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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case16 _ 奇跡の創造
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第7話「サムライヒーロー」







「……、ダン」


「まだだ」



数秒の持続すら厳しい。シャミアは崩れ落ちかけては立ち直るのを繰り返していた。スクワットのような動作でどうにか耐えているが、大量の汗が出て止まらない。しかしダンはそれでもシャミアに続けさせる。無理は前提。大前提。



「……サラはこれを」



思い出すのはミーシャ創造の時。

ィァムグゥルが体を動かしていたとはいえ、サラはミーシャの創造に大きく貢献した。力の使い方を深く理解しているィァムグゥルはともかく、難しい創造を簡単に成立させてしまうサラの能力の高さに驚かされる。目の前で苦しんでいるシャミアと比べれば、小さなペットボトルと25mプールほどの差は確実にある。




「惜しむ必要はないな……」



ダンの額にも汗が見えはじめる。ピクピクとミーシャの手の指が反応し、もうひと押しで覚醒するだろうと2人は考えたが


「ひぅ、」


「耐えろ……!!」


どうやら、足りない。というよりこんなにギリギリで復活させたところで、ミーシャが満足に力を発揮出来るかは微妙で。ここはミーシャを休ませたまま放置しておくべきでは……と今更すぎる後悔がダンの脳内に浮かぶ。



