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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case23 _ 混血の怪神
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第5話「ざまあみろ」







「…っ」




暗い、病室。部屋の雰囲気が少し違うのは数人で使うのではなく1人で部屋を使う…特別な待遇からだろう。

ベッドにカーテンに…部屋にあるもの全てがなんだか通常より良いもの……高級品に見える。



「………………」



そんな部屋の真ん中で堂々と回復を待つのは…



「六島…」



体に繋がれたいくつもの管。そして状態を診るのに必須な機械たち。どれもこの男には役に立たないというのに、何としてでも助けるという気合いが伝わってくる。


なんて腹立たしい光景なのだろう。


この男が元気に生きるということは、その分なんの罪もない犠牲者が増えるということなのに。



「…フリーカはいない。他に仲間がいる…わけでもないか。何も感じない」



なぜだろう。まさか人目が気になるから助けに来られないなんてことはないだろうし。

ここでの回復が難しいなら自分達の拠点に運べばいいだけのこと。

ならなんで六島はここに放置されているのか…。



「いいや、とにかく」



迷わず六島の足に手を伸ばす。何をするのかは決まってる。



「覗き見てやる。…今の僕なら、お前の人生の全てを見ることだって出来るはずだから」



瞬きした僅かな時間でも、目の前の男のせいで焼死体の山のことを鮮明に思い出す。するはずがないのに焦げ臭いとまで思ったほどだ。

僕の気合いは、十分だ。






















「おとうさん、なにしてるの?」



幼い声。外は明るく…少し賑やかな音が聞こえる。ここは室内。電気をつけなくても十分に明るい。…マンションの一室のような部屋だ。

目の前にはこちらに背を向けてしゃがんでいる男の姿…"おとうさん"なのだろう。…さらに見えてきた。



「悠悟。向こう行ってお絵描きでもしてなさい」



ジャバジャバと、洗っている音がする。……風呂場か。父親が邪魔で何を洗っているのかは全然見えない。



「おとうさん。なんでおかあさん"しー"してるの?」



「…父さんが頭洗ってるのが気持ちいいんだろ。ほら、後で構ってあげるから向こうに」



"しー"とは?…父親の発言からして、黙っている…ということか。


……完全に…見え…た。


風呂場の床…赤いぞ。タイルの溝を赤い液体が通って、流れ続ける水がそれを洗い流そうとして…。



「おとうさ」



「邪魔をするな!!」



「わぁっ……ぁううううううう!!!」



しつこくするから父親がイラついた。振り返ったその顔は真っ赤だった…自然にそうなることはまずないだろう。この男は"何を塗った"?


突き飛ばされた子供は、近くの壁に後頭部をぶつけて泣きだした。話しかけられるよりはマシだと思ったのか、父親はそれを無視して何かを続ける。



「…言ったよな…お前。身も心も全てあなたに捧げますってよぉ……。あったけぇよ…あったけぇ。お前の中身。…………人肌恋しい季節にピッタリな温度だぁ…」



ふいに父親の首がカクッと曲がる。それをきっかけにスイッチが入ったのか、声の調子が変わった。男性らしさがある低い声が、さらに低く…そして、粘っこいゆったりした喋り方になって…。



「まんまと引っかかっちまった。金のことは心配要らないって、仕事もしなくていいって、そんな話信じて…。金の出処を考えたこともなかった。病院でバリバリ働く看護師…普通に考えりゃあ家族4人食わせるの、厳しいよな…それが、好きなモンなんでも買えるような贅沢暮らし。おかしいに決まってた…」



