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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case19 _ 3人の英雄
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第13話「人間と猫の口喧嘩」








「ダンは大丈夫かな…」



時割れ直後、彼はまたしても大事なことを伝えることができずに倒れた。再構築でも解決できない不治の病を負わされたのは、どう考えても致命的だ。

彼の代行の能力が"次のステージ"には足りないことが確定してしまったことも厳しい。



「ダンの心配は今はいい。キリがないからね。真、君は時割れの経験は?」


「特に…無いけど」


何かあればサラの人格は引っ込んでィァムグゥルの人格が出たまんまになる。"乗っ取り"部分を判定するなら、ィァムグゥルの場合は大成功。協力、共存…それらは明らかだけど


「考えるのに忙しいだろうけど、今はこっちに集中してほしい。被害状況を調べる必要があるからね」


「あ、うん。…被害状況?」


「時割れには種類があるんだよ。一方向に飛ぶ"線型"と広範囲の"波型"……線型の方が影響が大きい。触れたものの時間が激しく変化する。頭だけ老人に変わった20代の若者を?」


「いや…波型は」


「波型は範囲次第なところもあるけど、基本的にその範囲内の時間が進む傾向がある。ダン調べだけど、範囲が広いほど影響は小さくなる。最小の被害が、大阪全域で16分の加速。…といってもこのィァムグゥルには大阪の広さが分からないけれども」


「どうやって計算するのか知らないけど、例えばこの三剣猫だけに絞ったら…分じゃ済まない気がする」


「だから調べる必要があるんだよ」


「調べるって」


「まず範囲内にいる生き物には変化が分からない。だから範囲外の誰かに正しい時間を教えてもらわなければいけない」


「……それ、時間かかりそうだね」


「貴重な情報だからね。こういうチマチマしたものの積み重ねは馬鹿にできない」


「時割れって自然災害じゃないよね。きっと代行が」


「そんなのが実在するならとんでもない迷惑者だけどね。何かの動きを速くしたり遅くしたりなら出来るだろうけど、その何かが街全体ともなるとこのィァムグゥルでも思うよ。やろうとする者の頭がおかしいとね」


「…………」


「次は何の考え事かな」


「話さない選択肢もあるんじゃ」


「せっかく最初から仲良く出来る相手が見つかったんだ。このィァムグゥルとしては君に興味があるんだよ。とてもね」


「とある探偵が事件を解決する小説が頭に浮かんだ。それに、ずっと沈黙を貫いてきた目撃者がやっと探偵に情報を打ち明けようとするシーンがあって」


「うんうん」


「犯人の名を言おうとしたら運悪くその目撃者は…」


「さっきのダンと同じようなことが起きたわけだね。何かを伝えたかったはずなのに」


「そこで僕の中の不安が繋がってくる。……実はゼロと戦った時、僕は橋からゼロを落としたところで…攻撃は止めた。川に落ちたしそのまま戻ってこないといいなって」


「普通なら戻ってこないだろうけどね?ということは」


「ゼロが戻ってきたのをダンが何らかの創造で感知したとか」


「……」



今度は目の前でィァムグゥルが何かを考えはじめた。サラの姿なのに、どこかやっぱりサラではない感じがする。…左手の指が順番にテーブルを軽く叩くのを見るときっと指1本の動かし方から別人なんだろうと、


「っは。言うやんけィァムグゥル」


「オヤブン?」


「時割れのことでダンとィァムグゥルはよく言い争ってたんや。その中でィァムグゥルは時割れが新人類の"兵器"や言うてな。それが今になって証明できるかもしれへんって」


「それまたどうして」


「……あかん、そのまま言うで」



そう言ってオヤブンはィァムグゥルの頭の中をそのまま言葉にした。自分の言葉に直す変換作業はカットしてしまったのでオヤブンらしくない話し方に少し戸惑ったが。



「ということは、やっぱりダンを狙うのは決まってた。新人類ではない代行でもない普通の人間を客として送り込んで前からダンを調べてた。そして旅館のことも分かっているから今日…今に繋がるって?」


「言うてィァムグゥルの考えることやから、ちょいと陰謀論寄りになるんやけどな」


「時割れがコントロール出来るなら、確かにダンにだけ何回かに分けて時割れを…波型を当てて調整することも。特定の部屋を自室として使ってることも知られていただろうし…今旅館の中にいる客の中に新人類の協力者がいるってのも」


