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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case19 _ 3人の英雄
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第21話「聖戦士ヒロシ」







壁。逃がさない為の。誰を?僕達を。

透明な壁。バリア。そんなものが創れるってことは知っている。僕の家がこれと似たような創造で守られているから。



「敵を逃がさない。そして味方を送り込める。徹底的だ…」



これを新人類が人類に使うのなら、簡単に大量殺人が成立する。アバルバ1人でどれだけ世界を脅かしているのだろう…。



「終の解放者ってなんだったんだろう…」



薄れて見える。いや、それどころじゃない。



「出られないのはまずい。何とかして壁を破壊しないと」


((EXECUTION))



見えない壁に穴を開けることが出来ればそのまま破壊に繋がるが…



「無反応…?また?僕じゃ足りないってこと?」



僕とアムグーリで何が違うのか。



「生への執着?…狂ってる度?」



単純に、三の目を開いているかどうか…とか?アムグーリも開いているのだろうか。


「壁を壊すには…どうしたらいい?……創造された壁…代行の能力差以外にも、多分何かあるはず」


壊し方…?壊すと考えると叩くことばかりが思い浮かぶが、溶かすとか…


「熱で溶かす…分解する…あ、再構築!?……創造物に"素材"という属性を付加して、耐久性を変化させてやれば…」


透明な壁。透明ならガラスとかが思い浮かぶが、それなら割れてくれてもいいし熱して溶けたりもするだろう。素材が無指定なのだ。この壁は。だから簡単には壊せない。創造の書に書き込む時、情報を詳しく書かないことでこういうメリットが期待できるのか。



((EXECUTION))



壊しやすくなるように、木で作られた壁…それを重ねて見る。ついでに、低品質な木材を使っていることにしよう。



「っ!!…………わ、」



透明で何も無かったその場所に突然木の壁が出現する。パッと。一瞬でツリーハウス。四方を囲まれ……


「てない。なんだ?」


僕から最も遠い一辺だけ少しズレている。隙間が生まれ、


「そこから出入り出来た…?」


なんだか悩んだ時間が無駄に思えるが、この創造をしたから判明したことでもある。


「隙間から出られるならそっちに、」


どこかホッとしてそのまま行こうとしてしまった。馬鹿なことをするところだった。あれが僕達のために用意された隙間でないことは明らかなのに。なぜそこから出ていこうとするのか。


「敵と鉢合わせるかもしれないっていうのに」



せっかく木材に変えたので、これを打ち破って気持ちよく出ていきたい。



((EXECUTION))



橋に穴を開けたくらいだから、これくらいの素材に穴を開けるのなんて朝飯前だ。縦長の大きな半円でくり抜いてやった。



「ふぅ、よかった。これで」




右足を踏み出そうとして、転びそうになった。いつの日だったか…地震の揺れで立っていられなくなったのを思い出す。そう、揺れている。外だし、揺れの影響が分かりやすいものが近くにないから一瞬地震だと気づけなかったが


「え、揺れ強くない?」


震度は3〜くらいか。木の壁に手をついてバランスを取りつつ揺れの終わりを待つ。この調子なら長くても1分以内には落ち着いてくれるだろう。


「…………」


…大丈夫。もう少し。


「……」


一応、周囲を確認する。敵はいない。


「…」


嫌な予感なんてしない。問題ない。日本だから。地震は珍しくないから。


「…はぁ。でも、そうだよね。あの奇声をあげて合図出していなくなったやつがまだ地中にいたなら、この地震は…そういうことになるよね…」


それがいなくなった時、地面には小さな穴が残されていた。地中で待機していた可能性は十分にある。というか、あの時に穴を掘るなりしてちゃんと姿を確認して…殺しておけばよかったんだ。


