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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case19 _ 3人の英雄
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第7話「スルー」







旅館前。





「ひどいな。折角日本でも流行らせようと思ったのに。体の中から出てきちまってる」



やりたい放題荒らされたあとのトラックを調べる。



「ピラコC31だったか。創造したのはこっちなのに、なんで旧人類が名前付けてんだ」



ピラコC31。創造された寄生生物型兵器の名。これを創造するに至ったのは、代行の彼に届いた"依頼"のせい。


「裕福な人間が、ゴルフ場やカジノを作るのに邪魔な人間達を殺すための道具」


例えば、まだ自然の残っている広大な土地にゴルフ場を作りたいとして。そこには村などがあったり、別荘があったりする。暮らしている人間達がいるのだ。金を渡すなどして素直にいなくなってくれればまだいいが、頑固に住み続けようとするのもいる。そこに暮らしていなくても、自然を守るためとうるさい連中も出てくる。そんなのと言い争い、弁護士を雇い…これでは時間と手間と金ばかりが要求され進展は期待できない。だから、このピラコC31が必要になった。ただの毒物とは違う、出処不明の生物が。


「仲直りのマフィンを贈って、食ったら最後」


ピラコC31は最初は数ミリ程度の大きさで体も柔らかい。人間が口に含んだとして、他の食べ物と一緒なら咀嚼しても異物感はない。そうして体内に入った後は、胃の中にあるものを栄養として急激に成長する。細く長い腕は体外に排出されるのを防ぐためにあり、中心部の胴体には宿主の体内に居座るため引っかかりのある柔らかい毛が生える。


「こいつは血が大嫌いだから、」


成長が完了するとピラコC31は自身が暮らしやすい環境を求める。そのためにはまず、血が邪魔になる。宿主の血を取り除くために


「洗脳。自傷行為。または」


体の一部を痛みもなく傷つけ、血を出すための穴を開ける。胴体部分に口がついているのはそのため。


「まあ入ってるってバレたらそんなもんだし、これ使い方間違ってるし」


ピラコC31は成長してしまったら体内に入れるのは難しい。誰だってこんなのを口にしようとは思わないからだ。


「生き物には入れるなって言ったのに…」


大きくなってしまったら、残るは水中からの侵入のみとなる。風呂やプールなどを利用すればまだ活躍の場はあるのだが


「キィッ」


「はいはい」


「キィ」「キィ、」


「お前たちはもうどうしようもない。せめて"親"の俺が殺してやらないと」



ピラコC31は熱にも強い。胃液などにも耐える。しかし殺し方はとても簡単で、胴体部分を圧迫して潰してやるだけでいい。ふにふにと柔らかい感触のせいで手応えはないが、その証拠に腕の動きがゆっくりになりすぐに動かなくなる。



「なんだよ後始末で忙しい時に。もしもし」


そして彼にまた依頼が届く。


「ちょっと今手が離せない。…いいぞ話せ」


かかってきた電話に面倒くさそうに出て、スピーカーに切り替える。



「儂だ」


「はいはい。べダス、何の用だ」「キィ」


「東京に三剣猫という場所がある」


「それで?」


「そこに儂の大切な友人が向かった。アバルバ。お前に護衛を頼みたい」


「護衛だと?」


「ゼロは十分に強い。だが、儂らの仲間ではない代行の中には反抗勢力もいると聞く。万が一に備えたい」


「俺は、戦うのが、得意じゃなくてね」


「今は何をしている」


「何って、仕事だよ。後片付け」


「…金なら出す」


「へえ。なら日本の金で2000万」


「いいだろう。すぐに行け。戦闘していなければ遠くから見守るだけでいい。接触は控えろ」


「まいどあり…」



電話を切ったアバルバは、ピラコC31を全滅させた。そして倒れている男のズボンのポケットに差し込まれていた水のペットボトルを奪い、その水で手を洗う。



「まあいいか。これもビジネスだ」



そして歩き出した。

向かう先は、騒がしい方。見えたり聞こえたりするわけではないが、アバルバには分かる。



「もう戦ってるな」











………………………………next…→……









「スルー」







「…は?死んでない」


今僕は確かに…もう一度。


「っ!」


((EXECUTION))




