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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case3 _ 1番はだあれ?
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第6話「ゴージャス・アナ」




「…何?」


「聞こえなかったかー?その腹から顔出してるやつが、代行だって言ってんの」


「……」


凪咲は赤髪の女を無言で睨みつけると、何かを感じ取ってマミを見た。


「マミ。リカはあなたの店に新人で入ってきた。そしてNo.1の座を短期間であなたから奪い取り、店の売り上げ金を盗んであなたに罪を被せた。これは本当なんだよね?」


「てか、助けてし。こんな状態で話せないっしょ。頭痛い…」


「分かった。今…」


「止めとけよ」


赤髪の女が待ったをかける。


「代行を助けるのか?どーすんの、もし創造されたら。お前が勝てないレベルの使者来たら」


「まだ決まったわけじゃない」


「あっそ。いいよー好きにしな」



リカ"だった"肉塊からマミを助ける。

それはマグロの解体にも似た大掛かりなもの…にはならず、凪咲は手持ちの武器でマミを傷つけることなく肉を切り開いた。


「うぇっ…汚ったね…」


顔の血をベッドシーツで拭うマミ。


残ったリカの頭部を凪咲は細かく裁断しながら観察する。

彼女の後ろで赤髪の女が表情豊かに見物…目を細めたり、口を半開きにしたり、苦みばしった顔だけでもレパートリーが豊富でそれを見たマミがヘラヘラ笑う。


それは口蓋を開いた時だった。

深い紫色の物体がポロリと出てきた。


「うわ。マジか。俺たちの体ってそうなってんの?その萎んだ水風船みたいなの何?」


「違う。これは毒を作ってる部分。リカは言ってみれば蛇女で、キスして毒を混ぜた唾液を飲ませる…」


「へえ…詳しいなー。あぁ、お前のパートナーがいないのは被害者だからか?」


「別に。もう回復したから」


「やるじゃーん、うぇい」


赤髪の女がハイタッチを求めるも凪咲に無視された。


「お。死体で遊ぶの終わりにした方がいいんじゃねーかなー」


今度はハイタッチではなく、凪咲の肩をつついて赤髪の女は"知らせた"。



「は?なに?」



声をかけられてもいないのにマミが反応する。

その手には派手にデコレーションされた手帳が開かれていた。


「その手帳、創造の書だろ?」


「何言ってんの?創造の書はもっと大きいのに」


「お前ら初心者過ぎるだろ。なら奪ってみ。ざまあみろって言ってやるからさ」


「は?は?いや、何言ってんのか分かんないし。てか襲われたんだけど?何?どういうこと?なんでなんかアタシがヤバイやつみたいな感じなの?」


「マミ。手帳見せて」


「は?なんで」


「じゃあ俺、マミ?の味方しちゃおっかなー。出せよ。他にもいるんだろ?」


「え…他にも…マミ、」


赤髪の女が見透かしたようにマミに言うと、彼女はそれにウインクで返答した。


「やるしかないべ?」



((READ))



マミは手帳に手を置き、例の言葉を口にする。

一瞬だけ赤い光が部屋を照らすと、マミの背後にそれは出現した。



「アタシの最強のボディガード」


部屋の天井に頭がついてしまいそうな高身長。

次いで身にまとった黒のスパンコールのドレスの豪華さに目が行くが、それ以外にも気になるところは多い。


「すっげ。本当に蛇女じゃんよ」


赤髪の女が言ったのが全てだった。

キャバクラ嬢を思わせるドレスとヒール…だが、それを着ているのは人型ではあるものの人間ではない。

全身の青白い肌には鱗があり、薄い唇からは特有の細長い舌が見え隠れしている。


「完璧っしょ。アタシの"No.1"…ゴージャス・アナ」


【ゴージャス・アナ】は、主人に名を呼ばれると凪咲に向けて手招きをした。

妖しく動く指の先には真っ赤なネイルが先を鋭く尖らせて輝いている。



「"リカ"は1年前にアタシの言う事聞かなくなって逃げ出したんだ。その後金稼いで整形したっぽい。リカって名前別に珍しくないし店に入ってきた時分かんなかったんだよね」


