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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case19 _ 3人の英雄
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第2話「マタロー」








「…っ?…うそ……ぐ、偶然」





旅行代理店を出て曲り宿駅からどこかへ。そう思っていたが、普段は全く気にしない店が今は貴重で貴重で……


駅の向かいの大きな建物…の隣。周囲の流行りの店に押し潰されそうになりながらも確かに存在する小さなお店。


「浦島釣具店」


まさか"偽太郎"の使者で少しだけ見てみたいと思っていた名前が出てくるとは。


「聞いてみる価値はある」


早速行くことにした。

店に着くまでの数分間、適当に駅前の雰囲気を見て曲り宿と名付けた理由を探してみるが何にもそれっぽいものが無い。宿と呼べるものも無い。


「曲り……」


特に意味がないとしたら時間の無駄使いとしてはなかなかレベルが高い。



浦島釣具店。

店の前にはセール品として小物が陳列されている。価格は100〜400円がほとんどだけど、ホコリや傷が目立つような…あれ?そう考えると高くないか。



「いらっしゃいませぇ、」



男性の声。正面奥にレジがあって、そこに声の主が座っている。入ってすぐ左に広めのスペースがあって、釣り竿がたくさん並んでいる。

正直釣りのことは全然分からないので、ここは余計な回り道はせず直接。


「あの。ちょっとお聞きしたいことがあって」


「おう、若い人だね。釣りは初めて?」


「そうです…ね。あの」


「初心者向けのセットがあるよ、あれとか」


「え"」



店主の視線の先へ振り向くと、"上級者向け"と書かれた札が見えた。



「こういう趣味は良い道具を持ってると全然違うんだよ」


「そうなんだ…へ、へぇ…」



相場は知らない。でも何かのパーツ1つで数万円って。無理無理無理。



「どれにする?」


「待ってください。お聞きしたいことがあるんです」


「大丈夫だよ。使い方は教えるし、やってみりゃあすぐ分かる。あんた若いし」



なんというか。強引。全然話を聞いてくれそうにない。



「オラワ「そこのなんて1番いいやつだよ。釣り場持ってったらもう人気者」


「……」


「隣の42万のやつも良いけど、」


「話を聞く気ありますか」


「ん?聞いてるじゃねえかよ」


「全然です。…僕は"新人類"です」


「…」


少しだけイラッとしたので、試しに正体を明かしてみた。新人類と告げた途端、店主の顔色が悪くなる。何か被害にあったことがあるような…思い出してる。青ざめてる。


「質問させてもらっても?」


「…こ、ころさないでくれ」


「オラワルドはご存知ですか」


「…あ、あぁ!!」


「そこに行ける船に乗りたいんです。出来れば漁師の船なんかが良くて」


「ふ、ふ、ふね」


「そうです。乗せてくれる人を知りませんか。そういう人がいそうな港とか」


「わわ、分かる、わかるよ」


「教えてください」


「ああ、わ、わ、かっ、」



パニックになってる。ペン立てからボールペンを取るのも大変そうで、抜き取ったと同時にペン立てが僕の方へ倒れた。中に入ってたのが床に散らばって



「すいません!すいません!」


「拾わなくていいから続けて」


「はい!」


酷い目にあわせるつもりはないが、時には軽く脅すのもアリかもしれない。素直に従ってくれるのを見るとイライラも解消される。


「漁師だったら、このトモヤスがいい。船をいくつも持っているし組合の会長になる話も出てる」


「オラワルドにも行ける?」


「し、新人類の人に貸しが作れるってんなら多分」


「……」


四原津町。同名の港があって、漁師のトモヤスという人はここに行けば見つかる。


「どうも」


「…お、おいあんた」


「…なにか?」


「新人類ってのは、本当に人間を皆殺しにする気なのか…」


「それって。あなたの奥さんのように?」


「っ!?……」


「そうやって怯えて大人しくしていた方がいいですよ。外出を減らすのはもちろん、東京から離れて田舎暮らしするのもおすすめです」


「……」




わざと怖がらせるのはきっと本来なら罪悪感いっぱいで後悔するんだろうなと思う。でも、今回はスッキリが勝った。

あのまま無理やり釣り道具を買わされていたら…その時は本当に手が出ていたかもしれない。…この人と僕は相性が悪かった、ただそれだけだ。











………………………………next…→……










