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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case20 _ 自然のあるべき姿
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第10話「散り散り」







これまでの地球の歴史で、こんなに厳しい自然が存在していたことはあっただろうか。そんなことを思うほど…



「っとと、」


「こちらに」


「……」


「確実に近づいているよ。言わなくても分かるだろうけどね」



オラワルドに来てどれくらいの時間が経っただろう。体感では数日過ごしたくらいだが、実際には約2時間とかそこらで



「ぉわっ!」


しまった。足が雪に深く埋まった。


「お任せを」


「お願い…」



雪の上を歩くとサクサクと音が鳴って最初はちょっとだけ楽しかった。でも今はそう思わない。体重のかけ方を間違うとすぐにこうだ。足が埋まる。下手をすると両足突っ込んで腰まで埋まる。

ひたすら暗いし、雪の降り方も小ぶりな飴玉をぶつけられてるみたいだし、誰が何と言おうとここは人間が暮らせる環境じゃない。通り過ぎるのだって遠慮したい。




((EXECUTION))



1番前をジュリアが歩く。常に前方とすぐ後ろの僕のことを心配してくれていて、何かあればすぐに助けてくれる。僕の後ろにはィァムグゥル。敵の存在に気づくとすぐに創造で先制即死を決めてしまうし、僕が雪道を歩くのに手こずっていれば創造で手伝ってくれもする。



「真の転ぶ頻度が…」


「それはごめん」


「いや、いいんだよ。ジュリアはともかくサラはオヤブンのサポートがあるから君のようにズボズボと雪に足を埋めないですむんだからね。それはそうと、さっきまで数分おきに新人類達がこちらに接近してきたけど、今は全然だよ。こっちの方には近づきたくないのかな」



ジュリアが言うには僕達が向かってるのは北の方角らしい。進めば進むほど状況は厳しくなって、愚痴も文句も泣き言も脳内で吐き出すしかなくなる。



「さてと…」



寸前の創造で雪を固めてくれたィァムグゥル。それだけでなく、舗装された道路のように整えてくれて、足を滑らせることもなく歩ける。



「試作品といこうか。君の言っていたものを創ってみよう」



((EXECUTION))



暗くて冷たい地獄に光が生まれる。

きっと直視するのは危険だろうから、振り返ることはしない。



「太陽…というには少し系統が違うようだけど、目的は果たせるんじゃないかな。サラのイメージが反映されているのは見逃してもらいたいところだけどね」


「…」



あったかい。頭上にハロゲンヒーターがあるみたい。オレンジ色の光が僕達を照らしてくれる。



「いくらか元気が戻ったようだね」


「うん。ありがとう」


「…柊木様。何か見えます」


「え?…」



再び歩き出そうとした足がすぐに止まる。前方、見上げるほどの高さの、



「こ、氷なの、これ…が?」



縦にも横にも大きすぎる。しかもひとつではない。急に自分達が小さくなって世界が大きくなったように思えた。蟻になった気分だ。



「当然、これも代行がやったことだよ。この環境を創造した代行はとても頭がいいね。"人間の作り"では自分が小さな虫になったような気持ちになってしまうよ。サラがワクワクしてうる…、……すごいです…!!」


「え、ィァムグゥル?」


「マコト!行きましょう!氷のビル群ですよ!!」


「サラ!?あ、待って!」


「追いかけましょう」



歩くのが大変な雪道を、サラは走っていく。突然のことで止めることが出来ずモタモタしていると



「うぉ!?」


「失礼します」



ジュリアに抱っこされた。驚く暇もなく走り出して、彼女の腕の中で小刻みに揺れながら…ふと頭上を見上げた。手は届かないが、すぐそこの高さに四畳半の部屋をぴったり満たすくらいの大きさのそれが存在している。

…………ィァムグゥルが創造した太陽には…顔がある。子供のお絵かきに出てくる太陽みたいな見た目で、ニコニコ笑顔のご機嫌な太陽が僕達をサポートしてくれていた。


「というか直視できるし…」


眩しさは電球を近くで見た時くらい。


「しかも勝手についてきてくれる…」


「サラ様を見つけました。追いつきます」



移動が早い。こんなことなら最初から抱っこしてもらって運ばれていた方がよかったのではという考えが頭をよぎった。まあ、思いついたとしても恥ずかしい気持ちと遠慮のダブルパンチで自分で却下していただろうが。