「……」


驚いて固まる凪咲の耳元で赤髪の女が「ざまあみろ」と囁く。


「そしたらいきなり超人気出るじゃん?最初は客と寝てんだなって思ったけど、よく考えたらリピート少なくね?って思って。疑ってたらリカがNo.1になった。お祝いでリカに飲まされた酒がマズかったから確信した。アイツの"ブレンド"は苦いからすぐバレるんだよね」


「…ブレンドって毒のこと…?」


「んで、店の金も無くなってアタシのせいにされて?そりゃ逃げるよね。あの夜はたまたま毒が回る前にアンタ達に助けられたみたいだけど」


「うそ…」


「使者の裏切りねー、まぁあるある」


「すぐ分かったよ、あの男が私と同じだって。それでアンタならリカを殺せるかなって思ったけど。結局リカはアタシの所に来た。だからこのアナで返り討ちにしようって」


「あ、待てよ?ってことは、リカを殺した俺は命の恩人ー!」


「悪いけどアンタには約束の金は払わない」


「なんだ?金もらう約束してたのかー?じゃあ代わりに命の恩人である俺が」


「アンタにも払わない」


「…立てよ女子高生。マミは意外にもヤバイ大人みたいだぞ?ギャルっぽい女って口悪くても性格良いみたいなイメージあったのに残念だなー」




「アナ。そいつら殺して」



ゴージャス・アナの金髪が揺れる。

髪の間から様々な色の細身の蛇がいくつも顔を見せる。



「どうして。私達が戦う理由は?」


「そんなの要るか?代行ってバレたら普通に消すだろ。マミが正しい」


「…あなたは?私達のことを知っても殺さない。むしろ助けてる」


「そうだっけ?」


赤髪の女は凪咲の前に立つとなぎ払うようにハイキック。

タイミング悪く飛来してきた蛇達は蹴飛ばされる。


「これは放っておいたら俺も危ないからだぞ?」


今度は凪咲が前に出てゴージャス・アナの引っ掻き攻撃を剣で防いだ。


「今のは助けた。これは貸しだから」


「えー。生意気だな。…嫌いじゃないけどさ」





………………………………next…→……






凪咲さんの帰りが遅い。

買ってきてもらったものは全て食べ終えて、大人しくしているが限界だ。


心配していて不安定な気持ちの時に隣のベッドでは呑気にトランプで遊んでいる。

ババ抜きでなぜそこまで盛り上がれるのか。

騒ぐ声にイライラしてくる。


シャーッ。


カーテンが開いたから凪咲さんかと思った。

様子を見に来た医者だった。


「どこか異常はありませんか?」


「特に。帰っても平気ですか」


「う〜ん…それはどうだろう…蛇の毒が体内にまだ」


「痛くも苦しくもないです」


「何か急ぎの用事でも?」


「はい」


「…でもなぁ…」



「真!」


医者を押しのけたのは…良かった、凪咲さんだ。

…いや、良くはない。

手が血だらけだし、顔にも血が付いてる。

よく見れば全身に…


「凪咲さん?」


「もう動ける!?」


「はい」


「着替えて!」


「あ、あの…あなたは」


「もう私達帰ります。お世話になりました」


「え、あ、」


医者を追い出してカーテンを閉めた凪咲さん。


「…こっち向かれると着替えにくいです」


「気にしないで…分かった」


後ろを向いている間に下から着替える。すぐに「あのね?」と凪咲さんが何があったかを話し始めた。


「マミは無事だった」


「そうなんですね」


「リカは使者だった」


「…」


「マミはリカを創造した代行だった」


「…え!?」


「詳細は省くけど、リカとマミは仲違いして、リカはホテルにいるマミを殺そうとした。でも赤髪の女がまた居て…」


「ちょ、ちょっと待ってください…マミさんが代行…」


「とにかく。マミは私達の敵になって、今逃げ回ってる。しかもリカの他に創造したアナって使者が強くて」


「着替え終わりました。行きましょう」


