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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case18 _ 柊木家の代行達
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第11話「すごい女」







「……まぶしっ」





目を閉じ、右方向に顔を背けた明里。自分がやったことの罪深さを暗闇の中で味わうことわずか数秒、冷たい空気を感じて真の創造が大成功したことを確信する。嗅覚に飛び込んでくるのは、東京ではなかなか得られない新鮮さ。自然の匂い。草木、花…子供の頃はよく公園に咲いてる花に近寄っては





「誰だお前」





「…」


真の思考を盗み聞きして得た情報を元に、まずしなければならない行動をとる。それは、


「すみません。戦う意思はありません」


降参すること。

戦闘能力は皆無。明里が自分の身を守るには命乞いする以外に方法がない。なぜなら今いる場所は、真の敵の目の前なのだから。



目を開けると、変わらない暗闇がそこにあった。目が慣れるまで何も無いこの場所の閉塞感に耐えなければならない。

自然を感じているのに閉塞とはおかしなものだ。…と明里はすぐに創造の可能性に気づく。





「名前より先にそれ言うか。相当弱いんだな、お前」


「モモ。行く」


「まあ待てよ。……で、名前は?殺されたくないってんなら喋ってくれるんだろ?」



「……明里、です」



「だけ?苗字は」


「……」



殺気。明里は左頬に吐息が当たるのを感じた。恐ろしいほど静かな呼吸。音は聞こえない。顎がピリピリと痺れるのは、気のせいではないのだろうと自分でも不思議なくらいに冷静な思考。




「俺の使者をどこにやった」


「早く。言う。モモ。怒る」




足音。モモという人物が近寄ってくるのを察知した明里は喉の乾きを感じながら、伝える。




「…凪咲さんはもうここには戻らないと思います」




命乞いをする立場なのに随分と攻めた発言。左からの殺気が巨大化し、のしかかられているような重さを感じる。それでいて、声にならないほどの音量で何か呟いている。唇や舌が動くわずかな音がよく聞こえる。



「……………………」




「あぁぅ、ぐぅ…っ!?」




何かされているのは分かっていた。だが、明里の想像の遥か上を行く現象が彼女を苦しめた。

手足の指…その先にある爪。今、全ての爪が痛みの元になっている。外方向にかかる負荷。まるで爪を剥がそうとしているような趣味の悪い攻撃。

もちろん、剥がれてしまわないように指先を押さえる…なんてことはできない。手も足も、片方を守ろうとすればもう片方が犠牲になってしまう。それに直立姿勢が必須なのだと明里は理解していた。少しでも動けば、敵意があるとみなされて殺されるということを分かっていた。だから明里は何をされても立ったまま1歩も動かず耐えなくてはいけない。





「へぇ。まあ、実は聞き出すまでもないんだ。わざわざ凪咲1人を狙うやつなんて他にいないしな。…お前は犠牲になったわけだ。あいつも怖いことするよなぁ。使者にだって生命がある。魂がある。いくら自分の好きな女を助けたいからって身代わりを用意してくるとは。…ただ、」





「っ」「どうやってやったのかは気になる」





苦しみの中、今度は右耳に吐息同然の声が吹きかけられる。脳を直接くすぐるような刺激が明里の感覚を麻痺させ、



「それ、は」



思わず聞かれたことを話しそうになる。



「それは」


「それは…わ、た、」



が、明里はそれをグッと堪える。最終的に話してしまうことになったとしても、精一杯時間は稼ぐつもりで。開きそうになる口を無理やり閉じて、頭に思い浮かべるのは皆で大切に可愛がっている白猫の姿。



「……記憶に鍵をかけたのか。やるね」


「…かっ、」


「勉強熱心なんだな。体は確かに弱そうだけど」


「モモ。殺す」


「いや、ダメだ。あいつがどうやったのか知りたい」




3つの気配。明里は目を閉じて、必要な情報だけを引き出す。



「…モモ、あなたは私の正面に。……ナギ、あなたは私の左に。…赤い髪のあなたは私の右に…いるんですね」


「おいおい。調子に乗るなよ。探り入れてくるなら遠慮なく殺したって構わない」


「……ナギさんを創造するのは大変でしたか?」


「すごい女だな、明里」





















………………………………next…→……













「…凪咲さん」




自分の両手を見て、自分の顔に触れて。僕を含む現在地の景色を見て彼女は目を見開いた。…でも一切の感情が見られない。リアルすぎるマネキンのような不気味さがある。



「……」



「僕が…分かっ、」



速すぎる。彼女の冷たい手が僕の首に届くのが。雑巾絞り感覚でギュッと。すぐに呼吸が難しくなり、彼女の手首を掴んで抵抗を試みるが……無理。うまく力が入らないのもそうだが、銅像みたいに…か…た……



「いき…でき、」


「……」




「ミャウン」




「…」


「げほっ、うぇっ、…はぁ…は………?」



突然緩んだ。何でかは分かるが、正直信じられない。どんな状態でもまさか猫には反応するのか?




