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僕達に与えられた使命。…と、新たな日常。  作者: イイコワルイコ
Case16 _ 奇跡の創造
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第2話「数多の生命を依り代に」







朝、6時。




目を閉じ両手を合わせ祈りを捧げるアイマ。楽な格好で寝ていた彼女はその薄着のまま、主人の役に立つため能力を酷使する。全身に汗をかくその姿から彼女の負担の大きさが伝わってくる。一切苦しむ顔を見せないのもまた、アイマなりの努力なのだ。



「大体の方向なら数分。そこから精度を要求すればするほど時間はかかる。今回のように正確な位置を要求すれば…まだ時間はかかるかもしれない」



静かに待ち続けるのも意外と疲れてしまう。ダンは立ち上がり、サラに向かって頷くと



「今のうちに私達に出来ることを。ミーシャを創造する」


「こんなん他の代行が…それこそ終の解放者が見たら嫉妬でハンカチ噛みちぎるで」



オヤブンの解釈通りのズル。不正。元々なんでもありのような創造だが、代行の能力や発想により出来る出来ないが生まれ、差別化される。

個人としてはかなり研究熱心だったダンだからこそ、今回の創造に挑戦するに至ったわけで。



「…ダン。ミーシャが復活したら…これは」


シャミアが創造の書を差し出し、ダンが受け取る。彼女が何を聞きたいのかを分かっているダンだが、正しい答えは不明で。


「使者が代行として創造の書の所有権を求めた…という事例はまず無いだろう」


「コホン。それについてはこのィァムグゥルが上手くやっておくよ。そのためにはダン。君の"読み聞かせ"が重要になる。サラに情報を注ぐその時に、どれだけ細かく…見落とし無く伝えられるか。幸い、サラはその手のヒーロースペックを覚えるのは大好きみたいだから、情報を伝えすぎて覚えきれないという心配は要らない」


「…任せる」


「ああ。そうしてくれ。じゃあ早速始めようか。オヤブン」


「は?ワイ?なんや」


「正座をするから膝に乗って大人しくしていてくれるかな。なるべくサラが君に集中してくれると助かる」


「…まま、ええやろ。そんくらい頼むことのもんでもないしな」


ィァムグゥルに言われるままにオヤブンは膝に乗る。目を合わせアイコンタクトを終えるとサラが前に出てきて、オヤブンと目を合わせる。


「なんですか?」


「なあ。獣睨めっこでもしようや。先に目を離した方が負け。お前が負けたら…そうやな、1週間甘いもの禁止で健康的な飯を食うんや。若さを失ったらブクブク太ってまうからな。今のうちに気をつけな」


「…わたしが勝ったら?」


「肩たたきしたるわ。ワイがマッサージするなんて珍しいやろ?」


「…やりましょう…!」



その横で、ダンは既に覗きの指輪を装備し創造の書に触れていた。他人の記憶を覗くことすら現実にはありえないことだというのに、彼は今…本の記憶を覗こうとしている。



「…く」


短くダンの体が揺れ、追体験が始まったのだとシャミアは察する。


「、、、ダン。頑張って」

















































「暑い。もっと風」



太陽に焼かれる。光から逃れる術は少ない。熱された砂。砂が光を反射。獣のような足。広がる翼。大きく小さな、影。



「ミーシャ様。いかがでしょうか」


「だから暑いって」



日焼け。ヒリつく肌。しかし、この不快感こそ力を高めるのに必要なもの。



「はっ、それっ、」


「お前」


「なんでしょうか!ミーシャ様」


「タカだかワシだか知らないけど、臭い。その翼でバサバサやるの止めろ」


「ですが…風は」


「はぁ…じゃあ何が出来る?」


「はっ。このシュラビ、陸では獣の足で素早く走り、空では大きな翼でどこまでも飛んでいきます。戦うとなれば、金の槍と銀の槍を用いて」


「それじゃあ涼しくなれない」


「…は、はぁ……」
















「おいおい、女ぁ!!1人きりで何が出来る!?こちとら20人の盗賊団!乱暴じゃあすまねえぞ!!!」



「来るならさっさと来い。本無しじゃあ話にもならない」



「泣いて命乞いしても無駄だからなぁァ!いくぞお前たちぃ!!」



((READ))



「砂漠に咲け、黄金の花。血の蜜を蓄えるがいい」

















「ふふふ。自分の血を飲む日が来るとは。…悪くない生だった。来世では…こうはいかないだろう…せめて、せめて、しあわせで…」











「ん、ぐぼぁ」


「ダン!?」



シャミアは思わず両手で彼の吐き出した血を受け止める。ジュリアがダンの体を支え、アイマの様子を見ていたユキが素早く彼の血を拭く。



「そういうことか。ふざけとるな…」


聞こえる情報だけでオヤブンは理解した。ィァムグゥルがなぜオヤブンに変な頼み事をしたのか。これから何をするか分かっていても、ダンに何かあればまともに話を聞くことが出来ないからだ。目の前で吐血したとなれば、冷静にミーシャの情報を記憶するなんて



