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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Leave me alone.
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第30話「数分前」








「っ……こくっ、」





再び動き出す時間。無表情の歓喜はその分だけ心臓を強く動かし、感じたことのない苦しみを味わうこととなる。


……空は、青い。





「お目覚めか?よし…じゃあすぐ本題入っていいか?」





声がする。聞いたことのない声が。しかし…だからこそ、自分が何者かに助けられたと仮定することができる。



「…どうぞ」




「簡単に言うと、俺様はお前の命の恩人なわけだ。だから恩返しをしてほしい」




「代行絡みの恩返しとなると、お金ではありませんね…どのような?」




「今後は俺様のあやつり人形として立ち回れ。ああ、話は聞いてる。お前はこの世の人間じゃないらしいな」




「…それなら、これまでと変わりませんね」




「つまりOKってことだな。よかったー。まさかダンの攻撃と重なるとは思ってなかったからお前を"取り出す"時困ったんだよ。苦労したのに断られたらどうしてやろうかと…」




体の調子が戻ってくる。好調の兆しすら感じて、ゆっくり起き上がってみる。…が、近くには誰もいない。



「無線…の類でもない。とすると、テレパシーによる会話を?」




「ん?いや、訳ありでさー。体を持てないんだよ。どんなに健康なのを手に入れてもすーぐ死ぬ。呪いっつうかなんつうか…お前もしかして解けたりしない?」




声がする方向は自分から見て左側。なんとなくの位置は分かったが、変な話ではある。体を持てない…というのは



「初めて聞きました。…ですが解呪については難しいですね。世に存在する呪い方がいくつあるかあなたはご存知ですか?」




「それは知らねえけどさ。呪い方次第によってはいけるってんなら…お前は出来るパターンだと思うぞ。なんてったって、これをやったのは"あの"柊木 真だからな」




「……あなたはいつから」




「いつからって…まあ、あれだ。ずっと。ずっと見てきたんだ、世界中を」




「はい?」




「よろしくな、柊木 栞。俺様はもうすぐ誰もが認める神になる…気軽に"アマゴウラ"って呼べよ」




「っ……!!」




「ん。もう知ってたか?」




「いえ。…神になるというのが」




「はは。面白いだろ?」




柊木 栞。今だけその名と関連する記憶を消してしまいたかった。自分が何のために"こちら側"の世界に来たのか…何のために戦ってきたのか…たくさんの理由がめちゃくちゃになってしまう。

よりによって、最も憎い相手に命を救われて…さらにはその下で働くことになるなんて。




「で。早速なんだけどさ。いいか?」




「はい…」




「頼みたいのは2つ。まず1つ目は、この世に実在するらしい"精霊"とやらを捕まえてきてほしいんだ。なんて、ちょっと演技下手か」




「そうですね。ずっと見てきたというのなら、実在するらしいなんて言いませんね。分かりました。それなら新人類の長であるマスターのコレクションにあります」




「サンキュー。で、2つ目も実はその男に関係あるんだけど」




「……殺せと?」




「大丈夫。"病み上がり"のお前にすぐやれなんて言わないし、その時は俺様が手伝ってやるから。…あいつが欲しい物を実体化させたら殺せ。そんでそれを奪い取れ」




「なるほど」




「多分俺様に届く力があるとしたら、それだけだ。そんでその力を俺様が持ったら、いよいよだろ?」




「ではまず精霊の奪取を」




「おう。…ん、そうだそうだ。そのまま行かせてもあれだろ?ちゃんと持たせないとな」




瞬間、栞の目の前に衝撃波が走る。目で追えば走る電車の車内を覗くように衝撃波を観察することができて、そこには見たことのない別世界が広がっていた。


天地の逆転。


空には海の生物が泳いでいて、陸では空を飛べる生物達が当然のように足で歩いていた。……それに海が見当たらない。この瞬間には映らなかったか…または



カランッ!!



