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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
聖夜の贈り物
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第1話「どこにも行かないで」





ゴホッ。ゴホッゴホッ。



静かな室内…咳はうるさく聞こえる。

分かってはいるが、止めようと思って止められるものではない。




「大丈夫…?」


「すみません…ゴホッ」


朝早くから迷惑な起こし方になってしまった。

眠たい目を擦りながら凪咲さんが僕の部屋に来た。



「風邪ひいた?」


「たぶん…」


「熱は?」


「どうでしょう…」


「どれどれ」


「あ、凪咲さん…」


両目を閉じて僕の額に手を置く。

数秒後、首を傾げた。


「分かんない」


「体温計なら」


「ちょっとごめんね」


「え、ぁ…」


凪咲さんは髪を上げて自分の額を露出させると、僕の額に…こんなの漫画とかドラマの中でやるもので実際に…あ…か、顔が近い…!


「熱いかも。…真、顔真っ赤だよ。やっぱり熱あるのかも」


「これは…」


「後で病院行こう」


「はい…」


「行きたくない?」


「え?」


「看病してほしい?」


「あの…」


「しょうがないな」


「凪咲さん、ど、どうして、ちょっと!なんで布団に入ってくるんですか!」


「熱は辛いかもしれないけど体が頑張ってる証拠だから。もっと温まれば治りも早くなるよ。ね?」


「ね?って」


「こうやってくっついて一緒に寝てれば2人分の体温で…」


「でも…!」


「足りない?抱きしめようか」


「ま、待っ」



……………


………





「っ………」



目が覚めた。

なんて夢を…!!


昨日凪咲さんを変に意識してしまったからか。

だとしてもこんな自己満足な夢を見るものなのか。

……実際にはありえないと分かっているのに、どこかでありえるかもと期待する自分がいる。馬鹿だ。



まだ朝の4時…昨日みたいに朝早くから用事がなければまだまだ寝ている時間。


でも起きてしまった。完全に目覚めてしまった。



スマホを手に取り、読書をすることにした。

今日の1冊は"ドリームメーカー"。


外国で大ヒットした絵本が日本に輸入され小説になったものだ。



ドリームメーカー…それは、毎晩子供達が良い夢を見られるようにと、善良な大人達が完成させたとある工場にある"夢を作る"機械。

人魚と一緒に海の中を泳いだり。

ドラゴンに乗って大空を飛び回ったり。

大好きな甘いお菓子を好きなだけ食べたり。


現実がどれだけ不幸で悲しいものでも、せめて眠る時だけは…。

そうして頑張っているのは善良な大人達。

ある日、そこにやって来たのは奇妙な格好をした悪い大人…ポミーリアとワククルセン。彼らは悪夢の住人で、子供達が悪夢を見ないことに腹を立てていた。


夢を作る機械を巡って戦いが始まる…果たして善良な大人達は子供達の夢を守れるのか。



これを読んだ子供は、夢を守ってくれる大人達…つまり親に感謝する。

これを読んだ大人は、話を通じて子供の夢を守ろうと思う。


親子の絆を深める効果があるとして、ヒットしたのだろう。

著者の元には発売されてからずっとお礼の手紙が届いてるんだとか。




「…っ、はっくしゅん!!」



くしゃみ…もしかして、本当に風邪を?



「…っくしゅん!」



「え?」


隣の部屋からも聞こえた。凪咲さんまで?





………………………………next…→……





「思ってたのと違う」


「え…なに?」


「いえ。なんでもないです」



7時頃に改めて起床すると、凪咲さんが辛そうに起きてきた。

見たら1発で分かるくらいに病人の顔だった。



「大丈夫ですか?昨日は全然元気だったのに…」


「心当たりが無くても、外出てたら知らない間にうつされてることもあるよ。ごめん…今日は寝てていい?」


「はい。もちろんです。熱はありますか?」


「ん…分からない」


「今体温計と風邪薬を」


「待って…」


「はい?」


「ちょっと熱い…ほら」


凪咲さんは髪を上げて額を…僕に触れと?