「ぐ…ここまでとはな。せめて使用感を詳しく聞いておくべきだった」


「ご主人様。大丈夫ですか?」


「問題ない。…夢を見ていた感覚だ。あっという間に場面が切り替わる。どんなに不自然な繋ぎ方でもそれを不思議と思わない。…人格…戦闘能力…代行としての創造能力……記憶が鮮明なうちに」


「…分かりました」


「おう。しっかり話せ…ってどういうことやねん!!」



わざとサラから目を離したオヤブン。振り返りダンの様子を確認するつもりが、どうしても目が行くのは



「ジュリア!?服が真っ赤です!どうしたんですか!?」



同じくサラも注目する。ジュリアの服が赤く汚れているのにはもちろん理由がある。



「申し訳ありませんご主人様。"つい"ケチャップを強く握ってしまいました」


「…構わない」



ダンの吐血を大胆すぎる方法で誤魔化す。盛大にぶちまけられたケチャップはダンとジュリア、テーブルに畳まで汚した。被害は大きい。



「というかケチャップはどこから来てんねん」


「………」


「んなアホな」



答えはユキだった。働き者のユキは客の呼びかけに即応えるため、ポーチを着けていた。そこにはその時々で調味料やライターなど、客が求めた際にその場で渡せるように色々と入っていたのだった。

今回は偶然にもケチャップが役に立った。



「ジュリアでも失敗することがあるんですね…びっくりしました…」


「せやな。ほら、それよりもダンの話を聞いたれ」


「はい。ダン、お願いします」




「ああ…1度しか話せないだろう。聞き逃すな」










………………………………next…→……







「……………すぅ……」


「……てぃ…………っ、……てやんでい…」




眠る2人を見ているとなんだか口元が緩む。芽衣を少し強引に寝かせて、朝食の準備を始めた。…今日は少し頑張ってみようかな。和食で…




「…むが、」




知花のことが、気になる。良い意味で。ふざけたり、だらしなかったり…でもそんな姿を晒せるほど彼女は僕に心を許してくれているわけで。



「……きっと、芽衣もすぐに変わる。もっと馴れ馴れしく接してくれる。好きになってくれる」



なぜか確信していた。…あまり掘り返したくはないが、これまで見てきた使者の中でもこの2人は何かが特別な気がする。戦闘能力を求めなかったから…というわけでもないだろう。…あの黒猫の使者と同じような、



「おっとと…」



考え事をしながら料理するのは危険だ。いつもと違う、見た目にこだわった材料の切り方をしていたのに。気づけばいつも通りのひと口サイズ。そして危うく指までトントンとリズム良く切り刻むところだった。



「ふぅ。頭の中をスッキリさせよう」



スマホで調べるのは、芽衣と見たニュース番組で流れた映像について。空高く…創造の光が夜空を照らして、雲が動き出して。知らなくてもいいことなのに、気になって仕方ない。人間だから?人間だから。そう。人間だから。あれは何なんだ、危険なものなのか、どういうものなのか、常に自分の安全を気にして、未知のものを知ろうとする。




「こういう時はネットの掲示板の書き込みを…」



"特定"する、したがる人間というのが、この世には一定数存在する。それもまた、知ることで安心したいからそう…



適当に検索して。その結果の1番上。



「光の正体は地球外生命体。"着陸地点"は半里台………!!」



サイトを開くと、ネットの書き込みをまとめて考察したものが記されていた。数人のネットユーザーが半里台ではないかと予想を弾き出していて、撮影された映像などに映る風景とその方角から…あ、



「終の解放者」



誰が何をしたのか、一気に繋がった。

検索を続けてみれば、これから車で半里台に行ってみる…自転車で行ってみるなどと書き込みした人達がいる。もちろん、到着を知らせた後は…更新がない。




もう、朝の8時だ。これまでに何人が、死んだ?