子供は泣きながら別室に逃げていく。父親の雰囲気が変わって近くにいるのが怖くなったのだと思うが…。



「たまたま。たまたまだ。知り合いが入院したって聞いて見舞いに行った…その時、見たんだ。お前が患者でもない年寄りの頭を撫でながら自分の胸に抱き寄せてるのを」



ぶちぶち…と、強く鈍い音がした。勢いが殺せず、父親の右手が上方向に持ち上がった…その手には、大量の黒髪が絡まっていた。

指の1本1本にぐじゅぐじゅに絡みつく濡れた髪は…とても気持ちが悪い。それに、濡れた原因は水じゃない。



「言ったじゃないか…身も心も全て捧げますって…ならあれはなんだ?"おすそ分け"か?金だけ持ってる年寄りにあんなことして…それで給料とは別に"ボーナス"稼いでたっていうのか?…なぁ、どうなんだ……」



酷い嫉妬の臭い。忠誠は絶対…という強い意思が言葉に混ぜ込まれている。この男にとって、妻の怪しい行動は浮気や不倫というものではなくて…誓った忠誠を嘘にする裏切りでしかなかった。

"これは自分のもの"…そういう所有することに強くこだわる癖が、この男を、



「だぁあああ?」



狂わせた。



子供が大人しくなった…というかいなくなったことに気づいた男は、振り向いて立ち上がる。その服はシャワーの水と妻の"汁"でめちゃくちゃに濡れて汚れていて、全身が赤黒くなっていた。服に、妻が染み込んでいた。


手指に絡む髪の毛を口に押し付け、歯と舌で汚らしくそれを取り除き…口の中でまとめて味わっている。


徐々に両目がイカれる。中心にあるはずの黒目が、どちらも外側に押されていって…白目に変わった。



「ゆうごぉォ!?」



ゆらゆらと…肩を揺らしながら風呂場を出た男は、子供が逃げた方へと歩いていく。

風呂場に残された妻…"だったもの"は、体の所々が無理やり開かれていて…もう修復不可能だった。…これを見て思うのは、せめて殺されてから開かれたのであってくれ…ということ。



「ゆうご…ぉぉ、ゆうご!!うるせえがき!!どォこおだあ!?」



どこだ、と言いながらも男は最初から目指している場所があるようだった。…それは、台所の収納部分。流しの下のその狭い場所は、大人が隠れるのは難しいが子供ならば問題なく入れる…



「……でぃあ!?」



男は強く蹴った。そこにいるのは分かっているぞと相手に教えるように、数回…大人の全力で蹴った。


…でも、違う。子供はそこにはいない。



「ゆううううごぉ、…お」



ついに収納のドアを開けた。小さなそれを力強く開けて、体をねじ曲げるような無理な姿勢で覗きこんだというのに…見つからない。



「…………こっち」



「…ゆうごぉ!」



男を呼ぶ声。誘われるまま振り向くと、そこには大きな"光る本"を両手で広げて持っている子供の姿が。



「……おかあさんは、わるくない」



「あ"?」



「わるく、ない」



((READ))



…創造。微量の赤を含む黒い光が、男を怯ませた。その隙に、子供が創り出した"母親の手"が男へと伸びていく…!!


その肌色は生前のものとは違っていた。やけに白くて、それでいて薄汚れていて…カビが生えているような…最悪な見た目。



「ぺごぉっ……」



首を掴まれた男。両手に苦しめられて…それを取り外すことが出来なくて。相当強く首を絞められているのか、数秒で危険を感じて暴れはじめた。



((READ))



男の死を待つことなく、子供は追加で創造した。

すると今度は子供の手がうっすらと光るようになって…黒い光を纏った子供は、男に近づいていく。



「いうこときいて…おとうさん」



……男の腹に触れて、悠悟はそう言った。

これが…多分、最初の"洗脳"だ。創造後に手が光ったのは…その状態で対象に触れる必要があったから…!


そうして、子供…六島 悠悟は両親を失わずに済んだ。2人の力を取り込んで、強くなった。


洗脳の出処は、もしかして…母親?

母親が実は代行で…金を持っていそうな人間を洗脳して有り金全てを引き出していたのだとしたら…?


だから、金の心配はいらないと…。


男が目撃したのは、妻の裏切りの現場ではなく洗脳の瞬間…!




















