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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case16 _ 奇跡の創造
197/443

第5話「足、ハサミ」






「滅べ」





1人、病室を飛び出して。





「滅べ、滅べ、滅べっ!!」





最速で駆ける。揺れなど感じることもなく、外を求め、





「ふはは!ふははっ!滅べええええ!!」





解放者は、病院の屋上に出た。




下では自分が支配した人間や元人間達が行き場もなく蠢いている。敵はこの地まで乗り込んできたが、ここまでたどり着けはしなかったらしい。

そして、


上を、


見上げれば。





「ぁ、………………これが」





願いが叶う。




集った雲がこの地の空を覆い隠す。その奥で起きていること




「降りてこい…!終の大天使!ミララカナイ!」





終の創造。たった一度きりの、覆すことが出来ない終わり。





解放者は確かに感じていた。雲の上の存在を。神と同等の、力の塊を。





「来るぞ!来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ来るぞ!!」





その時。



雲の一部を切り裂いて、





「来ぅるふっ、ぞおおおおおお!!!」





まずはつま先。あまりにも大きいそれは、見知った人間のそれと同じ見た目で。


左の足は美しく、やや赤みがかった肌色。透き通るような肌は白い光を纏っていて。


一方で右の足は禍々しく醜い。黒ずんだ灰色の荒れた肌は赤黒い光を纏っていて。




ズン。




と天から刃先が顔を出す。それは事前に創造して終の大天使に渡しておいた武器。刃こぼれしてボロボロの、切れ味には期待ができそうにないハサミ。ゆっくりと刃が開き、ジャキンと勢いよく閉じる。動作確認が済んだ瞬間、美しい左の足にドス黒い血が伝い、右と同じように穢れてしまった。




「………………」




解放者はただ、見ていた。


あの足だけでも強力。全身を見れば確信に変わるだろうが、この大天使ならば海に入っても上半身が浸かることはないだろう。


小さな人間が見上げたところで、この創造の巨大さは計り知れない。


上を向いて口を開け、ただ待つ。その姿は餌を待つ雛鳥。自分のやり遂げた偉業に涙し、跪いて両手を広げ



「見せてみろ……」




巨大なハサミが揺れ、一振り。雲が跳ね除けられて一気に膝までが見えてくる。それ以上先も見えないことはないのだが、人間の視力には限界がある。まさか頭は宇宙まで飛び出しているのか、などというふざけた思考も否定することはできない。




「これが……美しい…」




ついに。足が降りてくる。徐々に見える範囲が広がり、病的な肌を持つ美しい終の大天使の身体が見えてくる。

その身を覆うのは、解放者が着ていたものと同じ薄汚れた白衣。白衣という1枚の布切れだけ。




「ふはは!今更無駄なことを。もうお前達には何も出来ない!!代行を殺しても、創造の書を破壊しても、大天使は消滅しない!!!」




ふと下を見れば、乱戦状態。黒い獅子と代行、メイドと代行、知らない顔の2人の代行。誰が何をしようともう揺るがない。




「そいつらを殺しても解決はしない。むしろ、殺した分だけお前達の罪が増えるだけだ。……もう数え切れまい」




黒獅子に乗る代行がふいに目を合わせてくるが解放者は動じない。右手を向け、創造をしても




「効かない」




全身が抓られるような感覚。可能な限りの全てを絞られ、水分を抜こうとしてくる。無意識に上半身がねじ曲がりそうになっても顔色は変わらず。




ジャキン。




ハサミが開閉する。瞬間、解放者にかけられた創造の攻撃は



「断ち切った」



ニタニタ笑い、今も解放者を見て驚いている代行に両手を広げて無事をアピールする。


無傷。


あの代行は攻撃に成功して上手くいったと笑いたかったはずだが、それは叶わない。



そして、解放者を守った大天使はハサミを振るう。








………………………………next…→……








「処刑モード、強制起動します。2秒後に行動を開始します」





得体の知れない超振動。人間に死を予感させるほどの縦揺れ。主人と仲間を守るため、ジュリアは1人…動いた。


地面を踏み割る勢いで足に力を込めて跳躍。ダンを抱き、地中から襲ってきた使者が原因で実際に割れた地面を飛び越える。




「ミーシャ」


ジュリアが声をかけるとミーシャは絶叫を続けるシャミアを抱き寄せる。


揺れに耐えながら移動を始めるが、ダンとシャミアがなかなか正気に戻らない。



「この揺れの原因を解決しなければ、まともな戦闘は厳しいかと」


ダンは無言でジュリアと会話する。


「可能性としてはありえます。半里台総合病院だけ安全地帯になっていれば、この振動から脱することも……」



気づいてしまう。振動以上に危険なものに。頭上に広がる空、その異変に。



「ご主人様。雲の上に何か…います」



察知した気配。1秒毎に更新されるその大きさに、ジュリアは自然と瞬きの回数が増えていく。不思議な反応を見せるジュリア。ダンも何事かと同じ空を見上げる。



「…………まずい」



足を止め、ジュリアの背中に触れる。


((READ))