「揺れが続く。多分このあとちょっと強くなって、地面が割れて。出てくるんだろうなぁ」


ジュリアを壁に開けた穴のそばに一旦寝かせる。もっと色んなことを考えられるようにと反省して、地面が割れて中から大きいものが出てこられそうな広いスペースへ移動する。


「どうせそうだから…ふぅ、集中」


かもしれない運転みたいなものだ。この敵を放置したらああなるかもしれない、ここで攻撃したらこうなるかもしれない…そういった想像力が戦況を大きく左右する。


「…想像力……創造と、想像……」


創造力。想像力。その2つの合計が真の意味で代行の能力と言えるのではないか。


「来る」


待ち時間が終わりに近づく。案の定揺れが強くなり、目の前の地面にビキビキとヒビが発生。人間が大人数で頑張って工事してやっと整えられた地面が、代行達の身勝手な行動で簡単に壊されていく。



右手を構える…何か見えたら、すぐ。すぐだ。




「…ゥッッッ…ポ((EXECUTION))




驚いた。全然大きくない。普通。人間サイズの左腕が勢いよく飛び出したので、二の腕までを範囲選択し創造。ゼロにやったように消してやった。



「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ"!!!」



高音。奇声。それだけ苦しんでいるのだと判断し、次の選択を考える。覗き込んで追撃か、離れて穴から出てくるのを待ち伏せするか。

また地中に引っ込まれたら面倒ではある。でも何をしてくるか分からないから無策で突っ込むのは危険。…どうする。



「ぁア…。キヒ、」



((EXECUTION))



「ポォォ…!!」



髪を掴まれる形で引きずり出された。顔がピンク色で、


「ポオ"オ"オ"!!」


ああ、髪が抜けてしまった。じゃあそのまま頭皮も剥がれてしまえ。


「ポ、ポ、オゴゴゴ…」


((EXECUTION))


ダメ押し。ブチブチと髪が抜かれていって、露出した頭皮に赤黒く手形が残る。そして次の瞬間、



「ポオアアアア!!!」



抵抗する時間も与えず決定的な一撃。頭皮が剥がされ、ブルブルした脳がそこにはあった。


((EXECUTION))


相手はもう何も言わない。ただ吐血だけして、大人しくなってしまって。



ビチャ、ムチャ、グジュ。



不快な苦味が口に広がる。鼻に広がっていく血と糞の混ざったような悪臭を無視して、乱暴に貪る。咀嚼が続くと不思議なものでほんの少しだけ甘みを感じることもあって。



クチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャクチャ……



口は開きっぱなし。手掴みで食べている時点でマナーもなにもあったもんじゃないが。


……ああ、笑顔がこぼれる。







「合図はこっちからだったな」


「とはいえ遅れた!もう片付いてるってことも……ひぇ!?」


「な、なんだ…あれ。ば、化け物……?」


「に、人間だぞ?ほら服着てるし、」


「あんなに顔が血で汚れてて、両手で脳みそ持ってて、クチャクチャ何か食ってるやつが人間?冗談でも笑えねえよ!」


「…っあれまさか"ポポン"か…?」


「人喰い人……っ、」


「お前何を」


「敵だろ!殺すっ!そのために来たんだ!」


「お、おう!」





騒がしい。大切な食事の時間を邪魔する気か。命ある全てのものにとって食事は絶対に必要なもの。それを邪魔するというのはすなわち生きることを邪魔する…殺そうとしているということになる。つまり、攻撃してきたということ。




((READ))


「真紅の魔術師の杖!」


((READ))


「討鬼の勇者の大剣!」




安い創造だ。どちらも流行りのアニメの登場人物の装備品を模倣したもの。出来ることはどうせ大したことのない魔法もどきと大きいだけの鉄の塊を振り回すことくらいだろう。


どれ、ここはひとつ。




「うおおおおお!!」


「大魔法!発動!」



((EXECUTION))