「すごくすごくすごーく綺麗です!透き通ってて、触るとツルツルスベスベ……!」


「あかん!ちょ、寒いて!なんで変身解くねん!あと氷素手で触るな!」


「こんなに綺麗なアイスキャンディーがあったら……」


「おい待て!それよくあるやつやん!舌で舐めようとしてくっついて取れへんってなるやつやん!お湯ないで!?おい聞けえ、アホ!!」



追いついたと思ったら大騒ぎ。巨大な氷塊に見惚れてるサラに、オヤブンが飛びかかって、



「っ…もういいよジュリア、降ろして」


「はい。…敵でしょうか?」


「そんな気がする」



こんな時でも楽しそうなサラ達をもう少し見ていたかったが、僕達以外の音が聞こえた気がして一瞬心臓が止まりかけた。


音は小さく、間隔が短い。…走ってる。僕の想像が正しければ


「四足歩行…」


「"太陽"のおかげで周りがよく見えます。……囲まれたようです」


「囲まれた!?」


「代行が追ってこなくなった理由がこれなのだと考えられます。静かに移動し、機会を待ち、狩りをする。……記憶を確認。高確率で、狼かと思われます」


「狼。…」



目の前には氷塊。これを壁と考えれば、僕達は自然と自分達を追い詰めたことになる。狼は思わぬ形でチャンスが来たものだから、油断して音を立ててしまった。それが今の状況。



「サラ!ィァムグゥルと交代して!」



「にゃゴラァ…あ?なんや真、どうし…おま、なんで気づかんかったんや!おい急げ!敵やぞ!変身せな!」


「は、はい!……、まったく。サラは可愛い子だけどタイミングを選ばないからね。さ、始めようか」



サラとィァムグゥルが交代し、オヤブンがやる気になる。それを感じ取ったのか、僕でも視認できる距離まで相手が近づいてきた。


「ご主人様が以前話していました。狼を使者とする代行は少なくないと。"犬系"で最も強くなりやすいそうです。創造による原種との変更点は主に足音の無音化と、仲間との連携の強化、そして異常なまでの凶暴性の付与が多いとのことです」


「今回は仲間との連携強化っぽいかも。8…10…12…14?まだいる?」


「代行がいないかわりに狼がいると考えれば、まだ増えるかと」



白い雪の中、無数のギラギラした黒い目が僕達を睨む。体毛の色がほとんど雪と同化しているみたいだ。…たぶん意図的にそうしたんだろう。

その中で数匹が頭上に浮かぶ異物に興味を示しているようだった。なんでこんなものがあるんだといった表情で、邪魔に思っているように見えた。


こんな形でも太陽が貢献してくれるとは。




「「ふふ。狼男が引っかかったみたいだね。ゴーストハントで戦うとしよう」」


「ジュリア」


「はい。いつでもどうぞ」




相手を待たない。一方的に、無慈悲に。



((EXECUTION))





「クゥンッ!!」


1匹目は僕が殺した。仲間の苦しむ声に反応しついそちらへ振り向いた狼達、そこに


「「いくでぇっ!!」」


「粉砕します」


ィァムグゥルとジュリアが突っ込む。大鎌の刃は狼の体を引き裂き派手に血を飛び散らせ、容赦ない拳が頭を叩き潰す。仲間達の突然死にパニックになったのか右往左往しているから、


((EXECUTION))


僕も攻撃に参加しやすい。狙いを定め、3匹の下半身を消し飛ばした。

一斉に襲いかかってきたらどうしようかと心配していたが…なんだか思ったよりいける。殺すことを"簡単"と言ってしまうのはどうかと思うが、実際簡単だ。


「…弱い?」


ふと思った"もしかして"に他の2人も賛同したようだった。1分もかからず近くにいた狼達は全滅し、雪が血で染まった。……といっても、常に大雪だからすぐ上書きされるのだろうが。



「手応えがなかったね。無抵抗な相手を一方的にいじめていたみたいで少しだけ気分が悪いくらいだよ」


「創造した代行の能力が足りなかったのでしょうか。数を優先した結果、個の力が低くなってしまったのかもしれません」


「色々と考えられそうだけど……うーん」


「真?」


「僕の考えすぎかな」


「話してごらんよ」


「わざと強くしなかったのかもって。元々存在する狼に近いものを創造したんじゃないか…な。代行の狙いは自然の再現……っていうか。その、アムグーリも似たようなことをしてたみたいだから」


