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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
絶望も希望も全て
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第5話「アツアツな2人」







夏の嫌われ者。蚊。…もしこう思っているのが僕だけだとしても、意見を曲げるつもりはない。その蚊だが、殺され方は様々だ。薬品なんか使われた日には想像もできない苦しみの中で溺れて死ぬことになるだろう。


だが、1番シンプルなのが叩き潰すという方法だ。


道具などに頼らず、のんびり飛び回っている時…壁などに付いた時…しっかり狙って、素早く殺す。回避することもまあよくあるが、チャンスは1度だけではないので…結果として死ぬことになる。パチンと手を打ち合せる音が聞こえる度に、生きるか死ぬかで恐怖することになる。


……今の僕は、蚊だ。


手ではなく足で殺られるというのがなんとも奇妙だが。




「うぉ」




後頭部に走る衝撃、直後…背中にも。あっちとこっちで2度吹っ飛ばされて、最後は両足に挟み撃ちにされる。頭に強い衝撃を与えられると…どうも体がすぐに動いてくれなくて




「真っ!!!」




凪咲の心配の声が聞こえた時にはもう。






「まずは、1人」


「そうだ。1人」




「なに、が?…っ」




1人仕留めた。口角を上げて不細工な笑顔を浮かべるタタカヌとケラヌに、凪咲は静かに聞いた。怒りと悔しさを混ぜた彼女の目を見て、2人は声を出して笑う。



「あぁ、無力」


「熱を操る女。次はお前だ」



そして余計にやる気が出てきた2人は凪咲に宣言した。

真のおかげで2人には目に見える手足が無い。透明なものに支えられて立つ2人は、目に見える手や足をどこからともなく出現させて自由に操作し戦う。しかも力が強い。


本体はすぐそこなのに、惜しくも攻撃が届かない。届いても、あまり効いていない。


凪咲はしっかり見ていた。真を回復させるついでに魔法に焼かれたはずの2人は攻撃を受ける前と比べて変化がない。



「フェニックスが降りてくるまでに……私がやるしかない」



「お前も潰れろ」


「…即座に、」


((READ))



真の相手をしなくてよくなったケラヌが、さらに足を追加する。その間に凪咲は高い位置で浮いたままの大きな足を見て小さく頷いた。



「どこを見ている」


「お前はしっかりと」


「「裁かれよ!!」」




「…"アタイ"、痛みにゃァちっとばかし…強いんだよ」




炎剣を手放さない凪咲を囲むように出現した無数の足。靴を履いていない、特に特徴もない、そして謎に清潔感のある足。それらが一斉に動き出す。

最低でも5人以上の集団に囲まれて蹴られたり踏みつけられたりしているような、一方的でひどく乱暴な攻撃。創造された足ということもあり、蹴りも踏みも人間が出せる重みを遥かに超えていて




「タタカヌ。最後は叩き潰すのがいい」


「そうしよう、ケラヌ。さあ、存分に弱らせるといい」


((READ))



最後の一撃をタタカヌに任せたケラヌ。それに応えようとタタカヌはケラヌが真を仕留めるために創造した足よりも、さらに大きな手を創造する。


凪咲の遥か上空…5本の指を開いたこの世で最大最強の"パー"が出現し、その時を待つ。


2人はもう勝負は決したと考えていた。あと数秒、ケラヌが痛めつけたらとどめの一撃をタタカヌが決める。長めに考えても1分以内には終わると。




「……つわぁっ!?」


「どうし…ぬぅ!?」




そんなゴール前の油断の瞬間に、事態は急変する。

まずケラヌが大きく仰け反ってそのまま倒れた。白目をむいて、苦しみだす。

それに気づいたタタカヌも同じような反応を見せ、ケラヌの隣で苦しむ。




「……舐めすぎなんだよ。"アタイ"らのこと」


「ふぅ。…ちょっと見ない間に変わったね。イメチェン?」


「どんな姿してようが"アタイ"はアンタの連れだ。そうだろ?」


「一応聞くけどその見た目は……魔王的なことでいいんだよね……?」




さすが、アムグーリ…といったところか。反撃できるようになるまで少し時間がかかったが、即死とはならなかったことが何より大きい。回復したらあとは簡単だった。両手でEXECUTIONして僕を潰そうとした両足を消し飛ばして、こうして凪咲の隣に戻ってきた。

