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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case20 _ 自然のあるべき姿
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第15話「べダスvs真vs結子」







「……すっかり仲間はずれだな」





オラワルド……ではなく、ヒュェィカの背中部分。垂直になった陸地に、まだ結子は残っていた。他の人間達が悲鳴をあげて海に落ちていくのをぼーっと眺めて、自分が最後の1人になって、ようやく口を開いて出たのが今の言葉。

とはいえ結子はオラワルドの一部を破壊したし、直前まで戦ってもいた。べダスは間違いなく結子を標的にするはずなので実際は仲間はずれというわけではない。


それでも仲間はずれと言ったのは、


「船が空飛んでやがる。最初から飛行機とかヘリコプターとか創ればいいんじゃなかったのかよ。創造自慢だなありゃあ」



目線の先。当然のように空中を泳ぐ船。その特殊な乗り物への興味はもちろんだが、それ以上に創造を成功させた代行がおかしくて。



「凪咲を奪った時に殺せばよかった。そうすれば赤赤うるせえ真も、今の真も存在しなかったってのに」


気に入らない。間違いなく力を持っているのはこちらなのに、どうして真は、ジュリアは。

これまで何度も死を体験してきた結子だったが、今回のたった1回の死は他とは違った。いつもはヘラヘラしながら何事もなく復活するのに、


「目覚めてすぐ怒りをぶちまけたくなった。眼中にない雑魚から、マジもんの敵に昇格したわけだ。…凪咲への執着が真を強くしたのか?何があいつをあんなにしたんだよ」



今、結子がいる場所の反対側…ヒュェィカの側ではべダス対真の戦闘が始まっている。

落雷と間違うような轟音と共に何度もぶつかっていくジュリアと、EXECUTIONによる怒涛の攻撃はあのべダスでさえも対応に困るほどで



「防御一択。雪も氷も生身の人間には効果抜群だろうに……」



ヒュェィカは眼前に氷の防御壁を創ることしかできない。そして壁が現れても、すぐにジュリアが破壊してしまう。壁が無くなると真がEXECUTIONを使うので、大量の雪をぶつけて身代わりに。



「繰り返してるだけじゃ勝てない。今のあいつらは、力を持った"若者"だ。疲れなんて知ったこっちゃないし、勝つまで攻撃は止めない。べダスが甘すぎたんだ……はぁ……」



繰り広げられる高速戦闘。結子はべダスの不利を認め、大きくため息をついた。しかし……なぜかそのため息が結子の閃きのきっかけとなる。



「待てよ、今の状況は俺とべダスが戦ってた時に似てる……互いに夢中で、他のことに構ってられない…………!!」


創造。再び人間の体を捨てる決心をして己の精神を高める。そして自身の存在を風に適用して、空高く舞う。







………………………………next…→……







左肩を4回。その後は胸に2回。そしたらわざと4秒待って、顔に4回。



空中を跳ねながら好き放題暴れ回るジュリアから定期的に飛んでくる援護射撃の指示。人間用に簡単に短めにされたそれは、何度も計算されて出された答えで。



((EXECUTION))



「「大雪」」

「隙あり」



雪と氷の防御を抜けて鎖骨の辺りへ叩き込まれる青い雷光の拳…!


僕の攻撃回数が50を超えたあたりで、ついに大天使の対応が遅れた。その間ジュリアは数え切れないほどの攻撃を仕掛けているし、たった1発殴るためだけに消費したエネルギー量は半端じゃない。それでも成立している。僕とジュリアのめちゃくちゃな猛攻は、確かに届いた。




「異能の手…!」



一撃必殺の創造は殴った直後に発動した。なぜなら直前に結子相手にも使用したからだ。無駄撃ちは厳禁。普段は1皿100円の回転寿司で満足していたのに、突然"時価"だらけの高級寿司に来たぐらい…僕の中ではコスパが悪い。それでも払いきれているのは僕が強くなったことの証明になるだろう。…火事場の馬鹿力的なこともあるかもしれないが。

