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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Leave me alone.
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第5話「暗い夜明け」







「え、え?オヤブン…え?」



何も分からず棒立ちするミハル。目の前ではあのィァムグゥルがオヤブンに創造した。しかも攻撃の意思が感じられるものを。サラとオヤブンの関係からイコールでィァムグゥルとオヤブンもパートナー関係であると言えるから、余計にミハルは混乱した。



「ッッ!!」



異変を感じたオヤブンはその場で暴れだした。バタバタするだけで家具が揺れ、テーブルの上のお茶は少しこぼれる。爪が軽く引っかかっただけで畳はボロボロになるし、


「ど、どうすんだよこれ!」


「彼の中に詰まった"毛玉"を吐かせるまで止める気はないよ」


「はあ!?」


「まったく。本当に。このィァムグゥルは生温い代行に落ちてしまったみたいだ。サラの保護者として強者のつもりでいたけど、真のこともオヤブンのこともちゃんと見抜いてあげられなかった。反省すべきはこのィァムグゥルのみ。自分の体があったら大泣きしながら自害していただろうね」


「よく分かんないって!それより!オヤブン死んじゃうぞ!」


最初は大暴れしていたオヤブンだが、その力が徐々に弱まる。今なら自分でも押さえつけられそうに見えるとミハルは思った。その間にもオヤブンの口には泡のようなものが見えるようになって


「限界だ!っ、ィァムグゥル!止めるぞ俺は!」


「吐き出せ。オヤブン。君はもう十分頑張ったよ。大丈夫だから。ここに真はいない。迷惑はかからない。サラはこのィァムグゥルが必ず守る…約束したのを忘れたのかい?」


「……いや、いやいや、……え?」


ミハルは準備をしていた。本当にオヤブンが危険な状態になった時は、すぐにでもィァムグゥルを押し倒すなりして創造の妨害をしようと。しかしィァムグゥルはオヤブンを助けようとしているようにも見えた。だから、ギリギリまで様子を見るしかなかったのだが。



オヤブンが口を大きく開いた。すると喉奥から黄色味の強いオレンジ色の液体が流れ出てくる……それは妙に油分を含んでいて、ミハルは自然と手を伸ばして


「触れるな。オヤブンは天才だから今まで耐えることができた。君には無理だ」


「じゃあ…こ、これ…なんなんだよ」


「一部だよ」


「何の?」





「このィァムグゥルと真が探していた者の」





ミハルは答えを聞いても分からなかった。理解するには情報が足りない。説明が足りない。それを催促したいが、空気感がそれを許さない。


「俺は立ってるだけでいいのか?武器とか出した方がいいなら」


「君の攻撃が効くとは思えないけどね」





大量。オヤブンがダラダラと吐き出した液体はそれがもし血液であれば失血死は確実だった。そうはならないということは別の何かということになるが、ィァムグゥルの少ない説明だけでは別の何者かの液…体液的なものになるわけで。


大人しく横たわるオヤブンの目の前…広がる液体は


「ふふ。ちょうど人間1人分じゃないか」


「なあ、ィァムグゥル…?」




「もう声は聞こえるんだろう?残念だったね…相手が悪かった。真がいたことも、ジュリアがいたことも、オヤブンがいたことも、このィァムグゥルがいたことも。偶然とはいえ、君にとっては"最悪"が揃ってしまった。考えもしなかっただろう?それはお互い様なんだけども……ね」


「っ…」


ィァムグゥルの表情が変わる。浮かべた笑顔の邪悪さに気づいてしまったミハルは、静かに後ろへ下がる。なるべく離れて、必要なら逃げ出せる位置まで移動すると右手を開いて構えた。いつでも創造できるように。



