第16話「おかわり」
「おう?」
睨みつけるオヤブンと目を合わせ、何かを感じ取った敵。
「おうお前、ワイと若干キャラ被っとんねんな。さっさと顔見せんかい。それとも殺してから剥いだろか?アホキモイで、今どき白装束でフード被って顔もマスクで隠して」
「残党にこそ強敵が残っている。そんなこと分かりきっとるんじゃ。決着がつかなくて顔だけバレたんじゃあワイが不利になる。というわけで残念ながらリクエストには応えられんのじゃあ!」
((READ))
白布の下で発光。先制に成功した敵の代行は
「痺れる漢の拳…ィ!!」
「武装か」
「真はサラに集中して、あの敵は私に任せて。ね?」
サラの体は治りかけている。ただ、彼女の体が僕の創造についてこれないせいですぐに完治とはいかない。あと1〜2分。それで終わる。
「掟破…」
「その女は"ヤバい"ンじゃ!先に殺らせてもらう!!」
遅い。僕やィァムグゥルの瞬間移動、そしてジュリアの高速移動と比べると…生身の人間の普通な走りというのは話にならないほど遅い。自分に自信があるのか知らないが、その程度で凪咲に真正面からぶつかろうとするのは正直…
「命知らずな愚か者。掟破り・ヘルド…カルツィア……!」
今度は黒煙ではなく黒炎。剣やら斧やら、様々な武器の形をした無数の炎が空中に出現しそれらが当然のように敵へと照準を合わせる。
……こんなの、結果を見届けるまでもなく…"やり過ぎ"だ。まるで……
「その存在の全て、切り刻んで燃やし尽くして消し去ってやろう」
"復讐"ではないか。怒り怨み…抱く負の感情の全てをぶつけようとしている。もちろん凪咲と敵の代行は初対面のはずで、そんな復讐だなんて
「ぺぎゅう!?」
…切った。回転しながら飛来する斧が敵の右太ももに刺さり、ワンテンポ遅れて無事分断した。そこから黒炎による"焼き"が開始され、痛みの掛け算が苦しみを一気に加速させる。
「ふぅあっ!?がっ、ご、べぇっ!だ、だ、だ、」
動きが止まったところに次々に飛んでくる黒炎達は、そのどれもが必ず命中し体の一部を奪っていく。あっという間に手足を失い、下半身も失い、無防備になっても…まだ黒炎が飛来する。
即死できれば苦しまずに済んだのに。
「全ての苦しみは火種となる。それに大小など関係ない…。感情がある限り、この炎は消えない。…これが先天の双魔王、ベイテンの、力……」
「おわっと!!おい、平気か」
「凪咲…」
敵は簡単に死んだ。凪咲はというと、力を使いすぎたらしい。あっという間に角が透明になっていって消滅すると、膝から崩れ落ちた。一応オヤブンがそばにいるけど…。
「なんや、その…結子の下で魔改造されたんと違うよな?真?」
「分からない。でも攻撃の後に毎回魔王って言ってたし、掟破りとも…。凪咲の両親のことを考えるともしかしたら」
「ほえ?」
「マコト…助けてくれた……ありがとう…」
「うぉ、サラ!!」
忙しい。ゆっくり考える暇がない。でもよかった。サラは無事だ。
「お猿さんがいっぱいで、ィァムグゥルが攻撃しても当たらなくて…それで」
「分かった。分かったからお前はもうええねん。ィァムグゥル出せ。ワイが説教したる」
「怒られるって分かってるから嫌がってます…」
「んな事あるかぁ!?出て来いィァムグゥル!お前サラのことちゃんと守らなアカンやろが!!」
自然とオヤブンと立ち位置を交代して、僕は凪咲のそばへ。
静かになっているが、ちゃんと息がある。
「凪咲。大丈夫?」
彼女は小さく頷いた。よく見れば汗だくで、相当消耗しているのがすぐに分かって。
「…効くかな」
((EXECUTION))
肩を抱いて創造した。
「あ、ん…」
「僕の使者だからちゃんと全部届いてる」
サラの時とは違い、たったの数秒で
「ありがと。真」
「うん」
凪咲は恐らく全回復した。汗も拭いてないのに無くなっていて、とても元気そうだ。
「全然説明してなかったよね…さっきのは、その……」
「あまり話したくないなら」
「ううん。そんなことない。あのね、あれは"魔化"っていう魔法の延長みたいなものなの。倒した魔王の力を再現する極魔導で…」
「詳しく話そうとすればするほど聞いてて難しく感じるのはなぜ…」
「ふふっ。真もいっぱいゲームしたらいいんだよ。それかそういうジャンルの小説を読むとか。…前みたいに」
「…うん。"世界を救ったら"そうする」
「あ。今のすごくそれっぽいよ?」
「そ、そう?」
「なんかね、真がすごくすごーく強くなったの感じて…私も頑張らないとって思って。強くなったからもう私がいなくても平気だなんて思われたくないから」
「…そんなこと思わないよ」
「重いかもしれないけど…ずっと一緒にいてね」