「うん。…ふぅ。待って」


凪咲さんが僕のシャツに手を伸ばす。


「ボタン掛け違えになってる」


「あ…」


「マミと使者のアナは強い。私1人なら負けてた。…赤髪の女が今マミを追ってる。いい?」


「はい」


「アナはリカと違って毒を直接吹きかける。他にも爪で引っ掻いたり、髪の間から蛇を無限に出したり。正直打撃は効果ない。双剣で何回かは攻撃出来たけど、近づくと毒を吹きかけてくるから…」


「凪咲さん」


「うん」


「生きててよかったです」


「…うん」


「でも、それだけ強いと僕がいても…」


「そんなことない。今の真には"盾"があるから」




病院を飛び出し、タクシーを捕まえた。


「ここから西にある"たぬき公園"までお願いします」


「凪咲さん、どこですかそれ」


「赤髪の女がそこに追い込むって言ってたから」



「たぬき公園ね。急ぎます?」



「1秒も惜しいくらい」


「それじゃあお客さんシートベルトお願いしますね…たぬきだったらあそこ曲がって近道だな…」



物分かりのいい運転手。




………………………………next…→……





到着したのは…



「多田貫まんげつ自然公園」


どこがたぬきなのか…というと、多田貫がおおたぬきと読むからだそうで。

個人的にはまんげつ公園でいいのではと思うが。




「見て」


入口付近、レンガの塀の上に蛇が…


「死んでる。やったのは赤髪の女だよ」


「…後で名前を聞きましょう」


公園に入るが、たぬき公園を思わせる遊具はもちろん見つからない。

目玉の遊具はすべり台か。

傾斜は緩やかだが横幅がかなりある。

子供が数人で手を繋いで同時にすべったり出来そうだ。



公園の奥に進むと木材で組まれたアスレチックが見えてきた。

それと、赤髪の女性と、マミさんと、


「あれが使者なんですか…!マミさんの…!」


「ゴージャス・アナ」


「あんなの…」


あんなのが創造出来るのか。

しかもマミさんにそれが出来るということが何よりも衝撃的だった。

キャバクラ嬢が読書をするイメージが浮かばない。

……いや、そういうことか。


"過剰な読書"。あれを上手く使えば読書の得意不得意は関係ない。



「遅刻だぞー!俺武器無いんだからな!」



赤髪の女性が僕達に声をかけると、マミさんも気づいた。

そうなると、当然のように使者である【ゴージャス・アナ】も僕達の方へ向かってきて。



「コイツじゃ話になんない。先にアンタ達からヤる」


「話になんない?素手の人間相手に手こずってるのはあなた達でしょ?」


「マミさんが代行…本当に…」


元々そこまで好印象ではなかったが、いよいよマミさんに対して擁護出来そうな要素が無くなった。




「代行は殺し合うのが役目。キャバも同じ。No.1はアタシがなる」


「そういう間違った考えを正すのが現代の代行が背負う役目。私は真のためにあなたと戦う」





「あー。危なかった。俺も後で病院行こ。4回は噛まれたし」


赤髪の女性はアスレチックの高台に上がってこちらを見ている。



「行くよ、真」


「アナ。殺して」



命のやり取り。殺し合い。

僕はそれだけの危険に、少しだけ慣れを感じていた。

そして、一つの疑問が解けた。


戦いの開始の合図についてだ。

映像や文面、どの表現方法の中でもこの手の戦闘の開始を告げる場面では明確な合図はまず無い。

時々葉が散ったり、水面に滴が垂れたりはあるが。


実際には、そんなものは関係ない。

そこには不思議と、敵と呼吸を合わせる瞬間があって。

せーの、と口に出すわけでもなく、"今"だと直感する。








………………………to be continued…→…


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