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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case20 _ 自然のあるべき姿
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第11話「満足されちゃあ困るんだよ」








「……………っ、」





気を失ったわけではないのに、まるでそうだったみたいに目覚めた。

目を開けても暗いままなのは僕を守ってくれたジュリアの体がまだ覆いかぶさったままだから。……眼前に彼女の右肩、そして両腕が頭を包むように…


「……ジュリ」


呼び起こそうとしたタイミングで脳が通知を送ってくる。左足が応えないと。右足はどうにか指先を動かせるが…確かに左が


「がぐ、っ!?」


段々感覚が鮮明になって、冷たさからくる痛みが襲う。それは日常生活中にふとした事故で火傷を確信するような感覚に近く、沸騰したお湯を左足にこぼしてしまったみたいに全体が


「ぅ"ぅあ!…う、」


動かせる部位を全て使って全身でバタつく。そんなことしても痛みは無くならないのだが、こうでもして誤魔化さないと気が狂いそうになる。それに、覆いかぶさったジュリアが動かないせいで僕は抜け出せない。生きたまま羽に釘を刺されて標本にされるんじゃないかって、



「もぅ、…………」



どうにか逃れようと暴れ続ける。でも、ふと、頭が左を向いたら。



「…サラ?」



仰向けで頭だけをこちらに向けて倒れている。目が開いたままで、口は半開きで、…え、……


1本。たったの1本。電柱のような太さの荒削りの氷塊の破片が、彼女の腹に突き刺さっている。どう見ても、どう考えても、そこで彼女の体は2つに分断されているように


「は、はぁ、はぁっ!?ぁっ!?あ!?なんで!」


暗くて冷たい地獄の中、僕だけ。妙に頭がスッキリしていて、いつもより余計なことを考えられる。脳がフル回転。見たものを信じて、何がどうなっているのかを繰り返し理解して、その度に僕の恐怖心が煽られて。




「…………」




戦わずして敗北した。



数分かかってようやく結論が出た。




僕は強くなった。そして強い仲間と共に来た。なのに、強敵と戦って負けるならまだしも、こんな、呆気ない、最後だなんて。




「う"う"……ぁ、」



ふいにゾクゾクするような寒気に襲われた。究極に冷たい空気が流れてきたせいだ。それに脳が怯え、尿を漏らした。情けないことに、溢れ出すそれが温かくて止めようとも思わない。



「………」



今、一瞬光が見えた。明るくなった。絶対に。それがなんなのか確認したくて頑張って頭を持ち上げる。ジュリアの肩を押して、少しでも視界を確保して…



















「そこまで本気で来られたら俺もやるしかないよな……」



結子は無事だった。モモの防御が間に合った結果だ。しかし、その威力が絶大なものだったせいでモモは力尽きて倒れてしまう。攻撃の結果を無言で待つべダスと目を合わせた結子は、右の人差し指を突きつける。



「俺とお前は仲良くなれねえってことだ」



決別宣言。そして足下に倒れているモモに目を向ける。



「ありがとな。"あっち"で休んでろ」


続けて右手を向けてやるとモモの体が発光。次の瞬間には消えていなくなってしまった。




「……」



「驚いたろ?お前の氷が俺の右腕を潰したはずだったのに、こうやって今は動かせる。氷はどこに消えたんだろうな?」



「何度でも」



「ああ。そうだな。俺もお前も、何度でも殺れる。どっちが先に狩り尽くせるのかの勝負だ……言っとくけど、もう俺を止められるやつはいなくなった。人間の形をしてる必要がないのは俺も同じだ。本気にさせたんだから、しっっっかりボコボコにされろよな」



自由を取り戻した右腕を振り回してべダスを挑発。そして結子は自らの両手で自分の首を絞める。



「見せてやる……俺の神化を」



((EXECUTION))



ガシュ。


薄赤色の刃が目立つ簡易処刑台が創造される。両手に絞められ固定される首が、落ちてくる刃によって斬首される。ギロチンの成立。雪の上に転がる結子の首を見て、べダスは首を傾げた。




