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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Leave me alone.
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第27話「悲」






エコーがかかっている。



たった1度の銃声が、どういうわけか何度も何度も聞こえる。そして少しずつ音の粒が増えていって……やがて1つの音になる。永遠に鳴り続ける。いつしか音は線のように綺麗で一定のものに変化し…少しずつ…少しずつ…消えていく。







「敵ではあるが、これは同情してしまう。よりによって2つを同時に受けるとは」



ダンは目の前で麻痺毒に苦しむ柊木 栞に背を向ける。そしてそこから近い場所…逃げ出そうとしていた本物の方に近づいていく。



「銃声に紛れて気が付かなかった。まさか」



硬直する敵の姿を見て、ダンは立ち止まった。遠くを見て歩き去っていこうとするその体はまるで壊れた画像データのよう。全身にノイズがかかり、首や肩…足まで様々な部位に細かなズレが発生している。



「時割れ…か」



ダンの使った銃は創造を否定する力を弾に込めることができる。その異能の力と時割れが同時に。



「それだけではない。この代行は"パラレルワールド"の住人だ。偶然にもそのことが余計に問題を難しくしている」



どれか1つだけでも十分におかしい力が3つも重なり激突した。その結果がこの死に方。



「…」



手を伸ばし触れようとするが、くだらない好奇心のせいで酷い目にあいそうな気がして止める。



「もう少し…いや、もっと知りたかった。彼女もまた、世界を大きく変える存在に…」



ダンは覗きで得られた情報を思い出す。忘れてしまわないように、スマホのボイスレコーダー機能を使って録音しながら。





…柊木 栞。

彼女が生まれた夜、争いも生まれた。

"向こう側"の柊木家の一族は、力を引き継ぐのに相応しい器として生まれる子は男であることが望ましいと考え、強くこだわっていた。

そこに生まれてしまった女の子…当然のように両親以外の親族は今すぐに殺処分すべきだと訴えた。両親は生まれた子に罪はないと反対し、気に入らないなら自分達を殺せとその身を差し出そうともした。白熱していくばかりの言い争いはやがて暴力に発展し、ついには創造の力を使った殺し合いにまでなってしまった。

結果、柊木 栞は生後24時間以内に両親を失い…自身も死ぬことになった。



…しかし、彼女の死を取り消した者達がいた。集団の名は"デズェウム"。集団は"運命の力"によって死亡したはずの彼女を取り戻し、柊木家に知られずに育てることに成功した。そして成長した柊木 栞は集団の一員として、"新人類"の代行として活動を始めた。

彼女の役割は世界が正しい運命を選ぶための手伝いをすること。集団が定めた歴史をなぞれるように、運命が書き変わる要因を排除する…





「っ…しまった…先が少し曖昧だ」



ダンはこのタイミングで創造をする。記憶力を究極まで高めれば詳細を忘れずに済むと考えた。

すぐに青い光が生まれ、ダンを強化する。顎に人差し指の側面を押し当てながら、続きを引っ張り出す。






仕事は順調だった。柊木 栞は代行として素晴らしい才能を持っていたから。柊木の血を引く彼女は難しい創造も簡単にできてしまう。時には数時間で大きな川を消して、時には空に浮かぶ島を創った。大仕事を終える度に更なる成長を迎える彼女は自信をつけていったが、"向こう側"の世界にも当たり前に世界の危機が訪れた。


アマゴウラの登場だ。


そう、あれはどの道現れる。"世界の分岐"で別の選択肢を選んだ別世界の先でも、あの存在は必ず現れるのだ。それもまた…運命。

本来であれば、世界は新人類が支配し本当の意味で世代交代が行われるはずだった。しかしアマゴウラの登場によってデズェウムの定めた歴史がなぞれなくなってしまう。

…彼女も含め、集団はアマゴウラに戦いを挑んだ。しかし時を操る創造の前に



「ご主人様っ…!!」



「っ!?…ジュリアか」



慌てた様子のジュリアを見て、ダンは録音を中断する。"向こう側"に行ってしまったジュリアをどう連れ戻すか…そもそもその事を全く考えていなかったことを気まずく思いながら、彼女が抱くものを見た。



「それはなんだ…」


「オヤブンです」


「……」


オヤブンと言われても困ってしまう。目の前にあるのは包帯でぐるぐる巻きにされた繭だから。


「ご主人様、敵は」


「もう死んだ。彼女の創造の書が破壊されたことでお前は戻ってくることができた…と考えていいのか?」


「はい、おそらくは。っ…それより柊木様と連絡を。すぐにこちらに呼び戻してください」


「何を焦っている」


「オヤブンは重傷です。その、時間がありません」


ダンはジュリアの顔を見て、それから繭…オヤブンを見た。包帯を巻くとして、こんなにやり過ぎることがあるだろうか。少なくともジュリアは不器用ではない。もし全身を怪我していたとしても、ここまで過剰に巻くことなどありえない。