…まあ、凪咲の姿が変わってたのはちょっと驚いたが。


まず、全身が赤い。で…手足は猛禽類みたいに鋭い爪を持ったものになっていて、サメのような尾ヒレ付きの尻尾まで生えていて。背中には翼が生えていた形跡が…これはもがれたのだろうか。頭部は細長い黒い嘴を持つ龍の頭という感じで、まさに空想上の生物という見た目。




「あんまジロジロ見んじゃねぇ。惚れた男に引かれちまったら生きていけねえだろ」


「あの…可愛いとはなかなか言えないけど、すごく強そうでかっこいいと……思います」


「ちょっと態度変わっちまってるぞ!……これは鏡罰の魔王、ビラユーザ。受けたダメージを対象に好きに振り分けることができる」


「きょうばつ…へえ、じゃあそれで2人を」


「まだ終わらない。"アタイ"に触ってろ。燃えるぞ」


「………あ、思ったより大きい」




たった2人の敵。とどめを刺す攻撃として、派手さは間違いないのだろうがもったいない気がした。

…雲の間から出てくる。ゆったりと翼を動かしながら、下降してくる。


虹色の炎が鳥の姿をして。


魔法で召喚したフェニックスが姿を見せると、途端に気温が高くなっていく。フツフツと小さな音が聞こえるようになって、それが



「だぁぁ〜……ぁぁ、」


「うご…け、ぬ、」



タタカヌとケラヌの体を焼いている音なのだと分かった時、ゾッとした。

苦しむ顔を見て…既視感。それがなんなのか記憶の中を探して……思い出した。ホットケーキだ。生地をフライパンに流して、ひっくり返すその瞬間を待つ。…その合図はフツフツと聞こえて、表面に穴が



「やめろ。"アタイ"まで想像しちまった」


「だって2人とも肌が…ひ、ひっくり返す?」


「あとでお仕置してやるから」


「……すみません」



そんなホットケーキ状態の2人は一瞬小さな爆発を起こした。魔王状態の凪咲と目を合わせてみるが…どうやらこれは彼女の仕業ではないらしい。となると、



「創造の書が燃えたんだろ。紙の束だ、よく燃えるのは間違いない」


「やっぱり。じゃあこのまま見守れば……」



見上げた時、汗が髪の隙間から流れてくるのを感じた。額を通過して、鼻やら頬やらが濡れていく。



「え、これ大丈夫?僕結構今、え?危機感が……凪咲?」



この攻撃の終着点を知りたい。フェニックスは完全に地上まで降りてくるのか。空中でそれっぽいフィニッシュを見せるのか。意外と"ホバリング"しながら炎の嘴で2人をツンツンと…