「…ああ。そういうことか。さすが"金持ち"は考えることが違うね」


「…?ご主人様は特に自然環境をどうこうと考えていたことはありませんが」


「いやいや。その金持ちとは違うよ」


この場合は代行の能力の高さが金持ちという表現になったのだろうか。…でも、そうか。べダスはそういう考え方なんだ。自分や自分に従う仲間達が十分に強いから、オラワルドをこれだけの環境にできた。……言い方を変えれば、これはべダスの趣味なんだ。


「よっぽど自然を愛しているんだろうね。雪に相当の憧れがあるというか、元々こういう場所に住んでいたんじゃないかな?今殺した狼達も、実はペットなのかもしれないね」


「それだけ聞くと僕達は結構な悪人だけど…」


「あとで飼い主が気づいたら大変だね。存在ごと消してしまおうか」


「いや、そういうことじゃ」








ヒュッ………………!!








「ぇ、」


突然。耳が聞こえなくなった。風も強くて、ジュリアが僕を押し倒して覆いかぶさっ……




「あああああ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーッ…!?」




一瞬だけ。一瞬だけ見えた。世界の終わりのような光景だった。様々な形の氷の破片が、僕達に降り注い












………………………………next…→……










「劣勢と分かると沈黙か。それもまたいいだろう」






「…はは、ばーか。2回目の変身でシュッとして、そんな自信満々な姿見せられたらどっかの漫画を思い出しちまったんだよ。お前知らないだろ。世界中に飛び散ったマッチ箱を集めると」



「知らない?違う……凡人の想像に興味がないだけだ……!」



「おいおい。あんな神レベルの天才を凡人呼ばわりかよ。ファンに叩かれて死ねばいいのに」


「結子。…」


「そんな顔すんなよ。別にお前を責めたりしないから…っ痛ぇけどさ」


白い氷に覆われて使い物にならなくなった右腕。自由を奪われただけでなく氷が体温を奪い続け代わりに痛みを与えてくるため、結子は涙目になりながらそれを耐えていた。



状況は、結子が大きく劣勢。



そうなったきっかけは結子がついにべダスを傷つけることに成功してすぐのこと。2つの事が起きた。


1つは、べダスの覚醒。

不利ながらもほぼ対等に戦えていたのが崩れ、危機感からべダスは新たな創造を行った。自身が信じる神との一体化を成立させ、人型の精霊へと変身した。その姿は白熊とも鍛えられた男性とも違い、細身の女性のものになっていた。


もう1つが、モモによる妨害。

何を思ったか結子の追撃をモモが自身の防御能力で防いだ。べダスを庇ったかと思えば次の瞬間にはイーヴィル・イーターによる横一閃。結子を攻撃したのである。それを結子は指1本で止めたが、2人の間に生まれた動揺は凄まじく、べダスの創造が完了するまでの時間稼ぎをしてしまう結果となった。




「次はもう一本の腕をもらう」




「次はねえよ。あと声まで女になるのやめろ。…いや、その見た目で男の声の方が違和感あるな」




「"散り散り"」




再び、べダスの創造が結子を襲おうとする。

自身が作り出した氷を雪で砕きそれを吹き付けるというシンプルな攻撃は、操る雪に運ばれることにより狙いは正確かつ自動追従し触れた瞬間から対象を凍りつかせるという凶悪さ。完全に防ぐにはこの世から雪を無くす必要がある。

さすがの結子もまだそんな無理は出来ない。なので、



「ちっくしょう…!走るぞ、モモ!」



逃げ回るしかない。追いつかれないように全速力で逃げながら、べダスが攻撃を中断するくらいの攻撃を仕掛けるしか方法がない。



「変身前まで時間を巻き戻すっても、今のあいつは雪に変わんなくても攻撃が当たらなくなってやがるし…!どうやって触らせる!?」


「……」


一緒に走るモモは申し訳なさそうな顔で結子を見るだけ。本当に自分のやったことは正しかったのか、答えはしばらく出そうにない。





「"散り散り"」




「追加とかあんのか!?」


「だめ、結子!!」



べダスがさらに攻撃の手を増やす。そう解釈した結子が逃げる方向を変えようとしたその時だった。




近くにあった巨大な氷の塊が爆散したのは。













………………………to be continued…→…


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