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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Leave me alone.
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第18話「【喜びの杖】」







「現在、世界中にエラーが起きている。過ぎ去った世界が現在に蘇り混ざってみたり、自然環境の乱れであったり…。特定の誰かではなく生存する全ての生物に対して混乱を撒き散らしている。これらは決して幻覚などと呼んで片付けられる現象ではない。間違いなく現実だ。それでも私達は乱されてはならない。常に"敵1人"だけを目的としろ」



めちゃくちゃになった街。そこに大勢の人間が出現する。ひと昔前の服装や髪型で、瓦礫をすり抜けたり…何も無いところを階段を上がるように移動したり…。それだけではない。視界の左側の空が変化し、茶色に汚れた緑の空から白い雪が降ってきている。逆に右側は晴れ。ここまで綺麗に境界線が分かる空は初めて見た。


「そうかと思えば。あっちの空。あれ戦闘機だね」



「今はまだ水と油だ。しかしリンクの精度が高くなれば…」


「"歴史"を引っ張り出し、攻撃することが可能となります」



「え?」



「結子の目的だ。過去を殺すことで現在や未来に生きる全ての脅威を排除できる。…大きな力を見せつけようとしているようで、"あれ"は自分が勝てない相手が存在することを明かしてしまったということだ」



過去の改変…となると難しい話になってくる。


「そうでもないよ。結子が創造したのはタイムマシンじゃない。それに」


「それに?」



「創造の力がある。時間の流れを変え、自分勝手に生命を作り、歴史を塗り変える…可能だ不可能だと言い争う必要はない。ただ…」


「参ります」


「真」


「っ…」



噂をすれば…ということか。最速で反応したダンがジュリアを先行させ、凪咲に教えられた僕は白桜を抜くため構える。




「俺が世界を創る。それでいい」




2人…3人…


「6人。瓦礫の下敷きになった人も使われてる」


過去の人間達の海の中、突っ立ってこちらを睨むその存在。分かりやすい目印もなく有象無象の中に潜むそれは、確かな殺意だけを抱えていた。…でもそれは僕達に直接向けるものではない。




「揃って仲直りってだけじゃあねえみてぇだ。こんなに邪魔になるならひよっこだった時にさっさと殺しちまうんだったな、」

「ふ、ぁっ…!!!」



前方の1人はジュリアが突っ込んで殴り殺した。それでも声は止まず、別の方向から




「揃いも揃って好き勝手語りやがって。生きる者はいつか死ぬ。でもそれは別に生き物に限った話じゃあない。太陽と月が交互に顔出すことも、暑い寒いちょうどいいそんな季節の巡りも、当たり前にあった何もかもがいつかは変化する。ずっと近くにいて大して気にしてもねえ人間共は変化しても気づかねえだろうけ、」




話が続く。


((EXECUTION))


