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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case5 _ 嘘つき
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第2話「闇深3兄弟」





子供の頃の記憶と何も変わらない。

駅の反対側に出て、ちょっと道を外れるだけで別世界。



「ここがラッキーストリート…。ラッキーって何が…?薄気味悪いだけだよ」


「まあ女の子には分からないもんなんだこれは。な」


トシちゃんが先導し、僕達はすぐ後ろを歩いてついていく。

当然のように僕達の前をネズミが横切って、店と店の間からは時々冷たい風が入りこんでくる。


「なって言われても…僕にも分からないです。…うう、隙間風が寒い。凪咲さんそんな薄着で大丈夫ですか?」


「これ着てる方が元気出るんだよね」


凪咲さんは制服の上からパーカーを羽織っただけだ。

一生縁が無いから分からないが、彼女はスカートで足がむき出しだ。僕なら絶対耐えられない。


「真は平気?パーカー着る?」


「だ、大丈夫ですよ!」


何度も何度も修理を重ねたボロボロの屋根。

基本的な雨風は防げるがついに日光さえ防いでしまった。商店街が暗いのはそのせいだ。

ただ、薄暗い程度で済むのは。


「30分7000円。こっちは40分5000円。あっちは」


「凪咲さん」


「看板のライトまで薄暗いよ。ここ来て大丈夫?」


「だから大人の店だってんだよ。ほら、あそこが俺の店」


「本当だ。看板に大人の輝きって。でもどうして?」


「親父に聞いてくれよ。ま、もう無理だけどよ」



不思議と好奇心は刺激されなかった。

右、左、どちらを見ても大人向けの店が並ぶ。時々、客と見られる男性が店にサッと入っていく。


そんな中ポツンと営業しているのがこの宝石店。


「ようこそ。ジュエリー古島へ」



カランカランとドアに付けられたベルが鳴る。ベルさえも年老いてるように感じた。

赤い絨毯、焦げ茶の木材を使った商品棚、少し埃と曇りを感じるガラスのショーケース。それ以外は一昔前の民家のような雰囲気。

カウンターを挟めば私生活が見えてくる。……スーパーの特売チラシが壁に貼られ、ほうれん草48円に赤ペンで何重にも丸がつけられていた。


飾られている宝石は…店の立地や内装は関係ない価格設定だ。


「トシちゃん。このお店で1番高いのはどれ?」


「若い子にトシちゃんって呼ばれると気分いいもんだねぇ。いいよ、見せてやろう…この…ダイヤモンドだ」


凪咲さんに上機嫌で宝石を見せた。

ショーケースからではなく、商品棚からでもなく、どういうわけかカウンター裏に雑に置かれているお菓子の缶から取り出して。


「こんなとこにあるなんて誰も思わないだろ?」


「ネックレス?」


「……678万っ…!?」


「とんでもない代物だけどこれで何度も値下がりしてるんだよ」


「これでですか?桁が…」


「でもほら、この真ん中のダイヤは大きいし他のと光り方が違う」


「おお、見る目あるねぇ」


「じゃあお礼はこれで」



瞬間、空気が凍りついて僕とトシちゃんは口を半開きにして驚いた。



「……そうだ、金庫を見せよう」


「約束ね」


咳払いの後トシちゃんが話題を変えようとするも凪咲さんは追撃。


「凪咲さん、さすがに…」


「でもほら、あの棚見て」


「…セール品?」


店の隅にある商品棚には隙間がないくらい宝石類が並べられている。

訳アリ特価…あ、これなら買ってもいいかもしれない。


「このお店でまともなやつは最低でも8万円くらい。でもそこにあるやつは高くても1万円に届かない。お前さん達はまだ若いからお礼はここから好きなの選んで持っていきなって言いそうでしょ?」


