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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case5 _ 嘘つき
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第3話「商店街の闇」





3人でうーんうーんと悩み続けた。もう夜だ。


それはキッチンあたたかの3兄弟を犯人として有力視した後に、トシちゃんが思い出したようにラッキーストリートの住人達の闇を暴露し始めたからだ。


商店街入口近くの店、"ホールインワン"では女性店員が大量にクビになったことがあった。副店長が全員の給料を持ち逃げし、店長が精神的に参ってしまった結果起きた酷い話だ。今は店長がカウンセリングを受けたおかげで立ち直り、少しずつやり直しているらしいが…金銭面で困っているのは間違いない。


この宝石店の向かいの店、"バブルラブ"では店長と複数の従業員との間で強引な肉体関係があり店長が逮捕された。その後、従業員の女性の1人が妊娠したことで事態は悪化。…どうやら店長の妻が慰謝料などを出したらしく、夫婦揃ってお金が必要だろうとのこと。


トシちゃん行きつけの店、"にゃんにゃん天国"では給料の未払いが問題になっているらしい。店長はトシちゃんに大金を貸せるほど余裕があるのに…ということは悪意のある未払いなわけで。そのせいで従業員のほとんどは金への執着が強いらしい。詳しくは教えてもらえなかったが、個別にお金を払えば店では出来ないようなことを体験させてもらえるとかなんとか。



他にも暴露話はあったが、だんだん気が滅入るというか…ほとんど聞き流していた。


「大人ってなんで汚いんだろうね」


「世の中善人ほど損をするもんだよなぁ…俺も損してばっかりだぁ」


「トシちゃんは多分グレーゾーンだと思います」


「厳しいなぁ…」


「候補だらけ。むしろ3兄弟の影が薄くなってくよ」


「……あ。そっか」


"降りてきた"。僕の話を聞こうとする2人に、整理しながら説明する。



「もしかして、犯人はトシちゃんにお金を貸した店長なんじゃないでしょうか。この際、お金を盗んだ方法は置いておくとして…金庫から1000万円を盗む。その後、泣きついてきたトシちゃんに盗んだお金をそのまま全額返したんですよ…貸してやるとかなんとか言って。すると、彼は1円も損することなくトシちゃんに1000万円の貸しを作れる」


「ノーリスク・ハイリターンってこと…」


「そ、それ本当か!」


「どうでしょうね。読んだ小説にそんな例があったんです」


「小説!?おいおい頼むよぉ!真剣に考えてくれよぉ」


「でも案外当たってるかも。…店長を調べられたらいいんだけど」


「…調べるったってどうやるんだよ」


「凪咲さん、どうして僕を見てるんですか」


「トシちゃん。たとえば、"そういうお店"が初めての客が来たら、店員は説明するよね?料金とかそういうの」


「まあ…まあそうだな」


「詳しく説明してもらうついでに店長と距離を縮められたら…」


「…僕、また潜入するんですか!?」


「簡単だよ。お店のことを説明してもらって、その後店長を褒めまくる。"人生の勝ち組"だと思わせれば気分が良くなって自分から自慢げに話す。馬鹿な男ってそういうものだから」