四原津町。

ここにたどり着くために、電車やバスを乗り継いできた。片道1600円近くかかって…


「無駄使いはできない」


財布にはあと4万円と小銭。基本は野宿になりそうだ。


「多めに持ってきて盗まれたり戦闘でダメになったりしたらと思うと」


それでも4万円なんて僕からしたら大金だ。正直今もちょっとソワソワしている。



ぐぅぅぅ…


腹の音。起きてからまだ食べていないし、そろそろ芽衣が用意してくれた弁当でも食べよう。


「お腹すいた…」







港町ということもあって海が近いし、海が見える良さそうな場所を求めて歩くことに。


「海…」


別に思い出があるわけではない。ただ、柊木家としては関係がある。広い広い海のどこかへ災厄を探しに行って、帰って来なかった先祖がいる。…達か。きっと海へ出たのは初代だけではないだろうから。


「…お、まさにぴったりなテーブルと椅子が」


たまに公園で見かける木製のテーブルと長椅子。ママさん集団が子供達と仲良くランチをするのによく使ってるイメージだ。時には荷物置き場にもなったり。


「ふぅ」


電車やバスで座るのとは違う。休んでるという感覚。空を見上げればまあまあ晴れた綺麗な空。遠くを見れば雲が集まっていて、同じ空でも"人によって"見せる顔が違うんだなと…


「何言ってんだろ」


ビニール袋を下に敷いて、手作り弁当を展開する。温かいということはないが、冷たくもなっていない。


「ジョーカー・グローブ持ってたら温められたかも、なんて」


付属のスプーンとフォークが合体したやつを手に取る。これ、ちゃんとした名前があるんだろうけど聞いたことがない。


「……いただきます」



弁当を食べる機会は少ない。でも学校の行事で何度か弁当を作ったり、学校側が発注したものを食べたりしたことがある。…そういう時、なぜかいつも脇役の野菜を最初のひと口に選んでしまう。


今回もそうだ。ついついブロッコリーを


「おいしい…マヨネーズかな」


ブロッコリーとカリフラワーの共演。細かくなったゆで卵と小エビ…マヨネーズでまとまっていて。

…そういえば芽衣はお店の惣菜を再現することもやっていた。見たことがある気がしたのはそのせいか。


「……」


黙って咀嚼を続けながら、何気なく弁当箱のデザインを気にしてみる。

蓋は主に赤白黄の3色が使われていて、右端にキリン…左側にペンギンの群れ…真ん中にネコやクマ…選出理由が謎な半動物園状態。まあ、アニメのキャラクターが全面にデザインされたものに比べると無難感はある。


「小6の時、幼児向けのキャラクターの弁当箱使ってる子がからかわれてブチ切れたことがあったのを思いだした」


小学生といえば遠足。ビニールシートを敷いてお弁当。ピクニック。

今の自分を重ねて外で食べるのも悪くないなと。


「帰ったら皆でピクニックしよう」


オムライスに手を出す。中はしっかりチキンライスになっていた。


「しかもこれあれだ。芽衣の欲張りバージョンのやつだ」


皮付きの照り焼きチキンを使ったチキンライス。香ばしさとケチャップの旨味に切り込んでくる照り焼きソースの攻撃力の高さが、食欲を加速させる。喧嘩しそうでしないのは芽衣が調整を繰り返してたどり着いた絶妙なバランスのおかげ。照り焼きチキンだけを食べると、ほんの少しだけ味が控えめなのだ。でも他と一緒だとちゃんと存在を主張してくる。不思議だ。


「芽衣も使者だから、そのうち人間じゃ真似出来ない料理を作るようになったりして」


同じレシピで全く同じものを作ったはずなのに別の料理が出来ちゃう…みたいな。


「全部おいしい。…」



「にゃおうー」



食べ物の匂いを嗅ぎつけたのか、三毛猫が近寄ってきた。首輪はない。野良だろうか。


「漁師から魚をもらってる系か」


「にゃおー」


「ごめんね。人間向けの味付けだからあげられないよ」


「にゃーお」


「あげられ…」


ソープみたい。靴に頭を擦り付けて甘えてくるのを止められない。


「困ったな」


これは浮気じゃないよ、ソープ。



「もっとゆっくり味わいたいけど、少し急いで食べよう」


「にゃーお、にゃーお」


「……」



最後の方はお茶で流し込むくらいの勢いで。



「ふ…ごちそうさまでした」



米粒すら残さず完食。正直油汚れとか気になるしすぐに洗っておきたい。…まだ家にいる気分が抜けてない。




「マタロー、マタローどこだー」



「ん?」


「にゃーおう」


「君がマタロー?」



こちらの方へ歩いてくる大柄な男性。言い方を変えると"海の男"。黒くやけた肌、筋肉質。顔つきも都会で暮らす人とはどこか違う。頼れる男という感じがする…顔のシワひとつにすら男気を感じる。