凪咲が指で示す先を攻撃すると一瞬だけ声が途切れる。




「俺が、この俺様が…"変化の刻"そのものだ。逃れようのねえ新しい当たり前を受け入れられねえってんならちゃんと手厚く殺してやる…そんだけのことだろうが」



「異能の手…」



創造を否定する力。右腕をダン以上に青に染めるジュリアが、構えた手をぶら下げて駆けていく…しかし。



「消えねえよ。そいつらは創造で生まれたわけじゃねえ。過ぎ去りし"事実"だ。当然、この俺様のことも」


「見つけた…!!」




「器を物理的に殺した。ジュリアの力は届いてないよ。真、後ろ」


「なら…」



集中する。第三の目を開眼し、前提条件を満たした上で。



「それはどこからともなく、取り出される……」



僕の覚悟が空気を痺れさせたのが分かる。……聴力を失ったと勘違いしそうになるほど世界が静かになって…


「ジュリア、戻れ…。真は何をするつもりだ……!?」


「攻撃だよ?でも相手が相手だから手加減できないみたい」






「我、柊木の代行なり」






「あぁ?…チッ、まぁたまた馬鹿みてえなのが」



シュルシュルと"それ"の周りの空気が悲鳴をあげる。振らずとも存在するだけで世界を傷つけてしまうのか。



「純白の創造刀…白桜……!!」



ついに抜刀状態になった白桜。その刀身は"純粋"なあまり白く美しく輝き、実際の姿をも隠してしまう。


まっすぐ…縦に白桜を構え、さらに集中を高める。刀に込められた代行達の想いの鋭さに合わせるように…自分の意識を重ねて…


「ダン達も真の後ろにいた方がいいよ。斬れちゃう」




誰に習ったわけでもないのに、自然と体が動く。流れるような動作で刀は横になり腰の高さでゆったりと振られる。でも大丈夫。この瞬間は誰にも邪魔できない。





「は?」





大地から空までの範囲を斬った。西から東までの範囲を斬った。その斬撃がどこまで届くかは知らない。ただ、僕が斬ると決めた範囲は間違いなく、斬った。


初めて振った時とは違い、今度は大きく世界が割れる。世界の裂け目には創造の白い光が入り込み、そのまま壊れてしまわないように繋ぎ止める。


「……全ての気配の消失を確認しました」


「異常も消えた。今この場所にあるのは現在のみ。そして生存者は」


「私達だけ。ふふっ…すごいでしょ、私の真は」



瓦礫の山も何もかも消えてしまった。残ったのはひび割れた道路と建物を失い露出してしまった土だけ。僕が斬った範囲は…寂しさを感じるほどただただ広い土地になってしまった。



「…すぅ、……ふぅ〜…」


斬った後は毎回"やり過ぎた"と頭が真っ白になる。深呼吸をしながら白桜を手放しこの場から消してやると、やはり両手が震える。



「柊木様、今の創造は…」


「新しい……それでいて最後の力」



振り返ると皆落ち着いていた。落ち着いていたけど…ダンは僕やィァムグゥルと同じように震えていたし、ジュリアは真顔ながら本気で驚いていたようだった。

ただ凪咲だけは



「お疲れ様。今の攻撃、結子も相当怖かったと思う。…ねぇ、私も使えるのかな?」


「難しい…かな。僕の手を離れると消えるから」


全く変化がなかった。







………………………………next…→……









「ふぅわぁッ!??」




目覚めと共に飛び起き、布団を蹴飛ばす。ベッドを飛び降りるも着地に失敗し


「ぐぎぃ、」


足を捻ってしまう。激痛で動けなくなり、耐えられなくなった体は吐き気という危険信号を発する…。床を汚物で飾り、跳ね返る悪臭で不快感を倍増させ、吐けるものが無くなるまでループする。


「ぐぞオ!!」


泣きながら強引に体を動かし、部屋の隅にある姿見の前へ四つん這いで移動し…やっとの思いで鏡を見る。

そこにはとても老けた女の姿があった。あまり美を意識せず生きてきたのか、おそらく実年齢以上に老化が進んでいる容姿…しかしそんなのはどうでもいい。大事なのは



「い、いきてる!生きテる"!」



ベタベタと顔を触りまくり、生を確認する。




コンコン…。ガチャ、


「ぉ母さん、入るよ?…朝からなんかうるさかったけどだいじょ……え!?お母さん!?」



「うるせえ来んな!!」


((EXECUTION))