「……」


「…っ!!」



鳴き声を探して僕から目を離した隙に、彼女の腕を押しながら首を外し脱出した。よろけながら、すぐにポケットに手を入れ常備していたジョーカー・グローブを取り出す。



どうする。戦うのか。


勝てるとは思えない。


だがこのままじゃ殺される。


せっかく会えたのに喜ぶ暇もない。




「……」


「ジョーカー・ボルケーノ!!」




それでも攻撃を選択した。たくさん読んできた様々な小説内での出来事と全く同じことを期待してのことだ。


その1。

一定以上のダメージを与えることで正気を取り戻す。



「うおおおおおお!!」


「……」


「僕の腕を掴んでも止まらない!この炎は止められない!!」



大炎上。しかし彼女は炎の中でも表情を変えない。悲しいことに、髪の毛の1本も燃やすことができず文字通り火力が足りないことを実感した。



その2。

操っている装置等を破壊することで正気を取り戻す。



「内部への攻撃…」


ジョーカー・グローブからバチン!と強めの音が鳴り、一瞬だけ小さな小さな光が見えた。炎魔法が得意な母親を持つ彼女に同じ属性で攻撃したのがよくなかっただけで、電撃ならばいくらか効果があるかもしれない。


"創造した"


あの日、凪咲さんに何をしたのか聞いてあの人に返された言葉はそれだけだった。ならばやってみる価値はある。彼女の体内に何かがあるかもしれない。機械、寄生虫、病原菌……試せる全てで、破壊して



「取り…戻す!」





創造物に変化後の姿を重ねて見ること。



意識するのは、グローブが青白い稲妻を大量に発する姿。



「創造変化。…応えろ、ジョーカー・グローブ……!!」



創造に想像を加え、追記と同等の効果を得る。裏・創造の書にあった通りに試すと、面白いくらい簡単に成果を得られた。

自分でも怖いくらいにジョーカー・グローブから電気が発生し、バチバチと耳障りな音を発しながら行き場を求めている。


あとは放つだけ。

元々はスタンガン程度の威力を想定していたのに、今じゃきっと落雷レベル。彼女を殺してしまうのではないかという不安もあるが、



「助ける…!助けるから!!」



振り切る。




「ジョーカー・サンダーボルト!!」




視界が青白い光で埋め尽くされる。このまま2人共消えてなくなってしまいそう。聴覚がおかしくなってしまったのか、全ての音が小さく聞こえる。


お願いだから…届いて…!!













………………………………next…→……












「……すごい女…?」





「ああ。すごい女だよ。ナギの殺気で気が狂うどころか、創造は大変だったかなんて質問してくる。そもそもお前は俺に何もかも喋っちまうか記憶を見られるか…瀬戸際だろうが」


「…見えないからじゃないですか?」


「……見えたら怖がるかもって、そんな簡単なことかよ」


「私の今の状況なんて大したことないです」


「あのさぁ、これでも結構人も化け物も殺してきてんだよ。今じゃ何殺してもなんも思わない。分かるか、大量殺人鬼みたいなもんで」


「だから何ですか。生きている全ての存在が他の命をいただいてるじゃないですか。肉も魚も野菜も命です。それらを食べているのだから私だって殺人鬼とそう変わりません」


「…えー…なんでそうなるんだよ……はぁ、真が創造する使者ってのはどいつもこいつも曲者揃いなのか?」


「さぁ?分かりません」


「それはそうと。これは喧嘩売ってるのと変わらないから、これからは真のことは無視しない。モモがブチギレるだろうから、すぐに殺すことはしないけど。創造の書を奪う。お前の所有権もいずれ俺のもの」