「あの!マタローってこの子ですか」


「あー!マタロー!すいませんね、うちの子が」


「いえ。いい子でしたよ。何もあげなくても怒らずに甘えてくれて」


「マタローは甘えん坊で…よしよし、マタロー」


ギャップ萌えというのは分からないが、猫に甘々な姿がちょっと面白い。マタローを抱き上げて機嫌が良さそうな彼に聞いてみよう。



「あの。この辺にトモヤスさんっていう漁師の人は」


「ん?俺っちがトモヤスだけど」


「え。本当ですか!」



白のジャージ姿の彼…トモヤスさんは僕と向かい合うように椅子に座った。膝の上にマタローを乗せて撫でながら



「俺っちを探してた?でも見ない顔だね。どうかしたの?」


「その、実は頼み事があって……」




釣具店の店主とは違ってよく話を聞いてくれる。本来の目的は伏せて、どうしても観光がしたいと伝える。新人類というカードはまだ使わない。



「オラワルドねぇ…。あの辺の海は今マグロとかも釣れるから、実はよく行くっちゃ行くけど」


「…渋い顔しますね。やっぱり乗せてくのは厳しいですか?」


「この2、3日かな。でっっっっっっっっっかいクラゲがうようよしてて」


「え、でかいクラゲ」


「でっっっっっっっっっかいの!」


溜める必要があるのか。でも、そんな表現が求められるほどなのかも。


「あ、リョーマン」


「へ?漁?そのでっっっっっっっっっかいクラゲが出てくるようになって皆休んでるよ。すごいんだよ?船にくっついてきて、波で揺れてるうちに船の上に…それでびろーんって」


漁ではなくリョーマンだ。言っていた。確か海にはクラゲを放ったと。


「トモヤスさん。死人は出ましたか」


「死人?…ぁー、実はね。結構いる」


「結構?」


「知ってる漁師さんだけでも7人。今入院中のモリさんなんて、クラゲが左腕に絡んできたみたいで」


世界一酸っぱいものを食べたみたいな顔をしている。


「皮が剥がれたんだって。全然治らなくて、お医者さんでも何でか分かんないって」


「そうですか…」



新人類だと明かして、絶対に守るからと説得してみるか。いや、明かした途端に態度が変わるかも。今は優しいし、どうにか手を探らないと。



「オラワルドってそんなにいいとこなの?俺っち行ったことはないけど、寒いだけじゃないの?」


「オーロラが見られるんです。あ、これ」


パンフレットを差し出す。興味を示してくれて、頷きながら眺めている。


「テレビでもオーロラは見られますけど、やっぱり自分の目で直接見れたらその方が絶対いいじゃないですか。とっても綺麗なんだろうなって」


「釣りもやってんの…ふーん…すごいねこのツアーね」


「ですよね」


「……ごめんね、お兄さんの気持ちは分かるけど俺っちはちょっと怖いかな。来月結婚するもんで、奥さんに心配かけらんないのよ」


「あ。…おめでとうございます」


「俺っちには勿体ないくらい美人でね。ヤスくんなんて呼んでくれて。マタローも気に入ってるし」


「にゃおー」


「…」


残念。でも、他を


「ただね」


「え?」


「あんまり大きい声で言えないけど、1人だけ連れてってくれそうな人は知ってるよ」


「そ、そうなんですか?」


「なんていうか…あまり人と仲良くしない人なんだ。それでもいいなら」


「お願いします」


「分かった。じゃあ一緒に行こうか」


「っ、ありがとうございます!」


「にゃおん」



マタローのおかげだ。さらに言えば、猫にも分かるくらい美味しい弁当を作ってくれた芽衣のおかげでもある。



……助かった。















………………………to be continued…→…


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