「うん」
「おう。もうええか?真も後で公然イチャイチャで説教したるからな。猫ビンタ4往復の刑や」
「マコトもナギサも大丈夫ですか?」
ふと、僕と凪咲とサラとオヤブン…この組み合わせが懐かしく感じた。彼女が代行になった時のことも…じわじわ思い出してきて。
「ワイの勘違いやなかったらさっきのやつ新人類とか言っとったよな?…もう何も残ってへんけど」
「それはごめんね。つい頑張っちゃって」
「まぁええわ。このタイミングで新人類が動き出したっちゅうのが少し気になる。まさか結子とグルなんてことはないやろ?」
「さすがに…うん。僕は結子が仲間を作ってるのは見たことないかな」
「なら世界中で異常が起きてるから動きやすくなったってことやな」
「……」
「どした、真」
「スっとした。…多分だけど、まだ近くに代行がいたんだと思う。でも遠くで僕達の戦闘を見て…逃げた…?」
「まあ逃げたくもなるやろ。今のお前ら2人はそらもうヤバいで?」
「旅館に戻ろう。一応、凪咲とサラを休ませないと」
「私大丈夫だよ?真がいてくれたら」
「…ぅぅ、ちょっとだけお腹空きました」
「サラはアカンみたいやな。ははは…」
………………………………next…→……
「控えめに言って、無能だ。電気を喰らい体内に溜め込むだけしか能力がない猿が大量にいたからなんだ?その程度の雑魚は死んでいい。旧人類と変わらない」
「はっ…」
「"マスター"。自分からも報告が」
「話せ」
「東京にあるとされる一滴の水の隠し倉庫ですが、無事発見しました。…が、どうやら中に入るには特別な鍵を開ける必要があるそうで」
「鍵か。それにトップのネジュロ・バウアスが絡むのは確かだ」
「そのネジュロなんですが、噂通り…本当に死んでしまったようで。一滴の水の関係者が大量死したというのもそのネジュロが死んでしまったからだと」
「頭を失い自死して同じ所へ行こうとしたわけか。弱い者はどこまでも弱い。…解決できる"友人"を行かせる」
「ありがとうございます。さすがマスター」
「それと。役立たずな猿の代わりを同じ場所に向かわせろ。友人でない代行など不要だ。殺して奪え」
話が終わるとどこからともなく音楽が流れる。この空間のピリついた空気を癒し、聞く者を魅了する世界的歌姫の歌声はマスターと呼ばれる男にも効果があった。
トン…トン……歌のリズムに合わせ自然と右手の指がガラスのテーブルの上で踊る。そしてリラックスした体が姿勢を変えると革のソファが僅かに軋む。暇な左手はゆっくりと酒の入ったグラスへと伸びて…
「失礼します。マスター、」
邪魔が入る。
「【喜びの杖】の入手に成功しました。現在ドイツから飛行機で移動中です」
「そうか。それは良い報告だ」
「到着後すぐにこちらへお持ちします」
「分かった。その時にお前に褒美をやろう」
「ありがたき幸せ。……」
改めて部屋で1人になって、まずは酒をひと口。微妙に笑って物事が自分の思い通りに進むことを喜ぶと、
((READ))
「…あと、2つ」
創造したダーツの矢を投げる。軽い音と共に壁に掛けられた的に命中した矢は、杖を振る魔法使いの絵を射抜いていた。その絵の左右にはそれぞれ水滴と角砂糖の絵が的として掛かっていた。
音楽が流れる。
空間と外との差を確実なものにして、外の不快な音を中に持ち込まないために。
「勝負といこう。アマゴウラ。世界を取るのはお前が先か…新人類が先か」
………………………………next…→……
「ありがとうございます。本当に助かりました」
ユキは土下座しそうな勢いで凪咲に頭を下げていた。
「いいよこれぐらい。私からしたら普通のことだから」
停電した旅館に魔法で電気を提供したからだ。これの何がすごいって凪咲のレベルにもなると1度の魔法で2ヶ月分の電気を提供できるところ。ここで魔法相手に現実的な技術どうのと考えるのは…馬鹿のすることだろう。説明はできないが、それが可能になるのだ。魔法とは創造と同じくらい不思議で非現実的な力だ。
「真はいつも真面目に節約してたからなかなか言い出せなかったんだよね。ごめんね」
「全然」
「でも、私がいれば電気もガスも水道も…全部0円だよ?」
「……」
認める。気にしないように強く意識したが、右眉が反応した。以前の僕なら飛びついた話だ。光熱費が節約どころか無料になるなんて、その浮いた金を別の生活費に…
「ふふっ」
「でも家を失ったから」
「あ…ぅん。そうみたいだね。…」
すぐに左隣に来て、そっと腕を組んできた。
「……真の家…創造した皆…全部」
「うん」
「でも私がいる。もう絶対真のこと1人にしないから。ね…」
ゾクり……!