「君はね、考え方によってはこのィァムグゥルの"子孫"とすることもできるんだよ。孫…くらいかな。まず、このィァムグゥルの創造の才能を君は継いでる。世代的に期待できる成長予想値を大きく上回った君は、このィァムグゥルですらやらなかったことを創造してみせたね。その"器"ではとても難しかったはず…その点についてはよくやったと褒めてあげよう。そしてそれとは別に、君はアムグーリの生存本能も色濃く継いでる。割合としてはこちらの方が多いのかな?……君がどこでどれだけどのように生きてきたのかを知らないけど、その果てで君はその創造を手に入れたわけだ。アムグーリが同じものを手に入れたなら安心してダメになっていただろうね……」



その時だった。ィァムグゥルの話を聞かされ続けるその液体が、僅かに反応したのは。



「"生命を必要としない生命"。ふふふ、究極の生命体じゃないか。まさしく不老不死の答えだよ。どうしてすぐに君に気がつけなかったのか不思議でならない」



ミハルは目を離さなかった。液体が動いている。じわじわと…その速度が限界なのか気づかれないようにしているのかは不明だが、確実にその液体は"人型"を目指して動いている。



「今回はタイミングがよかった。だから、君を待つよ。"歓迎"しよう……さあ、遠慮なく実体化するといい」


「ぁ、もしかして」



このタイミングでミハルは気づいた。それの正体に。これまでの流れの中で、ただ1つだけ有り得た可能性に。





「「結子」」



偶然にミハルとィァムグゥルの声が重なる。


((EXECUTION))


そして創造。ィァムグゥルの右手が光を帯びて、直後…中指には指輪が。



「"連想"ーー覗きの指輪」



ミハルがそうした時は止めたくせに、今度はィァムグゥルが手を伸ばす。指輪が輝くその右手を、液体の中心に叩きつけて






「見 つ け た」












………………………………next…→……







「っ……」


「柊木様、大丈夫ですか」


「"入場料"を払った」



馬鹿正直に欠月へ移動した……のだが。駅前に降り立った瞬間に様々な感覚が狂わされた。


現在の日時が分からない。数秒前が昼だったか夜だったかも分からない。空腹か満腹か。体のどこかが痛むような、やっぱり無痛か…。右と左。上と下。自分の性別。自分の名前。記憶。情報。暑い寒い。俺、僕、私。



確かな頭痛に悩まされながら、痙攣する左目を手で覆い隠して…深呼吸する。



「複数の異常を感知。柊木様。創造で回復を」


「ジュリア。今目に見えるもの全てを口に出して。僕に正しい情報を…早く」


「……現在地、欠月駅前。空は暗いですが実際の時間とは噛み合いません。近くに人がいる気配はなく、ゴーストタウンのような状態です。遠くに見える森の近くでカラスが大量に飛び回っていて」


「ふ……ふ…よし…慣れてきた」


自分から罠に突っ込んだのだ。これくらいのことで倒れるわけにはいかない。ジュリアが無事なのは対象が"人間"だからだろう。


「異常地帯とは違う何かがこの辺全域に染み込んでる」


「動けますか…?」


「痛みで誤魔化す。合図したら僕の指を砕いて」


「っ!?ですが」


「いいから……今!!」



パキ。その音から感じた手応えは凍らせたチョコレートを割った時のものに似ていた。瞬時に脳まで届く激痛が狂った感覚を一時的に上書きしてくれる。…右の小指、形はそのままなのに関節部分が永続的に痛みを大量生産して…。


「ぐ、う」


((EXECUTION))



僕の邪魔をする色々を乗り越え創造する。鼻づまりが解消されていくのと似た感じで、徐々にスッキリしてくる。


「創造に何かが反応したようです。気配は…10以上。まだまだ増えます」


「……近い?」


「いえ、まだ距離は離れています」


「……すぅ……ふぅ……よし」


ジュリアに砕かせた指も元通り。自分の体に何も異常を感じない。これで元気に動ける。…ただ、相手は回復することも考えていた。創造で対処しようとすると何かが大量に動き出すらしい。