部屋に入ってきた若い女を反射的に殺す。

雑に頭の上半分が吹き飛んだそれは当然即死。さらに部屋が汚れていく。




「あの野郎ッ…?あ、あ、あ、当たってたら…"あれ"に当たってたらお、俺様は…どうなって」




息をする余裕があるこの瞬間に心の底から喜ぶ。まだ自分の生命が続いているという実感にこれ以上ないほどの幸せを感じる。




「よかった…生きてる…生きてて…あァ」




泣きながら、この時ばかりは両手を合わせて"神"に感謝した。



その時だ。




「ふぐ、…ぅ?腹が…いてぇ」




まるでへそから手を突っ込まれ、中身を引きずり出されそうになっているような…重い痛み。



「は、…まさか」



薄いグリーン…目に優しい色のパジャマを捲り確認する…



「いやだ…ぃやだ!なんでだ!!」



すでに自重でずり落ちそうになっている上半身。真横に綺麗に斬られた腹が…今になって。



「死ぬ!?死ぬ、死ぬう!!」





「おいなんの騒ぎだ!!…ぇ」



そこへやって来たのは男。おそらくは今死んだばかりの老けた女の夫で、さっき死んだばかりの若い女の父。



「ぷくぅ……。…はぁ、はぁっ、……よし、よ、よし……これで大丈夫。こんなババアと違って、こいつは脂肪も少ないし…体も強そうだっ………………」



しかし。



「なん、なんでだよ……斬られた体はとっくに捨てたじゃねえか……!!そこのババアもこいつも…無関係だろ…!?」



やはり同じように腹に痛みを感じる。わざわざ服を捲って確認など、もう必要ない。



「真…ぉ、てめえ俺に何しやがった……俺、様は……こんな、」



またしても、死ぬ。そして再び逃げる。それを繰り返して…生身の体を持って生きることを禁じられたと気づくのに"半日"かかった。






結子は、永遠に肉体を失った。








………………………………next…→……








「〜〜♪」




"翌日"。


テーブルの上に置かれた小包を鼻歌交じりに開封する。ダンボールを破り捨て、細長い小箱を開け、何重にも巻かれたボロい麻布を剥がしていく。




「そうか…そうか、お前が喜びの杖……!」




持ち手部分は灰色の人差し指。その指先から伸びる焦げ茶の木の枝は途中で折れた跡がある。




「その昔。本物の魔法使いがいた…この頼りない木の枝1本から火を生み、水を生み、時には人や獣の心を操り…。ついには恐れた人々によって殺された。しかしそれでは終わらなかった。魔法使いの伝説は語り継がれ、その死体から奪われた杖は封印され…現在まで……。指ごと残った。こんなものだ。簡単で、短くて、それでいい。本物の力や恐怖というものは多くの言葉で語る必要がない。ただ、そこにあるだけだ」



「マスター。お呼びですか」



「ちょうどいい時に来たな。そこに立て」



「はい…」



「見ろ。これこそが喜びの杖だ」



「……」



「そして言ったな。お前には褒美をやると」



「あ、…はい」



「後ろを見ろ」



言われるまま振り返る。すると床の上に封筒が落ちていた。拾い上げると札束が限界まで詰まっていて。



「ありがとうございます」



「馬鹿め。それが褒美だとは言っていない」



「…?」



「冥土の土産というやつだ。褒美は」


ヒュン、



「ぅぎョ」



「復活した喜びの杖の最初の獲物にしてやる」



喜びの杖。そう呼ばれるようになったのは持ち主の魔法使いが死んでから数年後のこと。当時最悪の泥棒がその杖を盗み出した。力の暴走を恐れた人々は泥棒をしつこく追いかけたが、泥棒は追っ手から逃げ切るために杖を使用した。するとどうだろう。人に向けて反時計回りに1回転させると、杖を向けられた人間の心臓が瞬時に止まった。そうして死んだ人の顔はどういうわけか恍惚の表情を浮かべていた。それが……



「ああ。その顔こそ、杖の名の由来だ」



男は笑う。手に入れた力の強大さを知り、人の命を手軽に奪うことができるという今の状況に。


そして、想像する。



「残りの2つを手に入れたら、その時は神すら跪かせることができる。創造とは無縁の完全なる異能、"絶対石"を…。そうすれば、そうすれば必ず」




「マスター!遅れて申し訳ございません!…持ち帰りました!【始まりの雫】です!!!」




「……新世界の王になれる…!」














………………………to be continued…→…


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