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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
引き継がれし力
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第3話「求めるもの」




使者。


創造の書から生まれ、代行の剣や盾となって戦う存在。

創造の書にはそんな風に色々と書かれていた。

道具とその使用用途みたいな感じだ。

でも、僕が創造した白猫のソープはそんなんじゃない。

人間や他の動物を襲うことはないし、むしろ癒してくれる。


神の代行は生命を…生命の数を調整する役目がある。

戦うためだけに使者を創造するわけではない。

恐らく、使者のことを道具としてしか考えていないような代行達が力を悪用するようになったんじゃないか…と思う。



「…ソープ。どうかな…あっ!」


「ニャァッ」



使者を創造すると決めて何時間だろう。

次に躓いたのは、創造する使者のことだ。

実在する人を創造するのはなんだかんだで難しいと感じた。


というのも…たとえば、強さを求めて有名な戦国武将を創造したとする。

その戦国武将は戦う分には頑張ってくれるだろうが、戦闘以外ではソープと同じように現代に順応して生活が出来ないといけない。

同じ日本語を話せるわけじゃないだろうし、知らないものばかりで戸惑うはず。


必要な時だけ創造して、用が済んだらまた書き込みで戻す…というのはすでに先代の代行が試していた。

…結果は不可。同じ使者を創造が出来るのは1度だけのようだ。

似たやり方で、同じ使者を複数創造することも出来ない。


戦うのに必要な力を持つ実在の人物を創造するのは、結局難しい。

だから僕は空想の人物を創造の書に書き込むことにした…したんだけど、



「怪力自慢で車を片手で軽々と持ち上げられる。パソコン関係も強く、人物の身辺調査も得意とする。…欲張りかな…」


代行達は人目を避けて戦ってきたから、子供が喜ぶような派手な戦い方をする使者は創造出来ない。

現実的な範囲で強力なものをとなると、世の天才と呼ばれる人達の少し先を行く位でなければ。


僕が紙に書いた使者の設定を、ソープが判定する。

文字は読めないはずだけど動物の本能みたいなものでなんとなく分かるのだろうか。

今のところ全て却下だ。



実在も空想も難しい。少なくとも現代では。

巨大な生物を創造してしまいたい気持ちはある。でもそれを見たら人々はどう思うか。

子供は怯えるし、若者はスマホを向けて撮影する、大人達は大慌てで本物の武器や兵器を使って攻撃してくるだろう…。



「もうこんな時間か、ソープ。ご飯にしよう」


時間の感覚がまだふわふわしている。

体内時計は異常なまでにゆっくりだ。

気づけば夕方…食事の準備をすることにした。



………あれ?




料理が完成して、ソープのご飯も用意して、着席。

いただきますと言う直前にふとテーブルに並ぶメニューに驚いた。


確か今夜は焼き魚と納豆と…大根の味噌汁と…オムライス?