「もうむり」



目を閉じ、脱力する。ミーシャに覆いかぶさるように倒れたシャミアは息をするのもやっと。


「1人でも、やってみせる」



力不足を痛感しつつも続行を決める。そのダンの背後に立つ存在。無と変わらない存在感のそれは左の手をゆっくりダンの背中にかざす。

全く気づかないダンはようやく顔を歪ませ、ミーシャの復活を願う。……その時だった。



「…なんだ」



苦しさが薄れていく。再構築で傷を癒すような感覚と似ていて、自分に起きた変化にまだ理解が追いつかない。


「…ん」


「ミーシャ、」


楽になればなるほど、ミーシャも目覚めに近づく。数秒で目を開けるに至り、更に数秒で


「もう少し」


「ああ。そうだろうな」


更に続けるよう要求する。それに応えながら


「このタイミングで成長したということか?…」


力が溢れてくる…それと同時に高まる思考。何でも出来てしまいそうな全能感に心地良さを感じながら、


「今の状態なら」


六島にも勝てると、期待する。



「う?うぁ!熱い熱い!!」



突然ミーシャが跳ねるようにして起き上がる。大袈裟に慌てるのでダンも思わず創造の手を止めてしまう。



「熱い?どういうことだ」



注ぎすぎたのか。不足ばかりを心配していたのに過剰になってしまったというのか。



「はぁ……もう、いい。…?」



「何がなんだか…今度はどうした」



ミーシャが硬直。首を傾げ、自分を透かして背後を見ている。

どうしたも何もない。こんな状況で味方が背後に立つことなどありえない。ならば、



「異能の拳銃。これで撃ち抜かせてもらう」



手加減など一切しない。一撃で殺すための武器を抜き右手で構え、振り向きと同時に



「受けたまえ、私の全身全霊の……」



言葉が途切れる。そこに立つ存在に確かに銃を向けながらも、その先には至らない。そうする事ができるはずもなく。



「……ま、ま、真…?」




白い光を身に纏う友人の姿がそこにあった。相手のよく知る人間に姿を変える創造…という可能性に気づくが、敵だとして…なぜ



「攻撃してこない。それに、様子がおかしい。敵としても味方としても」



聞けば済む話。しかし万が一敵だった場合、余計なことを言って本物の真を危険に晒すことになるかもしれない。考え、迷い、そして



「……し。何も言わずに、信じて」



「真…!」




彼は人差し指を立てて口の前に持っていく。何も分からない。なぜ彼がここに居るのか、服が見えないほど光を身に纏うのは何なのか、今彼は何を思うのか。


消極的な返事をした時の彼とは目の輝きが違う。




「病院前でオヤブンが待ってる」



「っ、待て、真…」



ぽつんと呟くように大事な情報をダンに伝えると、大量の光の粒になって消えてしまった。

不思議な出来事。創造を扱う代行からしても、今の体験はずば抜けて幻想的で。



「……そうか」



ミーシャを復活させられた理由が分かった。彼が手伝ってくれたのだ。どんな方法かは分からないが、また次に会えた時に聞けばいいだけのこと。



「ミーシャ」


「動ける。でもめんどくさいからシャミアは」


「ああ」


シャミアを無理やり抱き起こして立たせる。先に歩き始めるミーシャはさっきまでジュリアがやっていたように砂を運び、道を作っていく。



「合流する。待っていろ、ジュリア、オヤブン」











………………………………next…→……








時間の流れを無視する。



1、10、40、90……その移動速度は目視不可で、反射するレーザービームのように敵の海の中を駆け抜け、攻撃する。


青の異能が、絶対威力を発揮しいくつかの怪人達を即死させる。




「なんやジュリアのやつ!めちゃくちゃアホやろ!なんやねん!」


「温存しておきたかった力を使っているんだよ。ここまで強力だとは知らなかったけどね」


「にゃうるるるらあ!!確かにこれだけ強かったら負ける要素ないやろうけど!」



腕を失った者、片足を失った者……ジュリアが過ぎ去ってすぐに体の一部を欠損して弱体化したのを、オヤブンとィァムグゥルが仕留める。


「驚くべきは、どの敵も弱点を露出させられていることだよ。まさかあれだけ速く動きながら的確に攻撃していたのかな」


「口ばっかりやな!お前も手ぇ動かせ!ホンマやったらワイらが雑魚全滅させるはずやったんやで!?」


「君とサラがこの大地震に怯えたのだから仕方ないさ。それでも、こうして立ち直れたんだから…遅れた分を取り返すために頑張るべきだとは思うけど」


「だあああこのおっ!!」



あっという間に殺した数は100を超えた。それでも、減った気がしない。その原因は戦闘開始直後にィァムグゥルが見つけていて。



「この建物の中のどこかで使者を蘇生させる創造が働いているのは間違いない。ほら、魚の頭をしたのはもう4回は殺したはずだよ」


「こんなんやとせっかく"あいつ"に会えたのにかっこ悪いとこ見せてまうやんけ!!」


「オヤブン、左だよ」


「お前も戦えや!!」



前足で迫る敵を薙ぎ払う…その瞬間、オヤブンは足を引っ込めて回避する。彼の眼前を横切ったのは



「あっぶ!?」


「金の槍…そうか、合流出来たね」


「はぁん!?」



飛来した金の槍は怪人達の額をまとめて貫いて落下。直線上の敵に死を与えた。



「ダン、やっと来たんやな!」


「シャミアが戦闘不能だね。オヤブン。向こうまで」


「分かっとる!」



敵の海から抜け出すため、ピョンピョン跳ねながら移動する。敵を飛び越え、時には踏みつけながら確実にダン達に近づいていって。




「っしゃあおらあああ!!」



最後は派手に1人の信者を突き飛ばして。




「すまない。私の考えが甘かったようだ」