「し、失礼します…」


そっと手で触ってみた。

ジュッ…と焼かれるまではいかないが、十分に熱い。


「ふらふらしちゃう」


「今すぐ横になってください」


布団に寝かせて、彼女の手が届く範囲に風邪薬など必要なものを持ってきた。

が、熱を冷ますためのジェルシートが無い…コンビニでサッと買ってこよう。


自分の部屋に戻り少し雑になりながらも急いで着替える。

上着もしっかり着て、いざ。



「真…」



「は、はい」


弱々しい声で呼ばれた。

相当辛いみたいだ。



「どうしましたか?」


「…その格好は?」


「コンビニに行ってきます。のど飴とか栄養ドリンクとか、風邪の時にあったら良さそうなものを」


凪咲さんは首を横に振った。


「でも、せめて熱を冷ますジェルシートくらいは」


「どこにも行かないで…」


「っ!」


想定外な言葉を言われてドキッとした。

聞き間違いではないにしても、僕の勘違いなのは間違いない。


ただ…凪咲さんくらい綺麗な女性に言われれば、余計なことまで考えてしまうだろう…。


「行かないで」


「分かりました。…じゃあ、部屋着に着替えてきます」



凪咲さんを看病することにした。

お粥を作って、静かに家事をこなしつつ合間に様子を見て。


出来れば病院に連れていきたいが…難しいか。



あっという間に昼になった。



「けほっ…」


「大丈夫ですか。少しでも食べられますか?」


「うん…お願い」


お粥を温める。熱くてはいけない。

口に含んで咀嚼することが容易で、出来るだけ心地よく体に染み渡るような温度に。

それと、お粥をあまり受けつけなかった場合に備えてバナナをひと口サイズに切り分けたものとプリンを用意した。



凪咲さんの部屋まで持っていくが…改めて彼女の様子を見ると正直食事が出来るようには見えない。


とりあえずタオルで首の辺りと額の汗を軽く拭いた。


「ありがとう…」


「食欲…ないですよね」


「少しは…でも起きるの辛い」


「ああ…なら、僕が食べさせます」



内心はものすごく緊張している。

よくもまあ食べさせますと言えたなと思う。

別に、ただ人に優しくしているだけで、緊張するような要素なんて無いはずなのだが…。


れんげを持つ手がやたら震える。

これでスープを掬ったらあっという間に全てこぼしてしまうだろう。


…どうにかひと口分のお粥を…、


「ちょっとだけ、失礼します」


凪咲さんの頭の下に手を入れ少しだけ持ち上げる。

少しだけ開いた口に掬った量の半分くらいを流し込んだ。


「あったかくて美味しい…」


「よ、よかった…」



本気で辛いからだろうけど、お年寄り以上に手が震えていたことは指摘されなかった。

きっと元気になったら笑われるだろうが。



時間はかかったが食事も済んで、薬も飲ませて、一段落。


あとはゆっくり寝ていてもらえれば。



「ニャアア…」


「下に行こう。ね」


元気を持て余すソープを抱き抱えて1階へ。

おもちゃを床に散らかしてやると、すぐに食いついた。


「やっぱり猫だなぁ」


ソープのお気に入りはネズミボール。

ネズミを模したおもちゃの足がローラーになっていて、押してやれば勢いが止まるまで動く。

そして尻尾の先にはスーパーボールが付いていて、ネズミに引っ張られるとポンポンと小刻みに弾む仕組みだ。

スーパーボールで興味を引き、動くネズミを追いかけさせ、これはなんだと猫パンチをすると…またネズミが動く。

よく出来てる。



2階に戻り凪咲さんの様子を…



「え?」


泣いて…る。



「凪咲さん…」


「……」


「どうしましたか?体のどこか…辛いですか?」


「……」


目を閉じて黙って泣いている。

右隣に座り、目尻から垂れる涙を右の親指で拭った。

…その手を凪咲さんが掴んだ。


「どこにも行かないで…」