「…拒否権、ありませんか」


「俺は常連だし盗まれたやつに"お前の金を盗んだ"なんて言うバカはいないだろ?」


「どうしても嫌?」


「…リカさんのことを思い出しそうで。あの時はほら…色々と大変だったじゃないですか」


「なんだ。リカって」


「ゴートゥヘヴンってキャバクラの元No.1」


「あー!リカちゃんか!あの子最高なんだよ!…ん、今元No.1って言った?」


「トシちゃん…」


「リカは死んだ。事件に巻き込まれた…って感じで」


「そんなぁ…あの子、チューしてくれそうなくらい顔近づけて笑ってくれるんだぞ?そのおかげで何回も延長して何本もシャンパンを…」


「真はお店が終わった後に誘われてチューもしてホテルにも行ったけど?」


「な、な、なに…っ!?」


カッと見開いた大きな目が僕に向けられた。…怖い。


「脱線してます。…とにかく、出来ることなら潜入は」


「…はぁ。じゃあ私が行く」


「え?」


「あの男、私をスカウトしようとしてたでしょ。お金に困ったらいつでもどうぞとか言って。私がほしいなら何でも話すでしょ」


「それは…」「よし!それでいこう!」


「トシちゃん!」


「なんだよ。自分からやってくれるって言ってるんだぞ?」



「…僕が行きます」



あの時は、売り上げに貢献する良い客だったしお酒の力もあった。

今回はそのどちらも無いわけで…僕の中では失敗するイメージしかなかった。





………………………………next…→……





「いい?電話を切らなければ、ずっと私が会話を聞いてるから。何かあればすぐ助けに行く」


「はい…」


「簡単簡単!話聞いて褒めて終わり!そしたら金取り返して全部解決!」


トシちゃんは他人事のようにワクワクしていた。


凪咲さんのスマホと通話状態にしておき、深呼吸をしてから、宝石店から出た。



にゃんにゃん天国は店を出て右へ。

奥の方で、黄色い看板が目印。



吐息が白い。寒い。

夜だが、ラッキーストリートはこの時間帯の方が稼ぎ時のようで。


「結構人多いかも…」


常に20人近くの男性が商店街の中を歩いている。

中にはそのまま通り抜ける人もいるが、基本的には店選びを楽しむ人ばかりだ。


………あれ?闇深3兄弟の…えっと、次男…だ。

時々周りを気にしながら歩いていく。

その不審さを見て、僕は黙って彼を追うことにした。

多分彼もそういうお店を利用するだけなんだろう。ちょっと人の目が気になるというだけで。

でも、最初から店を決めてるわけではないのなら…どこへ行く?


「………」


彼の姿が消えた。

左に曲がったのだ。ということは店に入ったということか。


小走りで彼が消えた辺りまで行くと、そこにあったのは



「ゲームセンター…?」


遊技場ミライ。かなり古いゲームセンターのようだ。

電源の入っていないクレーンゲームが入り口の通路を狭めている。


奥からはよくあるスロット台の音がする。


…にゃんにゃん天国に急ぐ必要はないだろう。

それよりも、ここでプライベートな3兄弟の話を聞ければ…よし。



さっそく入店……出来てなかった。

先に通路があって…通路にはゲームセンターの客寄せ用のスロット台があるだけじゃなく、自動販売機や公衆電話もあった。

通路の奥に入店用の自動ドアがあるようだ。



「なぁ…はぁ…はぁ…頼むよ…」


「どうしよっかなぁ」


声が聞こえる。どこから…と探っていると自動販売機の横にトイレがあった。

……女子トイレの方から聞こえる。


「もういいだろ?こうやって隠れてチュッチュチュッチュしててもいいけど…」


「でもぉ…」


「来いよ…」


…激しい息遣い。女性の甘い声が途切れ途切れで…


ああ、僕は何をしてるんだろう。

さっさとゲームセンターの中に


「なぁ。いいだろ。俺と一緒に暮らそう。あんな店辞めろよ」


男の声を聞いて足が止まった。


「もっと幸せになれる。2人なら。な。暮らす金ならあるんだ」


「っ…えぇ?どれくらい?」


「1000万」




「おっ…?」


思わず声が出てしまった…が、ゲームセンターの音で誤魔化せた…と思う。

まさかこんなピッタリな金額が出てくるとは。

1円も使わず保管していたのか。…恋人?と新しい生活を始めるために。


これは犯人だと考えてよさそうだ。



「っ」


慌ててポケットに手を入れる。

自動販売機を睨み、小銭を探す素振りを…


トイレから2人が出てきた。


「いいよ。明日の11時。昼前に会おう?ちゃんとお金持ってるか見せてね。証明してくれたら…」


「分かった。約束だ。…あ」



男と目が合った。

キッチンあたたかの闇深3兄弟…次男だ。

新しい生活を求め、家族から離れる。

そのための1000万円。…にゃんにゃん天国には行く必要が無くなった。



「お客さん…?」


「あ、どうも…」


彼は僕の様子を見ると財布を取り出した。


「よかったらこれ」


「いや、悪いですよ」


「いえいえ。ぜひまた食べに来てください」


200円をもらった。

そのあと、女性の手を取るとすぐに行ってしまった。


……コーンスープを買った。





………………………………next…→……





商店街に戻ると、少し人が減っていた。

うろつくのは酔っ払いばかりだ。

1人の男性が何でもないところで躓いて転び、馬鹿野郎と大声を出している。



スマホを取り出す。


「もしもし。凪咲さん。聞こえますか」


「…どうしたの?」


「今の会話、証拠になりますよね?」


「今の会話?なんのこと?ずっと騒がしくって」


「しまった…」


ゲームセンターの音で…!!