ゼロを狙って。首がへし折れる姿を重ねて見る。



なのに。




「お前マジでヤバいね…この車気に入ってたんですけど」



彼女は立ち上がった。体は見えているが、少し曖昧…自分の視覚が信じられないわけではないが


「透き通ってるのか。スルーって聞こえたけどもしかして、」




「ウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバい」



「なんだ、ブツブツと…呪文を唱えているのか」


「ご主人様。指示を」


「処刑モードだ。すぐに」


「はい!」




僕の後ろでジュリアが準備している。でも無駄だ。僕の攻撃が通らないなら、意味がない。接近すればまたやられるだけだ。


「気にするべきは」


今こうしている間にもゼロはウザいヤバいと繰り返している。ダンは呪文と言ったが、彼女はそういう類ではない。

異能力バトル的な考え方をするならあれは発動条件を満たすのに必要な言動。あれを終えたら強化される、または攻撃が発動する。


「…怪力はそこから来てるのか?」


ゼロは棒立ちかと思えば、左手の小指と薬指を動かしている……気がする。もし、あれが数を数えるために無意識でやっているのだとしたら。


「言った分だけ強くなる。なんてことなら大変なことに」




「処刑モード、準備完了。7秒後に対象を攻撃します」



「ダン、ストップ!」


「…、ジュリア!」


「攻撃準備、解除しました」


「突っ込んじゃだめ。捕まったら即死する」


「なに?」


「予想でしかないけどね…ジュリアはダンを抱えて逃げた方がいい」


「しかし、柊木様…」







「ウザいヤバいウザいヤバいウザいヤバい…ウザい…ウザいヤバい…ウチは、最強に、ヤバい」






「来る」



言い終えたと判断した瞬間、気のせいとも思えるような小さな風の流れの変化を感じた。それがそのままゼロの接近だと察して僕は右に向かって飛んだ。



「へえ!?」



直後、僕が立っていた場所の路面が破壊される。前のめりな体勢のゼロは…僕を見ていた。


「片足の踏み込みだけで…あれなら橋だって簡単に壊れるっ、」


転がるように着地しすぐに立ち上がり身構える…が、ゼロは追撃してこなかった。



「やるじゃん」


((EXECUTION))



強者の余裕をアピールしてきたので、創造で返事した。でも、



「スルー」


「…やっぱり」



簡単だ。攻撃したと分かれば"スルー"とやらで回避される。手を向けてはいけないし、EXECUTIONと口に出すことも…


「どうしろと。目で殺すなんてことが出来なきゃ」



「……あれ?お兄さんどこかで見たことある?」


ゼロに気づかれたらしい。


「だったら?」


「別に。ただ、」


また来る。それが分かったから、今度は左へ飛んだ。


((EXECUTION))


僕が立っていた場所に右手を向け、攻撃をしながら。


「外れた…!?」



違う。そこに立っていないから外れたと考えるのは浅い。"飛ばした"んだ。怪力過ぎて空気を殴ったらそのまま空気砲みたいになって、衝撃波が飛んでいく…


「ウチさあ?」


「っ!!」


1秒も止まっていない。すぐにゼロが僕に接近してきたのは、そうか。今の衝撃波を打ったのとほぼ同時に僕が飛んだ方へまた踏み込んで来たのか。


「久しぶりに面白そうな代行と会えたかも」


服を掴まれた。このまま振り回されるのは遠慮したいが、抜け出す方法が


「はっ!!」


「ん?」


そこにジュリアが割り込む。

右の拳がゼロの右頬にぐっと押し込まれていて、本来ならそのまま打ち抜いて殴り飛ばすはずだったのだろうと思う…でも。ゼロは痛がらない。顔も変形することなく、目だけでジュリアを威圧する。


「っ…」


「それ本気でやってんの?全然痛くないんですけど」


「EXECUTION」


「スルー」



隙をついて、言った。言っただけだ。攻撃には相当敏感らしく、すぐに回避行動へ移ったゼロは僕達から離れた。



「柊木様」


「チャンスを作れれば問題ない」



一応、強くゼロを睨みつけてみたりもしている。EXECUTIONと口に出さず、手も向けず、ただ見るだけで殺すことが出来たならと思って。

もちろん何も起きないが。




「お兄さんさあ、それしかできないわけ?」


「接近戦はだめ。遠距離で、しかも攻撃だと分からないように攻撃しないといけない」


「無視してんの?ウケる!」


「…毎回スルーって言わなきゃならないってことは、そっちだって軽い気持ちで突っ込んでこれないよね」


「殴りあってみれば分かるんじゃね?お兄さんがこっち来ればいいじゃん」


スルーには効果時間があるのかもしれない。ゼロの加減次第で効果時間が増減することも頭に入れつつ、次の一手を考える。


……ジュリア。彼女が鍵だ。




「またこっちから行こうか?」


「ダン達は無視か」


「弱いって知ってるし!!」



((EXECUTION))



攻撃したいならスルーは使えない。どうする。僕が前もって言った場合は。



「っ、こっち」


正面衝突を避けて左へ回り込んできた。でも僕は左手のひらを外側に向けていた。右手もだ。横から来ると、敵のことを信じていた。


「死ね」


「やっば!!」


ズン、と速くて強い衝撃。1度の大きな揺れが橋全体を襲うから僕も立っていられずよろけてしまった。


「あぶな!やられそうだったんですけど!」


…彼女がやったのか。狙いがブレるように、揺らして攻撃を妨害してきたと。



だけど。



「……ふぅ、ふぅ、」



「息が乱れてるみたいだけど」



左腕は殺した。肘から先を失っている。血がポタポタと垂れていて切断面がなかなかにグロい。



「ひどくない?」


「わ、」



今になって攻撃したリムジンが大爆発を起こした。軽く驚いたがゼロから目を離すことはしなかった。



「酷いで済むんだ?」


「お兄さん殺して早く帰ればこんくらい治せるし」


「オラワルドに帰るの?」


「仲間になりたくても無理だよ?ウチも決める権利あるから」


「別になりたいとは思わない。ただ、全員殺したいだけ」


「余計無理なんですけど!超マジウケる!お兄さんじゃべダスには勝てないから!」


「どうかな」


「ウチにも勝てないっしょ」


左腕を失っても全然元気そうなのが腹立たしい。まだまだ戦えるといった様子で、



「ウチ、超強いからね」


「ならその超強いやつの生首を持ってべダスに会いに行こうか」


「お兄さんマジでぶっ殺すから」


「負けないよ。君みたいな代行には」



……ダメだ。何度やっても、目で殺すなんてのは出来そうにない。














………………………to be continued…→…


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