本来並ぶはずの食べ物はそこにはなかった。


「オムライスとチキンサラダとコーンスープ?」


百歩譲って調理法のことはいい。料理本を読めば今の僕は何でも作れるだろうから。

問題なのはこれらを作るための食材は?いつ買ってきたのか。


「ウニャィウニャィ」


「へ?」


足下ではソープが皿に顔を突っ込んで食事に夢中になっていた。

鳴きながら咀嚼しているせいで美味いと喋っているように聞こえた。


「…あ、美味しい」


考えるのをやめて初めて作ったオムライスを一口。

たまごがトロトロしている。僕には本来こんな調理技術はない。

代行の能力の思わぬ側面に感謝した。



「ニャァ」


「あっ、テーブルに乗らないで」


先に食べ終えたソープが料理の並ぶテーブルに飛び乗った。

足のやり場に迷いながら捕まらないように僕の手を避けている。


「よっと…」


「ニャァ〜」


なんとか両手でソープを抱き上げた。

最後の足掻きで前足でテレビのリモコンを踏まれたけど…


「次は、今週の特集のコーナーです」


偶然にも電源ボタンに…。

秀爺とよくご飯を食べながらテレビを見ていた。

ニュース番組とか、少し食事の時間が遅れるとバラエティ番組とか…そういうのを見ながら。


「今日も若者に人気のものを調べてきましたー!昨日のスマートフォンアプリに続いて、今日紹介するのは…」


淡々とニュースを読み上げたかと思えば、急に元気になって料理店を紹介したりする。アナウンサーって大変そう。

コーンスープの濃厚さに満足げに頷きつつテレビに目を向けた。


「…という、現実世界で事故にあって死んでしまった主人公が、異世界と呼ばれる世界に転生し現実世界の知識などを用いて活躍する…」


今週の特集は若者の流行を追ったもののようだ。

話題のスマホアプリ、見慣れない色の食べ物、奇抜なファッション…そんなのがスタジオ後方に並ぶ。

出演者達が注目するモニターに映し出されるのはアニメ化もされる話題の小説達!という見出しから紹介される人気小説の数々。


異世界転生 というのが流行らしい。

人の姿をした竜族の女性達の取り合いになる中年男性が主人公のラブコメが主軸の作品。

現実世界で上手くいかなかった政治家が異世界で政治家になり大成する作品。

厨二病の主人公が転生すると、右手に宿りし闇の力が実体化して妄想が現実になる作品。


このような小説は、ほとんどが小説を投稿出来るサイトからヒット作が生まれるらしい。



「これだ…!これだ!」


行き詰まっていた使者の候補探し。

実在も空想も条件を考えれば難しいと思っていたが、これなら解決出来るかもしれない。



この、異世界転生という設定の場合。

元々現実世界…僕達とそう変わらない世の中を生きていたわけだから順応は簡単だし、異世界で活躍して得た能力なんかは戦闘面でも役立つかもしれない。


求めていたそのものだ。



「えっと…」


スマホで検索するとすぐに見つかる。

投稿された小説の中から、使者に適した人物を見つけて、創造する。

なんとなく…盗作にならないか?なんて考えが浮かんだけど、


「ニャァ」


ソープが遮った。

甘え上手だ。


頭を撫でて、食事を片付けた。

本格的にに候補を探すために。



部屋に戻り、座布団を半分に折ってクッション代わりにしてうつ伏せになる。

腰にソープが乗ってきたけど気にせずスマホを操作する。


「まず人気作品から」


すでに書籍化されている作品には大体絵も付いてくる。

登場人物の設定が使者向きでも、絵を見るとどれもが候補から外れていく。

なんだかんだで普通の格好をしたのがいない。


カツラでも再現が難しいような髪型だったり、体のどこかに誤魔化せないような特殊な傷があったり。

…どう考えても髪がピンクと紫の2色の人間は悪目立ちする。



人気ランキングのようなものを上から見ていく。

惜しいものもあったり期待を裏切られたり。

…今度は容姿が地味だけどド派手な魔法を使うものまで出てきた。

なぜこうも極端なのか。


色んな小説を読みながら、チラチラと画面上部の時計を気にする。

時間の感覚を取り戻すために。






………………………………next…→……






自分で考えたりするよりはよっぽどマシだ。

それでも、小説漁りを始めて4時間が過ぎた。


今はキーワード検索を利用して閲覧数が少ない作品を見ている。

段々と使者の条件が固まってきた結果だ。


・現代の生活に順応出来る

・派手な戦い方をしない

・とにかく悪目立ちしない


ある意味で"見た目"重視だ。

有名な作品の登場人物だと、場合によっては目立ってしまう。コスプレイヤーだとかなんとか。

だから、条件を守りつつ閲覧数の少ない作品の登場人物から選べば…



「うん…うん…」


見つけた。


俺達が魔法を使う理由 という作品。

それに登場する【モモ】。

容姿は子供…と思いきや、見る人によって最適化されるらしい。めちゃくちゃな設定だが僕にとっては素晴らしく都合がいい。

戦闘面では手刀を主軸にした素早い身のこなし…しかも強力な防御魔法を使う。

最終話まで読んだ限りでは特別派手な印象もない。


ピッタリだ。



「俺達が魔法を使う理由」に登場する【モモ】。

戦闘では手刀を主軸とし、動きは俊敏。かつ、特別な防御魔法でいかなる攻撃も完全防御が可能。

容姿は桃色の髪が特徴で、どうやら接する相手によって見える姿が違う。作中では基本的に10歳前後の子供の容姿で通っている。



さっそく創造の書に書き込み、深呼吸をして



「今ここに、【モモ】を創造する…リード!……?」



テレビのバラエティ番組でいうところの"スベった"空気感。


「うう"っ…」


直後、頭が激しく揺さぶられる感覚。



失敗。



それが頭に浮かんだ。



不快感が落ち着くまで畳の上で悶えて、原因を考えた。


というか、思いつくのはひとつ。



「代行の能力が足りない」



そんなまさか。とは思った。

家の1階には数百冊は本があるはずだし、それを全て読み終えたのなら相当な…

いや、もしかして。

時間の感覚を忘れて狂ったように読み漁るのは前提なのだろうか。

あれを基準として、それこそ図書館にある本を全て読破するくらいでようやく…


あ。それか、【モモ】の情報に問題があるか。

詳しく書きすぎた…?…とは思わない。


となるとやはり…代行の能力…読書が足りない?


「いや、認知度か。有名な作品ではないから空想として判断される…その場合は」


【モモ】のコストが大き過ぎる。ということ。


空想にしては設定がしっかりと欲張っている。


【ソープ】の場合は実在と判断されていたからコストは小さかった。情報も、自分のために幸福を招くのと体臭が石鹸の優しい香りということぐらいだった。


とはいえ、モモの情報はこれ以上削れないし他の小説を探す気力はない。

創造さえできれば、モモが最適解なのに。



「……空想から実在に変われば。このモモだけがもう少し認知されればいい」


冴えてる。

この手の小説に付き物なのが絵師の存在だ。

お金をもらって、もしくは善意で作品の登場人物をイラストにして提供する。


…調べたところ、人によっては描いた絵を実績としてSNSなどで紹介もしている。

これだ。

絵師を雇って、モモの設定を伝えて描いてもらう。

それがSNSで共有されることで認知度が上がる。

作者に気を使って作品名は伏せておこう。





………………………………next…→……





翌朝。

洗濯機が回り始めたのをソープと見届けて、僕は絵師を探すことにした。

金額、納期、絵の好み…気づけば使者の候補探しと同様に苦戦していた。

【モモ】が有名になりすぎても困るが、程よい知名度感で探すと出てくるのは少し…性的な絵を得意とする人達ばかり。

これまた数時間かかるのか…とため息をつきそうになったところで。



「カタツムリ☆ジャック・改…さん」


どういうニックネームなんだろう。

SNSに投稿された絵は程よく評価されている。

肝心な絵も無理して派手にしていないし、人物の特徴が伝わってくる。

試しに連絡してみると、とてもフレンドリーな人だった。


無知な僕に色々と説明してくれて、交渉は昼前に終わった。

料金は2万円。半分を先払い。

納期は3日。

詳しい相場は知らないけど個人的には妥当だと思った。


モモの設定を送り、完成を待つ。


もう少し。もう少し。

それまで、まずは今日1日を。

何も考えず普通に過ごすことにした。





………………………to be continued…→…


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