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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case18 _ 柊木家の代行達
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第17話「奪う民を笑う悪魔」






「うう〜…寒い」


「ニャ」


「ソープちゃんは上に行ってていいんですよ?下の方が冷えますから」


「……ゴロロロ」


「ありがとうございます…」




早朝。彼女の膝にはソープが陣取り、互いの体温を共有する。ひざ掛けのような役割を果たすソープを左手で撫でながら、右手は机の上……ノートの上でペンを走らせるのに酷使する。

いつもの勉強とは違い、自分のためではなく自分達のために。特に、戦うことを決めた彼のために。聞いたこと、見たこと、調べたこと、新たに分かったことを書きまとめて…



「EXECUTION…と」



まずは柊木 真の新たな力について、追記していく。彼が言うには塩のようなものを摂取してから劇的に変わったらしい。柊木家が隠している秘密のおかげもあり、基礎能力とテクニックが揃った真はEXECUTIONというREADの上位の創造が出来るようになった。まだ扱いが完全ではないためいくらか反動が体に出てしまうようだが、使い始めてすぐに2人の代行を撃破し創造の書も2冊増やすことができた。



「記憶を拾い集めることで明らかになる柊木家の代行達の歴史…」



内容によっては詳しく書かない。これは真との取り決めで、万が一部外者に見られた時を考えてのこと。


…言ってみれば今の真は不安定。しかし、不安定だから本来受け入れられないことも


「使者に戦ってもらっていたのが、自分だけで戦えるように。武器等を創造して戦っていたのが、創造そのものを攻撃に使うように」


信じられる。幻聴、幻視、すぐにでも病院に行くことを勧められるような現象は今の不安定な彼に新たな要素を加え続け、やがて全く別の新たな代行の姿へと押し上げるだろう。


「その時は、戦って取り戻す…のかな」


自分達の存在は特殊だと明里は理解している。人は誰しも生まれた意味や存在理由を考えたり求めたりするものだが、自分達はそれが明確。"真のそばにいてあげる"…ただそれだけのためにいる。自分勝手すぎる。誰かの寂しさを埋めるためだけの存在。しかし、それを明里も芽衣も、知花も、悪く思わない。むしろ喜んで受け入れている。


「ソープちゃんも?」


「ニャー」


真が愛しの彼女を取り戻した時。その時、自分達は不要になるのだろうか。再び架空の存在に戻ってしまうのか。漫画や小説の中で、作者が決めた人生を歩むことに


「……」


ネットで拾い集めたベダスの情報を書いている途中でペンが止まった。


真からちゃんと聞かされていない、使者の最期。寿命はあるのか。もし"殺される"以外に死ぬ要素がないのだとしたら、不死の体を手に入れて生まれたことになるが。

死がもし創造した本人によってもたらされたなら、少しはマシな死に方だろうか。


「私が考えるのも違うかもしれないけど」


明里は自分の最期を提案した。真の願いと引き換えに、自分を敵に差し出すという創造…トレードの"等価交換"条件を聞いた真は激怒してとんでもない力を一瞬だけ引き出したが…


「考えることが混ざりあって変な感じ。…書こう」


頭の中は散らかっていくばかり。あれこれ考えるより手を動かすことを選び、再びペンを走らせる。


「ベダスは新人類だと認めた。それは代行だということ。天候操作についても発言しているから、雪を降らせたりもできる。……最近雪が降った日、急に寒くなった日…そういうのは全部ベダスのせい。…オラワルドは氷の国って言われたりもしてるから、もしかしたら国も丸ごと作ってたり…」


出来るだろうと想像を積み上げていくと、ベダスという代行の能力の高さの予想が難しくなる。

地球全体を冷やして氷河期を到来させることもできる…、ここまで考えてしまうと"最強"の2文字が浮かぶ。


「でもそんなに間違いじゃない。現に、ベダスは冬を押し付けることができるから。きっと日本の四季も崩れる。…気に入らない国には冷気を。国によっては大変」


「ニャ」


「……」



明里はペンを置いた。頭の中が忙しすぎる。勉強する時と違って考えることが多すぎる。ご飯を食べながら髪を洗いながら掃除機を操作しながらと何もかもを同時進行するような、混乱。