「そんなわけ…」


トシちゃんを見ると…図星だったようだ。


「私達を甘く見ないで」


「き!?金庫はこれ…」


声が裏返ってる。トシちゃん、ごめんなさい。



「ダイヤルで7桁の暗証番号を入れてから鍵を入れないと開かない。親父が特注で作ってもらったやつで今でも現役だ」



少し縦長だけど想像しやすいそのままの金庫だ。

黒の塗装が所々剥げているけど扉を開けると中はとても綺麗だった。


「鍵は俺が持ってるこの1本だけでスペアは無い。暗証番号も俺の頭の中だけ。忘れちまったら商売も終わりだ」



カランカラン。


ベルが鳴り来客を知らせる。

黒のコートを着た男性だ。


「おい」


「あ…」


トシちゃんが分かりやすく怯えている。

あまり圧は感じないが、この近所から来たと考えるのが自然な雰囲気を感じる。


「金は?見つかったか?」


「い、いや…まだです…」


「ふざけてんのか。客呼び込んで接客してる場合じゃねえだろ!金盗んだやつ見つけてさっさと取り返せ」


「はい…急ぎます」


「明後日までだからな。それまでに金を持ってこなかったら」


「絶対何とかしますので!」


「……君いくつ?」


帰り際に凪咲さんに声をかけた。


「冗談でしょ?消えて」


「お金に困ったらいつでも。君なら大歓迎だ」



カランカラン。


凪咲さんに名刺を渡すと男性は店から出ていった。



「ふぅ…」


「ふぅじゃない。今のどう見ても取り立てだよね?」


「取り立て?借金のですか?」


「この名刺のお店さっき見たよ。確か60分28000円」


「トシちゃん、何があったのか…本当のことを話してくれませんか?」


「じゃないとあなたもこうなるかも」


凪咲さんはトシちゃんに見せつけるように名刺を片手でクシャクシャに握りつぶした。




「……すまない!」



突然トシちゃんが土下座した。



「明後日…明後日が返済期限なんだ!でも騙してたわけじゃない!金が盗まれたのも本当だし、金の使い道だって本当だ!さっきの男は俺がよく行く店の店長で…金が盗まれたのを話したら金を貸してくれたんだよ…」