「おおおおおっ、お!?か、体がいうことをきか、」


「馬鹿!大剣振り回しながらこっち来んなよ!味方だぞ!!」


「ダメだ!逃げろ!」


「ぐわああっ!」


「ぶわ、ま、魔法が暴発し…」




食事する時はいつもテレビを見ていた。何となく物足りない気がしていたが、そうか。彼らがテレビ代わりになってくれた。酷い見せ物ではあったが、まあいい。退屈とまではいかなかったから。


ついでに食ってやるとしようか。






「暗黒を呼び出す魔法。どれだけ硬い肉でも斬り捨てられる大剣。まさかそれらが味方同士に使われることになろうとは…」






…何人用意してやがるんだ。






「新人類同士で争うことはありえない。となれば同士討ちをさせたようだな。…貴様が」



現代人らしくない服装だ。赤い軍服のようなもの…その上から甲冑を分解したようなパーツをいくつか装備している。肩、肘、膝から下…だがそんなとこを守ってどうする。急所は全て丸見え無防備。……コスプレ感覚なのか。




「今回の作戦の総指揮を任されている。ヒロシ…ごほっ!……っ、ストィリース将軍だ!」




ヒロシか。カッコイイと思って名乗った方のは…言いづらそうだ。というか、わざわざ名乗って何がしたいんだ。




((READ))


「天空剣、ミューズ!!」



細長い刃。持ち手の部分は天使が3人手を取り合って刃を支えるような形になっている。見た目にこだわりすぎていて持ちやすさは一切考えられていない。



「この剣の輝きは……貴様のような悪魔が最も嫌うもの!そう、聖なる光だ!」



1人で盛り上がっている。……もういいか、



((EXECUTION))



「はぁっ!!……ふん、邪悪な力など斬ってやるさ!何度でも!」




………総指揮を任されていると言っていたようだが、どうやらそれだけの実力があるらしい。

斬ったというより打ち払った感が強いが、生き延びてしまったのなら仕方ない。



「来い。貴様の邪悪な魂を分断し、確実に死をくれてやるさ!」



((EXECUTION))



「ふはは!効かぬ!!悪魔の声など届きはしない!」



直接の攻撃はご自慢の剣に打ち払われてしまう。だから当然のように別の方法で攻撃した。それに気づかないなんて。



「ふははは!覚悟ぉおおおお!?」



地雷を踏んだ。9割近く想像だけで再現したので本物ほどの破壊力はないが、派手に吹っ飛んだ。…右足が。



「ぐ…っ、罠…だと、悪魔め……」



((EXECUTION))



「効かぬ!届きはしないぞ!屈することなどありえない!!」


((READ))


「神は許してくださる。邪悪を滅するために戦う戦士を見守っていてくださる。……なれば神の奇跡も………!!」



色々と言っているが、つまり失った足を回復出来るということだろう。

……ということは、何度も吹っ飛ばしてしまえば足が無限に生えてくるのか。食べ放題だ。



「いざぁぁ!!」


「キヒ、」


((READ))


((EXECUTION))



互いに左手を向け合い、創造。攻撃と明確な殺意では明らかに後者のこちらが勝るわけで。


「ぐぅっ」


向こうの手指がデタラメに折れ曲がっていく。中指なんて外側に折れ曲がってぐるぐる巻きだ。


「さすがに、い、痛い……だが、」


((EXECUTION))


もう食べ頃だろう。これで動きを封じて、生きたまま……



「奇跡よ…何度でもっ、さあ!!」


((READ))


((RELOAD))