「今回は爆発。空中で大爆発だ。"アタイ"に触ってればアンタは問題ない。ちょっと暑いだけで」


「多分思い浮かべてる字が違うよね、熱いと暑いで」




結局僕はフェニックスの大爆発を見届けることは出来なかった。体に力が入らなくなって、凪咲に寄りかかってぐったりと……











………………………………next…→……










「で、どこ行くんだよ」




移動中の車内。後部座席でアフロの装着具合を気にするミハルが不機嫌そうに言う。



「"拾った"車ではありますがガソリンが予想以上に入っていました。なので見回りと救出を同時進行でと考えています」



それに運転中のみかん先生が答えるが、



「先に言っとくけど往復するのはお前らだけだぞ。俺は用が済んだらそのまま消えるから」



「ミハルはもっとフレンドリーな人だって聞いてたけどね。僕は正直びっくりだよ」



「……ふん」



ミハルはどうしても1人になりたいらしい。

しかしトムは彼が新人類だと自称したのを忘れない。1人になるための冗談かもしれないが、万が一それが事実であれば仲間の元に帰ろうとしている…と考えられるのだ。



「ジロジロ見んなよ。どうせ余計なこと考えて俺のストーカーを続行するつもりなんだろ?」


「ストーカーってそんな」


「お前らとは喧嘩する理由がない。それだけだ。じゃなきゃしつこいお前はとっくにぶん殴ってる」



「すみませんがトム、この辺でCチームに連絡を。無反応でしょうが、信号を受け取ればある程度位置を把握することができます」



「分かった。……」



ミハルはアフロの細かい調整をするフリをしながら、助手席に座るトムの様子を見る。取り出したのは伸縮するアンテナが付いたスマートフォンのような機械。側面についているボタンをカチカチ押すと、画面にレーダーが表示される。そして画面下部にキーボードが出てきて、暗号のような数文字のアルファベットを入力すると



「OK。返事があるといいけど」


「通話可能な通信だと助かりますね」



そこまで聞いてミハルは機械が創造物であることを察した。そして複数のチームがあることからして、この機械はそれなりの数が存在する。個人間の通信のために2台を創造するのなら特別難しくはないだろうが、台数次第では創造した代行の実力が



「ミハル」



「な、んだよ」



「さすがにここからは僕もみかん先生も余裕はない。頼りにしているよ」



思考を遮ったトムの言葉は、彼の想像以上にミハルに刺さった。その原因がミハルには思い当たらなかったが、グッと鷲掴みにしたアフロを下方向に引っ張ると



「敵はぶっ殺す。それだけだ」



2人にバレないように気合を入れた。




ツツー、ブス、ブツツ!!



「あっ、先生!」


「はい。少しの間停車します」



その時。トムが持つ機械が音を発する。やたらと途切れがちなその音は2人の反応からして、救出対象であるCチームからの返事。



「こちら…、C、、チ、」



「聞こえるよ!良かった、まだ生きていてくれて」


「救出に向かっているところです。現在地の手がかりを教えてください」



「、、ば、、りま、……大きな、っ、て、て、か、あげ、、の、」



「ふざけてんのかよ。なんで創造した通信機器でブチブチ途切れんだよ」


「すまない。でも静かにしてくれ。今はしっかり聞くんだ」




「あ、っ、あ、……だ!!」




通信相手の声の調子が変わる。連絡に専念する落ち着いたものから、焦りが隠せないような大きな声に。



「敵に見つかったみたいだな」


「くっ……先生」


「ばりま…大きな……ててかげ」


「いや、繋げてどうすんだよ」


「みかん先生は今頭の中で聞こえなかった部分を埋めて言葉を作ろうとしてる」


「見りゃ分かる。でもそんな必死にならなくていいだろ。"看板があります"と"大きなコッコ"あと…"丁寧に手作り"で、"から揚げの店"」


「えっ」


「なんだよ。別に嘘つかねえよ」


「……地図、地図…先生っ、現在地は」


「ここです。…近くのから揚げ専門店で……ありました。店名は大きなコッコ。2分もあれば着きます」



動き出す車。しかし、前の2人はチラチラとミハルを見てくる。不快感に襲われたミハルは「前向いて運転しろよ馬鹿かよ」と呟くようにツッコミながらみかん先生の座席の背を蹴る。



