に入った大金…札束。その分厚さからして100万のものが3つ4つはある。


目が覚めるような金額につい変な声が出るが、それよりも



「と、いうか…あの、間違ってたらすいません。もしかして…グラビアやってる…」



「あ。はい。そうです…グラビアやらせてもらってます。くまちーこと熊井志乃です」



「やっぱり…!俺、デビューした時からずっとファンで写真集もDVDも全部買ってて…」



「えー!ありがとうございます!嬉しいです!」



声をかけてきたのが"偶然"好きな芸能人だったことに驚きを隠せない。



「わ、わあ…本物だ…」



「あの、突然ですみません…お兄さん、今って彼女さんとかいたりしますか?」



「い、いま、いませんよそんなの!」



「わたし…実は、お兄さんのことタイプで……もしよかったら今からお茶でも…どうですか?」



「喜んでぇっ!!!」



しかも都合よく気に入られ、誘われる。

これに彼氏…元彼氏、ナオヤは食い気味に即答。


悩みを解決し、2つの喜びを手に入れて…新しい美人の彼女を連れて。


言いつけを守って道の右側を歩いて2人は去っていった。





「……終了しました」



それを見届けたのは、例の占い師。布の一部を外し口元を露出させ、声を変化させていた機械を口内から取り除き…素の女の声で電話をかけていた。



「…はい。女の方は回収済みです。一緒にいた男は目の前のことに夢中で、身近な人間が連れ去られたことを何も疑いませんでした。…分かりました。すぐに戻ります」



電話を終えると、女は身を隠す黒い布を脱ぐ。…そして下に着ていた着物を直すと、元いた場所に戻り…占い師と偽るためのテーブルやら荷物の全てをひとつにまとめて…火をつけた。



「……完了」



不自然の積み重ね……それによって操作された人の運命。この日も無事、与えられた役目を果たした女は…着物の下から1冊の本を取り出す。



「……」



手に入れたばかりのそれの表紙を優しく撫でて、



「全ては決定した未来のための布石。デズェウムは永遠に在り続ける…運命のために」



囁くように言葉をこぼす。



「たとえ、この身が…命が自分のものと違うとしても」



火が燃え上がるのを見て最後にそう呟くと、【柊木 栞】は創造の力でその場から消えた。








………………………………next…→……







「ご、ごろざないで…どぅグッ!?」





「う……」




そこがどこなのかも知らずに、さまよい歩く。

着ている服も、その下の肌も何もかもを返り血で赤く染めながら。




「あいつを……"赤い"、あいつを…」




ただそれだけを求めて。邪魔をする者は全て人外な力でねじ伏せながら。


ただただ、1人の邪魔者を殺すためだけに。




「があっ、……ベッ、」




しかし、そのために無理を続けすぎた。しなくてはいけなかったから。振り切った感情が、託された想いが彼をそうさせた。


吐き捨てた血が元の赤より濃くなっても、気にしない。


ただ、



「う、…ぅるるるるるる……」



この現象だけは、気にしていた。目的に関係ないことはとことん気にしないようにしていたのに、これだけは無視できなかった。


自分の意思とは無関係に発生する、"内で渦巻く何か"。それが一定まで高まると、彼は



「っ!!!!」











「ご、ごろざないで…どぅグッ!?」





「……」



時間に干渉してしまう。

その原因も仕組みも何もかもが不明だが、防ぐことはできず、どうしても起きてしまう。


よりによって、最も憎い相手と…今この瞬間も殺したいと思っている相手と…似たような力。


それが、"身に染みて"しまっていた。



これをもし、代行や創造に詳しい"誰か"が見ていたなら…こう言ったかもしれない。





"洗濯した白い服に赤が色移りしてしまったんだよ。それも、落とせる気がしないようなとびきり濃い赤がね"













………………………to be continued…→…


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