加えてホワイトスワン号も創造したし、今だってEXECUTIONを何度も何度も使用している。本音を言うと、早くこの大天使を消し飛ばして楽になりたいと思っている。



「「氷山の一角」」



対応が遅れた大天使の選択は迎撃。カウンター狙いで膝から伸びた氷の角が下からジュリアを襲うが、



「遅すぎます」



彼女の右手の方が先に動く。

大天使の氷の肌に手を差し込むと……



「っ、別の創造…!」


ジュリアは驚きつつも強引にねじ込む。胸元の氷が消失し、一気にダメージを与えたように思うが……それ以外の大天使の体は消えることも傷つくこともない。



「「散り散り」」



「これは防御が必要みたいだね、真…少し下がってくれるかな」



肉を切らせて骨を断つ、とでも言いたいのか…大天使は僕達に攻撃してきた。僕達が先に仕掛けてから始まったこの戦闘で、攻撃は初めてのことだ。

受け身な選択ではなく、完全な攻め。大小様々な雪と氷が風に運ばれホワイトスワン号を襲う。綺麗な魔法に魅せられている気分だが威力は少しも可愛くない。



((EXECUTION))



ィァムグゥルは目に見えないバリアのようなものを展開し船を守る。SF映画で見る宇宙船の攻防戦のように、船の周りに波紋がいくつも広がって攻撃の激しさが目視できる。



「ジュリアは攻撃を続けて」



バリアがあるので僕は攻撃に参加できない。しかしジュリアは別だ。遠慮なく本気でやっていいことを伝えると、ジュリアの右腕を染める青が爆発。全身に広がっていく。触れさえすれば全ての創造に否定の2文字を叩きつける最強の状態へと変化が完了し、今。



「本気で、参ります」



発進する。

ごっそりと僕の中のエネルギーが無くなって、さすがに疲れてきてその場に膝をついて崩れてしまうが問題ない。勝てるから。



「くぅ、自分が殺られる前に代行を全滅させるつもりか…!押しが強くて、少し、厳しいな……!」


「負けるなィァムグゥル!ちょっとくらいなら応援したるで!ふれー!ふれー!ィァム、グゥル!ふれ!ふれ!ィァムグゥル!ふれ!ふれ!ィァムグゥル!」


「騒がしいだけ…かなっ、ぐ、」



本気なのか冗談なのか、オヤブンは後ろ足だけで立ちあがると応援団長みたいにキレよく手を振ってィァムグゥルを応援した。人間相手なら多少は精神面で効果があったかもしれないが、ィァムグゥルの場合は……



「…………」


「お前はいつまで泣いとんねん!童貞!!」


「だって…お前のゲロ……本当に臭いんだもん……!」



ミハルは風呂に入るまで立ち直るのは不可能だ。となると、この場合でも役に立てるのは僕以外にはいない。



「っ…ィァムグゥル。僕も手伝うよ」


「すまないね…!なかなか言葉にできなくて困っていたんだよ。君に攻撃に専念していいと言ったのは他でもないこのィァムグゥルなんだからね…」


伸ばしてきた左手を右手で掴む。すると針で刺されたような痛みが指先から広がっていって…


「いっつつつつ…」


思わず目を瞑ってしまう。どうにか片目でジュリアの様子を見ると





「はぁぁぁっ!!!」


大活躍していた。大天使の体は確実に減っていっている。雪だるまが解けていくのを早送りで見ているようで、確実に効いていると分かっただけでも安心できる。


べダスは、大天使は、大したことがない…とは言いきれないが、思ったより楽に進められているのだと感じた。


あとはジュリアが大天使を撃破するまで船を守りきることができれば





((EXECUTION))





「うぐっ、」


「ィァムグゥル……!?」


胸を苦しそうに押さえるィァムグゥル。そのままゆっくり横になると、息を乱しながらどうにか外を指さした。


「いる…」


「……っ!!結子、」



防御が解除され、数発の雪が飛んでくる。


「しゃあないな…おらァァァ!!」


それをオヤブンが前足だけを武器に変えて打ち払うと、そのタイミングで





「よくもやってくれたな。真」





声だけが降ってくる。


((READ))


「船は任せろ。お前はあいつの相手だろ」


ィァムグゥルがやっていたのを真似て船を守ろうと考えていたら、再起不能のはずのミハルが真剣な表情で隣に立っていた。…風に乗って嫌な臭いが鼻を刺激するが言わないでおこう。


「鉄拳制裁…!怒りのファイアー!!」


「んならワイもちょっとは協力したるわ……あー、…どっちに力貸したらええんやろか」


「真の方!!」


「分かった!ええとこ見せてくれよ!童貞!」


「童貞じゃ、…んねえええええ!!」


迫り来る雪と氷。"大きいハンマー"でやり合うには攻撃範囲が狭いようにも思うが、


((READ))