「え?でもお金はこれから必要って話じゃ」


「いや、葬式は夏にやった。墓もそりゃあ立派なもんを…」


「立て替えてもらって、今の今まで返してなかったってこと?」


「1000万だぞ!?は、払えるわけが…」


「このお店の宝石全部売れば?」


「そしたら食っていけなくなる!」


「あの。昨日今日お金が盗まれたならまだしも、何ヶ月も前に盗まれたのならさすがに犯人も1000万円をそのまま残してるとは思えないんですが…絶対使ってますよね…」


「…それもそうだ」


トシちゃんがボソッと僕に賛同するとまた空気が凍りついた。

しばらく静かになって、凪咲さんが口を開いた。



「なら私達に頼るしかない。ずっとあなたは何も出来なかったんだから。さっきの男に好き放題されるか、店の宝石全部売って生活を捨てるか、」


そこで言葉を切って、店で1番高い宝石が入っているお菓子の缶を指さした。


「お礼はあれ。いい?」


「………」


泣きそうな顔でトシちゃんは何度も頷いた。




………………………………next…→……




お金が無くなったことに気づいた日以前の監視カメラの映像を用意してもらうことに。

しばらく時間がかかるとのことで、それまで僕達は近くのキッチンあたたかで軽く食事をすることにした。


店主が亡くなって店も閉店したと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。


「いらっしゃいませー。2人?そこの席どーぞー」


やる気のない男性店員に出迎えられて席に案内された。


「兄ちゃん!もっと丁寧に!」


「はいはい。今水持ってきますねー」


入口近くにはレジがあり、男性店員の弟らしき男性が店員と同じ格好でレジ横に座っていた。


「すいませんね!親父が死んで兄弟3人で協力して店を継ごうって頑張ってるんですけどね!」


カウンター奥の調理場からもう1人の男性が顔を出しながら言った。

3兄弟…確かに似ている。


「はい。水でーす」


「兄ちゃん!」


「ほらほら。丁寧と笑顔。それから大きい声出さない。お客さんの前だぞ?」


恐らく調理場の彼が長男だ。

2人に指摘されてふてくされ気味なのが次男で、レジ横に座っているのが三男。


「えっとー、おすすめ…まあ好きなの頼んでくださいよ。多分美味しいんで」


次男は"向いてない"。

だけど、特にイライラする感じはない。

彼の接客態度はラッキーストリートの住人達に合わせたものなのかもしれない。


「真は何にする?」


各テーブルに置かれるメニューはシンプルなものだ。

軽いものでフライドポテトやサンドイッチ。しっかりしたものでハンバーグライスセットなどがある…が。


「僕はナポリタンにします」


「じゃあ私も同じのを」



注文するとすぐに調理が始まる。


待ってる間、変わらない店内をぼーっと眺めていると


「お客さん達この辺の人?」


次男だ。



「駅の反対側ですね」


「あぁ〜。そうですよねー、この店に普通の人全然来ませんもん」


「兄ちゃん」


「なんだよ。待ってる間暇になっちゃうからこうやってトークをサービスしてるんだよ。神対応だろ?」


「すいません…クビにしてもらえば家族から離れられると思ってるみたいで」


「闇深い家族なんですよー」


「たとえば?知りたいかも」


凪咲さんが食いついた。

すると次男の目が変わる…


「聞きたいですかー?じゃあ話したらお姉さんの電話番号を教えてくださーい」


「お姉さん?」


「同伴か何かでしょう?JKコスなんて珍しくないですよー」


「これコスプレじゃなくて本物なんだけど」


「……あ、サーセンしたー」


「で?どう闇が深いの?」


「凪咲さん…」


「料理を作ってる兄は結婚詐欺にあって借金300万。あそこで座ってる弟は会わない間に片足を大怪我して後遺症で麻痺。俺は何も」


「問題無し?」


「いや、何もないだけ。キャバ嬢のヒモにならないと生きていけないくらい」


「…あぁそう…」



そこに良い匂いが。


「ナポリタン出来たぞー!お客さんに持ってってくれー!」


「はいはーい」




………………………………next…→……




思い出の味は変わっていた。

レシピは継がなかったのだろうか…ケチャップから来る甘さ、酸味、深み…そんなものがごっそり無くなっていて薄味だった。



店を出て宝石店へ戻る途中、


「今度私もナポリタン作ってみようかな。お店より美味しく作れると思う」


「楽しみにしてます」


「…ねぇ、あの3兄弟だけど」


「闇が深いってやつですよね」


「うん。長男は借金、次男は単純に一文無し、三男は足のことがある…3人とも、1000万円あったら嬉しいよね」


「え?じゃあ」


「この商店街の人じゃないとわざわざ盗みに入ろうとも思わないでしょ。他の"大人のお店"はなんだかんだでお金には困ってなさそうだし」


「…犯人の可能性が高いってことですか」


「今のところは」



カランカラン。


トシちゃんは戻ってきた僕達をカウンター裏に呼んだ。


「こっちこっち。これだ。これが金が無くなったことに気づいた日」


置かれていたノートパソコンには映像が準備され、ボタンひとつですぐに再生出来るようになっていた。

早速見てみることに。



…店番をしているトシちゃん。

電話を受けて、金庫を開けると…腰を抜かして驚いている。


「金が要るから用意しといてくれって電話をもらったから金庫を開けたんだ。そしたら全部無くなってた」


「ここから少しずつ時間を戻して。客の中にヒントがあるかも」


「珍しい客とかは特にいなかったけどなぁ」


「犯人はこのラッキーストリートの人」


「え!?」




そこから3人で…いや、途中でトシちゃんが目の疲れを理由に退場して凪咲さんと2人で映像を見続けた。


見落としに気をつけながら効率よく…2時間で1ヵ月分。



「誰も金庫には触ってないだろ?困ったなぁ…」


「でも、洋食屋の3兄弟は別々に1ヶ月で7回も来てる。宝石店にそんなに用事なんてある?」


「なんだ?まさかあいつら疑ってるのか?ないない。3人揃って金預けに来た時と、それをきっかけに1番上が世間話と愚痴だろ?次男が安物をさらに値切りに来て…末っ子は女の子に喜ばれるのはどういうのがいいかって」


「ふーん…」


僕はそれを聞いて、記憶を漁った。

代行として力をつけるために読んできた小説の内容を頼りに推理をするためだ。


「……末っ子は外れるんじゃないでしょうか。怪しい部分があったとしても、足の麻痺があるので」


「まあね。監視カメラに細工をしたにしても、お金を盗んで運び出すのは簡単じゃないし。映像にも杖を使って歩いてる姿が映ってるから…犯人にするのは難しいね」


「長男は借金があるのでそのまま動機として捉えることも出来ますが…これもどうかなと」


「そう?」


「彼はお店を継いで、真面目にお金を稼いで借金を返そうとしてるように見えます。お店が大変だから、トシちゃんに話を聞いてもらいたいんだと思います。きっと弱音を吐くとこを見せられないんですよ、兄弟に」


「…次男?」


「僕の考えでは。消去法みたいになってしまいましたが、監視カメラの映像では宝石店に来た回数が1番多いです。それに、訳アリ特価の棚を指さして…恐らく値切ってるんでしょうけど、時々トシちゃんではなく金庫を見ているみたいなんですよね」


「…なっ、じゃあ犯人は次男ってことか!?嘘だろ…」


「家族から離れたいんだろうって言われてたよね。そのためにわざとクビになろうとしてるって」


「そうでしたね。…1000万円あればしばらく暮らせますしね」


「そうか…ならすぐにあいつを捕まえて」


「でもまだ決まったわけじゃない。もう少し調べて証拠を見つけなきゃ」


「ですね」


「刑事物のドラマ見すぎじゃないのか…」



トシちゃんのツッコミを聞いて僕もそう思った。

ただ、少し楽しくなってきたのも事実だ。





………………………to be continued…→…


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