「え?」
「なに?」
「うそ、」
悲しいことばかりに気を取られていた。今になってやっと気づいた。結子がなぜ僕の家を消したのか。
「そういえば…そういえばそうだった……!」
凪咲を結子に奪われたあの日。剣之介が現れて、あいつは反応してた。…確実とは言えないが、柊木家の代行の何人かはきっとアマゴウラと会ったことがある。そして…結子は僕と戦って気づいたんだ。何か秘密があるって
「それで?真、続き」
「僕の家には柊木家の秘密がいくつか隠されてる。使者を殺して家を消したのは…"ついで"だった。結子の目的は僕が強くなった方法…裏・創造の書……!!」
「う、うら?そんなのあるの?」
「……あの時僕はちゃんと全部読んだかというと微妙…でも結子は多分全部読んだ。代行の能力で言えば向こうは僕よりも何倍も…」
「真?」
「まさかそっちの方も時間がないなんて」
ィァムグゥルと話がしたかったが、今はサラが食事中だ。
良くも悪くも気づいてしまった。結子は僕からたくさんのものを奪っていた…。
「落ち着いて。私がいるから」
「凪咲…」
「ねえねえ。前は真、戦闘では私に頼るしかなかったでしょ?でも今度はそうはいかない。真もすごく強くなった。それで足りなくても私がいる。私達2人で足りないなんてありえないけど、万が一そんなことになっても皆がいる。負けないよ、絶対」
「なあなあ、真。パソコン弄れるか?なんか画面が勝手についてんけど」
「なに?」
ダンのノートパソコンだ。どうやらメールが届いたらしい。
「でもこういうのってログインパスワードとか…あ、なんにも…ない」
「ワイらなら誰でも見られるようにしたんやろ。それで?」
「えっと…」
すぐ隣で興味津々な顔で画面を見つめるオヤブン。パソコンを操作してみたいけどできない猫だと考えると可愛く思えるが…。
「ねぇ、その新着メール…ジュリアからじゃない?」
「ほんとだ」
「開けるんや。はよ!」
「うん………」
「なんやこれ」
「住所?」
「画像もあるよ。真、開いて」
メールの本文は都内の住所だけ。そして添付された画像を開くと
「何これ…」
世界的にも有名な日本の観光スポット。そこに大量の白装束の、
「代行。新人類…!」
「あ!さっき凪咲の嬢ちゃんがぶっ殺したやつの仲間か!多すぎやろ…」
「街の人を捕まえてるように見えるけどきっとこの後すぐ殺してるよね。ひどい…」
「呼んでる」
「は?どういうことや」
「住所と現場の画像。僕に強くイメージ出来るようにしたんだ。あとは僕が瞬間移動するだけ…」
「ほーん…なるほどやな!っておい、ダンのやつこれ全員殺すつもりか?」
「放っておけない」
「でも待て!待つんや。まだサラが…」
2人と1匹の視線がサラに向けられる。彼女はというと、おかずを少しずつつまみながら誰もいないのに茶碗を差し出して……おかわりを待っている。
「じゃあオヤブン達はお留守番ね。私と真が行ってくる」
「えぇ…そこは一緒にサラを止めるとこからやろ」
「食べられる時に食べさせてあげなよ。これからもっと忙しくなるかもしれないし」
「ま、真っ…お前は話分かるよな?ワイらも連れていきたいやろ?な?…ご、ごろにゃあん……」
「またこの近くに新人類が現れるかも。さっきの猿の代行1人じゃ足りないと分かって今度は複数で」
「それは…そうやな。たしかに。今度はィァムグゥルも油断せえへんと思うし、まあ…そうやな。ワイらがおらんとアカンな」
「じゃあ決まり。真とデート…久しぶりだね」
パチン!凪咲が指を鳴らすと、僕と彼女の体が光に包まれた。次の瞬間…僕達は浴衣じゃなくて
「…これは……?」
「勇者のコスプレ。ふふっ、真のはドリームフェイトチャレンジャーの主人公マイケルの衣装で…私は同行する魔法使いのマクミンの衣装。可愛いでしょ?」
「…」
「革のブーツ。旅人と戦士の服の上と下、勇者マント。それと風神のネックレス。私は真の衣装の色違いに雷神のネックレス。ゲームの中だと最終装備で防御力+188と魔防が…」
「真。ワイは諦めた。ほな、行ってら」
「あ…」
僕の衣装は青がメインで、凪咲のは赤がメイン。デザイン云々は正直……ゲームや漫画の中でならかっこいいで通じる…と思う。多分。きっちり決まった衣装ほど、現実でコスプレすると違和感が生まれるものなのかもしれない。とにかく僕とは相性があまりよくない。
「そんなことないよ。似合ってるし、かっこいい勇者様だよ?行こ?」
ふとオヤブンを見た。少し離れたところで顔を引き攣らせていた。
少し悲しい気持ちになったが、逆に覚悟が決まった。
「え、え、」
((EXECUTION))
………………………to be continued…→…
僕あた豆知識。
凪咲は以前とちょっとだけ様子が…。実はこれは真の創造のせい。彼女の心の弱い部分が性格や態度に色濃く混ざるようになってしまった。依存系彼女の誕生である。