「……」


「少しは効いたか」


「いえ。真くんはすでに戦いに備えています。誰が来ても負けません」


「へぇ?」


「あなたが相手でも」




「明里。土産をやるよ」




「土産?」




「俺は真の未来を知ってる。そして、ついこないだぶっ殺した」




「…え」




「真は死ぬ。凪咲も助からない。もう決まった未来なんだよ。今はその未来に向かって進んでる過去。現在なんてどっか行っちまったんだ。何か違う選択をすれば変わると思うだろうが、それは人間共が想像で決めつけてるだけ。俺が未来の真を殺した事実は変わらない」




「……」


この時、明里はついに心が折れた。言われていることの信憑性を自分で高めてしまった。未来を知る…それは時間をどうこう出来る力があるということ。そしてそれは、"時割れ"という現代の怪奇現象と結びつく。強引にこじつけただけかもしれないが、1度疑問に思ってしまったらもう否定できない。






「あなたは」





「俺もすごい女だろ?」





「っ、」





「やっと揺らいだな」























「あ"ぁ"…」


「いいですよ。泣いて」



抱き合う真と明里。思いを吐き出す真を受け止めながら、シンプルな相槌をし……



「あれ、」


「……ぅ、…?」


「あ、すみません。今私、真くんのためにしてあげたいって考えてたことが…ド忘れでしょうか」


「僕のせいだよ……こんな風に明里に甘えたせいで、びっくりさせて」


「い、いえ…私から提案したことですから…」


明里の目が泳ぐ。真は中途半端な状態だがハグを中断し明里から離れ、下を向いて泣いた。



「弱すぎた……あまりにも、僕は弱すぎた」



「…」



ふと気づく。何を提案するつもりだったか忘れてしまったが、それを書いたスケッチブックがすぐそこにあることに。泣いている真の横を抜けてそれを探す明里は、



「……そ、そう、これを」



見つけたものを真に見せた。



「真くん。見てください」


「…なに」


「私の考えた創造です…これなら、力の差を無視して取り戻せます」


「え」


「そうです」



"トレード。

2つの対象の位置情報を取り替える。

この創造に必要なのは、2つの対象の明確なイメージと特徴の一致。それらは創造の難易度を下げるのに役立つと期待できる。条件付きの創造が存在するからだ。"



「……」


「どうですか。やってみませんか」


「これは」


「私がもし一致するなら真くんはこの創造を行うことで私とその人を取り替えることが出来るんです。世界のどこかにいるその人がこの場に現れるんです。戦って取り戻す必要が無くなるんです」


「……あ、明里はどうなるの」


「それは……」


「馬鹿なこと言わないでよ。…僕は弱いよ、確かに弱い。凪咲さんの代わりにしたくて知花を創造したのも事実。でも…だからって…こんな、犠牲を出して取り戻すなんて」


「真くん、」


「どこまで最低な人間に見られてるんだ……」


「いや、」


「……もういい。それは破り捨てておいて。もう見たくない」


「聞いてください!力をつけていつか戦いを挑んだとして、その時その場には真くん1人だけなんですか!?周囲に他の人がいる可能性は!戦闘の結果、もし勝てたとしても敵の出方次第ではいくらでも犠牲は出ます!私達が皆殺される可能性だって!」


「やめ、」


「今ここで、私1人で済むならそれが」


「やめろ」


「っ、」



スケッチブックを叩き落とされる。しかし、明里は別の理由で怯えていた。それは初めて見た真のドス黒い怒り。解き放たれたら何が起こるか分からない。ただただ怖い。彼は目を閉じているのに、なぜか鋭い視線を感じる。目を閉じたままの真と見つめ合う明里は、後ろに下がろうとするが机の角に足がぶつかる。物理的にも精神的にも逃げ場がない。



「今まで1度も言ってなかった…?明里も芽衣も知花も大事だって」



「い、言いました」



「明里1人を犠牲にして、なんだって?」



「あの…その、」



「2度とそんなこと言うな。怒るよ…!」



「…っごめんなさい」



既に怒っているのではないのか。

尋常ではない威圧感に、縮こまりながら謝罪する明里だが…真の様子は変わらない。今の彼はとても、同じ人間とは思えない。



「ごめんなさい。…許してください」



声を震わせ、許しを乞う。明里にはそれくらいしかできない。



「大事なんだよ…っ!!」



「っ!?」




拳を握り、まっすぐ床を打つ。その拳にはジョーカー・グローブとは違う白光を纏っていて。

そこから放射状に広がるヒビが威力の高さを物語っていた。














………………………to be continued…→…


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