「真。お前ィァムグゥルのことめちゃくちゃ信じとるやんけ。100万するなんでもない壺とか買わされても知らんで?」





「真さん」





隣に座ったユキ。…座っただけで何もせず僕を見てくる。



「ど、どうしたの」


「女の勘って信じますか?」


「急になに…まあ女の子に囲まれた生活をしてたし信じないことはないけど」


「…?…いいや、とにかく。言ってもいいですか」


「あ、ユキの…女の勘?」


「はい。言っちゃいます。まず、今の会話ほとんど無意味です。遊ばれてるんですよ」


「遊ばれてる…?」


「ィァムグゥルさん、左手の指がよく動く時は相手を試してる時なんです。本気で言ってる時は眉毛が少し動くんです」


「……」


ユキに言われ、ィァムグゥルを見たら。笑いを堪えていて。


「今回のことについては分かりようがないからね。真剣に考えてみても、答え合わせはできない。答えを知る者がいなくてはね。色々と話して余計なことを考えさせてしまったね。このィァムグゥルとしては、つい面白くなってしまって…」


「真さん」


「あ、はい」


考える暇をくれない。


「女の勘です。……敵が来る気がします」


「…分かった」


「真。今のことで怒らないでほしいな。無駄話なようで無駄なことは何ひとつなかったんだから。時割れの種類なんかは本当のことだし、このィァムグゥルの話したことを君が真剣に聞いてくれることも肯定寄りの考え方をしてくれることも分かった。やっぱり相性がいいんだよ」


「…眉毛」


「これはサラの癖でもある。この子は空腹時に左手で遊ぶんだよ。一方で美味しい物を目の前にすると、眉毛がよく動く」



今更。ここまで色々と考えたことを無かったことにはできない。悩む寸前までいってしまった。それが無意味だと知って、普通ならもっと怒っていいのかもしれないが…イライラすることもない。"もう、やめてよー"くらいだ。


ィァムグゥルは僕の中のアムグーリの部分に干渉しようとしたのだ。半身…自分自身なわけだから、今のやり取りで相性が良いと判断したのならやはりアムグーリは僕の中にいることになる。




「今も。よくないです。そうやって真さんが考えてるのを見てるんですから」


「ところでユキ、話し方なんだけど…さっき仕事モードは」


「ィァムグゥルさんがいるから」


「あー、なるほど」



僕は立ち上がった。少し頭が疲れてる気がする。甘いものを食べたら楽になるかな…



「真?どうしたんだい」


「ユキが言ってたから。敵が来るって。元々ジュリアを探しに行くつもりだったわけだし」


「時割れで時間に変化が起きたことだしね。休憩はもう十分だと」


「ィァムグゥルが話すこと全部真面目に聞いてたら疲れるから、皆あまり仲良くしたがらないんじゃ」


「……そうは言ってもね。このィァムグゥルにも誰と仲良くするか選ぶ権利がある」


「そ、そうだろうけど」



ダンのことがある。ジュリアのことがある。焦るのが普通だ。

なのに僕もィァムグゥルも…









………………………………next…→……








"三剣猫に到着しました"。




「……」



イヤホンをして、横向きのスマホに集中する。

アプリの道案内も終わったことで画面に表示されている動画が邪魔されることもなくなった。


「……」


人気の動画配信者が、自身の知名度を悪用して異性をナンパする……登録者20万人突破を記念した動画はその配信者らしさが一切無いものとなっていた。彼と言えば、捨て犬や捨て猫を探しに行って保護するという企画が通常なのに。