「森の奥には野生の動物がいた。実際には黒神様の下僕だったんだけどそれとは違うのかな…」


「動物。言われてみると、ほんの少しだけ獣臭い気がします」


「自然の臭い。良いとは思えない」



自然を楽しむ時に感じるものとは大きく違う。ひたすらに臭い。悪臭だ。敵意や殺意といったものが風に乗ってここまで飛んできている。



「どうしますか?接触して撃破するのであれば任せてください」


「いや、無視する。森に直行しないと」



歩きだすとジュリアはすぐ隣に来て僕を支えようとする。形だけ、肩を借りることにして…僕達は出発した。


「覚えていますか?終の解放者のことを」


「忘れるわけない」


「六島のことは」


「当然」


「ここまでの規模ではありませんが、六島も独自の空間を創り出すことができました。雰囲気が似ています……間違いなく、この土地にいる間はこちらの能力にマイナスの補正がかかっているかと」


「しかも向こうは強化状態?」


「そんなところです」


「勝つよ。それでも」


「はい。信じています…ところで」


「ん?」


「黒神様というのは…」


「知らない?創造とは無関係の本物の神様なんだけど」


「…」


ジュリアは驚いていた。僕を見る目はもっと詳しく話を聞かせてくれと訴えていて…道中は特にやる事もなさそうなので話すことにした。





……………………。




「家まで"憑いて来た"ということですか?」


「そう。自分でも信じられないけど、殴って追い返した」


「神を…」


「すぐにテレビで取り上げられて、出演者達は黒神様を笑った。そしたらどうなったと思う?」


「まさか」


「そうだよ。放送中に1人、放送から1週間程で4人…2ヶ月もしないうちに、その時の出演者やスタッフ…黒神様を笑った全員が死ぬことになった。テレビのニュースで訃報を知る度に凪咲と一緒にビビってた」


「その後の黒神様の行方は…」


「さあ。知らない」


「……」


「今ならジュリアが何考えてるか分かる。そうなったら確かに大変」



もし、僕の想像通りのやつが待っていたなら。もし、そいつが黒神様を乗っ取るようなことをしていたら。



「森…近くまで来ましたね。あれは、」


「フェンスが破壊されてる」


「警戒を強めます」


「任せる」





僕達の背後でガサガサと音がする。ジュリアが感じたいくつもの気配…動物達だろう。僕達が逃げられないように、道を塞ぐのが役目だったらしい。





「もうすぐだ」







………………………………next…→……















全身の穴という穴全てに侵入してくる。凍え死にそうになるほど冷たい海水が。味覚を刺激する強烈な塩気と血の味…洗濯機の中に閉じ込められたような上下左右を無視した乱回転。




この世に生まれてすぐ、"彼女"は死にかけていた。




それが一瞬だけ中途半端な温度の"水"に触れる。絶対の闇の中で光を知る。止まったはずの心臓が活動を再開し、水中での呼吸を可能にする。創造の書を持たずして、生後すぐに創造を成功させたのだ。そして彼女は"母"の姿を見た。秒にも届かない一瞬、幻覚にも等しいそれは…彼女に自身の力をひとつまみ分、与えた。





「だーぁだっ」



次に気がついた時、砂浜の上で言葉を練習していた。裸の状態で、時々体を震わせ糞尿を垂れ流しながら、誰かに可愛がられることもなくずっと1人で…練習を続けた。




「よし。取れた。食い物」



人間で言う6歳の頃。彼女は人間に近づいた。この時点で日本語を含め10以上の言葉を覚えていた。誰かに教わったわけでもないのに。そして、自分のいる無人島のことを理解しようとしていた。自然のことを。

























調子に乗るなよ。俺はお前に許可してない。人の記憶を勝手に覗きやがって。


出ていけ。ィァムグゥル。











「くはっ!?」


「ィァムグゥル!!」


大きく仰け反ったィァムグゥルはすぐに液体から離れる。自身の息が乱れるのを理解しながら、落ち着かせようと左手を胸の上に置く。


「っ、甘かったか……少ししか見られなかった…!!」


「だ、大丈夫かよ」


「大丈夫なもんか!これが何か君も気づけたんだろう!?」


「…ま、まぁ」


「残念だけど、このィァムグゥルの孫は少しも可愛くない。殺してやる必要があるみたいだ」


「結子がィァムグゥルの孫?どういうことなんだよ。全体的に説明が足りない…!」


「知らないままの方がいいんじゃないかな…」


動きだす液体。単体で浮き上がろうとするそれに向かって、ィァムグゥルはまず


「これで!」


テーブルの上のお茶を手に取り、ぶっかけた。するとどういうわけか液体は脱力してピシャリと畳の上に広がる。


「ふ」


((EXECUTION))