「それで騙せたつもりか」



空気中を漂い続ける雪の一粒一粒が、べダスの手指と連携し感覚を共有する。それによれば自滅により死亡したはずの結子はべダスのすぐ後ろに、



「……」



いない。



「どこ見てんだ」



声は頭上から。しかしべダスは目で追うつもりはない。結子の死体から目を離さない。



((EXECUTION))



今度はべダスの左耳に囁く。瞬間、雪が風が動きを変えてべダスが防御行動を選択したことを知らせる。



「ふん、」


べダスは鼻で笑った。変身を遂げて"無敵"に等しい体になったにも関わらず、腹に穴が空いたからだ。それでも血は出ない。人ではないから、溢れ出すものは入っていない。自分以外の存在に見えるように映像だけこの世に残しているような状態だから。なのに、だ。穴が空いた。



「比較すんのも面倒だけどちゃんと言ってやる。俺の方が格上なんだよ。ずっとずっとな」



背景が歪む。渦が発生しブラックホールのようなものが氷結の闘技場にいくつも生まれる。それらがどのような効果をもたらすのか、べダスは正確には分からなかった。ただ、



「誘引効果を付与したようだ」



結子が仕掛けてきた攻撃の中でもトップクラスに危険なものだとすぐに察した。その気がなくても誘われる。触れてみたくなる。そうするつもりがなくても、せめて近寄ってよく見てみたいと思う。べダスにさえそう思うことを強制させるブラックホール達は、部分的ではあるが雪や氷を消去し始めた。

これで、触れたらどうなるかが明らかになった。べダスはその場から動かないよう自分に言い聞かせるつもりが、足が動いてしまう。すぐ近くのブラックホールまで、たったの10歩でたどり着いてしまうというのに。




「いいんだぞ?さっきみたいに体を雪に変えてみろよ」




悪魔の囁き。結子の言う通りにすれば間違いなく吸い込まれる。耳を貸さないように、体を動かさないように。べダスの選択は



「ふ、」



「自分ごと凍らせる、か。残念。不正解だ」



1度創造したことのある他の破壊を許さない氷の棺。本来は安全に体を癒すためのものだが、今回は絶対防御を期待して創造された。


立ったまま中に閉じこもったべダスを馬鹿にするように、棺を囲う並びで新たにブラックホールが出現する。四方と頭上……5つのブラックホールが、緩やかな渦を、未知の領域を見せつけながら、べダスを誘う。



「詰みだ。お前は出てこられない。永遠にここで大人しくしてるか、または…だ」



決着を言い渡すが、結子はまだ姿を現さない。棺の中からでは外を見ることしかできないべダスは、悪あがきとして天候を操る。風を強くしたり雪をたくさん降らせる程度では、人間や動物を殺すことは出来ても神を殺すことはできない。それでも、結子が逃がした使者がどこかで寒さに震えて死んでくれれば…そう考えて。