「失せろ」



両手両足をボロボロにされた男が仰向けで倒れている。血溜まりの中で痛みに苦しみながら、それでも睨むことをやめない。


…"あれから"大きくなった六島は、この時久しぶりに恐怖した。


父親以来の恐怖の対象。それは死の間際でも自分の強さを信じる狂人の目…。


勝利を確信して放った言葉も、目の前の男には少しも効果がない。


雨が降る…どこかの道端。近くには車が数台潰れていて。戦闘の痕跡が強く残っていた。



「お前は未来に何を求める」



「……っ、」



「何を期待して生きている」



「…な、何を」



「死に向かっていくだけのこの世界で、お前は無駄に殺し合いを続けるのか?我々を創った者に、その怒りの刃を向けたいとは思わないのか?」



「我々を創った?お、お前…何言って」



「創造神だ。我々人間、その他生あるもの全ては創造神が創り出した。遠い遠い昔に。そして、どこか遠くから我々を観察している」



そう言って男は空を見上げた。



「考えたことはないか?宇宙の始まりは、その前には?何があった?さらにその前には?どうして我々は"始まり"を知ることができない?」



この時。六島は初めて自分が洗脳されそうなほど引き込まれていると感じた。頭を横に振って我に返ったつもりでいるが、もうその思考は全て男の言ったことで染まっているようだった。



「何のために生まれ、死ぬ?そも、なぜ死ぬ必要が?どうして人間の数は多い?繁殖を覚えたとて、なぜ大量の人間が要る?」



「…な、……ぜ」



「真の答えは知らない。だが、予想はできる。飽きないためだ。1人の人生を観察し続けてもいずれ飽きる。だからつまらなくなったら理由をつけて殺し、次の人間を観察する。それを続けていくうち、人間は増え続けた。そして、増えた分だけの結果を残した」



「……」



「だが、考えてもみろ。他の生物よりは多いだろうが、人間の人生もそろそろネタ切れだ。成功と失敗のバランス…それぞれの詳細は…ほとんど出尽くした。人間が出せる答えを全て見終えたと創造神が判断したら、どうなると?」



「……ころす」



「そうだ。人間の観察を完全に終えたなら、用済みになって殺す。神の勝手で創られて、懸命に生きているというのに…神の勝手によって完全に消される。我々は、無駄なことをしている。殺し合うことで、得られる…ことなど」



ここに来てようやく男が体のダメージに耐えられなくなって、目を閉じる。



「許していいと、思うか?1秒すらも惜しむ我々を、創造神は不要と思えばいつでも好きな時に切り捨てられる。許せるのか?お前は」



「…………」



「創造神を殺せば、人間は真の自由を得られる。学者共があれこれ理由をつけて説明したがる自然災害も、一切なくなる。その時こそ、人間はこの地球という名の箱庭で正しく頂点に立つことができる」



「…お前は」



「魂を集めて固める方法を知っている」



「は…」



「形はどうあれ、それによって多くの人間の魂を集結させれば…創造神と戦うこともできるはずだ。……お前が代わりにやれ。これに全て書いてある」



血で汚れた創造の書。六島はそれを恐る恐る受け取り、自分のと同調させた。



「都合よく創られた人間の怒りを…引き継げ」



「っ。…………」



ペラペラと喋っていた男は、その言葉を最後に突然死んだ。それと同時に、六島は胸の辺りを気にしながら苦しみだした。


……もしかして。


















「六島自身、操られている?」



なんとか呼吸は出来ている。ただそれだけの状態。目の前の男を僕は…どう見ているのだろう。

僕が見た真実は、彼が"被害者"であることの証明。創造に溺れた母親と嫉妬で狂った父親…そして、何やら大きな野望を抱えていた代行の男…六島は彼らに大きく影響を…。



「……」



目覚めないのをいいことに、僕は六島の胸の部分を露出させた。薄い生地のパジャマのようなそれは、わざわざボタンを外さなくても簡単に引き裂くことができた。



「…なんだ、これ」



医者達はこれを見て何も思わなかったのか?それとも代行にしか見えないとでも?