混乱。明里は混乱している。きっとそれは、真が普段考えていることを全て引き受けることにしたから。複雑化して、渋滞して、簡単なことも難しく考えて、余計な心配事を増やして、パンクする。



「……」



頭上…2階が騒がしい。皆が起きたらしい。息を整えて別のノートを取り出し、ペンを取る。書き始めたのは


「書き順だけ気をつけて、と」


漢字。小学生がやるような、ひたすら同じ漢字を繰り返し書いて覚える勉強法。これなら考えることをしなくていい。




「寒い寒い寒い寒い寒い!わー!」




階段を駆け下りてくる知花。寝起きから元気が限界突破していて、明里の後ろを抜けてドアの前へ行くと




「ふんぐぅ〜…!!あ、開かないっ!」



「雪が積もってるからじゃないですか?」


「外に出たいのに…!」


「何か用があ「飛び込みたい!」



つまり、遊びたい。

実は似たようなやり取りを経験済み。その時は説得して解決したが。



「雪にシロップかけて天然かき氷じゃなくて、今度は何ですか?」


「泳ぎたいんですっ!!きっとふわふわひんやりで気持ちいいはずです…!」



わざわざ見なくても分かる。知花はドアの前で泳ぎの真似をしているのだと。上半身だけクロールの体勢で1階を歩き回るつもりだろう。


「平泳ぎですけどね!」


「……」


「明里ちゃん。真さん、大丈夫ですか?」


「え?」


知花の緩急についていける人間はまずいない。ふざけていたかと思えば、突然真面目な話をしてくる。


「覗きの指輪っていう創造物を使った時と同じことが日常で起きてるって言うんです。こうやってお話してる途中でにゅーん…て」


「なんですかその効果音」


「声だけ聞こえたり、映像付きだったり。昔の出来事が頭に流れ込んでくるって。怖くないですか?」


「でも真くんには必要なことだと思います。全部見終えたら、もしかしたらですけど」


「…もしかしたら?」


「柊木家…歴代最強の代行に」


「男の子が喜びそう…!」


知花は明里の漢字ノートを覗き込む。


「柊木家の代行。何回もこれ書いてるんですか…!?」


「あ、いや、その」


「明里ちゃん」


目線はノートから明里へ。心配そうに見つめられ言い訳を探す明里だが


「習字とか得意ですか?」


「はい?」


「柊木家の代行って、習字の課題にありそうな文字感ですよね!希望の朝、未来の光、柊木家の代行」


「……だめですよ。墨汁で部屋が汚れる未来が見えます」


「はっ」


「それに、真くんの習字セットを探し出しても筆がカチカチになってると思います」


「ぎくぎくぅ!!」


「本当にやるつもりだったんですか?」


「……」


「…どうぞ。筆ペンです」


「え、筆ペン…?」


「それでスケッチブックに好きに書いてみては」


目を輝かせる知花。すぐに2人は静かになり、字を書く音だけが聞こえる。



「しっぽ切りのレヴィウド」



知花に聞こえないくらい小さな声で…ぼそっと、明里は呟いた。












………………………………next…→……










……それと、同じ頃。







「うぅ、ぐ、クソ!」



右の手の甲で額の汗を拭う。耐え難い苦痛をどうにか根性で乗り切って、テーブルの上に用意した錠剤2つと水を飲む。




男の名はアバルバ。


子供の頃、家族を失った時から歳を数えるのはやめてしまった。

治安が悪い、貧困…その他いろいろ。悪環境に恵まれてしまったアバルバは生まれて間もなく父親を失った。低品質な"薬"を売買していた父親は、金目当ての若者達に殺されてしまった。

1人でも頑張って育ててくれた母親は、彼が7歳の時に"食用"として狩られた。悲しいことに、彼はこの日の記憶を忘れることができない。今でも昨日の出来事のように鮮明で。



「んふ、……」



忘れはしない。

ボロ家の薄いドアを蹴破って入ってきた大人の男達。手にはナイフ、割れたビン、死んだ犬…などなど。男達はアバルバを無視して母親に暴力を。力で黙らせ、従わせ、服を脱がせ、散々遊んで、それから殺した。ナイフで喉を一突き。頭頂部には割れたビンを。明後日の方を見たまま絶命した母親はその場で解体された。余った頭と肉の切れ端と死んだ犬を残して去っていった。おそらく飢えた犬が人間を襲って喰い殺したが結局餓死したという状況を作ったのだろうと、大人になった今なら考えられる。