「大人しくスマホで連絡すりゃあいいのに。そうやって通信機器使いたがるんだよ…どこの組織も。ちょっと経験すればそんくらい誰だって聞き取れるようになる」



「さすがだと言いたいけど、ミハル。今はスマホもまともに使えないんだよ。ネット障害というか、ネット崩壊というか…」


「全くと言っていいほど繋がりません。災害時に頼りになる伝言板なども使用出来ないので、保護している方々の家族に連絡することも難しい状況で」



「……」



ミハルは前のめり気味だった姿勢を変える。しっかり座席に身を預けて、なんとなく前方を見る。



「僕僕って…しかも相方はですますきっちり……なんか真とジュリアみたいだ」



今更ながら、ミハルは思ったことを口にした。その声量は決して小さくなく、2人の耳に入ったのは確実だった。しかし反応はない。こんな時だけトムは何も聞いてこない。

しまった、とも言えない空気感。



「……なるほどな」



まさかこの2人が遠慮したのか、と…ミハルが思いそうになったその時。フロントガラス越しにその原因が見えた。

前方に2人の白装束。敵で間違いない。



「降りるぞ。それとも車で突っ込んで自爆特攻とか考えてないだろうな…」



「ま、まさか。…先生。確かに乗ったままこれ以上接近するのは危険だよ。降りよう」


「では……救出チーム…戦闘準備を」


((READ))



車内での創造。しかし発生した光は淡い…そして弱い。直後、みかん先生の腰にジャラジャラと様々な文房具が…



「個性を追い求めすぎて残念な仕上がりだな…それ」



「すみません。戦いは不慣れでして」


「さ、ミハルも今のうちに」


((READ))



今度はトムが創造する。同じレベルの光の後でトムが手に持っていたのは……



「い、いや…そんなわけない。えー…」



大小様々なぬいぐるみ。その数は10。ピンク色のウサギ、水色のカメ、緑色のゾウ……ふわふわもこもこの動物達の中に一体だけ異色のロボットのぬいぐるみもあった。



「どうでもいいしそんなの。お前ら真面目にやってる?本気でそれ?」



「僕やみかん先生には創造できる限界がある。限られた力の中でコスパを優先して創り上げたのがこれなんだよ」



「コスパ最悪だろ。なんで見た目に振ったんだよ。……というかそっちはまだ分かるよ、先生だから文房具って。でもお前普通におっさん間近じゃん?なんでぬいぐるみ?」



「それは…」


「はっ、皆さん!車を降りて!!」



やり取りの最中。前方から砕け割れた道路の一部が飛んでくる。それに気づいたみかん先生が声を張ったおかげで、全員が車から脱出。回避に成功する。




「派手にやったな…この時点で敵の能力はあの2人より遥かに上。本当に俺しか戦えそうなのいないのかよ…!」



外に出たミハルは敵の姿を見つけた。少しだけ折れ曲がった信号機の上に立ってこちらを見下ろしている…が、黒い布で目隠しをしている者。それと…



「んー、道路ぶっ壊したっぽいあいつはヘッドホンしてるな…どっちも創造が読めねえ。でも敵は2人だけ…だな」


「っ!……ミハル。先に伝えておきます。あれは我々が最も警戒している新人類の2人」


「へえ」


「ミヌ、キカヌ…です。あの2人がやったことといえば、警戒状態の"国の防御"を真正面から…潰した」


「意味深だな。それってもしかして…軍隊とか外国人がいっぱいいる基地みたいなのとか」


「武器、兵器…何を向けられても傷つくことすらなかったと聞いています」


「……」


「Cチームを生かしておいたのは我々をおびき出すためだったのでしょう。戦力を削ぎ落として反乱勢力を完全に」


「ガタガタ言うな。もう目の前にいるんだから戦うしかないだろ」



敵から目を離さないようにしていたみかん先生だが、ここでふとミハルの方を向いた。彼は既に戦闘モードだった。READとはひと言も発していなかったのに彼の右手には大きなハンマーが握られていて…。



「我々の生死については気になさらず。自分のことは自分で守るつもりです。あなたは思う存分、暴れてください」


「それが聞けてよかった。うるさくてしつこいお前らを守りながら戦うなんて最悪だしな」




そして、ミハルはハンマーを信号機の上にいる新人類に向けた。




「2vs1の戦闘でも俺は勝つ。自信満々で日本潰したばっかりのとこ悪いけど、死んでくれ」

















………………………to be continued…→…


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