「……」


「ご主人様…」


「もう、死んでいるのか」


「…………」


「何があった…何も分からないまま、」


「…ま、まだ、柊木様なら蘇生できるかもしれません。あの方であれば、」


「死者を甦らせられると?そう言いたいのか。なら真はどうしてそうしない?家族を生き返らせ、失った使者を取り戻さないのはなぜだ」



あっさりと。それは突然やってくる。無限の悲しみと絶望を代わりに置いていって、大切な者を奪っていく。



死。



「包帯を、外せ」


「ですが」


「閉じ込めるな…自由にしてやれ」


「……はい」



ゆっくりと、ジュリアは包帯を外していく。時々目を閉じて何かを想いながら。繭はあっという間に小さくなり、やがて黒い毛が見えてくる。



「くっ……なぜだ、オヤブン」



ついに包帯が完全に取られ、だらりと垂れる頭と手足…尻尾。ジュリアがそっと手で持ち上げて直してやるが、やはり同じように垂れてしまう。少しも力が入っていない。目と口は半開きで、体は少しも動かない。腹から胸のあたりまでに大きな穴があり、あまりの残酷さにダンもジュリアも見ていられなくなる。



((READ/error))



ダンはオヤブンの目を閉じてやりながら、創造した。今できる最大限のことをした。再構築の完全上位となる青の創造を。それは、ダンの体にあるものと同じ…



「青き異海の力を持つ心臓。死者への侮辱にならないか、この瞬間も迷っている…もしこれでお前が助からないとしても、せめてこの体だけは癒してやりたい」



創造した青い心臓を穴から体内へ入れる。すぐに効果が出て穴は塞がり、オヤブンの体は表面上は元通りになった…が。



「目覚めません…タイムラグでしょうか」


「………可能性には、賭けた…」



それからしばらく、2人が音を発することはなかった。

呼吸音すら聞こえない静かな時間。

仲間が死亡したことをただ悲しむだけの時間。


ふいにポタポタと垂れ落ちて…オヤブンの顔を濡らす。


下を向いていたダンはふと顔を上げた。そこには、涙を流すジュリアの姿があった。



「オヤブンを見つけた時はまだ、まだ…息をしていたんです……っ、見間違いではありません!…救急箱が近くにあることを思い出して取りに行って…戻った時には!…もう、もう……!!」



ダンは静かにオヤブンごとジュリアを抱きしめた。その時、ダンは触れたオヤブンから一切の温もりを感じられなくて…悲しくなった。












………………………………next…→……







「なぜだい。ここに移動する必要はないと思うけどね?」



ィァムグゥルの文句は分かる。でも、現場に戻るとしても手がかりは直前の情報のみだから…自然と瞬間移動する先は




「マダム…竜王」



彼女の前になる。何がすごいって、彼女は突然目の前に人が現れても一切驚かない。しかも占いに使う道具が置かれていたテーブルの上には、マヨネーズが大量にかかったカップ焼きそばとコンビニのおにぎりが5個…。



「しかも全部照り焼きチキン」


「あー、お食事中すみません。行こっ」


凪咲の声で僕達は動き出そうとしたが、



「んー!んー!」



口をもぐもぐさせながら占い師が僕達を呼び止める。



「ん"っん"ん!!……ふぅ。待ちなさい」



「もう占いは聞いたよ。さっき、3人とも占ってもらった。その時金は取らないと自分で言っていたはずだけど、まだ何か用があるのかな?」


イライラしながらィァムグゥルが聞く。



「大きな津波、大きな地震。いずれ来ると言われているものとは違う…誰かが引き起こす。……」


まっすぐ僕だけを見てくる。なんなんだ。


「ラッキーカラーは青。ラッキーパーソンは親友。…さっきあなた方が出ていった後すぐに分かったこと。覚えておきなさい。絶対に忘れてはいけない」


「…なんで僕に」


「あなたに…ぃぇ、それは。……冷めちゃう。もう行きなさい」


凪咲とィァムグゥルを見て気まずくなったみたいだ。箸でマヨネーズ焼きそばをぐちゃぐちゃに混ぜ始めたのを見て胃もたれしそうになったので、


「…外に出よう。まだ居るか分からないけど」


急いでその場を離れた。前回と同じように外に出て新鮮な空気を吸う。鼻に残るマヨネーズとソースの危険な香りがリセットされて気分が良くなる。




「ちぃっ…いないよ。あの時逃げなければ見失うことはなかったのに」



1人。ィァムグゥルは苛立っていた。


「真は悪くないよ」


「…」


短な戦闘の傷跡は残っていた。片っ端から覗けばヒントは得られるかもしれない。でも、そんな前向きな提案すらできなかった。



「何がなんでもオヤブンを取り戻す。真、凪咲。君らも本当にオヤブンが心配ならもっとしっかり探してほしいね!!…二手に分かれるとしよう。君らはあっちだ」



走っていってしまう。1人で行かせて、もしまたさっきの黒装束のと戦ったら…でも



「先に見つけるしかないね、真。元気だして?」


「うん…」


「ねえねえ、さっきの敵が持ってた…喜びの杖?あれ貰っちゃおうよ。そしたら真も魔法が使えるようになるよ?まあ、かなり攻撃的だけど。ふふっ」


「あ。…あ、あ、!」


「どうしたの?」


「あれ…」


気持ちを切り替えようとなんとなく空を見上げようとして。僕達が出てきた占いの館の出口の上に監視カメラがあることに気づいた。


「すっごい分かりやすい設置のしかただよね。見てますっ!みたいな」


「見せてもらえれば何か分かるかも」


「じゃあ中戻ろ。交渉は私に任せて!」



この時、僕は2つの選択肢を提示された気がした。

ひとつはィァムグゥルを追いかける。もうひとつは監視カメラの映像を見せてもらう。

どっちかを選べば、選ばなかったもう一方で大事な何かを失うような…そんな、嫌な感じがして。
















………………………to be continued…→…


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