「チッ」


動画も終盤。子猫ちゃんゲット!などとふざけている様子を見てつい舌打ちをして。



「……ん」



橋の上、そこにあるはずのない大きな穴を避ける。スマホに集中していて視界には入っていないはずのそれを、避ける。



「……低評価」



見ていた動画が終わると、苛立ちをぶつけるように評価ボタンを連打し……スマホをしまった。

イヤホンも外し、ようやく"外"の情報が入ってきて。




「なんだここ。こんなとこに代行がいるっての?」



背負っているリュックから創造の書を取り出す。とあるページを開くと、そこには付箋が貼られていて。


「代行は2人。使者は人型と猫が1……」


三剣猫に訪れた目的が記されている。


「雑にやっても勝てたらいいなぁ」


別のページを開くとそこにも付箋が……しかし、


「あ"!」


粘着が弱かったのか、風に飛ばされてしまう。高く舞い上がったそれを……ただ見つめることしかできない。人の手が届く高さではないから。

そしてそのまま風に流されどこかへ行ってしまうのを見届けて。



「あれなんて書いてたんだっけ……マズった。キレられる。ゼロって見た目と真面目さが合ってないんだよなぁ。スルーされると何も効かないし。勝ち方分かんなっ。……」



立ち止まる。ここまで他のことを意識していても何も問題はなかった。小さな段差に足をひっかけることもなかったし、階段も上り下りできたし、信号を渡る時はいつも青だし、自転車が飛び出してきてもぶつからなかった。

でも、今はそうはいかない。



「これが時割れ?初めて生で見た」


目の前には時間に"切断"された1匹の猫が横たわっていた。見れば分かる。下半身部分が老化している。爪や毛が伸びきっていて、変色もしていて。


「うわー、気持ちわりぃ」


呼吸している。弱ってはいるがまだ生きている。


「直撃したら誰でもこんなになるの?こえー…」


嫌がりながら、その猫の近くを観察する。違和感を探し、もし見つかるようなことがあれば


「…………んー、ない。じゃあ通り過ぎても老いることはない。でもこえー。やだ。嘘ついて帰ろっかなぁ。この猫持って帰れば証拠になるしいけるか?」


猫に恐る恐る手を伸ばす……と


「……みゃぁう」


「ひっ、……」


か細い声。それでも可愛らしい声。でも反応して導き出した答えは


「っざけんな!」


((READ))


拒否反応、危険信号、攻撃司令、撃破推奨、手加減不要。




半分パニックに近い状態で創造し、一撃必殺。




猫はもちろんのこと、道路まで粉々になるほどの破壊を行った。

血が広がる……それは当然猫のもので、流出源である潰れてしまった体を見て



「うげえ、」



嫌なものを見た。と舌を出して気持ち悪がる。




そこに。






「今度は間違いないようだね。やはり新人類というのは、猫1匹すら可愛がれない馬鹿の集まりか。人類と自称するくせに…それより。シャミセン、お別れは寂しい。どうか死後の世界では元気でいてほしい」


「お前あんな状態やのによくシャミセンって分かったな。……まあ、その、なんや。…1回たこ焼きの上のかつお節分けてやったこともあったやんな?ソース味の染みたかつお節が美味い言うて。"あっち"行っても美味いもん食えよ。約束やで」


((EXECUTION))