「行きませんよ。ソープを下で遊ばせてたんです…凪咲さんの近くで遊ばせたらうるさいからあまりよくないと思って」


「ひとりに…しないで…」


「………」



病気で辛くなったことで、彼女が普段心の奥底に押し込めていたものが出てきたのか…。

僕には面と向かって見せないようにしてきた"家族に会いたい"、"元の世界の皆に会いたい"…そんなものが。



…後悔ならこれまで何度も何度もしてきた。

自分を許せなくて解決策も探した。


でも、今の僕はそれらを乗り越えた。

僕が彼女を安心させてやらなければ。



「…僕でよければ、ずっとそばにいます」



それを聞いた凪咲さんは、僕の方に寝返りを…掴んだ手は引き寄せられ胸元に。

手は繋がれ、さらに空いてる腕で僕の手が抜けないようにがっちりとガードされた。


……今僕がとんでもない体勢で座っていることは理解していないようだ。

座ったままでいるとちょうど腕が外側にねじ曲げられてるような形になってしまう。

…僕が楽になるには、彼女の手を離して無理やり引き抜くか…または、隣で横になって添い寝をするしかない。


「………」


もぞもぞと動いて、横になった。

今彼女が目を開けたらどう足掻いても目が合ってしまう。

少し苦しいが仰向けで…いや、駄目だ。向かい合う形でないと肘から持っていかれそうだ。


室内だし少しは暖かいのだが、僕は畳にそのまま…掛け布団もない。

このまま時間を過ごすのならせめて何か…


「…ん……」


繋いでる手が解かれた。

邪魔になったのだろうか…と様子を見ていると、


「あ、」


指の間に指が入ってきた。ぐっと握られ…これは恋人繋ぎ…と呼ばれ…るやつ…で…!!



胸が苦しい。

心臓がやたら高速化して、ドクドクドクドクと騒ぐ。


…これがバレたら、何か違う感じになる。

優しい人というより、恥ずかしがってる人になってしまう。



「っ…!!」


ゆっくり…ゆっくりと深呼吸。

心臓を落ち着かせ、とにかく今は耐える。


耐え…耐える。


大丈夫。大丈夫。



本当なら凪咲さんにかけるべき言葉なのに。

ずっと心の中で自分に言い聞かせていた。





………………………………next…→……






((READ))




グチュグチュグチュ…!!




「く、くそぉ!何でこんなことに…!」



大阪。とあるマンションの一室。

この部屋には夫婦が住んでいた。

2人は新婚で、同棲を始めたばかりなのもあって幸福度は相当高かった。


しかしそれは、突然押しかけてきた…黒のレインコートを着てキャラクター物のお面をつけた謎の人間によりぶち壊される…。


部屋中…白い壁に張り巡らされていく赤黒い血管のような物体。

分岐を繰り返し、夫婦が怯えている間に部屋全体にまで伸びきった。


妻は夫に抱きつき、無言で震えている。

夫はというとチラチラとすぐ近くの台所を確認していた。


「何でも好きなものを持っていけ…でも私と妻の命だけは…!」


それを聞いた謎の人間は、手を挙げた。手のひらを見せると部屋を侵食していた血管のような物体の動きが遅くなった。


「何でもいい。金か?現金なら私達の寝室に…そこのテレビは最新式だし、」


「"本"は、ドコ、ダ?」


「本…?」


「"本"が、ホシイ」


「本、そうか。本なら隣の部屋だ。山ほどあるから全部…」


「"神の本"が、アル、ダロ?」


謎の人間は甲高い声で会話を続ける。

それが余計に怖くなった妻が、発狂した。


「本なら向こうの部屋よ!全部持っていけばいいじゃないのっ!」


「…"本"…」


「分かった。分かったから。お前がほしい本ならそこのキッチンの食器棚の中だ」


「あなた何の話してるの!?食器棚の中に本なんてしまわないでしょ!?」


「いいから。…さぁ、調べてくれ。な。あるから。そしたらそれを持って帰ってくれ」


「ドコ、ココ?」


「そう…その棚の下の方を」


ガシャン!バリィ!