それはミーシャを創造した後に新たに書き込みをしたダンの新たな創造。



「禁断の、麻痺。私自身を危険に晒す……」



敵の弱体化、味方の回復など何かと便利な創造……"再構築"。ダンが定める健康な体に強制的に作り直すその創造の派生。"禁断麻酔"。その創造の効果は



「様々な感覚を一定時間無効にする。対象はこの私が決める」



今回の場合では、平衡感覚を選択。その結果。



「バランスを崩さないよう気をつけてしまうから動けない。そんなもの、最初から切り捨ててしまえば」


大事な何かが欠損し、その場に崩れ落ちる。しかしすぐに立ち直り、ジュリアやミーシャと同様に動けるようになった。


「面白い。揺れても傾いても直そうとしない。体が自由に動かせる…ただ、バランスを失った状態ではいくらか転びやすくなって……!」


不安定すぎる。が、揺れによる恐怖を感じなくなりダンは正気を取り戻した。


「まずは病院前まで急ぐ。ジュリア、ミーシャ…頼むぞ」



4人は移動を再開。

ダンは禁断麻酔の馴染みを確認した上で


「シャミアには向かないな」


禁断と自ら名付けた意味を思い出した。これは人間らしさを失うどころか、生物であることすら忘れてしまいかねない創造である。

攻撃に使用すれば敵は大きく弱体化するが、味方が使用しても簡単に死に近づくことになる。


戦闘中、バランスを失ったままで攻撃を回避など出来るはずがない。避けるために反らした体は元の状態に戻せず、そのまま転倒に繋がることだろう。ジュリアや"ボディーガード"などダンには守りの創造があるが、シャミアにはそういったものは無い。となれば



「ご主人様。足です」



「ジュリア、敵の海だ」



同時。

しかし優先されるのはダンの発言。

揺れの影響か、すぐそこまで敵の大群が迫っていた。見れば分かるのになぜ気づけなかったのか…というのはあの揺れを体感すれば




「ぐぅおおおおおろおおおせええええええええええ!!!」




ダン達に気づいた"信者"の1人が声を上げる。すると、近くにいた他の信者や怪人達が反応し同じ方を目指して突っ込んでくる。


対応するためジュリアに攻撃を指示するのと同時に、ダンが考えるのは。



「オヤブン……彼らは無事なのか」








………………………………next…→……








「……そんなにじっと見つめないでくださいよ」



絶対に、よくない。そのことは知花にも芽衣にも何度も話した。なのにこれだ。

僕は今、椅子に座らされて両脇を彼女達にガードされている。逃げられないように。さて…なぜか。


テーブルの上の創造の書。開かれたページはさっきまで白紙だった。





末永 明里

スエナガ アカリ。16歳。

"学校の王様"の主人公。

学校からイジメをなくすために立ち上がり生徒会長を目指す。

正義感が強い。学校が好きなので基本的にいつでも制服姿。

妙に説得力があり、いざという時の発言には迫力が乗る。





「知花のお願いで芽衣さんを創造した…まではまだ…でも、同じように使者を創造したら」


「真さん!あたしのことが特別大好きってことなら、あたしは別にいいですよ?でもなんとなーく皆平等みたいな態度じゃないですか。だったら芽衣ちゃんのお願いを聞いたって」


「そんな気はしてた…!お子様ランチから入ってる時点で芽衣さんも漫画好きなんだろうなっていうのは」


「真っちゃん……やっぱり、ダメかな…」


彼女の残念そうな姿が演技だったらどれだけ救われるか。でもそうじゃないってことは書き込みをした時点で分かっている。ここまで来ると引き返せない……



「ああでも、明里ちゃん16歳だからちょっとあれですね!真さん一緒に寝るのはあれですね!」


「まぁ。例外もあるっちゃあるけど…」


「あー!未成年ですよ!?ダメダメ!あたしと芽衣ちゃんで満足してください!」


「この会話を他人に聞かれたら本当に誤解される!!よかった!!僕達しかいなくて!!」


「ボクからの一生のお願いです!真っちゃん!!」


「…………うぐ。……あの。この末永 明里が同じように創造を求めた時、ダメと言ってくれますか?本当に。本当に体がもたない…」


2人はうんうん頷いた。さては、芽衣のワガママだけではない…?

そんなことはもういい。大事なのは今後だ。今現在もだけど。



「ふぅ……失敗してもガッカリしないで…くださいよ」


深呼吸。息を整え、苦痛を味わうのだけは嫌だと強く強く念じて。



「や、やります」




((READ))




体がブルっと震える。すぐに創造の書から手を離して耐えていると2人がそれぞれ手を握ってくれた。



光……来るのか、あっさりと。





「ふぅあ、あ、っんううううう!?」





脳がシビれる。声にはならないが、"あーあやっちゃった"なんて聞こえた気もする。確かに床に足が触れてるのに謎の浮遊感。芽衣の時とはまた違う、




「眩しい…!」


「真さん!大丈夫ですか!?」




何かに心臓をドンと撃ち抜かれた。



「けふ」






あれ。死に……そう。









………………………to be continued…→…


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