「この揺れは誰にも予想出来なかったよ。よくここまで来れたね」


「ダン、ここの敵は無限湧きやで。病院の中に仕掛けがあるってィァムグゥルが言うとったけどな」


「……ジュリアはまだ戦える。私達が病院に侵入する」


「分かったで!」


「同時に大量撃破すればいいだろうから、君達にも少しここで戦ってもらうよ」


「ああ。…さっき真に」


「ワイらもや。ビビらせたろうや!めちゃくそ強いとこ見せて、すげぇって言わせたるんや!」


「…」



頷き、ダンは銃を構える。こちらに迫る怪人の頭を撃ち抜くと



「行くぞ。今日、終の解放者を全員……処刑する!!」










………………………………next…→……






そして、振るわれたハサミ。


病院への侵入も、屋上にいた解放者への直接攻撃も、信者達の気狂いも、怪人達の忠誠も、何もかもを断ち切るように





「くっ、」


「飛ぶでぇえええ!」


「っ!」


「すまない、ジュリア」


「めんどくさいっ!!」


「う、」




衝撃波が天から降る。一刀両断、地面を割ったその唐突な攻撃は回避することを許さない。



「また揺れが…!激しくなっとる!」


「恐れてはいけないよ。これは動きを封じるもの。次の攻撃が本命だから」


「ジュリア。シャミアとミーシャを助けろ!」



敵も味方も関係ない。無価値の生命をまとめて裁断する。巨大な終の大天使が、ハサミの刃をゆっくりと開いた。



「アカン!ダン!!」


「このィァムグゥルが拾う。オヤブン」


「うおおおおおおお!!」



天に向かって銃を向けるダン。回避を捨てたその姿。黒獅子は全速力で彼を助けるために走る。近くの敵を蹴散らしながら、強引に駆けて



「まだ生命を捨てるには早いよ」


「っすまない」



ィァムグゥルがダンを引き上げ、黒獅子の背中に乗せる。



「さすがにバランス崩しそうや!安全地帯とか無いんか!?」


「そんなもの……病院だ。全員病院の中に!ジュリア!!」



まともに戦ってもすぐに補充されて先が見えなかったが、今の衝撃波の一撃でかなり敵の数が減った。

これ以上のチャンスは望めない。ジュリアがダンの指示で動き、シャミアとミーシャを病院内へと放り込む。もうその手からは青が失われていた。

それから少し遅れて、オヤブン達も病院内へと突っ込む。オヤブンが入り口をやや破壊しながら転がりこんだせいで、ダンとサラの体が床の上に投げ出される。

しかし…粉々になったガラスによる小さな負傷に、全員が無反応。



ズバァァァァン!!!



絶対に受けてはいけない攻撃が、落ちた。落雷のような爆音が響き、赤黒い終の光が目視を許さない。




「うわ、アカン…!」



すぐそこにいた大量の敵が、邪悪な光に飲み込まれるのと同時に姿を消す。その光景が見えてはいないが、攻撃の迫力にドン引きするオヤブンは



「これ、大丈夫なんか…?病院ごとぶっ壊すつもりやったら……」


「それは無い。この病院のどこかに、六島に関する大切な何かが保管されているはずだ」


「それがあの使者達を?」


「いや。違うだろう…詳しいことは分からないが」



「ううわあぁ!なんか、なんか来てる!!」



シャミアの声。超威力の攻撃を本能で感知して目覚めたようだったが、それとは違う理由で叫ぶ。






ビト。……ビト。




重たいものをこぼしながら、こちらに向かってゆっくりと歩いてくる。



唯一分かるのは、その顔を隠すキャラクターのお面。大分汚れてしまっていて、お面の半分近くが



「あれまさか血ぃちゃうやろな」


「ここまで来て血じゃないわけがないよ。さっきまでのとは格が違うね」


「ダルダか……!!」




その何かが喋るようには思えない。とりあえず、このままでは一方的に殺されてしまうだろうことだけは分かって。



「ジュリア、動けるか」


「申し訳ありません。ご主人様。……異能の力を使うには」


「無理をさせたな…」


「となると、自然と決まってくるね。誰が戦うのか」


「お、おい、ィァムグゥル…まぁ、そうなるか…せやな」



ダン、ジュリア、シャミア、ミーシャが壁際へと移動する。彼らを守るように前に立つオヤブンとィァムグゥルは




「うーん、」


「なんやねんこんな時に。考える時間はないで!」


「オヤブン。悪いけどここから先、君の大きな体では無理がある。狭いんだよ」


「……戻れっちゅうことか?」


「どうだろう。ここは、例の刀に変身するというのは」


「…この場合、ワイとサラで戦うってわけではなさそうやな」


「君達の相性は抜群だろうけど、サラではまだ完全に君の力を引き出せない」


「は?」


「やれば分かるよ」


「…………しゃあない!!」



敵は廊下。そこを抜ければ全員がピンチになる。オヤブンは廊下に飛び込みつつ


ボン!!


視界を奪うべく黒煙を発して、


「来い!!ワイを掴み取るんや!!」


「正真正銘の初共闘だね。よろしく…オヤブン」




「んァ!」



遠慮なく伸びてくる敵の先制攻撃。その鋭さを伴った瞬速の血管は、間違いなくオヤブン達を貫こうとして……




「「はぁっ、せぃやっ!!」」




分断される。



黒の輝き、緑の煌めき。



煙の中から少しずつ姿を見せたのは。




「「おうおうおう、切り捨て御免やで…」」




黒の着物姿、猫耳をした、緑の髪の、女のサムライ。




「「ゴーストハントとは違う、"サムライヒーロー"…てっぺんの力ぁ、見せたろうやないか!」」










………………………to be continued…→…


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