怖くて怖くて、やっとの思いで家を出たのは数時間後。店の形をしていない近所の屋台で、見慣れた手足がこんがり焼かれているのを見た時は思わず小便を漏らしてしまった。


アバルバは走った。どんなに汚れても、どんなに空腹でも、走った。貧困街を離れ、知らない村を抜けて、人の気配がない自然の中で…限界を迎えて。


その時だった。

人々に"魔女"と恐れられる老婆…ルヌシュカに拾われたのは。


彼女の家はアバルバが暮らしていたのと変わらないボロ家で、まともな家具は捨てられていた綿のないソファーのみ。大きさの違う鍋がいくつもあって、部屋の隅には小瓶がズラりと並んでいて、その中には赤、茶、緑、黒…様々な色の粉末が入っていて。


腹を満たすのには、緑と茶の粉を泥水で煮込んだものを。

怪我を治すのには、赤と緑の粉を唾で固めたものを。


普通なら体が受け付けないものをアバルバはありがたく受け入れた。


魔女の子供と言われるようになるのに時間はかからなかった。



「……もしもし、今は無理だ。後でかけ直す」



しばらくして、近くの村にボランティア活動をしているという人間達が訪れた。様々な国で似たような貧困層を助けているという。食べ物、水、服、靴…誰もが欲してやまないものを無償で配り、病気の者がいればちゃんとした薬を使って治療もしてくれる。

アバルバは村人に紛れてその恩恵を味わった。"普通"の人間が食べるという食べ物はあまりにも美味しい。美味すぎる。水も透き通っている。信じられない。必死に飲み食いする彼に気がついたのはジャポヌスとかいう国から来たという若い男。歳は19で、村の女達に人気で。

彼はアバルバが病気だと言った。体の一部が壊死していると。意味は分からなかったが、足の指が数本動かせないのは事実だった。優しく話しかける彼はアバルバに家まで案内させた。


……魔女の家に。


中を見た男は絶句。人間が暮らせる環境ではないと言い、鍋を蹴飛ばし並んでいる小瓶を調べた。中の粉の匂いを嗅いで咳き込み、小指をつけて舐めてみたり…渋い顔をして、ここを出ようと言った。