「は?…水と……塩?」


一体何を創造しているのか。と、ミハルは戸惑う。しかしそれが瞬間移動による成果だと気づくと


「何する気だよ」


ィァムグゥルに使い道を聞いた。



「塩水だよ。海水に似せる」


「海水?」


「そうとも。結子にとって唯一トラウマに近いもの…海水」


ィァムグゥルはもう畳の心配などしていない。旅館の調理場から持ってきた塩を液体の上にぶちまけ、さらにペットボトルに入った大量の水をかけていく。



「下手に創造で攻撃するより、これの方がよっぽど効果が期待できる。それに、この結子は彼女の一部以下の存在。これで……」





ッーーーーー……パァン!!





「うお!?」


クラッカーに似た音がィァムグゥル達の鼓膜を震わす。同時に液体も弾け飛んでその場から消えてなくなってしまった。


「代行がこんなこと言うのもあれだけど、不思議すぎるだろ…何が起きたんだよ」


「死んだんだよ。結子が」


「は?それなら」


「まだ"全部"じゃない」


「……え、」


「何かあった時のために保険を用意していたということだよ。やり方ならきっと魂に刻み込まれていたはず……このィァムグゥルがしたことを真似したのさ」


「…ごめん。考えるのをやめるわ。とりあえずもうここは安全なんだよな?」


「そうだね。ここはもう大丈夫。しばらくしたらオヤブンも元通り……」


「ィァムグゥル!!」


突然気を失って倒れるィァムグゥル。ミハルは大慌てで飛び込むが間に合わず受け止められない。


「おいおい!!今度はなんだよ!!言わなくても分かれってのは無理だぞ!?ぶっ倒れてもいいけど説明はしろ!!……おい!っくそ……」


サラの体を心配するミハルだが、冷静になれず慌ててしまう。何をしたらいいのか分からず、その場でキョロキョロと見回して…


「あっ、」


電話を見つける。そして


「もしもしフロント!?誰でもいいから部屋来て!ィァムグ…サラちゃんがやばい!!急いで!!」


助けを求めることに成功。


「オヤブンもいつまでもぐったりしてんじゃねえよ!!お前俺より使えねえな!童貞以下だぞ!…童貞じゃねえけど!」


いつもの自分を取り戻そうと下手なボケとツッコミを1人でこなす。そして再びサラのそばへ。


「もう本当にわけわかんねえ。頼むよ…目が覚めたら、今度はちゃんと"俺も仲間に入れてくれ"」


彼女の手を握り、祈った。






「ふざけるな」





「え"」



その時。背後から声がした。寸前のやり取りからして、嫌な予感しかしない。ミハルは…言えなかった。READと。驚きで口が全く動いてくれない。





「ミハル。お前は仲間だ。私が保証しよう」





「……あれ?」


ただ、よくよく考えてみたら…聞こえるのは男性の声で。





「後は私に任せたまえ。今はとても…気分がいい」





「も、もしかして!!」


ミハルは思いきって振り向くことにした。するとそこには浴衣姿の


「ダン…か!」


彼がいた。しかし……おかしい。





「サラの体を治療する」





顔には薄らと模様が浮かんでいる。それを見て歌舞伎をイメージするミハルだが、紫色なのを見ると"遊び"で真似たとは思えず…


「お前…」





「安心したまえ。私はもう2度と負けない」





気づけば彼の右手の指3本、左手2本……左の足は足首まで……薄ら紫色で。


「ちょ、ちょっと待っ」






((EXECUTION))
















………………………to be continued…→…


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