雑に食器が割られていく。

床に色とりどりの破片が散らばり、謎の人間はそれを踏みながら言われた通りの場所を探す。


…そして、見つけた。



「"本"!アッタ、ココ!」


「そう、それだよな?そうだろ?」


「何あの本…なんなの!?」


「いいから。刺激しないように」


「あんなのいつから隠してたのよ!あなたがあんな変な大きい本を隠し持ってたからこんな変な人が来たんじゃないのっ!?」


妻は夫に怒り、何度も殴りつける。

それを力ずくで止めようとしていると


「帰る」


一言。たったの一言。

夫婦は一言聞いただけで、絶命した。


その瞬間に血管のような物体が壁から伸びて2人の頭を貫通したのだ。


無力な夫婦がその場に倒れると、部屋全体に存在していたそれは綺麗さっぱり無くなった。



「見ツケタ!」






………………………………next…→……







「ニャア」


「……」


「ニャアア」


「んん…」



ソープだ。

僕の顎を何度も叩いて…あ


「寝てた。いつの間に」


僕が完全に起きるとソープはトコトコと歩いていなくなってしまった。


…変わらず目の前には凪咲さんが寝ている。

さっきと比べると随分楽そうだ。

薬が効いたのだろうか。


僕の手は…まだがっちりと繋がってる。


……これがもし、恋愛漫画か何かならば良い雰囲気だと思う。

風邪の看病をきっかけに男女の距離が近づいて、添い寝までして…。


ただ、僕の場合は違う。

好きとか嫌いとかの話じゃないし、そもそもこういうドキドキするような経験はあまりない。

僕の青春は、秀爺との節約生活にあったようなものなのだから。


それに。単純に女性慣れしていないし、慣れていたとしてもこんな状況は



「…真?」


「へ?っひゃい!?」


「ふふ。…おはよう」


「お、おは、おはようございます!」


「あったかいね…」


「そ、そうですね!?」


僕はなぜ賛同した。布団の外で寝ていたのに。


「難しいこと言えないけどね、真でよかった」


「…?何が…ですか?」


「子も親も、互いを選べないでしょ?…親はどんな子が生まれてくるか分からないし、子もどんな人が親になるか分からない…使者として創造されるって…もう1度生まれることと同じだと思う…」


「……」


「だから、真でよかった…って」


「……」


「顔真っ赤だよ」


「そ、そうですかっ…っ」


「照れてる?」


「………」


「ふふ。もう少し…このまま」「はっっくしゅん!!!」


寸前で顔は別の方へ向けた。

凪咲さんには何も悪影響は無い…はず。


「真?大丈」「っくしょぉん!」



やらかした。

このまま寝てしまったのがいけなかったのか、それとも症状がはっきり出ていなかっただけで元々僕も風邪だったのか。


どちらにせよ、看病していた人間が同じ病気になったわけだ。

馬鹿だ。



「私の風邪、もらっちゃった?」


「さ、さぁ…ちょっと鼻かんできていいですか」


「だめ」


「え」


「今度は私が真を看病してあげるよ」


「でも」


「なんかすっかり元気になっちゃった。ほら、こっちに寝て」


「あの…!」



本当だ。飛び跳ねるようにスッと立ち上がると、代わりに僕を布団に寝かせた。

そしてティッシュを持ってきて


「はい、ちーん」


「待ってください。さすがにそれは自分で出来ます」


「ちーん」


「………」


ズズズズズ……ッ!!




……良い、1日だった。






………………………to be continued…→…


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