…胸の真ん中から少し左側まで心臓とは逆の位置に広がる特殊な腫れ物。その表面には脈のような線が無数に走っていて、六島の体と同調している。呼吸に合わせて微妙に大きくなって、小さくなって…どう見てもこの物体は……



「生きてる」



自然と右手を向けていた。"これ"だけ取り除いたらどうなるのか、僕は試したくなっていた。



「…いや、だめだ。消し飛ばしじゃ……六島の心臓ごと消える」



だけど直前で冷静に考える。この腫れ物は六島の体と同調しているのだ。完全に根付いているのなら間違いなく心臓にも紐づいてるはずだ。

そこまでやることで、強力な洗脳を施すことができる…のかもしれない。



「なら、切り取る…!」



腫れ物と六島の心臓を切り離し、さらに胸から取り除くべく腫れ物の周囲を切る…。

僕はそれを今の状態に重ねて見た。


ズキズキと…目の奥が……痛む…。



「白真…!」



上から力任せに突き立てたように、傷口から血が飛んだ。白真が楽々斬っていくと…六島の胸からどんどん血が溢れてくる。でも、誰の目にも刀の姿は見えない…。



「っず…ぅ、」



あっという間に白真は仕事を終えた。体から完全に切り離され、床に落とされた腫れ物…宿主を求めて短い管を数本伸ばすその姿は…気持ちが悪い。



「創造…あの男の創造…創造の書を渡した時にやったんだ。この寄生生物…多分、創造の書を同調するとこれも同時にくっつく仕組みで」



改めて、右手を向けた。



((PROMISE))




音もなく、腫れ物は消滅した。



「これで…よかった、のか?」



僕は六島を助けてしまったのだろうか。見れば、胸には大きな穴が……放置すれば物理的な死は確実。でも、終の解放者ならそれを乗り越えられる。あの腫れ物が完全に六島を取り込んでいたら、もしかしたら…結果は違っていたのかもしれない。



「……」



「っ、……」



「え…」



その時。急に六島が苦しみだした。…まあ、それもそうか。胸に大きなダメージがあるんだし。出血もしてるし。



「ぐ、…ぁっ、……あめすとろ……ど、どこに…」



あめ…何て?探しているようだけど…まさかあの腫れ物のこと?



「っ…!?……な、なぜ…お前が……」



目が開いた。僕を直視して驚いている。少しだけ、仕返しできた気がして嬉しくなった。



「六島。お前の大事な"憑き物"は僕が消した。…これで」



「なんだ…とっ、かは!!」



吐血。酸素マスク内に血が溜まって、そのほとんどが口の中に戻り…それをまた咳と共に吐き出す。繰り返して勝手に弱っていくのを見ながら、



「"あれ"は僕の未来を邪魔するものだった。…お前は自分を失ってでも最後まであれに頼るつもりだったのか?」



僕はベッドの近くにある全ての機械の電源を抜いた。



「なんで学校で僕を殺さずにおいたのかは知らない。聞こうとも思わない。…でもこれで、"あいこ"だ。いつか必ず決着はつける」



「はふ、ぁ、っ、」



六島の生命を維持する何かが止まったらしい。息苦しそうにしながら、どうにか僕を睨んで…でも何も出来ない。



「いや、でも僕はお前を殺したから…僕が1歩リード…かな?」



「っ、っ、っ、っ、」



痙攣。もうすぐ彼は死ぬ。だから、その前に。



「……ざまあみろ」



「っ!?……………………」



最後、僕は相当嫌な顔をしていただろう。彼の中で印象に残ったはずだ。



「スッキリした。ふぅ…帰ろ」

















………………………to be continued…→…


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