ハンマーの二刀流かつ持ち手を組み合わせて回転させ始めたのを見てなんとかしてくれるだろうと信じることにした。





「いいのかよ。俺相手に猫1匹しか用意できないのか?」




「舐めたらアカンで…ワイは天才や。しかも猫や…猫っちゅうんはな……時々見えたらアカンものでも見えてまう。しかもついつい凝視して、周りの人間にどうしたって心配されるんや…」




「俺の何が分かるってんだ。やってみろよ……!!」




瞬間、僕でも居場所が分かるんじゃないかって位の殺気が降ってきた。上方向なのは間違いなさそうだ。



「「結子ぉぉォ」」



「1対1対1だ。この乱戦で生きて帰れると思うなよ」



「僕は1人じゃない」


「なら凪咲が悲しむな」


「返せ…」


「やーなこった」



オヤブンが左肩に乗る。そしてこっそりと


「左上の方におる気がする。見てみ、べダスの雪が舞ってる中で1粒だけどこにも行かんとホバリングしてるのがおんねん」


細かすぎて僕には分かりにくいが…教えてくれた。


((EXECUTION))


「よっと、」



攻撃。しかし当たったのかどうか…手応えはない。しかも大天使の攻撃の一部が僕の攻撃と激突して相殺に。



「そーらよ、」



「アカン、飛べえ!!」



頭上で結子の声、耳元でオヤブンの声。どちらにも反応して左に飛び込み転がる。



「……時割れ」



直感でそれだと分かった。一瞬だけ自分の残像のようなものが見えたのも大きい。そこだけ時間が巻戻ろうとしたのだ。



「試しに触ってみたらどうだ?お前にもあるだろ。子供時代に記憶を持ったまま戻れたら何も後悔しないように全力で生きるのにってやつ」


「ない」


「嘘だな」


((EXECUTION))



ふと正面から来る気がして。



「うおっととと、なんだよ。やるじゃねえか」



打ち返すイメージで創造したら、意外にも成功した。



「ただのラッキーだ。勘違いすんなよ」


「どうかな」


「せやで。ワイもおるからな!」




慎重に。自分の"気づく力"を最大限発揮して、少なくとも結子の攻撃には当たらないようにしなくては。


「言うたやろ。ワイもおる。こっち来てから結構力は残してんねん…やったろうや」


「え」



ボン!!



黒煙。これには結子も驚いたようで



「馬鹿かよ。そんなんで俺から隠れられると思ってんのか?」



やや早口で牽制してくる。




そんな中、僕が黒煙の中で掴んだものは…ゴーストハントの大鎌ではなかった。








「「ワイの組のもンの中にはなァ、おめぇさんの時割れのせいで死んだやつもおるんやでェ…?どう落とし前つけてくれるんや…言うてみィ……!!」」




僕の存在が少しも混ざらない話し方。でも、オヤブンっぽいかっていうとそれはそれで違う気がして。




「く、組……?」





「「暴猫団、カツオ組ィ…クミチョウ……しっかり、貸しは回収させてもらうでェ」」




結子もだが、僕も理解が追いついていない。でも…もしかして、オヤブンと僕の他に…もうひとつ…魂が……?





「「覚悟せェ。指ィ詰めてもらっても足りひんからなァ!!!」」




右腕で黒煙を振り払う。そうして判明するのは、真っ黒なスーツ姿に変わった自分。黒の革靴まで履いて、中のシャツまで黒い。全部同色で、きっと離れて見たら何が何だか分からない。


……あ、右手に何か握ってる。…武器?


鍔の無い短刀…ドスなんて呼ばれたりする刃物だ。やけに握り心地がいい。手にフィットしている。

刃の表面にはオヤブンらしい猫の模様が薄らと浮かんでいて、見た目以上に妖しさがあるのは



「「妖刀のアレンジやなァ、ほな、いくで」」



ああ……僕、どうなるんだろう。














………………………to be continued…→…




新品の靴より履きなれた靴の方がいい。

それはきっと体でも同じことで、べダスにとってのヒュェィカや結子の万物適用も慣れが足りない。となると、どんなに強力でも完全に使いこなせない。べダスが押されてるのはそういうこと…作者の中ではそういうことになってます。

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