突然現れた代行。創造で攻撃してくるかと思いきや、死んだ猫を光の粒に変えてしまった。そのまま空へと上がっていくのをその場の全員が見届けて……ようやく。




「代行と猫の使者。……見つけた」



「どっちかって言うたらワイらがお前を見つけたんやで?」


「ミハル。これは君の名前だね?」



「え"!?」



「おお、当たりやな」


「さすが真だよ。覗きの指輪を創ったくらいだから自身にもその能力が備わっているわけだね」



「あ!それ!」



現れた代行が手に持っていたのは風で飛ばされた付箋。


「ミハル。年齢は実物と照らし合わせると20歳くらいだね。新人類。もちろん代行で。どうやらゼロに怒鳴られるのを嫌っているようだ」


「うるさい女は誰でも嫌やろ」


「気が強い女性の方が好みだという男性は少なくないらしいけどね」


「ワイには無理やな。甘やかしてもらわんと」




「なな、なんで、なんで俺のこと!」




「残念だけど。この明日の予定は全て無断でキャンセルしてもらうよ。ミハル。君は今日、死ぬ」




「っ、戦って勝てばいいんだ。猫好きの女に負けるわけがないんだから」




「なあ待て。もう戦闘開始みたいな雰囲気になっとるけど、ちょっと待て。1回触れさせろや。おいミハル」




「な、なんだよ喋る猫!」




「お前のその格好、どないなっとんねん。お笑いか!」




「え、え?はぁ?」




黒のスニーカー、チェーン付きの黒のジーンズ、黒のジャケット、中にはショッキングピンクのTシャツ。そして、




「テレビでよう見るやつやん。大阪のおばちゃんやん!もこもこパーマや!」



「ちがっ、違う!これはアフロ!ソウルフルでファンキーな、アフロ!」



「アフロ?なんやそれ。ィァムグゥル、」


「いや。残念だけどこのィァムグゥルにも分からない」


「おい、アフロってなんや!」



「そこから!?せ、世間知らず!!」



「世間知らずでもかまへん。学べばそうじゃなくなるからな。でもお前のファッションセンスは壊滅的やろ。もう救われへんやんけ!」



「はぁあああ"!?」



黒猫のちょっかいから始まる、幼稚な口喧嘩。



「なんだこの、バーカ!!」



「お前まっすぐ立ってみい!?マイクやん!マイク!人間マイクやん!この辺にお前の就職先はないで!カラオケがあんのは1駅隣や!ついでに残量もピンクやから早めに充電しなあかんで!」



「うっせえ!不吉な黒猫!生まれてからずっと不吉扱いー!不吉猫ー!不吉通り越して不潔ー!」



「アホか!こっちは毎日色んな可愛い女の子達に全身優しく洗ってもらっとんねん。風呂も150数えるまで出えへんしな!お前こそ、その頭!風呂入ってへんからボサボサ極めてそんなんなったんと違うんか!?」



「は、はあ!?……は、……」



「どうした?言い返されへんのか?……ははぁん、さてはお前。ワイがモテモテなのが羨ましいんやろ」



「メス猫にモテても全部見た目同じじゃ、……く」



「残念やったなぁ!?ワイが言うとんのは人間の女の子やで?しかもみーーーんな若くて可愛いんや。お胸に飛び込んでも笑って受け止めてくれるんや」



「ぐぐ……それは、お前が、ね、猫だから、動物だから」



「オヤブン。なぜ彼はあんなに悔しそうにしているのかな」


「そんなもんお前決まっとるやん。あいつは年齢イコール彼女いない歴なんや。生まれてから今まで1度たりともモテたことがあらへん。手も繋いだこと」



「あ、あるよ!それくらい!キャンプ場で、それも何人も!」



「それ学校の行事か何かやろ」



「うぐっ」



「あーあ、猫に負けてもうてるやん」



「負け…てねえ!」



「泣きそうになってるで。ハンカチ貸したろか?」



「要らねえ!…か、彼女だって、いるし!?わざわざ初対面の相手に言わないしそんなこと!俺彼女いるんすよとかそんな得意げに言うことじゃないし、聞かれたら言うかなくらいで、お、お、お前がからかってきてそれにわざと乗っただけだし、」



「効果抜群やな」


「人間らしくて面白いと思えてきたよ」


「もうちょい遊ぶか?自滅寸前やで」


「それもそれで気になるね」



「って聞けよ!!!」



「おお。悪かったなあ。ついつい、童貞っておもろいなぁって話になってもうたんや」



「どどどどどどど、童貞じゃねえ!!!」



「もうわざとやん。その反応」



「ち、ちげぇよ!なんなら中学生の時にはもうちげぇよ!?」



「それ自慢ちゃうしな。下手すりゃ犯罪やで君」



「う、うっせえ!もう怒った。特にそこの猫!お前!"叩き潰して"やるからな!!」



「すまんなあ。童貞に叩かれても痛くも痒くもならへんねん」



「だから!俺は!どど、どどど、」



「今や」


「分かったよ」



((EXECUTION))



オヤブンの言葉に激しく動揺するミハル。彼の精神が大きく揺さぶられた隙をついて、ィァムグゥルは攻撃を仕掛けた。当たればィァムグゥルお得意の生命枯らしによりすぐに体内の水分が無くなってミイラ化する……




「……」




「おや」


「なんや。当たったんやろ?効いてへんのか」


「いや、多分…避けられたね」




「レッツ、ファンキー…!」











………………………to be continued…→…



でも今童貞弄りで笑い取ろうとしたらセクハラになるんでしょうね…。今回はあくまでもお話の中の出来事なので、良い子の皆さんは真似しないように……ね。

あ。でも…さ、作者は違うからね!?ミハルと一緒にしないでよね!?

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