ずっと隠れていた魔女に気づかずに。



「……もしもし、俺だよ。約束の時間を変更したい。今は静岡にいる。ああ、ここはベダスの影響を受けていない。…そうだな、11時は。じゃあ11時に」



魔女は小さな鍋で後ろから男を殴り気絶させた。


そしてアバルバを呼びつけ、こう言った。



"奪う民を笑う悪魔"の儀式をする。



黒と黄、それから緑と茶…どんどん粉を追加して、魔女はアバルバに飲み食いしたものを鍋に吐き出せと命令した。

命の恩人である彼女に逆らえず、アバルバは喉に指を突っ込んだ。

……そうして完成間近になった"薬"を見て、魔女は



アバルバを、殴り殺した。



鍋でひたすら頭を叩かれ、顔面を潰され、何度も信じろという言葉を浴びせられた。



……気がつけば、アバルバは目を覚ました。



見慣れたボロ家の天井。横を向けば小瓶が並び、部屋中に鍋が散乱している。

起き上がると、そこにはアバルバがいた。…違う。"元"アバルバがいた。

頭がぼんやりする。魔女の姿はない。


外に出て彼女を探していたら、ボランティアで来ていた女性に見つかった。聞いた事のない言葉で話しかけられ戸惑ったが、すぐに理解し話せるようになった。

2、3日…フリをして。アバルバは村を、国を離れた。


日本人、守谷 彰吾として。


綺麗な顔、健康な体。綺麗な水、美味い食い物。柔らかな服、丈夫な靴。


何もかもが変わった。




変わった。でも、生き方を知らなかった。




「奪う民を笑う悪魔」




だから、儀式の名を生き方に当てはめた。悪魔になることを決めた。

新たな母親に甘え、金をもらい、ナイフを買った。

そして外を出歩き探した。奪う民を。すぐには見つからなかったが、1週間もすれば出会いはあって。

そして、ナイフで奪う民の喉を突いてやった。苦しむ姿を見て、笑ってやった。




ある日のこと。



いつものように外を歩いていると、借りた金は返せと叫ぶ声が聞こえた。

見れば、男がドアを激しく叩いていた。蹴ってもいた。ふとした瞬間にドアは開いてしまって男は中へ。すぐに女の悲鳴が聞こえた。


いつかと重なった。


アバルバは急いでそこへ向かった。靴のまま中に入って、髪を掴んで怒鳴っている男にそのまま突進。その時、ナイフも突き刺した。


悪魔は人を救った。


殺すことも、救うこともできる。


いつかと違う結果を見ることができたアバルバは笑った。


気がつけば女は頭にナイフが刺さって死んでいた。


それを見てアバルバはまた笑った。



…部屋を出ていこうとした時、ふと本棚に目がいった。

なんてことのない普通の本たち。その中に1冊だけ存在感のあるものを見つけて。本なのに鍵穴があって、なぜか開くことができない。

女の頭からナイフを抜いて何度も鍵穴に突っ込んだ。拒否されてもしつこく突いた。諦めず突き続けていたら、いい具合にナイフが欠けて鍵穴を貫いた。


それからだ。アバルバが代行に…"武器商人"になったのは。




アバルバは奪う民を笑う悪魔として、様々な武器を創造した。

刃物、銃、毒、ウイルス、生物…それらは金で売ったり、奪う民への復讐を願う人へ贈ったりした。関与した人間達は、誰もが死んでいった。




「はは、はははは、ハハ、アハハハハハハ!!!」




金は必要だが重要ではない。今となっては。

でも腐るほどあれば、悲しむ人間を減らせる。

人を殺すことで、もう一方では人を救うことができる。




「さぁ、準備だ。ビッグビジネスが俺を呼んでる」




創造した武器を売り、命を奪い、得た金で命を救う。

そしてそれを見て笑う。


武器商人、【奪う民を笑う悪魔】アバルバは今日も創造物を売り、命を笑う。



「レヴィウドのやつも探さないとな」













………………………………next…→……








「茹で上がったよ」



「うん。じゃあ…盛り付けも」


「よーし、任せて」




午後1時。昼食の用意。ピリ辛あんかけミートボールスパゲッティと、シーザーサラダと、



「……あ、いい感じ」


「ほんと?…おお、」



やきいも。


芽衣が担当してくれている。偶然さつまいもを買っていて、関連する記憶を見ていた僕はすぐにこれを提案した。

言ってみれば思い出の味だ。


「今日寒いしいいね。真っちゃん、冷蔵庫からバター取って」


「バター、バター…はい」



ほぼ完成。あとはやきいもを待つだけだ。



「知花達呼んでくるね」



珍しく鼻歌。機嫌良く1階へ下りようとしてふとテレビを見たら。





「ん?」



知ってる顔が映っていた。



「トシちゃん?」



よく画面を見て、情報を仕入れる。



「変死体?新人類のしわざとも…え、」



死んだ?トシちゃんが?…最近助けたばかりなのに?



「しっぽ切りのレヴィウドが戻ってきたとか、いや、創造の書は燃やしたし」



知人の死に驚いていると、画面に変化が。

映像が乱れ、砂嵐…



「もしかして」



また柊木家の記憶を…




「やあ」




「え、だれ?あ。リョーマンだ」



映し出されたのは、日本でも活躍する世界的に有名な俳優。たしか日本とアメリカのハーフで…


「いやいや、そこじゃなくて」


なぜリョーマンがテレビに。しかも、元々放送されていたものに割り込んだように見える。




「日本の皆さん、こんにちは。デイヴィッド・東松・リョーマンです。今日は自宅から皆さんにメッセージを届けます」




自宅…背後には本棚。椅子に座っていて、机の上にカメラを固定しているように思う。

白すぎて違和感がある綺麗な歯を見せて笑うと、急に真顔になって。




「僕、リョーマンは今日から新人類になります。それはなぜか」




…は?新人類になる?それって代行になるって、




「2ヶ月後。新人類は旧人類に戦争をしかけるからです」




「な、なにそれ…」














………………………to be continued…→…


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