「モモを捕まえられると思ってんのか。無理無理。死んでねえけどこの世にはいねえんだ。何やっても届かないって」



投げかけられる声はどこからでもなく、自分の中から聞こえた。

べダスは目を見開き、自分の胸に手を置く。



「結子、まさか」



「なんだよ遅いな」



べダスはようやく理解した。結子を殺すことが不可能になったと。"難しい"程度ならどれほどよかったか。



「肉体は要らない。お前が操る雪、風、なんなら雨でも海でも空を泳ぐ雲でも……空そのものでも、空気にだって。俺はなれる」



透明化でも、隠れているわけでも、遠く離れた場所に逃げたわけでもない。


ずっといた。どこにでも、いた。




この世の全てに対して結子は自分の存在を紐付けることができる。




不老不死も、永遠の生でさえも超越してしまった。まさに神。神と呼ぶに相応しい偉業。




「氷と雪で島を創ったくらいで満足されちゃあ困るんだよ」



べダスは冷静に氷の棺を開けて防御状態を解除する。しかしそうすると今度はブラックホールがすぐそばにあって。



「本物とは違う。進む時間と戻る時間の渦に飲まれて無事でいられる自信があるなら飛び込めよ」



「……」



目の前のブラックホールから結子の声が聞こえる。これ以上ないほどの強さを手に入れたべダスだったが、さすがにお手上げだった。

なら、もう出来ることはひとつだけ。




「じゃあな、べダス」



「いいや、まだだ」



べダスの足下。唯一ブラックホールが無いその場所が。



「は?」



雪が消え、地面の役割を果たしていた氷が消え、穴が空いて、海の一部が露出して。そこに、落ちた。



まさかの逃走。しかし今の結子から逃れることは不可能。べダスの行方はすぐに特定される……。




「……ふざけてやがるな、どこまでも」



















……………………………………………。







海の匂いがする。



「………、……………、」



呼ばれてる。男の人に。



「……よ、この声を聞け、柊木の代行よ」



誰だろう。



「死にタクなけれバ、生キろ」



……あぁ、アムグーリか。

仲間を失って、自分1人だけ生き残るのは、申し訳ないとかではないけど……なぜかできない。選びたくない。でも分かるよ。死にたくないっていうのは。



「生キろ」



無理だってば。僕は体が動かせない。ジュリアが乗ったままだし、左足が氷に潰されてるし、




「……生きろよ!馬鹿言ってんじゃねえ!!」



え?





「鉄拳、インッッパクトォ!!!」





豪快なスイング音。空気を押し退ける轟音が、氷をド派手に打ち砕いた。





「次、サラちゃんだな……待ってろよ……!!」


((READ))




ようやく視界に入ってきてくれた。

ピンク色のダウンを着た、アフロの彼が。大きなハンマーに創造と想像を加えて、



「撃鉄……ビッグバンんんんっ"!!!」



サラの体を解放すべく氷を……




「見てねえで起きろ!生きてんだから!!!」


「……ミハル、」


「真っ!!本気出せ!!ブチ切れろよ!じゃなきゃお前らは何のためにこんな所まで来たんだよ!!」


「…、」


「情けねえと思わねえのか!!大事な人がいるんだろうが!!」




「……起きて。ジュリア・アン・トレーゼ」



呼びかけに応える青い光。それは彼女の体を即座に完全修復させ、有する最大の力を引き出す。

すぐに青い雷光がバチバチと目覚めの音を弾き出す。感電の心配は無さそうだ。安心した。



「お前ならサラちゃんを治せるんだろ!?」


「……当然」


「ならやれよ」


「…ありがとう、助けに来てくれて」


「別に。……大きな貸しだから忘れんな」


「うん」


「…おい、オヤブン。お前も生きてんだろ?起きろって」


「ぅっさぃ……寝かせぇゃ……ギリギリゃねん……」




「っ、…ジュリア・マーキュリー、起動」


目覚めたジュリアは僕からそっと優しく離れる。立ち上がり、見下ろす形で僕の状態を診断して


「左足の治療を最優先してください。肉と骨がバッキバキのグッチャグチャでミンチになっています。病院に運んだら切断待ったなしです」


雑に恐怖を煽ってきた。なんで。


「そんなの分かってる…アムグーリも手伝って……」


自分に話しかけるのはなんとも言えない痛々しさがある。


「治そう」


通常時の、見慣れた自分の足を重ねて見て、



((EXECUTION))



痛すぎてどうにかなってたものが一瞬で解消される。手品みたい。冷えきった体温や他の僕が抱える問題はアムグーリが何とかしてくれるだろうから、次はサラの体を。




「ん、」


「え……」



ふとジュリアが感じ取った気配。それが僕にも伝わって、……どうしたらいいのか分からなくなった。



こんな所に、あの人がいる。



((EXECUTION))



「柊木様」


「サラは……大丈夫だと思う。ィァムグゥルが目覚めれば足りないところは自分で治せるだろうし」


控えめに言って血まみれのサラの腹部。それを治してやって、すぐに僕とジュリアだけが切り替えた。


戦うために。





「……結子…、」














………………………to be continued…→…


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