「…これは」



衝撃波が完全に通り過ぎて消える。そして走った道には"落し物"があった。



「小石…?」



「それは俺様の力を封じ込めた石だ。この世にいくつもある"スーパーアイテム"と同じだよ。お前のご主人様が集めてるようなさ?」



「そうですか」



「それを押し当てられた対象の時間を弄れる。まあ使いこなせるかはお前次第だけど」



「ありがとうございます。頂きます」



「手に入れたらすぐ俺様から声をかける。どうしても用がある時は…そうだな……全裸になってその場で3回転からのワン!…な?」



「分かりました」



「んじゃ行ってら。…つかお前語尾によんよん付けるのやめた?」



「そうですね。死ぬ前の自分の癖のようなものでしたが、今はもう違うので」



「へえ……」









………………………………next…→……











「"便利な力"だな。お前達には勿体ない…」






すぐ目の前には黒装束の彼がいる。でも僕としては右隣にいるダン達の方に注目したい。2人の方が先にいた…?そんなことって。だって細かい居場所は分からないはずだし…いや、敵の発言からして……まさかそんな。




「どうしても気になるから聞くけど、ダン」


「驚いたか。私達もだ。瞬間移動を使えるようになるとは夢にも思わなかった」


「解説は省きますが、ご主人様がさらに成長したということです」


「ふーん…真より?」



今は彼女には背を向ける。小さな泣き声が聞こえるけど、しっかり見せてあげないと。



「凪咲様。あれが新人類の?」


「そう。1番偉いやつだよ。あれを殺したら新人類もおしまい」





「1度逃げ出した割には元気だな。そこの小娘と同じように絶望させてやるとしよう…なぜなら…今はとても、気分がいい」





「4人で確実に仕留めるぞ。何か共有すべきことはあるか、真」


「あの杖はやばい」


「…具体的には」


「やばい」


「そうか。それもいいだろう。勝つのは私達だ。それは揺るがない」



黒装束だけボロボロになってる。既に戦った後みたいだ…結果はもちろん、見てのとおり。動けないであろうサラを守るのは



「私に任せて。サラには指1本触れさせないから。それに魔法でサポートも出来るし」





「死にゆく若者たちよ。その準備は終わったか?」





「残念だが、未来ある私達は今日は死なない。…しかし、新人類は違う」


「もう誰にも世界をどうこうなんてさせない。いい加減うんざりだ」





「数分後が楽しみだ……!!」





数分。そうだ。僕達の殺し合いじゃ、漫画のような激しい攻防のやり取りは珍しい。裸で拳銃を持ってる状態で、遮蔽物もなしに撃ち合うようなもの。そしてやり合う代行達の力が強くなればなるほどその傾向はより強くなるのだ。



「いざ、参ります」



動き出したらもう、止められない。誰にも。



「安心したまえ。痛みはない」



「我、柊木の代行なり…!」









「…………」



ただただ、涙が流れた。色んな感情が心の中でぶつかりあって、ひたすらに痛くて苦しくて寒くて。

もう、この世界が嫌いだった。1人だけで生きなければならないこの世界が、大嫌いだった。壊すつもりだった。何もかもに感情をぶつけて、同じだけ傷ついてもらうつもりだった。


それが、ピタリと止む。


まだ世界は嫌い。痛いのも苦しいのも寒いのも続いてる。なのに、衝動が…力を無くす。


目の前に現れた4人のことを忘れていたわけじゃない。隣にいたところでこの決心は変わらないはずだった。



「どう、して?」



「なぁに?」



「…ぁ、……」



「大切な人がピンチなのにほっとくわけないでしょ?」



「ぅ……」



「泣いていいよ」



「っ"!!」



「辛いもんね。いいんだよ、いっぱい泣いても。その方がオヤブンも喜ぶよ」



「なぎ、……っ、ずっ、…ナギサぁ、…も、も"う、おやぶんばぁ!!」



「うん。みんながオヤブンのこと大好きだった。…オヤブンもそうだよね、きっと。同じくらいみんなのこと…サラのこと、大好きだった」



サラは、痛みをさらけ出した。思うままに大声を出して、大粒の涙を流して、歪な空を見上げて…泣いた。


その心からの大泣きはもしかしたら、天まで届いたかもしれない。












………………………to be continued…→…


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