「とにかく1度戻ります!」




ラッキーストリートには似合わない早い足音。

この商店街を走る人間はまずいないだろう。



カランカラン!

駆け込むように宝石店に戻ると、凪咲さんとトシちゃんが驚いて振り返った。



「大丈夫?何かあったの?」


「店長、自白したか!」



「いいえ。闇深3兄弟の次男で間違いないです」



見たことを話して情報を共有すると、


「なんだよぉ。店長のバカなとこ見れると思って楽しみにしてたのによぉ」


にゃんにゃん天国に行ってないことをトシちゃんに責められた。…なぜ。



「それって本当に次男?長男の可能性は?」


「…え、そういえば」


「あの3兄弟。全然違うように見えて顔はかなり似てるから、見間違えてる可能性もあるって考えないと」


「でも恋人と新しい生活を始めるってことは家族から離れることにもなりますし、長男だったらまず借金を払いますよね」


「そっか…そうだよね。うん」


「何にしても、明日には全て分かるはずです。1000万円をそのまま保管していたみたいですから」


「お金を持ってるか証明するんだよね?まさか現金をそのまま?」


「通帳を見せるんでしょうか」


「なぁ、今から兄弟全員捕まえたらいいんじゃないのか?」


「トシちゃんは黙っててください」


「お、おう…」


「凪咲さん。明日は早起きしましょう」


「うん」


「なぁ、このまま泊まっ」


「トシちゃんは黙ってて」


「…はい」



今夜はもう帰ることにした。


帰り道、僕と凪咲さんは妙に盛り上がっていた。



「これって、立派な"張り込み"ですよね!」


「うん!1回やってみたかった!」


「大体が予定の時刻より早く展開がありますよね。だから11時前というよりは」


「7時くらいからにする?洋食屋だから準備とかもあるでしょ?兄弟の前で普段通りに振る舞ってから…」


「恋人と逃げる…!」


「真。コンビニ寄ろうよ。牛乳とあんぱん…ね?」


「っはい!ど定番ですし!」



…すごく、楽しい夜だった。





………………………………next…→……






深夜。都内某所。

暗がりに何かが擦れる音がすると、火がついてその場をぼんやりと照らした。



「よくぞ集まった!同志達よ!」



白衣を来た男が立ち上がり声を張る。

自身の目の前にあるドラム缶に、手に持っていたマッチの箱をそのまま投げ入れると、その中で火も勢いよく立ち上がった。



火が激しくなると、さらに明かりとして役に立つ…。

十数名。白衣の男を囲うように立っていた。



「もうすぐ…!もうすぐでまた新たな1年が始まる!…そしてそれは…"あの方"にとっての記念すべき年となる!」



白衣の男は手を掲げる。その手には創造の書。

それを真似るようにその場の全員が創造の書を掲げた。



((READ))



「来い!我が下僕!」



勢いを増した火が揺れる…と、ドラム缶の中から片腕が出てくる。

続いて、もう片方の腕が、頭が、上半身が…ドラム缶から這い出てくる。


その姿は人型ではあるものの、焼死体と何も違わない酷いものだった。



「"本"は東京に何冊だ。答えろ」


白衣の男が問う。




(86…)


掠れた声が響き渡った。



「もう少しか。君たち!西へ」



白衣の男が指示すると、数人がその場から姿を消した。



「君たちは北だ!」



同様に数人が姿を消す。

残った者達へ向けて手のひらを向けると




「我々は東京に残る…集まった"本"を回収する!」



そして、白衣の男だけがその場に残った。




「最高の誕生日プレゼントだ…!」






………………………to be continued…→…


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