「っ……?」


初めて聞いた。今のは



「ホーリー・バースト」




視界が奪われる。聖なる光とやらに埋め尽くされ……ビームのようなものを浴びせられたのだと察した。




「時の感覚が鈍くなる。貴様の場合はどうだろうな。…だが生き急ぐな。じきに仲間達が到着する。その時正式に貴様を裁く」


























「もういいだろ。死ねよ」



草の匂い。仰向けで、顔の右半分が地面に触れている。



「柊木家の代行だかなんだか知らないが、強かったよ。確かに強かった。でも負けたんだよお前は」



放り出された右手。中指から小指までの3本が、金属に覆われている。



「別にお前が死んだからってその柊木家の血が途絶えるわけじゃないだろ。もう死ねって」



右手を貫かれる。鉄の串に。グリグリと押し付けながら串を地面に差し込んでいくから、串刺しにされた手が動かせなくなる。



「大地に縛り付けて、とどめの一撃。それで終わりだ。格好悪いんだよ、お前。血吐きながら負けられない勝たなきゃならないって、へろへろで立ってもいられないくせに。見てみろ、今の状況。誰が立ってる?誰が死にかけてる?」



串が足を貫く。太ももを貫通し、両手にしたのと同じように体を固定して。



「結局は武器持って戦うやつが強いんだよ。不思議な能力を持った武器に対する正解なんて存在しないんだから」



攻撃した時、防御した時、振った時、空振りした時、奪われた時、壊された時……能力の発動条件や効果は創造した代行の想像力次第。多少のパターンはあったとしても、どれにでも当てはまる最適解は存在しない。



「終わりだ。柊木の代行。土に還れ」



((EXECUTION))



終われない。負けられない。プライドの問題じゃなくて、生き物としての問題。殺されてたまるか。死ぬために生まれたわけじゃない。生きるために授かったのだ。



「…嘘だろぅ…」



指を覆う金属が液体化して、鉄の串に混ざる。すると串も液体に変わり、拘束は解除される。



液体は勝ちを確信している相手を襲う。口を塞ぎ、鼻を塞ぎ、目を塞ぎ、耳を塞ぎ……体内で液体から個体へ…



「おごぐ、っきゅふ」



生命活動の強制停止。逃れようがない、絶対死。



「柊木家の代行は、武器も使える。何でも出来る。だから負けない。負けられない」

























「ぅぉらっ!」


「くらえ!」


「もっとだもっと!」


「さあ!悪魔に裁きを!」



ぐふって痛がることも出来ない。忙しすぎる。囲まれ、ひたすらに踏まれたり蹴られたりして。体が熱い。



「これでもくーらぇっ!!」



「あ"っ」



1人が助走ありで全力で蹴ってきた。サッカーじゃないんだから。僕はボールなのか?

ようやく溜まった苦しみを吐き出すことができて、少しホッとした。まだ生きてる。生きたいから呼吸をしようと吐き出したんだ。僕はまだ、生きてる。



「止め。悪魔は弱っている。今こそ名前を聞き出し、2度と蘇ることのないように完全に死を迎えてもらうとしよう。……悪魔よ、名乗れ」



…ヒロシもまだ生きてる。自慢の剣を僕の喉に突き立て、刃先で皮膚の表面を浅く切ってくる。



「さあ、名乗れ」


「名乗れって言われてんだから名乗れよ!!」



名前を聞いてどうするつもりなんだ。あといい加減悪魔と呼ぶのもやめてほしい。



「頭さえ無事ならそれでいい。神の奇跡で喋らせてみせるさ……」


刃は左へズレながら僕の首を切った。熱いものがこぼれていく。首を、傷口を濡らして、カウントダウンが始まる。


「悪魔よ。神の前にひれ伏せ」


「……くふ、…っ、」


「目を逸らすな。悪魔よ。貴様を殺す戦士の目を見ろ…この聖なる加護を受けた勇者と呼ぶに相応しい者の目を!!」



「こんな…とこに……なんで」



「……?な、何を笑っている!」




顔の右半分を地面につけて。家だったものの残骸を見つめていた。ただ汚れただけの家具があったり、粉々に割れた皿があったり…色んなものが見つかる中で。横倒しになって壊れている仏壇…そこに供えられている物…金属製のカード。見覚えのあるカード。




「っ、これでええ!」



「……展、開」













………………………to be continued…→…



僕あた豆知識。

"新人類"を組織化した場合、ヒロシは幹部クラス。

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