死んだのか?決めつけるのは早いか。どうなんだ。



手が震える。…自分には何も出来ないが、これを伝えるべき相手がいる。そうしなくては、だって



「だって、なんで?」



死んでもいいと、もうどうでもいいと言い放ったくせに。なんで。誰かが死ぬのが嫌なのか。自分はいいのに。知花と芽衣が巻き込まれて死んでも嫌じゃないのに。全く知らない他人が死ぬのは嫌だと?防ぎたいと?これ以上の被害は…



「はぁぁぁ…………気に入らない」



自分にイライラする。意味不明だ。



食器棚の下の収納部分。その中の1番奥…小さな箱。隠したまま忘れようとしていた"あの人"のスマホを取り出し、連絡先から知らせるべき相手に…




「ふぁぁ…!真さんおはよう…」



「……知花。よかった」



「へ?」



「おいで」



「はーい!なんですかなんですか!」



それをしようとして、止まった。

何もしなくていい。このまま、巨大な隕石が落ちてきたりして人類が滅んだって構わないのだ。これでいい。今を生きる。それだけで。







………………………………next…→……








半里台。この地へと続く道の全てに、彼を信じてその生命を捧げる者達が待機していた。





「よし、この辺からカメラ回しとこっか」


「はいよー。今回はさすがに再生回数やばそう」


「確かに。CGのUFO映像とかの比じゃないしね。本物だから」



動画配信者の若者2人は自転車でこの地に近づいた。



「やっぱり生配信にするわ。準備いい?」


「おけおけ。モバイルバッテリーとか平気?」


「うん。じゃあ始めまーす」


「はーいよろしくお願いしまーす」



伸びる棒の先端にスマートフォンを装着し、自分達を映す。




「よっしゃどーもいぇいいぇい!」


「チョキチョキぃ!今日も俺たちが気になったことを切り取って皆さんにお伝えします!…ねぇ、さてさて?ここ、どこ?」


「どこだと思います?コメント、ガンガンください!…うん、うんうん。まあ皆分かってるよね」


「そう。そんなわけでね、今日は動画投稿はお休みして、代わりに半里台にやってきましたんで!現場から生中継でね、あの動画とか何があったんだっていうのを」


「見ていきたいと、思いまーす」


「よろしく、お願いしまーす」




明るく騒ぐ2人を空から狙うのは、以前どこかで誰かが見つけようとしていた子供の成れの果て。人ではなくなった肉体には、人間だった時に着ていた布の切れ端がくっついていた。



「ッ!!」



息を整え急降下。突き出した両手は簡単に若者2人の首を



「ウウァ!!」



もぎ取った。力を失い、首を失い、横倒しになる若者の体。自然落下で地面に叩きつけられるスマートフォンは、画面が割れても動作を続け…化け物の姿を配信していた。



脳天から人を喰らう、化け物。その腰にはかなり汚れてしまっているが男の子が好むようなキャラクターらしきものが。服の一部だろうか。



「ンン、ヴァ」



血を啜り、骨を豪快に噛み砕き、口内で目玉を飴玉のように転がし、肉を咀嚼する。ふと、化け物は



「………リョウ、クン………パパァ…!ママァ…!」



人が発せられない低い声で、人の言葉を発した。




「ウウウウウウウアアアオオオオオオオ!!!」




食べかけの頭を振り回し、投げ捨てる。ひとつはどこか遠くへ…ひとつは偶然にもこの状況を配信中のスマートフォンに激突。カメラを隠すのは、びちゃびちゃに壊れてしまった人間の頭の中身。髪の毛と血管と血と肉とその他諸々が混ざった悪魔の芸術。



吠える化け物は首の向きを変える。…もうすぐ、次の獲物が来る。

大きな黒い翼を広げ再び空中からの急襲をしようと、足に力を込めて



「っは!アホやなぁ!!背中取られてんでぇ!?」


「まずは1匹、だね」



((EXECUTION))





黒山羊の頭をした化け物は、爆発した。




「汚ったない。サラの体が血まみれになるやんけ」



血が飛び散る。それを腕の一振りで防ぐのは巨大化した黒獅子。その背中に乗る女はヘラヘラと笑う。



「体が大きくなっても気配に気づけないとは、今の使者が弱すぎたのかな」


「ちゃうわ!ワイの消音化のおかげや。目で見ればすぐバレるんやけどな。あんだけ餌に食いついてたらまあしゃあないやんな」


「オヤブン。どうやら見張り役が気づいたようだよ。ダンと合流する前にさっさと片付けてしまおうか」


「せやな。ワイらが雑魚を全員狩るって言い出したんや。どんだけ数が多くても文句は言われへん」


「魂を喰らって強化するその能力、あとどれくらい保っていられるのかな?」


「まあ10分くらいやろ。そんだけあればボスだけ残して全員狩れる。余裕や」


「だといいね。…上」


「ニャルルルアアア!!」




半里台。場所を突き止めたダン達がここに到着したのは朝9時のこと。



半里台。おかしな映像が撮影された場所。人を喰らう化け物が撮影された場所。



半里台。ここには終の解放者が、いる。









………………………to be continued…→…


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